アーカイブには映らない   作:ミステイク

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第十話・先生と彼女

「勉強会……補習授業部ですか」

 

「”うん、アリウスの生徒達の皆、個人差もあるけど成績の方がね。それを介してトリニティと交流できないかな?”」

 

「なるほど」

 

 アリウスの生徒達は戦闘力こそ一般のトリニティ生徒よりも優秀な方が多い。

 体術、射撃術から、連携、サポート、特にゲリラ戦術はウリアだけでなく、特級戦力であるミカや頭脳明晰なハナコを唸らせたこともある。

 

 しかしながらそれ以外の一般常識、社会常識などはない。

 少年兵そのものだと”彼女”がある程度の教育や授業を担当していたが効果は薄かった。

 

 だがその点をトリニティとの交流に利用するというアイディアには驚いた。

 

「教育と言う点で互いの仲を深める、流石は先生、いえ先生だからこそ思い付いたのでしょうか」

 

「”そっちは任せられる?”」

 

「良いでしょうトリニティ側から成績の低く出来るだけ社交性の高い生徒を選んでみます……補佐も必要でしょうか……?」

 

 トリニティ側の生徒と交流させ、そこからアリウスの生徒達の温和な態度の情報を流し友好を深める。

 別に勉強関係なく、交流会自体は良い考えだったので他の案も考えてみようかとウリアは思った。

 

「それと、アリウスの生徒達はどうしていますか?」

 

「”最初はよそよそしい感じだけど、今はちょっとずつ笑って、私にも歩み寄ってくれてるよ”」

 

「そうですか、それはよか━━━━」

 

「先生!」

 

 廊下からアリウス生徒が先生に呼びかけ近づいてくると、ぞろぞろと周囲を取り囲んでいく。

 

「先生! 前に教えてもらった数学、分かるようになったよ!」

 

「わ、私はま、まだ分からないところがあって……また教えてくれませんか?」

 

「先生! モモフレンズってのを見つけてね! それが可愛くて」

 

「……凄まじい」

 

 歩み寄るってレベルではない、完全に打ち解けている。

 マスクの上からでも分かるほど先生を慕っている表情が見える。

 

 まだ二、三日も経っていないというのに、生徒の意識を向けられている。

 

「流石は先生……」

 

 アビドスから始まり、ゲヘナ、ミレニアムでも同じことをしていると聴いたことがある。

 シャーレの募集によって集まってきた生徒達全員に慕われ、恋慕に似た、若しくはそのものの感情を向けられているという噂は本当だったのかと思えてしまう。

 

 むしろ一周回って怖い、これが大人の力なのか。

 

「ずっとあんな感じだよ、先生」

 

「アツコさん、そうなんですか?」

 

 何時からいたのか、背後から来たアツコと揉みくちゃにされている先生を見る。

 

「距離感を取るのが上手くて、話も上手。こっちの仕事を手伝ってくれたり、偶に生徒の相談とか乗ってたら」

 

「相談ってまだ一週間も経過していませんよ、何があったんですか?」

 

「サっちゃ……サオリとお小遣い稼ぎに建築のバイトを手伝ったり、ヒヨリに雑誌を買ってきてあげたり。私も花壇の手入れとか手伝ってもらった」

 

「それ数日で済ませたんですか」

 

「あと、トリニティでも救護騎士団の団長って人とシスターフッドの所でも同じことしてるみたいで」

 

「トリニティまで手が及んでいると?」

 

 要領が良いハナコ以上の社交性。

 このバグのようなコミュニケーション能力にウリアは困惑を超えてドン引きである。

 

「あの人みたいだね」

 

「ふむ……あの人というのが何処の誰の事を指しているのか分かりませんが、私が考えている人であるなら……確かに重ねて見てしまいそうです」

 

「エデン条約は大丈夫なの? 私達に構いすぎて疲れてるんじゃない?」

 

「ご心配なく、食事睡眠排泄きちんと済ませています。エリートに死角はありません……あれ? スマホのバッテリーが切れかかってる?」

 

「……貴方にはあの人と同じくらい感謝してる、体調を壊さないで欲しい」

 

「言われずとも私は一番に私を大事にしています、彼女のように考え無しではありません」

 

