水滅ウリア、トリニティのトップの一人。
三人の生徒会長からなるティーパーティーに所属している、パテル分派の首長。
トリニティ風紀委員を設立し、委員長のミカが上に就くことを許す唯一のボス。
唐突にトリニティへ転入し、短期間でパテル分派の中核を担う程に担ぎ上げられ。パテル分派の改革、権威向上に努め、ティーパーティー候補だったミカを押しのけティーパーティーへと成り上がった、言わば究極の叩き上げ。
「ねえ、ところでさあウリアちゃん。彼女って誰なの?」
「それ、今更聞くんですね」
聴くタイミングが無かったと言って欲しい。
時折ウリアが口にする”彼女”なる人物のことが気になるミカは、良い機会と思い遂に問いかけた。
唐突にミカが言った、アリウスとの和解を手伝ってくれたウリアのことをとても信頼している。その前も良き友人と思っていたが、ここ最近では特に好感度は上がっただろう。
ウリアが居なければ、此処まで上手く事は運ぶことはなかった。
その中で、ウリアだけでなくアリウスの生徒も言う”彼女”という存在が気になった。アリウスを支配していた人物とは別の”彼女”という生徒のことが。
「……友人ですよ、世話焼きで甘い、唐突な行動が多いミカさんの様な方でした」
「なんか嫌味のある言い方だな~」
「何度も世話を焼かされること、それも両手の指では足りません。他の方々も彼女に振り回されて、まるで台風のような方でした」
「……にしてはなんだか楽しそうだね」
「喉元過ぎれば熱さを忘れる、振り返ってみれば良い思い出でした。まあ当時が全く楽しくないと言えば嘘ですが」
懐かしそうな顔と目をしながら言うことではない。
それに嫌味や皮肉の多い友人ながら、その言動の多くは生徒や他者の為のものが多いウリアが言えたことか。
俗に言うツンデレなるものだが、また皮肉が返ってくると分かるので口に出さないでおく。
「なんだか嫉妬しちゃうな、ウリアちゃんとそこまで仲良しだなんて。いじけちゃうよ~?」
「貴方にはナギちゃんも居るじゃないですか。目の前でいちゃつかれて、貴方のウリアちゃんは何時もメール打っていじけてますよ」
「あそうなの? 気付かなかった!」
殆ど真顔で声色もあまり変化がないウリアの言葉が冗談か何か分からないのも問題があると思うが。
ウリアにとって”彼女”は、ミカにとっての幼馴染なのだろうとは分かった。
幼馴染もウリアも大事だが。
「そういえばハナコさんはどちらに?」
「ハナコちゃんならさっきスク水を着てアリウスの校舎に行こうとしてアズサちゃんに止められて、その後、正義実現委員会の子と一般生徒の子と一緒に遊びに行ったよ。あ、思い出したあの子達ハスミちゃんとナギちゃんのお気に入りの子だ!」
「そうですか、アズサさんはアリウス生徒達の中でもトリニティでの順応がとても速かったですからね。ハナコさんにとっても良いストレス解消になるでしょう……彼女も先生の補佐に任せるべきだったでしょうか?」
アリウススクワッドの一人であるアズサはアリウス生徒の中でも異端なほどトリニティへの順応が早く。数週間ほどでトリニティ生徒と友人になるほどには社交性があった、というよりは付き合った生徒と相性が良かったと言う方が正しいだろう。
幼馴染のお気に入りと、正義実現委員会のハスミの後輩兼部下。ハスミとの仲はそこまでではないが二人が信用できる人格の持ち主だとは知っている。
その二人のお気に入りなのだから、この結果に違和感はあまりない。
「ここ最近、先生とアズサさんの影響もあって、アリウス生徒の中にもトリニティと接触してみようと言う考えが出てきているそうとアツコさんから連絡がありました。流石はシャーレの先生ですね」
「良いなぁ、私も先生とお話したーい!」
「調印式が終われば幾らでも暇な時間が作れますよ、ほらドーナツ買って来て上げましたから。これで機嫌直してください」
「仕方ないな~!」
「やれやれ」
表向きは上司と部下、しかし二人の間にその部分は限りなく無い。
深く物を考えないミカの思考は単純、ウリアが好きだから居る。
そのウリアが寂しそうな顔をして言う”彼女”という人物が何者なのかもっと興味が湧いてきた。
━━━━私も会いたかったな~。
秤アツコはトリニティの生徒となってから、分からない事だらけの毎日だった。
そして分からない事が分かるようになることが楽しいと感じ始めたのは、最近のこと。
『マジ美味なドーナツ見つけちゃった、姫たその分もあるから楽しみにしててお!(^^)!』
ウリアの意味不明な暗号文に困惑しなくなったのも最近のこと。
曰くアツコ達を助けたウリアの友人の影響らしい、眼鏡ではなくモノクルが似合うとか言われたらしいが、アツコには分からない話だった。
アツコ達を助けた、正確にはアリウスを大人の手から解放した人物。
半年前にトリニティに転入する、その前から世話を受けていた黒髪の少女。
━━━━ゲマトリアのベアトリーチェ。アリウスのマダム。崇高とやらを目指す傍迷惑な老害……他に呼び名はあるか?
