「行け! ベルデ! 」
『了解した』
「お願い、トルテ!」
『うん、任せて!』
オーキド博士が開始を宣言した直後、グリーンがフシギダネのベルデを、そしてアオイがゼニガメのトルテを繰り出すと、出てきたポケモン達は自分のトレーナー達を向いて返事をする。
……まあ、今は通訳をしてないから、グリーンとアオイには鳴き声しか聴こえてないんだけどな。
そんな事を思いながらやる気満々な両者の姿を見ていた時、隣に立っているレッドが同じくグリーン達の事を見ながら珍しく静かな声で話し掛けてきた。
「ユウトはどっちが勝つと思う?」
「んー、そうだな……お互いに貰ったばっかだから、どっちが勝ってもおかしくないんじゃないか?」
ポケモンの最初は『たいあたり』とかの攻撃技と『なきごえ』とかの補助技のぶつけ合いが基本だ。だから最初から大技とかなんてのは──。
「トルテ、『ロケットずつき』の用意!」
『うん!』
……はい? え、今……『ロケットずつき』とか聞こえたような……?
アオイの口から出た言葉に少し戸惑っていた時、グリーンの口から更にあり得ないはずの技名が飛び出す。
「へっ、俺達にはそんなのは効かないぜ! ベルデ、『どくのこな』を浴びせてやれ!」
『承知した』
グリーンの指示にベルデが落ち着いて答える中、俺はあまりの出来事に混乱していた。
……えーと、はい? え……貰ったばっかりだよ……な?そのはずなのに、どうして『ロケットずつき』とか『どくのこな』を覚えてるんだ……?
貰ったばかりとは思えない技の応酬に、俺が困惑していると、「ユウト、どうかしたのか?」とその様子を見たレッドが不思議そうに話し掛けてきたので、俺は片手で軽く頭を抑えながらそれに答えた。
「いや……何でもない。……強いて言うなら、これが終わったら博士に訊きたい事が出来ただけだ」
「それなら良いけど……訊きたい事って何なんだ?」
「それはな──」
俺が感じた疑問について話し始めようとしたその時、「トルテ、大丈夫!?」というアオイの緊迫した声が突然聞こえ、俺達は弾かれたようにバトルフィールドに視線を戻す。すると、トルテがとても苦しそうな表情を浮かべながら片膝をついているのが眼に入ってきた。
『あはは……ちょっと、キツイ……かな』
その言葉通り、トルテは『どくのこな』によって受けた毒が体を蝕んでいる事で体力が徐々に減っており、起死回生の一手が無い限り、アオイ達の勝利の可能性は明らかに無いように見えた。
「ベルデ、こっから一気に行くぞ!」
『承知した』
それに対してグリーン達は、ポケモン同士のタイプ相性に加えて、フシギダネ自身の耐久力のせいもあり、まだまだ余裕そうな様子を見せていた。
「……これはグリーンの勝ちかな」
静かに言うレッドの言葉に俺は頷きながら言葉を返す。
「このままならそうなるな。ただアオイの方がまだ何か隠していたら、引っくり返るかも知れないな……」
「何か、か……あるとしたら、一体何があるんだろうな……」
「……さあな」
……うん、やっぱり貰ったばっかりのポケモン達の話をしているように思えないよな、これ。
レッドとの会話の内容にそんな感想を抱いていた時、アオイがトルテの事を見つめながら大きな声で指示を出す。
「トルテ! 最大パワーで『みずのはどう』!」
『う、うん……! りょう……かい……!』
トルテはダメージによる痛みや苦しみを堪えながらゆっくりと立ち上がると、体に青色のオーラを纏いながら手に綺麗な水の球を作りだし──。
『いっ……けぇ──っ……!!』
それを勢いよくベルデへと撃ち出した。
……体力の低下による特性の『げきりゅう』の発動に加えて、タイプが一致している技の選択……。これは流石に草タイプといえども、まともに当たったらひとたまりも無いな。
そんな事を思いながら『みずのはどう』が飛んでいくのを見ていた時──。
「ベルデ! 躱して『はっぱカッター』だ!」
『任せておけ!』
グリーンの指示通りにベルデが『みずのはどう』を横っ飛びで躱すと、ベルデの背中の種から無数の緑色の葉っぱが現れ、そのままトルテへ向かって勢い良く飛んでいった。
『きゃあっ!』
「トルテ!」
ベルデが放った『はっぱカッター』が全てトルテへと当たると、トルテは悲鳴を上げながら衝撃によって背後へと吹き飛ばされ、バトルフィールド中に砂煙が立ちこめる。
