「……ん」
うっすらと明るさを感じたため、俺は声を上げながらベッドの中で眼を開けた。そして体を起こしながら外を見てみると、旅立ちにはぴったりの晴天だった。
「そして、時間は……うん、7時半か」
俺はベッドの近くの時計を確認してから、そのままベッドから起き出すと、隣で寝ていたルカも起き出し、声を上げながら体をグーッと伸ばした。
『……おはよう、ユウト』
「おはよう、ルカ」
朝の挨拶を交わし終えた後、ルカがベッドの上で毛繕いをしている間に俺は昨夜準備しておいた荷物を軽くチェックした。
……よし、大丈夫そうだな。
忘れ物などが無い事を確認してから、ベッドの方へ目を向けると、ちょうどルカも毛繕いを終えており、準備万端な様子で俺の事を見ていた。
「よし、そろそろ下に行くか」
『そうだね』
一緒に頷いた後、俺はルカを肩に乗せて部屋から出た。そして俺達は階段を下り、そのままリビングへと向かった。
「母さん、おはよう」
「おはよう、ユウト。ルカもおはよう」
『おはよう! お母さん!』
「はい、おはよう。ちょうど良かったわ。二人ともご飯を並べるの手伝ってくれる?」
「ん、了解」
『はーい!』
揃って返事をした後、俺達は出来た物から順々にテーブルの上へと並べていった。そして全部を並び終えた後、俺達は揃って席に着いた。
「それじゃあ、いただきます」
「いただきます」
『いただきます!』
声を揃えて食事の挨拶をし、俺達は朝食を食べ始めた。
……っと、そうだ。母さんにこれだけは伝えておかないとな。
俺は食事の手を止めてから母さんに話し掛けた。
「母さん、あいつらのことなんだけど……」
「……ああ、あの子達の事ね」
「うん。一応俺がいなくても大丈夫な様に簡単な合図を考えておいたから、今教えておこうと思って。因みにアイツらには、今日来た時に教えるつもりだよ」
「分かったわ、それでどんな合図?」
「えっと……」
俺は母さんに音の大きさや回数などを使った合図を教えた。そして、それを教え終わった直後に窓の向こうにお馴染みの影が見えた。
「ん、ちょうど良かった。早速アイツらにも伝えとかないと──」
そう言いながら俺がテーブルの上のパンを一つ取ろうとした時、ルカが少しワクワクした様子で話し掛けてきた。
『ねえ、ユウト。僕もそのポケモン達と話してみても良い?』
「ああ、もちろん良いぜ」
ルカの言葉に返事をした後、俺はルカを肩に乗せてから今度こそパンを一つ手に持った。そして、窓の方へと近づき静かに窓を開けた。
「おはよう」
『あぁ、おはよう。ユウト』
『おはようございます! ユウトの兄貴!』
いつも通り窓の手摺に留まっている二羽と挨拶を交わしていると、兄貴分ポッポの方がルカの事を物珍しそうに見始めた。
『……む、初顔だな』
「ああ、こいつは俺のパートナーポケモンのルカだ。そして、ルカ。このポッポ達は半年前に仲良くなった奴らで、こんな風に朝になると来てくれるんだよ」
『ふふ、よろしくね!』
『ああ、よろしく頼む』
『よろしくっす、ルカの旦那』
「これで紹介も終わったな。ところで、今日も二つ持ってくか?」
『そうしてもらえると助かる』
「ん、了解」
兄貴分ポッポの言葉に頷いてからテーブルへと戻った後、俺はパンをもう一つ持ってから窓の方へと戻った。
「ほい、これで二つだな」
『ああ、本当にすまないな』
「良いよ別に」
兄貴分ポッポの言葉に微笑みながら答えた後、伝えておかないといけない事を思い出した。
「……っと、そうだ。実は一つ言っておかないといけない事があるんだけどさ」
『む……何だ?』
「実は俺、今日から旅に出るんだ。それで俺がいなくても大丈夫な様に、母さんとの間で通じる合図を考えておいたから、今教えておくよ」
