ポケットモンスター~転生者達の冒険~   作:九戸政景

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第5話 旅立ちの前夜

「ただいまー」

『おじゃましまーす!』

「……ルカ、ここはもうお前の家も同然なんだから、ただいまで良いと思うぜ?」

『あ、それもそうだね。それじゃあ、ただいまー!』

 

 

 そんな会話を交わしながら家の中に向かって声を掛けると、台所の方から母さんがひょこっと顔を出す。

 

 

「ふふ、お帰りなさい、ユウト」

 

 

 母さんは優しく微笑みながらそう答えた後、俺の肩に乗っているルカに気付き、少し驚いた様子で話し掛けてきた。

 

 

「……あら、その子はもしかして……?」

「うん、母さんの予想通り、ルカだよ。今日偶然再会した後、俺のパートナーポケモンになったんだ」

「ふふ、やっぱりそうだったのね。久しぶりね、ルカ」

『うん!』

 

 

 母さんの言葉にルカがニッコリと笑いながら答えた後、俺は母さんの顔を見ながら静かに口を開いた。

 

 

「母さん、後でちょっと話があるんだけど……良いかな?」

「ええ、もちろんよ。まあ、何の話かは分かってるんだけどね♪」

 

 

 母さんは笑いながらウインクをすると、そのまま台所へと戻っていった。

 

 

 何の話かは分かってる、か……。まあ、昔から言ってた事だし、当然と言えば当然か。

 

 

「さてと……とりあえず部屋に戻るか」

『そうだね』

 

 

 俺達はそのまま階段を上がり、部屋のドアを開けた。すると、朝の慌ただしさで少し散らかしてしまったはずの部屋の中は、すっかり綺麗に片付いていた。

 

 

「もしかしなくても……母さんが片付けておいてくれたのかな」

 

 

 ……後でしっかりとお礼を言わないとな。

 

 心の中でそう決めながら部屋の中へ入ると、ルカは物珍しそうに部屋の様子を眺め始める。

 

 

『へー……ここが、ユウトの部屋なんだね……』

「ああ。人間から見れば大して面白い物は無いけど、ポケモンであるルカからすればあまり見ない物ばかりで面白いだろ?」

『ふふっ、まーねー♪』

 

 

 俺の問い掛けに対して、ルカが楽しそうに答えているのを聴きながらふと部屋の中を見回してみたその時、机の上に見慣れぬ物が置かれている事に気付いた。

 

 ん……一体何だ?

 

 不思議に思いながら机に近付いてみると、それは綺麗な白色の封筒だった。そして、封筒の中を確認してみると、中から一通の手紙が出てきた。

 

 

『手紙……もしかして、これが噂に聞くラブレターとか?』

「はは。グリーンなら未だしも、俺にそんなのが来るわけは無いよ」

 

 

 ルカの予想に笑いながら答えた後、俺は件の手紙の文面に目を通した。

 

 

「『ユウトさんへ

 お久しぶりですね、御元気でしたか?

 転生したあの時以来、直接お話をする機会を持つ事が出来ていないため、伝聞でしか貴方のその後を知ることは出来ていませんが、とても良いご友人も出来たと聞いております。

さて、今回こうして手紙を差し上げたのには理由があります。それは、貴方の転生特典の大まかな説明とそれとは別に貴方には隠して授けた特典について説明をするためです』……?」

 

 

 ……はい? 隠して授けた特典……? 女神様、いつの間にそんなものを俺に……?

 

 その事について疑問を覚えていると、ルカが首を傾げながら話し掛けてきた。

 

 

『ユウトの転生特典っていうと……『ポケモンの言葉が分かる』のと『ポケモンの強さとかを一目で確認出来る』の。後は『波導が使える』の三つだよね?』

「その通り。……さてと、続きを読むか。

『まず、ポケモンのステータスやレベルを一目で確認する能力なのですが、この能力はユウトさんが使用を続ける事で、能力自体がグレードアップしていき、それと同時に確認可能となる情報が増加していくようになっています。現在の状態ならば、簡易的なステータス、現在のレベル、使用可能な技、性格や個性といった情報を一目で確認する事が可能です。

次に波導の使用ですが、この能力も同様に使用する度に精度等が上がっていくようになっています。現在の状態ならば、半径5㎞までであれば波導を探ることが出来る上、波導の色などからその範囲内にいる生物が安全か危険か、己の中に邪念を有しているか、そして健康状態を判別することが可能です』

 ……何だかわりと凄い事になってるな……」

『そ、そうだね』

 

 

 ルカもこれには何とも言えないらしく、苦笑いを浮かべながら俺の言葉に答えていた。

 

 この様子だと隠して授けた特典ってのも、相当な物かもな……。

 

 そんな事を思いながら、俺は手紙の続きを読み始めた。

 

 

「『そして最後に、ユウトさんに隠して授けた特典──おまけ特典についてです。この能力の名は『出会いし者』と言い、これはユウトさんやその時にユウトさんの近くにいる方にも影響するものです。

そして具体的な効果ですが、出会うポケモンが必ず秀でた存在、ユウトさんが以前いた世界の用語で表現するなら、個体値が必ず4V以上となる能力です。

そしてそれと同時に色違いと呼ばれる存在とも出会いやすくなっています。本来であれば悪用されたり持て余されたりしてしまうような能力ではありますが、ユウトさんであれば上手く活用をしていけると思っております。

最後になりましたが、これからの貴方の人生が幸福と平和で満ち溢れるものになるように祈っています』

 ……神様、なんてヤバイものを……」

 

 

 出会うポケモンが必ず4V以上とかどんなチートなんだよ……もしかしなくても、レッド達のパートナー達が強かったのもたぶんこれの影響だよな……?