 そうしてウリアはスマホを持ちながらアツコに背を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティーパーティーの茶会の席で、ウリアとセイア、それからナギサは対面していた。

 

「ナギサさんの掴んだ情報、当たりましたよ」

 

「エデン条約に反対する勢力……ですか、念の為聞きますが裏切り者の可能性は?」

 

「我々パテル分派の中には居ません、不満のある者は既に抑えています」

 

「サンクトゥス分派も」

 

「フィリウス分派も同じくです」

 

 分派の長達がどのような方法でエデン条約の反対派、裏切り者がいないのか、判断したのかを聞く必要はない。

 仮にもティーパーティーにまで登り詰めたトリニティでも優秀な生徒達の言う事だ、疑う気はない。

 

「カイザーグループに動きがあったと諜報員から連絡がありましたが、流石に計画の全容や目的までは掴めませんでした」

 

「調印式を狙って襲撃してくる、見た予知はそうだった。そこで途切れてしまったがね」

 

「調印式の予定を遅れさせるのはどうでしょう?」

 

「オススメしないね、私の予知が外れたことがあるかいナギサ?」

 

「では式は予定通り進めましょう、対策する時間は幾らかあります。予定していた警備の数を二倍、いえ四倍に増やし、ゲヘナ風紀委員にも忠告を知らせます……セイアさん、それから予知の方は?」

 

 凛とした態度のナギサは即座に別案を用意して、セイアへと目を向ける。

 エデン条約は必ず成功させると考えているが、それ以外の心配ごとはセイアにある。

 

「やはり前より見えにくくなっている……数年前からそうだったが、これからもっと予知の見える範囲が狭まるかもしれない」

 

「悪い未来を見て悲観的にならずに済みますね」

 

「誰かさんみたいなことを言う」

 

 百合園セイアは未来を予知する能力を持っている。

 トリニティどころか、キヴォトスの中でも特異な力を持っているセイアだが、ここ数年でその能力が失われつつあるという。

 

「カイザーグループによる調印式襲撃の予知が出来ただけでもありがたい、こうして対策が打てるのです」

 

「世辞は結構だウリア、正直に正確な時刻や敵の人数、狙いも分かればもっと良かったと言ってくれ」

 

「では、ついでに言えばゲヘナ側がどう動くのかも見て欲しかったですよ」

 

「ウリアさんその辺に、セイアさんも無理はなさらないでくださいね」

 

 エデン条約の失敗、中止を目論む者達。

 セイアの予知した光景から始まり、ナギサの情報網を通して、ウリアが調査した。

 その結果カイザーが怪しい動きをしているということだけは掴んだが、正確に何を起こそうとしているのかは分からない。

 

「せめて彼女が居ればね、また私の予知を覆してもらえただろう」

 

「セイアさんの予知を外させた、唯一の方ですか。私は会ったことがないのでわかりませんが、ウリアさんとは友人関係だったのですよね?」

 

「ええ、酷い友人でしたよ。お茶会に招きたくない人間の中では最高位に当ります。もし彼女が生きていたなら、貴方の予知はまた外れるのでしょうが……残念ながら私達だけしかいません」

 

 予知から外れた行動を取る唯一の生徒。

 セイアにとっては天敵に等しく、しかしずっと求めていた者でもあるという複雑な感情を向けざるを得ない少女。

 

 ウリアの言う通り、確定した未来を覆す者が居ない以上、自分達が戦うしかない。

 

「そうだね……しかしこれからどう動くつもりだい?」

 

「カイザーの動きを止められずとも、その兵力を削ぐなどは出来るでしょう。上手く行けば返り討ちに出来るかもしれません」

 

「ですが余裕のある部下はもうあまり……それに堂々と彼等と事を起こすのは」

 

「では外部から雇いましょう信頼できる筋を幾つか知っています」

 

「傭兵を雇うのかい?」

 

「似てはいますね、正確には金で動く━━━━便利屋ですが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、ウリアのスマホに一通のメールが届いた。

 

「え? カイザーコーポレーションが……買収された? なぜ?」




しばらく投稿が遅れるかと思います。
体調不良などではないのでご心配なく。
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