『……ああ』
兄貴分ポッポの返事を聞いた後、俺はポッポ達にも件の合図を教えた。
「うん、こんな感じだな」
『承知した。しかし、旅に出るとはな……』
「まあ、折角トレーナーになったからには、旅に出たくてさ」
『……なるほどな』
俺達が話していると、子分ポッポが兄貴分ポッポに耳打ちをする。
『兄貴、そろそろ……』
『そうだな……ではな、ユウト、ルカ』
「ああ、気を付けて帰れよ」
『じゃあねー!』
ポッポ達が帰っていくのを見送り、俺達は朝食を再開した。その際にチラッと時計を見てみると、時計の針はまだ8時20分頃を指していた。
「これなら昨日みたいに慌てなくて済みそうかな」
「ふふっ、そうね」
そんな会話を交わした後、俺とルカはゆっくりと朝食を食べ続けた。
「ご馳走さまでした」
『ご馳走さまでした!』
朝食を食べ終え、空になった皿を前に俺達が声を揃えて言うと、母さんはそれを見てクスクスと笑う。
「はい、お粗末様。これで今日からの旅も大丈夫そうね」
「うん。それじゃあ俺達は部屋に戻って、最後の準備をしてくるよ」
「はいはい」
そんな母さんの声を背に俺とルカはリビングを出た後、そのまま部屋へと戻った。
「さってと、まずは着替えるかな」
ルカをベッドの上に乗せた後、俺は寝間着から昨日も着ていたいつもの服へと着替えた。因みにいつもの服というのはFRLGの男主人公の服で、少し前にちょうど同じ奴を見つけ、すぐさま購入した物だ。
何の因果か転生後の容姿がFRLGの男主人公その物だったからな……まあ、それなら服装も揃えてしまった方がやっぱり良いもんな。
そして着替え終えた後、俺は軽い身嗜みやリュックなどを確認した。
「……よし、これでオッケーだな」
『それじゃあ、下に戻ろっか』
「ああ」
ルカの言葉に返事をした後、荷物であるリュックを背負い、ルカも肩に乗せてから、俺達はリビングへと戻った。
「それじゃあ母さん、行ってきます」
『行ってきまーす!』
「はい、行ってらっしゃい。健康とかには気を付けるのよ。もちろん、ルカもね」
「ん、了解」
『はーい!』
母さんとの別れの挨拶を終え、俺とルカはオーキド博士の研究所へと向かった。そして、数分掛けて研究所まで来ると、研究所の前に立っていたグリーン達が声を掛けてきた。
「お、来た来た。ユウト、ルカ、おはよう」
「おはよう。ユウト、ルカ」
「おはよう。グリーン、アオイ」
『おはよう、二人とも!』
グリーン達に挨拶を返した後、俺は軽く周囲を見回す。
「レッドは……いつも通りか」
「みたいだな。全く今日もいつも通りとはな」
「でもレッドらしいといえばそうじゃない?」
「たしかにな」
『たしかにね』
そんな会話を交わしながらレッドの事を待つ事数分、「おっ、いたいた!」と笑顔を浮かべながらレッドが俺達のところへと走ってきた。
「……ふぅ、おはよう、皆」
「レッド、おはようさん」
『レッド、おはよう!』
「おはよう、レッド」
「おはよう、まさか本当に今日も遅れてくるとはな」
「あははっ、ごめんごめん。今日が楽しみで少し寝るのが遅かったんだよ」
呆れ気味に言うグリーンの言葉に、レッドは楽しそうに笑いながら帽子越しに頭を掻きつつ答える。
……まあ、その気持ちは分からなくはないけどな。
レッドの言葉に俺がフッと笑っていると、グリーンは俺達の事を軽く見回してからコクリと頷きながら口を開いた。
「よし、全員揃った事だし、早速中に入るか」
その言葉に揃って頷いた後、俺達は研究所の中へと入っていった。
研究所の中へ入ってみると、オーキド博士は何やら真剣な様子で机の上に何かを並べていた。
……もしかして、アレが俺達が集められた理由なのかな……?