 

 

 俺が『出会いし者』の能力について困惑していると、ルカが首を傾げながら不思議そうに声を掛けてきた。

 

 

『ねえ、ユウト。ユウト的にはこの能力ってどうなの?』

「そうだな……前世の頃を考えると凄く助かるけど、今となってはなぁ……」

 

 

 あの頃と違って、今はどんな強さのポケモンでも活躍出来る事を知ってるから、手に入るのが必ず強い奴ばかりってのも、正直どうかとは思う。けど──。

 

 

「……まあ、せっかく貰ったわけだし、ここはありがたく使わせてもらう事にしようかな。俺だけじゃなく近くにいる人にも影響するっていうのも、もしかしたら何かに役立つかもしれないしな」

『ふふ、そうだね』

「うん」

 

 

 ルカの言葉に答えながら俺は手紙を机の引き出しへとしまった。

 

 流石にこの手紙は、誰にも見られるわけにはいかないし、このまましまっておくのが一番かもな。

 

 そう思いながらうんうんと頷いていた時、一階から母さんの声が聞こえてきた。

 

 

「ユウトー、ルカー。ご飯だから下りてきなさーい」

「あ、はーい」

『はーい!』

 

 

 ルカと一緒に答えた後、俺はふと窓の外に視線を向けた。すると、帰ってきた時には夕焼けだった空が、いつの間にかすっかり暗くなっていた。

 

 

「あれ……思ってたよりも時間が経ってたんだな」

『そうみたいだね。まあ、集中して手紙を読んでたわけだし、仕方ないのかもしれないね』

「そうだな。よし……とりあえず今は飯を食いに行くか! 二人ともさっきのバトルで疲れてるしな」

『おー!』

 

 

 そして俺達は、バッグや帽子を置いてから部屋を出た後、階段を下りてそのままリビングへと向かった。

 

 

 

 

「いただきます」

『いただきまーす!』

「はい、召し上がれ」

 

 

 声を合わせて食事の挨拶をした後、俺達は夕飯を食べ始めた。

 

 ……うん、やっぱり母さんの料理は美味いな。

 

 母さんの料理の腕はもちろんの事、ポケモンバトルでだいぶ神経を使った事でかなり空腹だったため、尚更料理が美味く感じた。

 

 

「ふふっ、ユウトもルカも良い食べっぷりね。何だか息子がもう一人増えたみたい」

 

 

 俺達の様子を見て、母さんが静かに微笑みながら嬉しそうに言うと、ルカが夕飯を食べる手を止め、俺の顔を見ながらニコッと笑った。

 

 

『僕的にはユウトみたいな兄弟がいてくれたら、とっても嬉しいけどね』

「ああ、俺もだぜ、ルカ。もしルカみたいな兄弟がいたら、毎日が絶対に楽しくなるからな」

『ふふ、それには僕も同感だね』

 

 

 そんな会話を交わしながら俺達が笑い合っていると、その様子を見て母さんがクスクスと笑う。

 

 

「ユウトとルカは本当に仲良しね」

 

 

 そして、窓の方へ視線を向けると、母さんは少し寂しそうにポツリと呟くように口を開いた。

 

 

「……お父さんも帰って来れたら良かったんだけど。ユウトが出かけた後に電話があってね、また別の地方に行かないといけないらしいのよね……」

「まあ、それは仕方ないよ。父さんだって忙しいからね」

『そういえば……ユウトのお父さんは、僕達ポケモンのお医者さんなんだよね?』

「ああ、その通りだ。少し前までトキワのポケセンにいたけど、今は別の地方のポケセンに呼ばれる事もあるから、正直なところどこにいるかまでは訊かないと分からないんだよ」

 

 

 昔から帰って来ない日とかはあったが、今となっては帰ってくる事自体が珍しいくらいなのだ。

 

 

「ところで……今はどこにいるって言ってた?」

「確か……ジョウト地方だったかしら」

「へぇ、ジョウト地方か……!」

 

 

 ジョウト地方……まだまだ先の話だけど、カントー地方を旅し終えたら行ってみたいな……。それに他の地方も……。

 

 ボーッと他の地方の事を考えていた時、ふと俺はある事を思い出し、ハッと我に返った。

 

 ……っと、そうだったそうだった。話さなきゃない事があるんだったな。

 

 そして、一度小さく息を吐いて気持ちを落ち着かせてから、俺は母さんの顔を見ながら静かに口を開いた。

 

