とある凡才投手の苦悩   作:鯖太郎

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第7話

 準々決勝の敗戦後、色んなことがあった。新キャプテンには前キャプテン中山さんの推薦もあり、宮澤さんが指名された。新チームの方針として椎名監督は打ち勝つチーム作りを宣言した。準々決勝敗退という悔しい結果だったが、校長は上機嫌でトレーニングにとチューブをプレゼントしてくれた。

 

 そして、合宿が始まった……のだが。

 

「りりむ、もっかい言うで? 8回に2点リードでアウトカウントは1つ。ランナーは1塁2塁。どんな球要求する?」

 

「ど真ん中真っ直ぐ!」

 

「……っくぅー」

 

 監督が手で顔を覆いながら天を仰いでいる。なんか昨日も見たぞ。

 というのも、打撃重視のチームとは言ったが合宿中はバッテリー強化に努めるらしく、特にりりむへリードを教え込むことに精を出している

 

 ……が、見ての通り一向に成果が出ず、既に合宿は後半戦に突入してしまった。そしてかくいうあたしも練習には取り組んでいるものの、成果を感じられずにいる。

 

「よし! 今日は座学やめ! バッティングやるぞ!」

 

「「「「っしゃァァァ!!!」」」」

 

 バッティングと聞いて一斉に準備を始める部員たち……あたしバッティング練習だとバッピばっかするからあんまり好きじゃないんだけどなぁ……まあ仕方ない。軽くキャッチボールして肩あっためておくか。

 

「ゆめお! なんでキャッチボールしてんの?」

 

「え? いや、監督、僕バッピやるんで……」

 

「いらんいらん! 今日は素振りやで?」

 

 監督の一言に一瞬静まり返ったあと騒然とする野手陣+葛葉

 ……そういえば葛葉って投手扱いでいいのか? 

 

「え、素振り?」

 

「え、嘘マジで?」

 

「まじかよぉ……」

 

「マジやでぇ! みんなスイング弱いから、鋭く振る筋力から鍛え直しや!」

 

 座学終わったと思ったら素振り……メインメニューでボール触ったの最後いつだっけ? 

 

 

 

 

「はい、4セット目しゅーりょー! おつかれさん、あと1セット頑張りやぁ」

 

「「「「ウス!!!」」」」

 

「それとゆめお! ちょっとこっち来てみ!」

 

「……はい!」

 

 バッティング練習中にあたしを呼び出すなんて珍しい。普段は

 

『ゆめおピッチャーやねんからバント練習しときぃ』

 

 位しか言わないのに。

 

「ゆめお、打席で貢献したいか?」

 

「まあ、できるならするに越したことないですけど……葛葉みたいなことはできませんし」

 

「だからあてぃしはゆめおに葛葉になれなんて言ってへんやろ? ゆめおにはゆめおの武器を持たせたるから」

 

「っはい!」

 

「ゆめおから見た葛葉の打者としての弱点はなんや?」

 

「弱点……ですか? 守備がやや苦手なことと……あと追い込まれると力んで三振が増えるところですかね」

 

「それや。そこでゆめおには簡単に打ち取れへんいやらしいスイングや打席でのアプローチを身につける……っていうんは?」

 

「やります!」

 

「おぉー、いい返事やん。じゃあまずバットの出し方やけどな……」

 

 その後みっちりマンツーマンで打撃について教えてもらった……が、よくよく考えたらあたし出番あるとしてもリリーフ登板になるから、打席に立つ機会ってほとんどないんじゃ? 

 まあ、いっか。

 

 

 

 

「ッスー、ただいまッ帰りましたぁー」

 

「よっ! 日本代表!」

 

「日の丸を背負った男!」

 

「日本のエース!」

 

「うるせぇぇぇえええ!!」

 

 合宿からひと月ほど経ち、葛葉が日本代表から帰ってきてチームから熱烈な歓迎を受けている。

 それにしても日本代表か……しかも1年で選出されるなんてやっぱりあいつは怪物と形容する他ないな。末恐ろしい。

 

「で、どうだった? 日本代表」

 

「まあ? 俺くらいになれば? 世界中をコテンパンにやっつけてきたと言っても過言かなーっと」

 

「過言なんだ……」

 

「いや、まあ、あの……ね? ほら、ね?」

 

「どうしたんやぁ? 葛葉ぁ」

 

 なにか後ろめたいことでもあるのかってくらいしどろもどろになっていると、悪い笑みを浮かべた監督がやってきた。

 

「アッ、カントクッ、オハザイヤスッスゥー」

 

「いやほんまに誰やねん。で、どやった? 日の丸背負った感想は」

 

「まあちょっと……ぷりった」

 

「なんやねんぷりったって……まあええわ。なんか、らしくなかったなぁ、4回5失点負け投手さん?」

 

