アーカイブには映らない   作:ミステイク

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プロローグ・透き通るような夜空

 ここがゲームの世界だと言われて信じる者は僅かだ。

 自分が架空の現実に存在している、シミュレーション理論、及び仮説を聞いたことがある。

 

 銃弾で撃たれれば死ぬ身体を持っていた時には、そんなものはありえない、しかしもしかしたら?そう考えて、しばらくすれば忘れてしまった程度の印象しかなかった仮説だが、これはそういう理屈を超えている。

 

 自分は死んだ、そのことだけは憶えている。だが気が付けばこの世界に立っていた。

 

 ━━━━ブルーアーカイブ。

 

 確かにプレイした事はあるし、何なら課金だってした。欲しいキャラを引けずにクレジットカードの残額をドブ川に不法投棄したことはある。

 だからと言って、その世界に一人で放置することはなかっただろう。

 

「はぁ……誰に文句を言ってやろうか」

 

 古い廃墟のような場所で目覚め、落ちていた鏡の破片に映った顔と頭上に浮かぶ天使の光輪に似たそれを見てまさかと思い。

 外へと目を向け、光の柱と、夜空に浮かぶ輪を見て確信した。

 

 心の内をぶつけ、文句を言う相手は何処にもいない。そもそも自分は此処に連れて来られた理由も。

 

 いやもう考えても仕方がない。

 

 とりあえず優先するべきは。

 

「私は誰なのだ?」

 

 記憶喪失ではない、それなら自分が死んだことも憶えてはいない。正確に言うならば”前”の自分ではなく、”今”の私の名前だ。

 死んで蘇った? それとも魂が誰かに取り憑いたか? そのどちらも正解が分からない。

 この身体、身分証どころか衣服すら持っていないのだから。夜の冷たい風で風邪をひきかねない、自分はハナコのように全裸で外を徘徊する趣味はない。

 

 いや、あれも水着くらいは着ていたか? だとしたら自分はハナコ以下の全裸痴女という事になる……。

 

 とりあえずボロボロのカーテンに身を包んだ。不衛生だが全裸よりマシだと思おう。だがやはりちゃんとした衣服が欲しい。

 

 その時、カタカタと足音が部屋の外から聴こえてきた。

 

「ああん? なんだお前! アタシらの縄張りだぞ! どこの生徒だぁ!?」

 

「というかなんで布一枚なんだ?」

 

 持っている物騒な銃をこちらに構えて、スケバン風の生徒達が恫喝する。

 丁度良かった、彼女達が来てくれて助かった。

 

「私もそれを知りたいと思っている。実は私、衣服もお金も持っていないんだ……くれ」

 

「縄張りに勝手に入った挙句、金と服まで要求してきやがったぞコイツ!?」

 

 お願いしてみたものの反応は良くない、縄張りと言っている様子から彼女達がたむろしている遊び場のようだが。格好と態度からして素行も良くなさそう、所謂モブ生徒そのものの格好をしている。

 

「アタシらは服持ってねぇし、金だってやらねぇよ! さっさと帰れ!」

 

「服ならあるじゃないか」

 

「脱いで渡せってか、ふざけっ━━……はい」

 

「?」

 

 スケバン生徒達は突如静かになり、着ていた服と現金を渡してきた。

 無理なお願いだと諦めて出て行こうとしたのだが、唐突な反応を返されて逆に自分が戸惑った。

 

 なんなら彼女達が持っていた銃も荷物も全部渡され、意図せずして身包みを剥いでしまった。

 

「ああ、いや服は一人分で十分……下着も要らない」

 

 彼女達が何処に所属する学園の生徒なのか知らない、モブ生徒なのでプレイしていた時は気にならなかったが。

 とりあえず衣服と金は如何にかなった、期せずして前世では持ったこともない銃も手に入った。思っていより軽い、これは今の身体だからかもしれない。

 

「ありがとう、さよなら」

 

 学生から金を貰うのも気が引けなくはないが、一文無しのホームレスを助けたと思ってもらおう。

 金が手に入ったなら、食事の方も問題にはならない。足りずとも最悪受け取った銃を売れば事足りる。

 この世界で銃がどれほどの価値があるかは不明だが、現実であれば銃も弾も高価なのだが。ゲームの世界にこの常識が通用するかは不安だ。

 

 そもそも現実に銃など持てば捕まる事間違いなしなので考えても意味はないな。

 

 それにしてもスケバン達の急に素直な態度は何だったのだろう?

 

「安いよ~、タイ焼き安いよ~」

 

「……」

 

 二足歩行の動物が出店を開いているのを見て一瞬思考が飛んだが、そういえばそんな世界観だった。

 たいやきか、今すぐ食べねば死ぬほどではないがこの世界が現実とどれほど違うのか、味覚の方も確かめるべきかな。

 

「すみません、タイ焼きください」

 

「はい、どうぞ」

 

 動物の店主は出来上がったタイ焼きを、一つ残らず紙袋に入れて渡してきた。

 

「……あ、いや。こんなには食べられないし、頼んでいないんですが」

 

「だって、タイ焼きくれって言ったじゃないか」

 

「……なに?」

 

 袋いっぱいに詰められたタイ焼きを戸惑いながら受け取って店から離れた。

 一体どういう事なのか、先程のスケバンもそうだ、急に態度を変えて持ち物を全て寄こした。

 

 自分はギアスユーザーだったのか?目を合わせた相手に何でも命令する超能力なんて。

 

 便利である事はそうだが。

 

「……」

 

 ブルアカは触れずに物を動かすとか、炎の剣を纏わして戦うとかそういうファンタジーな魔法はない。

 神秘という存在があり、頭にヘイローなる物が浮かぶ生徒達はいるが、超能力や魔法の類を堂々と行使して戦うようなことは設定的には行われていなかった、はずだ。

 

 精々、セイアというキャラクターが未来を予知したり、何名かのキャラがそういった能力を持っているのではという考察がネットの掲示板に流れてくるのを見たが。

 

 死んだ後、異世界に転生して、超能力を身に着ける。そういう二次創作は幾らでもあるが自分が同じ状況になるとは考えもしなかった。

 

 そういえば、今時期はいつだ?第一章の対策委員会編か、若しくはもう最終編を終えた後なのだろうか。

 そもそも此処はどの辺りなのだろう、ゲヘナ?トリニティ?百鬼夜行……ではなさそうだが。

 

「ちょっと、そこの貴方」

 

「?」

 

「こんな深夜にまで出歩いちゃダメよ」

 

 歩いていると聞き覚えのある声を掛けられて振り向く。

 

「ここはミレニアムですか、調月リオ先輩」

 

「意味の分からない事を聞くのね。それに私はまだ一年生よ」

 

「……ああ、そう」

 

 どうやら、未来を見越して行動できる、ほど生き易くはないらしい。

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