 

「母さん……実は、俺──」

「ふふ……分かってるわ、旅に出るんでしょ?それもルカと一緒に」

「……やっぱり分かってたんだね」

「ええ、分かるわよ。いつも旅に出たいって言ってたし、帰って来た時の眼と今の眼を見れば、ね♪」

 

 

 俺の言葉に母さんはクスクスと笑いながら答えると、ニコニコと笑いながら言葉を続けた。

 

 

「因みにいつ出発する予定なの? 早速明日から?」

「そうするつもり。だから夕飯の後に急いで準備をしようと思ってる」

「ふふ、そうかなと思って準備してた物があるの。ちょっと待っててね」

 

 

 すると、母さんは静かに席を立ち、母さんの部屋へと入っていった。そして手に綺麗にラッピングされた箱を一つ持ちながら出てくると、「開けてみなさい?」と俺にそれを手渡しながら静かに微笑んだ。俺は言われるままに箱を開けてみた。すると──。

 

 

「これは……ランニングシューズだな」

『あ、説明書も付いてるよ』

 

 

 中に入っていたのは新品のランニングシューズだった。そして付属の説明書には、流石にボタン操作云々などの説明書きは無かったが、水が入りにくいとか足を痛めづらいとかそういった事が書いてあった。

 

 

「今ユウトが履いてるのはもうボロボロだったし、旅立ちには新品の方が気分が良いからね♪ それを履いて目いっぱい冒険をしてらっしゃい」

「母さん……」

 

 

 ……あはは、本当に母さんは凄いな。ここまで来ると、もう本当にそれしか言う言葉がないもんな。

 

 そんな事を思いながら俺は静かに口を開いた。

 

 

「……母さん、ありがとう」

「どういたしまして、それよりサイズは合ってる?」

「あ、うん……ちょっと待って」

 

 

 俺はすぐにランニングシューズを履き、サイズを確かめてみた。

 

 ……うん、すんなり入るし、足も痛くない。

 

 

「……うん、大丈夫」

「うん、それなら良かったわ。それもボロボロになっちゃうまで履き潰しちゃいなさい」

「分かった」

 

 

 母さんの言葉にコクンと頷きながら、俺は足下のランニングシューズをジッと見つめた。

 

 今履いてるのも既に最高のボロボロ靴だけど、これもそうなるようにルカと一緒に目一杯色々な場所を旅しよう。

 

 俺は心の中で静かに決意した後、再び夕飯を食べ始めた。

 

 

 

 

 夕飯後、旅立ちの準備をするべく、自分の部屋に戻ろうとした時、急にリビングの電話が大きな音を鳴らし始めた。

 

 こんな時間に……一体誰からだろう?

 

 不思議に思いながらも俺は電話へと近づき、静かに受話器を取った。

 

 

「もしもし……?」

『おっ、ユウトか。ちょうど良かったぜ!』

 

 

 すると、電話の向こうからグリーンの元気な声が聞こえてきた。

 

 

「グリーンか。何かあったのか?」

『ああ、まあな。ユウト、お前も明日には旅に出るよな?』

「え、そのつもりだけど……?」

『なら、明日の9時にじーさんの研究所に一度集合な。何でもじーさんが他に渡したい物があるんだってさ』

「渡したい物か……。ん、分かった」

『おう、それじゃあまた明日な。おやすみー』

「おう、おやすみ」

 

 

 そう言葉を締めくくると、グリーンからの電話は切れ、俺は静かに受話器を置いた。

 

 

「渡したい物か……何だろうな?」

『何だろうね?』

 

 

 電話の前で俺達は揃って首を傾げたものの、明日になれば分かることなので、俺達はそれについて考えるのを止め、とりあえず部屋に戻る事にした。そして部屋に戻った後、俺達は早速旅立ちの準備に取り掛かった。

 

 ……えーと、この辺の物は絶対に必要で、これは何かで使うかもしれないから一応持って行くかな。

 

 頭の中でおおよそのシミュレーションをしながら準備をする事約十数分、旅立ちのための大体の準備が終了し、俺達の目の前には少し膨らんだいつものリュックがあった。

 

 

「よし……こんなもんだな、たぶん」

『そうだね、たぶん』

 

 

 目の前の荷物を見ながら揃って頷いた後、リュックをベッドの近くへと置いた。

 

 

「さて、そろそろ寝るか」

『うん……そう、だね、ふあぁ……』

 

 

 ルカが眠そうに欠伸をした後、ふと時計を見てみると、時間はとっくに夜の10時を過ぎていた。

 

 

 まあ、トキワの森からここまで来ただけじゃなく、フレイとのポケモンバトルもあったしな。

 

 

 ルカの様子にクスリと笑った後、俺は寝巻きへと着替えた。そして明かりを消してから俺がベッドに入ると、それと同時にルカも俺の横へと入ってきた。

 

 

「それじゃあ、おやすみ。ルカ」

『うん、おやすみ』

 

 

 俺達は挨拶を交わした後、ゆっくりと眼を閉じた。

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