「ちょっ、おまっ、全部言うなよ! 気にしてんだよこっちも!」

 

「え、葛葉そんなに打たれたの?」

 

「ほらぁ、りりむも心配してんで?」

 

「いや、違ぇじゃん。ほら、周り全員知らん人だから、ね? うん。やりづらいとこもあったかなーって? 全力出しづらいなーって? まあ、うん、この話終わり! あー! 練習してぇなぁ!! 天気いいッスねー!! 日本の空気うめぇー! 日本うめぇわー!!」

 

 突然顔を真っ赤にしたと思ったら、叫びながら逃げるように走り出した葛葉……そういや知らない人苦手だったな。

 

「そういえばあいつ人見知りだったな……」

 

「懐かしぃなぁ……最初俺ら先輩に話してる時まじでカタコトみたいになってたもんな」

 

「頑張って敬語使おうとしてぶっきらぼうになってた葛葉が今じゃあんなんだぞ……」

 

「いぃむのこと最初さん付けしてた!」

 

「あのころの可愛げどこいったんだろうなぁ……」

 

「まあ、あれはあれで可愛いけどな?」

 

「生意気なのも可愛いってか」

 

「「それなー」」

 

 最近先輩が葛葉の保護者面を始めました。

 

 

 

 

「で、葛葉的にどうだったん? 日本代表は」

 

 その日の帰り道、結局聞けなかった日本代表の感想を尋ねると、苦虫を噛み潰したような顔して答えてくれた。

 

「ん? あぁ、いやー、なんつーか……悔しかった」

 

「それは結果の話?」

 

「んや、まあそれもあんだけど。全部だな」

 

「全部?」

 

「今まで通用しない、ってことあんまなかったんだよな。そんな中準々決勝ボコボコにやられてさ、世界大会でも力不足を実感したっつーか、甘かったなって」

 

「準々決勝はまだしも世界大会はQSでしょ? 打線次第で勝ち投手になってたかもだし気負い過ぎじゃない?」

 

「いや、もっとやれたし何より準々決勝の反省を活かせてなかった」

 

「反省?」

 

 打たれたことだろうか。しかしあれはバックのミスや、単純な力負けした部分もあったし……そんな葛葉のミスって言えるようなことは無かったと思うんだけど……

 

「俺一人でやろうとし過ぎてた。俺が27個アウトとって打てばいいんだろって思ってた」

 

「責任感あっていいんじゃないの?」

 

「出来ねぇんだよ。完投するためにペース配分してたら格上には打たれる。それにいつだって打てるわけじゃない。リリーフしてもらう場面があるし、俺が繋いだり、チャンスメイクしたりするべき場面も来る」

 

 普段と変わって冷静に自分を分析して足りない部分を吐露する葛葉の姿に思わず息を呑んでしまった。

 あたし達は葛葉なら打てる、葛葉なら抑えられるって盲目的に信じていたけど本人がそうじゃないことを自覚していた。

 それもそうだ。葛葉は完全無欠の野球マシンじゃない。ついこの間中学生だった一人の人間で、足りないところもできないところもある。

 そこから目を背けて応援する、なんてのは正しいはずがない。

 そんなものは期待とは呼べない。

 

「っ……そっか、お前に勉強以外で出来ないことってあったんだな」

 

「なるほど、つまり夢追くんはその頭脳を活かして相手バッターを完璧に抑えることができるってことですね。はぁー、流石天才陰キャガリ勉サウスポーは違いますなぁ! あれれー? でもこの間の試合形式で打たれてたのは……」

 

「うるせぇな、そこまで言ってねぇだろうが!」

 

 あとどれだけ言葉出てくるんだよ……ほんとすげぇな。その口だけで生きていけるんじゃないの? 

 

 

 

 

 

 葛葉が遠征から帰ってきて間もなく秋季大会が幕を開ける。

 この大会で勝ち抜き、地方大会で1勝すると甲子園がグンと近づき、2勝すればよっぽどの事がない限り春の選抜の出場権を得ることができる、そんな大事な大会だ。

 

「えー、相手は一関。夏前に練習試合でコールドした相手だ。まあ、特に言うことは無いか。一度勝ってるから時を抜かずに、俺らの出来ることやっていこう」

 

「「「ウス!!!」」」

 

「あと監督から話があるから練習行くのちょっと待っててくれ」

 

「お前らー、グラウンド見てなんか思わんか? せやろ? 綺麗なったやろ? 田中ちゃんのおばあちゃんからグラウンド向きのええ白土もろたから感謝するんやで、ええか?」

 

「「「「「ウス!!!!」」」」」

 

「はい、呼び止めてごめんな! ほな、練習行ってやー」

 

 土も新たになり気合十分。まずは1回戦突破目指して頑張らねば。

 




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