「じーさん、来たぜー?」
「……ん?」
そのグリーンの声に博士が作業の手を止め、俺達の方へゆっくりと振り向く。そして俺達の姿を見ると、「おお、皆揃っとったか!」と大声を上げながら俺達の方へと歩いてきた。
「うむうむ、皆元気そうじゃな」
「ああ。……ところで、何を並べてたんだ?」
グリーンがテーブルへと近付きながら博士に質問をするのに続いて、俺達もそのテーブルへと近付いた。するとそこにあったのは、赤と青と緑、そして桃色の腕時計のような物だった。
あれ……これってたしか……?
俺がそのアイテムに注目していると、オーキド博士はその内の一つを手に持ちながら説明を始めた。
「これは『ポケギア』という物でな、時間も確認出来る上、電話をする事も出来、そしてこのマップカードを使う事で地図を見ることも出来るという多機能なアイテムなんじゃよ」
『へー……』
レッド達はオーキド博士の説明を聴きながら珍しそうな様子で揃って声を上げた。
まあ、そうなるのは分かるよな。ポケギアってかなり便利な道具だし。けど……まさかジョウト地方以外で見る事になるとはな……。
「そして、これが昨日の夜にようやく届いたのでな、グリーンに急いで連絡をしてもらったというわけじゃ」
「……ん? って事は、これも貰ってって良いのか?」
「もちろんじゃよ、グリーン」
オーキド博士が頷きながら答えてから持っていたポケギアをテーブルの上へと戻した後、俺達は揃ってポケギアに手を伸ばす。
「……んじゃあ、俺は緑っと」
「それじゃあ、俺は赤だな」
「私はピンクかな」
「それで俺は青……っと」
それぞれ思い思いの色を手に取った後、俺達は揃ってポケギアを着け始めた。
……うん、こういうのがあるだけでも何だか身が引き締まる気がするな。
俺の左腕にある青色のポケギアを眺めながらそんな事を思っていると、博士は俺達の様子を見て満足そうに頷く。
「うむうむ、皆よく似合っとるぞ」
そして、昨日のような真剣な表情に変わると、俺達の顔をジッと見ながら静かに言葉を続けた。
「さて昨日も言ったが、これで四人とも立派なポケモントレーナーとなった。これからは自分のポケモン達を信じ、協力し合いながら、気を付けて旅をするんじゃぞ」
『はい!』
博士からの激励に揃って返事をした後、俺達は研究所を後にした。そして、そのまま他愛ない話をしながら1番道路の前まで歩いてきた。
「ここから俺達の旅が始まるんだな……」
「そう、だな……」
「うう……何だかドキドキしてきた……」
「確かに何だか緊張してくるな……」
俺達は一列に並びながら、それぞれそんな事を口にした。待ちに待った冒険の旅がこれから始まろうとしている。その事実が俺達の胸を高鳴らせていた。
「あ、そうだ!」
突然大きな声を上げたかと思うと、アオイが名案を思いついた様子で話し掛けてきた。
「ねぇねぇ、どうせだからさ。皆で一緒に最初の一歩を踏み出そうよ」
「あ……確かに良いかもな」
「そうだな、思い出にもなるし」
「俺も異議無しだ」
『うん、面白そうだし、良いと思うよ』
俺達が揃ってアオイの提案に賛成すると、アオイは嬉しそうな、そしてどこか懐かしそうな笑みを浮かべた。
……一緒に最初の一歩、か。何だか前世でやったBWの最初を彷彿とさせるな……。
「それじゃあ手を繋ぐよ」
端からグリーン、レッド、俺、アオイの順番に並んでいたため、俺達はアオイの言葉に頷きながらそのままの順で手を繋いだ。
「……それじゃあ行くよ」
そして、アオイの掛け声に合わせて、俺達はゆっくりと足を上げ──。
『せーの!』
その言葉と同時に俺達は最初の一歩──俺達の旅立ちを告げる一歩を踏み出した。