あー……当たり具合から察するに、『きゅうしょにあたった! こうかはばつぐんだ!』と言ったところだな。
トルテのダメージの受け具合からそんな事を考えていると、砂煙が徐々に晴れていき──。
『もう……無理……』
トルテは今の攻撃で体力が尽きたらしく、眼を回しながらそのままその場に倒れこんだ。
「ゼニガメ、戦闘不能! フシギダネの勝ち! よって、勝者はグリーンじゃ!」
トルテの様子を見たそのオーキド博士の宣言により、グリーンの勝利が決まると、グリーンは心の底から嬉しそうな声を上げる。
「よっしゃあ! ありがとうな、ベルデ!」
『ふふ……こちらこそだ、グリーン』
明るい笑顔で喜ぶグリーンと対称的に物静かな様子でベルデは返事をする。
このコンビ、ちぐはぐなように見えて、意外と良いコンビになりそうだな。
そんなグリーン達の様子を眺めた後、今度はアオイ達の方へと視線を向けてみると、アオイはトルテの体を優しく支えながら申し訳なさそうに声を掛けた。
「トルテ、ごめんね。私がもっとしっかり指示出来れば良かったのに……」
『そんなこと無いよ、アオイ。私だってもっと踏ん張れたから……』
「……トルテ、そんな悲しそうな顔しないで。今回はどっちも反省点があったってことにして、次から頑張ろ?」
『うん、私これからもっと強くなるために頑張るよ!』
トルテがニコッと笑いながらそう言うと、アオイもニコッと笑いながらトルテの頭を優しく撫で始めた。
うん……どうやら大丈夫みたいだな。こっちは両方似たような性格みたいだし、うまくやっていくだろう。
アオイ達の様子に安心感を覚えた後、俺はグリーンやアオイ達の様子を満足そうに眺めているオーキド博士の方へと視線を向ける。
……さてと、俺はちょっと訊かないといけない事を訊きに行くか。
そして、ルカを肩に乗せたまま近付いた後、俺はオーキド博士に話し掛けた。
「オーキド博士、ちょっと聞きたいことがあるんですけど……」
「……ん? どうしたんじゃ、ユウト?」
「グリーンのフシギダネとアオイのゼニガメ、後は恐らくレッドのヒトカゲもなんですけど、初心者用として渡すには技が少し多くないですか?」
「おぉ、その事か。実はな、初心者用ポケモンを育成しとる所から、少し前に連絡があってな。今回三人に渡したポケモン達はその施設の優等生らしくてのぉ、技もいつの間にか覚えてしまっていたらしいんじゃよ」
「なるほど、そういう事ですか……」
……まあ、そういう事なら今更何言ったところで変わるわけでも無いか。それに──。
「……ふふ、それだけ強い奴が最初の相手なんて、楽しくないわけが無いよな……!」
心の中に湧き上がってくるワクワクを静かに感じていると、ルカが俺の様子を見ながら、同じく楽しそうな様子で話し掛けてきた。
『何だか楽しそうだね、ユウト』
「ああ。相手が強い奴だと聞いて、燃えないわけが無いだろ?」
『ふふ、確かにそうだね』
ルカはクスクスと笑いながら答えたものの、ルカの波導からはその言葉通り、レッドのヒトカゲという強い相手への闘志の炎を感じた。
アオイ達と同じように俺達も似た者同士だから、強いやつとのバトルともなれば燃えてしまうのは仕方がないよな。
そして、俺達が揃ってレッドへ視線を向けると、オーキド博士は俺達とレッドの事を見ながら静かに口を開く。
「さて、次はレッドとユウトじゃ。二人とも、準備は良いか?」
「「はい!」」
『はーい!』
俺達は揃って返事をしてからお互いにバトル場に立った。そして、レッドの事を真正面から見据えると、レッドは楽しそうに笑いながら話し掛けてきた。
「へへっ、手加減無しで行くぜ、ユウト!」
「もちろんだ。お互いに良いバトルにしようぜ、レッド!」
「おう!」
元気よく答えるレッドの波導からは、さっきのルカと同じような熱い闘志の炎を感じた。
ふふ……どうやら気合充分みたいだな。レッドとのバトルがどうなるのか今から楽しみで楽しみで仕方無いぜ……!
レッドの波導を感じながら同じように心の奥底で燃え盛る闘志の炎を感じていると、オーキド博士は俺達をゆっくりと見回す。
「二人とも、正々堂々とした勝負をするんじゃぞ……それでは、バトルスタート!」
そのオーキド博士の声を合図に、俺とレッドの勝負の火蓋が切って落とされた。