『……ねえ、ユウト』
『ん、どうした? ルカ』
『ユウトがトレーナーになったらさ、僕の事をパートナーにしてくれる?』
『……ああ、もちろんだよ、ルカ』
『ありがとう、ユウト! ふふっ、ユウトとの旅、今から楽しみだよ!』
『ああ、そうだな。お前との旅、俺も楽しみにしてるよ、ルカ』
「……ん」
その瞬間、俺の目が覚めたため、俺は静かに声を上げながらゆっくりと目を開ける。そして、少しぼんやりとした頭のままで俺は周囲を見回した。
部屋の中には、ポケモンに関する本がぎっしりと詰まった本棚やカビゴンなどを模したクッション、そして綺麗に整頓された机や椅子などが置かれ、窓からは眩しいほどの朝日が射し込んでいた。
「今のは……あの時の夢か。アイツ、今頃元気かな……?」
未だに薄ぼんやりとした頭のままで、俺はアイツ──親友とも言えるポケモンの事を思い浮かべた。
夢に出てきたのは二年前にある森で出会ったポケモンだ。そいつとは出会ったその日から友達になったため、幼馴染み達も交えて毎日森の中で一緒に遊んでいた。
しかし、一年前に隠れてその森に行っていたのが大人達にバレてしまい、その森には手持ちポケモン無しでは近付かないように言われてしまった。そしてそれ以来、その森には足を踏み入れることすら無くなってしまったのだった。
……まあ、アイツと遊べた一年間も本当は黙認してもらっていただけだとは思うけどな。
「一年も前の話だし、もしかしたら忘れられてたりしてな……」
ふとそんな事を思い、その事に対して少し寂しさを感じていると、一階の方から母さんの大声が聞こえてきた。
「ユウトー! 早く起きなさーい!」
「……ああ、今行くよ!」
早くって……そんなに遅い時間なのかな……?
そんな事を思いながらモンスターボール模様の壁掛け時計を見てみると、時計の針は大体8時頃を指していた。
「8時……か。まあ、たしかに人によっては遅い時間かもな。さてと、それじゃあそろそろ起きますかね」
小さな声で独り言ちながらベッドから起き出した後、俺は小さく欠伸をしながら部屋を出た。そして階段をゆっくりと降りた後、そのままの足でリビングへと向かった。
さてと、今更ながら自己紹介をしようかな。
俺の名前はユウト。女神様に転生させてもらった後、カントー地方にある“あの”マサラタウンに生まれた。
転生直後はもちろん赤ん坊だったので、あまり転生特典の恩恵は受けられなかったものの、成長した今では、野生のポケモンの声に耳を傾けてみたり、波導をうまく操れるように修行してみたり、と転生特典を自分なりに色々と試している。
貰った以上は、それを上手く扱えるようにならないと特典をくれた女神様にも悪いし、これからもしっかりと能力を伸ばす努力はしないとだな。
そんな事を思いながらリビングに着くと、俺が入ってきた事に気づいた母さんが微笑みながら声を掛けてきた。
「おはよう、ユウト。昨日の夜、この辺の野生のポケモン達が騒いでたけど、よく眠れた?」
「おはよう、母さん。俺は寝付きだけは良いから、問題は無いよ。それに、昨夜その会話を聞いてみたけど、大した事を話してはいなかったし、何も心配はいらないよ」
「そう、なら良かったわ」
母さんは安心したような様子で答えると、そのままキッチンへと戻っていく。実際、その時の野生のポケモンの会話の内容は、最近オーキド博士がポケモン川柳に凝ってる事やマサラタウンに住んでる人の噂話など、至って平和な物ばかりだった。
うんうん、この辺の野生のポケモン達は本当に平和だな。まあ、俺達人間もその分心穏やかに過ごせるわけだから良い事ではあるけどな。
「あ、そうだ」
昨夜の野生のポケモン達の事を思い出しながら考え事をしていた時、母さんが何かを思い出した様子で俺に話し掛けてきた。
「ユウト、今日は確かレッド君達と何か約束があったんじゃないの?」
「……約束?」
はて……な? 何かあったような気はするけど……?