マダム、ベアトリーチェを打倒しアリウスの洗脳を解いた人物。
「姫? 先生が呼んでるけど……考えごと?」
「うん、あの人のこと思い出してた」
「あー……」
「わ、私あの人ちょっと苦手でした……リーダーも皆もあの人のこととても信頼してるので言えませんけど」
「分かる、私もちょっと怖いと思ってる」
同じスクワッドのメンバーであるミサキとヒヨリの反応に、アツコは内心で苦笑いを浮かべた。
ベアトリーチェという
ここ最近知った内容から例えるなら、扇動者とでも言うのだろうか。
人を熱狂させ、付いていきたいという感情を覚えさせる。
だからアツコもその少女に恩や感謝、尊敬こそあるが同時に恐怖心も抱いていた。
「……姫はさ、本当に死んだと思ってる? あの人が」
「お墓はあるって聴いた……今度ウリアが連れて行ってくれる」
「な、なにかお供え物とか持って行った方が良いですかね……お花とか」
「花……うん、良いかも」
その少女が死んだと聞かされた時。
抱いた感想は、あんな怪物の様な者でも死ぬのかという、不謹慎なものだった。
「二年前にベアトリーチェを倒して、直ぐにトリニティに入れるようにするとか言ってたけど。随分時間が掛かった」
「でも、約束は守ってくれた。そのお礼くらいはしないと」
トリニティに入るまで飲食物や衣類、幾つかの仕事の案内などの手伝いをしてくれた。
ウリアがトリニティ内で権力を手に入れるまでの間の生活の殆どを任せていた。
彼女がいなければ今の自分はない。
ヒヨリが前ほどに泣かなくなり、ミサキの包帯の消費が減り、サオリが少しだけ笑うようになったのも。
「死んだ人にどうやって礼をするのさ」
「うーん、お墓参りした後は……後で考えよう」
「はぁ……まあそうだね……時間はいっぱいあるんだし」
こんな余裕のある会話。
あの時なら出来なかった、死者を弔う感情も、喪失感も、絶望も。
全ては彼女の所為だ。
全ては彼女のお陰だ。
「天国があるかは分からないけど、見ててくれてるよね?」
今も少女が何処かに居るような感覚のあるアツコは窓から夜の雲を見上げた。
ゲマトリアの本部。
四つの異形の姿をした影がそこにいた。
そのうちの一人である、黒い服の格好の大人が肩を震わせて笑う。
「クックック、久しぶりですねマダム。お変わりない様子━━━━いえ、随分と変わられた」
赤い肌を持つマダムと呼ばれた女性、ベアトリーチェは忌々し気に視線を黒服へと向ける。
彼女の顔の半分は炎で焼かれたかのように爛れ、そこにあるべき腕は一つしかなく、車椅子がなければ進むことも出来なくなっていた。
もはや動いて良い身体ではないが、ベアトリーチェは特殊な体質を持つが故にその点だけは問題にならなかった。
「……それは挑発ですか黒服」
「とんでもない、我々は心配していましたよ」
「思ってもない事を……!」
本当に心を込めているのか、黒服の声色からベアトリーチェを心配しているという雰囲気はない。
「二年前に貴下が一人の生徒に大敗を喫したと聴いた時は我が耳を疑った。だがそれも止む無し、相手にしたのが無名の司祭の技術を持つ者であるならばな。生きていた事自体が奇跡のようなもの」
「付け加えて言うならその生徒は黒服が求めていた高い神秘を持つ者だったとか、それ抜きにしても単独での戦闘力は決して油断ならない相手です」
「ええ、アビドスの神秘に匹敵する。介入する前に失ってしまったのは残念でした。彼女には神秘度外視でこちらに引き込むことも考えていたのですが」
珍しく研究とは関係なく惜しむ様子を見せる黒服に、マエストロとゴルゴンダは興味深いものを見るような目で見た。
しかし反対にベアトリーチェは唾棄するよう、更に敵意を込めた目を向ける。
「あれは私の全ての研究、計画、未来を奪っていきました。アリウスに残していた全ては跡形もなく片付けられていた、死んだ後も厄介極まりない小娘ッ」
「落ち着いてくださいマダム、死者に当っても意味はありません」
「そういうこった!」
「してマダム? 今度はどうなされるのです? もう手札は無い様に見えますが」
腕を一本、両足を失い、全てを奪われたベアトリーチェにもう後はない。
だがそんな事を彼女は気にしてなどいない。
「……黒服、カイザーとの関係はまだ続いているのですか?」
「? ええ」
「マエストロ、あなたも協力しなさい。守護者の
「!? 詳しく聞かせてもらおう……」
ベアトリーチェは自らの言葉に興味をそそられたマエストロが前のめりになったのを見て笑う。
裏切り者の秤アツコの身体と、トリニティの地下、そこにマエストロの複製能力、一度発動させてしまえばあとは幾らでも戦力が手に入る。
戦力が手に入りさえすれば、あとはどうでも良い。ゲマトリアとの関係も、色彩も。裏切ったアリウスの粛清、研究の奪還、崇高へと至る準備。
その全てが、どうでも良い。
自分から全てを奪った女のやってきたことを、踏みにじってやれるのなら。
【主人公の印象とゲマトリアの印象】
マヨイ「ちょっと揉めた」
マダム「殺してやる、殺してやるぞ◾️◾️◾️◾️◾️!」
ゴルコンダ「もう死んでる」
デカルコマニー「そういうこった!」
マエストロ「サイン欲しかった」
黒服「やっぱ小鳥遊ホシノだわ」