腕を組みながらそれらしい事について思い出そうとした時、ふと頭の中にある事柄が過ぎる。
……あ、思い出した。
「そういえばオーキド博士の研究所へ行くんだったな……」
危ない危ない、すっかり忘れてたな……もしかしてさっきの夢は、その事を教えてくれようとしたのかな?
さっき見た夢の内容を思い出した瞬間、アイツに会いたいという気持ちが心の中で高まっていくのを感じた。
うーん……アイツに久しぶりに会うためにあの森に行ってみたいけど、流石に無理だろうなぁ……。まだ手持ちがいないから博士に止められるだろうし。
俺がその事について少々悩んでいると、母さんがふと時計に視線を向ける。すると、少し心配そうな表情を浮かべながら声を掛けてきた。
「ユウト、時間は大丈夫なの?」
「え? うん、まだ時間はあるよ。レッド辺りが遅刻することも見越して、いつもより遅めの9時に約束してるし」
「そう、それなら良いわ」
再び安心した様子を見せながらそう答えると、母さんは朝食のパンを一つ取ってから、リビングの窓を大きく開け放った。すると、顔馴染みである野生のポッポ達が窓の桟に向かって静かに降りてきた。
『おはよう、ユウト』
『おはようございます、ユウトのアニキ!』
「おう、おはよう」
俺は窓に近づきながら、ポッポ達と挨拶を交わす。こいつらは近所に巣を作っているポッポ達の群れのリーダーとその弟分だ。
半年前、このポッポ達が困っているところに偶然俺が通りかかったんだが、その時に俺は何があったのか気になったのでとりあえずポッポ達に話し掛けてみた。
もちろん、最初は警戒されたものの、ポッポ達が最近食糧不足に悩んでいる事を話してくれたので、母さんにしっかりと相談した後にウチを食料補給の場の一つとして提供することにした。
その結果、大体同じような時間になると今のようにパンなどの食糧を貰いに来るようになり、徐々にこのポッポ達とも仲良くなった。
因みにこのパンは、一度近所のポッポ達が集まる場所に持っていった後、各家庭に均等に分配しているみたいだ。
「今日はそれくらいで足りそうか?」
『ふむ、そうだな……正直な事を言うならもう少し貰えたら助かるか……』
『ええ、最近他の奴らにガキが産まれましたからねぇ……』
「そっか。そういう事なら、もう一つ持って行きなよ」
そして、俺はテーブルの上からパンをもう一つ取り、そのまま窓へと持っていった後、それをポッポ達に渡した。
「こんなもんで大丈夫か?」
『ああ、大丈夫だ。それにしても、毎日毎日すまないな。オレンやオボンでも良いのだが、少しは穀物も取る必要があるからな』
「ふふ、構わないよ。人間でもポケモンでも栄養は大事だからな」
『……そう言ってもらえると助かる』
俺の言葉に兄貴分ポッポは安心したような笑みを浮かべる。何だかんだでもう半年も付き合いがあるため、種族こそ違えど俺はコイツらの事を友達だと思っている。そう、一年前に別れたアイツと同じように。
……俺に他のポケモンの友達が出来たと知ったら、アイツはどんな反応をするかな……。
そんな事をボーッと考えていたその時、子分ポッポが兄貴分ポッポに耳打ちをする。
『アニキアニキ。皆待ち兼ねてますから、そろそろ行きましょう』
『……それもそうだな。ではな、ユウト』
『サヨナラっす、ユウトのアニキ!』
「おう、またな」
ポッポ達が帰っていくのを見送った後、俺は朝食を再開するために窓から離れた。しかしその時、不意に嫌な予感が胸を過ぎった。
……何だろう、何だかスゴく嫌な予感がする。
嫌な予感を抱えながら、ふと時計を見てみた瞬間、俺はその嫌な予感の正体に気がついた。
「……8:50」
うん、時間ギリギリだね。まさかこんなに時間経ってるとは思わなかったよー。
「ち、遅刻だー!!」
大声で叫んだ後、急いで朝食を食べ終えた。そして部屋へ戻って服を着替えた後、玄関に向かって階段を駆け下り、台所にいる母さんに声を掛けた。
「母さん! 行ってきまーす!!」
「はいはい、行ってらっしゃい」
クスクスと笑いながら答える母さんの声を背に、俺は待ち合わせ場所であるオーキド研究所に向かうため急いで家を飛び出した。
「マズいな……急がないと本当に遅刻する……!」
まだその姿すら見えないオーキド博士の研究所を睨みつつ、俺はひたすら走り続ける。波導を使うために日頃から基礎体力や筋力、そして持久力を鍛えていたせいかか、一切息切れをする事なくそのまま走り続けた。
よし……このまま走り続ければ何とか……!
そう思いながら走り続けていたその時、『……あ、いた!』という嬉しそうな声が聞こえ、俺は驚きから思わず「へ?」と言いながら足を止めてしまった。
え……今の声ってまさか……!
そして、声がした方へ視線を向けると、その声の先にいたのは──。
『やっと見つけたよ! 久し振りだね、ユウト!』
「もしかして……ルカ、か?」
『うん』
一年前から会っていなかった親友、ピカチュウのルカだった。走ってきたのか軽く息を切らしてはいたが、ルカは会えなくなった一年前と同じ姿でそこに立ってため、俺はさっきまで感じていた焦りよりも会えた事への喜びと懐かしさの方が強くなっていた。
……もしかして、あの時の夢を見たのは、こうして再会できるっていう兆しだったのかな。
そんな事を思いながらルカの事を見つめていると、ルカは満面の笑みを浮かべながら嬉しそうに話し掛けてきた。
『えへへっ……ユウトが元気そうでちょっと安心したよ』
「ああ、俺もだよ。けど……『トキワのもり』からここに来るのは結構疲れたんじゃないか?」
『うん、本当に疲れたよ~……。距離自体はそんなでも無いけど、『トキワのもり』からここまで色々あったからね~……』
ルカはゆっくりと近付いてくると、耳をペタンと倒しながら俺の足元にもたれ掛かかる。
……あ、確かに波導も少し弱い感じがする。
ルカの言葉通り、発せられている波導がぼんやりとした物だったため、ルカが本当に疲れている事が明らかに分かった。
波導について色々研究した結果、波導は基本的にその人によって元々の強さなどが異なり、健康状態などによってその色や強さが変化する事が分かった。もっとも、声の感じや見た目でも判断は出来るが、波導は嘘をつかないため、正確な判断を下す時にはスゴく役に立っている。
……っと、そうだった。今は急がないといけないんだった。
さっきまで忘れかけていたレッド達との約束を思い出した後、しゃがみ込みながら足元にいるルカに声を掛ける。
「ルカ。疲れてるところ悪いけど、ちょっと急がなきゃないから、俺の肩に乗ってくれるか?」
『うん、もちろん良いよ』
ルカの返事を聞いた後、俺はルカが登りやすいようにしながら右手を差し出す。そしてルカは、それを伝ってゆっくりと腕を登り、そのまま肩へと乗った。その瞬間、少しだけ肩が重くなったが、初めて会った時から同じように肩に乗せていた事もあり、辛さなどは特になかった。
あはは……この調子だと、そろそろスーパーマサラ人認定をされるかもな。
そんな事を考えながら小さく苦笑いを浮かべた後、俺は走る準備をしながらルカに声を掛けた。
「よし、じゃあ走るぞ!」
『おー!』
そして、ルカとの再会の喜びを噛み締めながら、再びオーキド博士の研究所へ向けて走り出した。