アーカイブには映らない   作:ミステイク

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第十二話・英雄

 キヴォトスのとある墓地。

 墓前で祈るウリアは三つの足音を聴いて瞼を開ける。

 

「お忙しい中よく来てくれました。調印式、お疲れ様ですヒナ委員長。それと先生も、アリウス生徒のサポートは助かりました。お陰で完全に打ち解けた、わけではありませんがあの調子であれば時間と共にわだかまりは消えるでしょう」

 

「”私は何もしてないよ、殆どウリアちゃんのお陰”」

 

「リオさんもお久しぶりです、相変わらずメールの返信はしてくれませんね」

 

「ならもっと真剣な文章を送って欲しいわね、どうしてメールの時だけテンションが高いの」

 

「それより用事って何? 私達を此処に呼んだ理由は? 久しぶりに友達同士集まって遊びましょうってわけじゃないんでしょ」

 

 エデン条約が何事もなく無事終了したウリアは、友人達と先生を墓の前に呼び出した。

 しかし余裕がある程度は出来たとはいえ、遊ぶ為に呼び出したとは考えにくい。そうなら先生を呼んだのもおかしいし、何よりウリアは自らそういった事をするタイプではないとヒナは知っている。

 

「ヒナさんの言う通り、碌にメールも返してくれない様な方達とお茶を楽しむ気はありません。しかし友人に話しておきたい事がある、というのはあります。先生はあまり関係ないでしょうが、良い機会なのでお話に参加して頂きたい。先生として、彼女の事は知ってもらいたい」

 

「”彼女って言うのは……”」

 

 言いかけて視線をウリアの側にある墓石に向ける。

 

 墓に書かれている名前は先生に憶えはない、ウリアの知り合いだとは分かるが。

 

「調印式の少し前、セイアさんが予知した襲撃事件の話は聞いていますか?」

 

「ええ、カイザーグループ、正確には変装した彼らが調印式を邪魔しに来る。それで警備の数を四倍に増やすことになった、結果は何事もなく終わったけど」

 

「はい、我々もセイアさん自身もとても驚いていました。更にはカイザーグループ幹部の一斉検挙、本社の買収」

 

 未だにキヴォトスで連日ニュースとなっている事件、その裏事情をウリアは話し始める。

 ティーパーティーとしての権限を使ったのもあるが、彼女が事の発端でもあるからだ。

 

「始まりを起こしたのは便利屋68。アルさん達が上手くやったのかと思いましたが、どうやら同時期にロドスも動いていたようでして、詳細は省きますが便利屋68とロドスの部隊が協力してカイザーの不正取引や汚職を発見したようです」

 

 今一度聞いても信じられない出来事が重なっている。

 便利屋68を使ってカイザーの戦力を削るなどを考えていたウリアだが、同時期にロドスもカイザーを抑止しようと動いていた。

 

「結果、急速に弱体化したカイザーグループにとどめを刺すようにロドスCEOがカイザー本社を買収。汚職が明るみに出た幹部を含めた上層部の社員達は公安局に逮捕され牢獄の中……随分と面白い状況です」

 

「カイザーの株価は急速に低下し、ロドス側は美味しい所を全部持って行った。便利屋もこの出来事で有名になったらしいわね」

 

「”正義のヒーローみたいに扱われてるけどね”」

 

 かつてのSRTの様にカイザーの不正を暴いた便利屋68、というよりはアウトローを目指す陸八魔アルにとってはあまりよろしくない出来事だろうが、ウリアが話したい点はそこではない。

 

「セイアさんの予知を外れさせた人物はこれまでただ一人、私達の友人だけ……リオさんもう一度聞きます、貴方は本当に彼女の死体を見たのですか?」

 

「どういう……意味?」

 

「“?”」

 

 初めて聴く名前、墓に刻まれた物と同じ名称を発言したウリアに先生は困惑する。

 

「先生はシュメール学園のグリーンズ事件を知っていますか?」

 

「”いや……”」

 

「シュメール学園、かつては三大自治区に匹敵する力を持っていた島一つを自治区とした学園。現在ではロドスの本社のある場所です」

 

 初めて聞く名前に初めて聴く学園、しかしロドスという会社は聞いたことがある。

 ロドス・アイランド製薬会社、医療技術であればキヴォトス随一の医療機関。同じく大企業のカイザーとは反対に悪い噂を聞かない会社。

 

 キヴォトスを歩けば同じ名前を何度も聞き、各学園保健室内にある医療機器の殆どはロドス製のもの。

 物騒な治安のキヴォトスでは先生も何度か世話になった事もある。

 

 しかし今はなく、ロドスという会社の物になったということは。

 

「“無くなっちゃったの?”」

 

「はい、シュメール学園は一年前に生徒の半数が死亡したことで壊滅しました」

 

「”!?”」

 

「木々などの自然物が突如生き物のように動き出し、島内の生徒を虐殺し始めたのです。それがキヴォトス最大最悪の虐殺事件、シュメール学園の崩壊【グリーンズ事件】です」

 

 生徒の半数が亡くなったと聞き、先生は胸が痛んだのを感じ。ヒナとリオも同じく暗い顔をしているのに気づく。

 だがウリアは淡々とした様子で話を続けた。

 

「島内の生徒会、風紀委員などの生徒は全滅。生き残った半数の生徒の殆どは偶々島外に居た者か、幸運にも逃げ出せた者……そして、英雄に助けられた者達だけです」

 

「”……英雄?”」

 

「その人物こそが我々の友人です。彼女はシュメール学園に現れた植物の化け物グリーンズから逃げる生徒達を庇いながら戦いました。リオさんやヒナさん、そして私の持つ刀や短刀は当時彼女が持っていた武器です」

 

 リオとヒナ、そしてウリアは確かにキヴォトスでは珍しい刃物を持っている。それが友達の形見であるとは思わなかった。

 

「シュメールの救援要請を受け、当時親交もあったミレニアムが辿り着いた時にはもう殆どのグリーンズが全滅していたわ。情報では百万はくだらない数と聞いていたけど、もう十体といなかった……その中で一際激しい戦場だった場所に、あの子は……下半身を失った姿で……」

 

「“もう良いよリオ、無理に言わなくていい“」

 

 冷静に言うリオだが、顔色は酷く先生はそれ以上の説明をやめさせた。

 リオだけではなく、ヒナも無表情を保とうとして酷く青ざめていたからだ。

 

「……植物、グリーンズについてミレニアムは調べたけど、当時の私達では理解のできない技術で動かされていた事しか分からなかった。無名の司祭と呼ばれる者達の仕業と分かったのは少し経ってから」

 

「”無名の司祭? それって……”」

 

「アリスとケイの事情を知っている先生なら聞いたわね。ロドスのCEOも無名の司祭に関する情報を多く知っていたわ。事件の話からロドスは私とヒマリに二人の調査・検査・分析の協力を頼んだ。そこから無名の司祭の正体が分からないかと考えて、もちろん二人の人権を守る範囲でだけど」

 

「”……”」

 

 ケイとアリスの持つアトラ・ハシースの箱舟。

 キヴォトスを滅ぼす兵器としてが存在意義だったと聞いたが、先生にとっては二人は生徒なのであまり気にしていなかった。

 

 本人たちも自分は生徒、いや勇者であると既に決めていた事もあり先生は何も言う事はなかった。二人は大切な生徒、それ以外にはない。

 

「無名の司祭と呼ばれるキヴォトスの敵対勢力、ロドスのCEOが何故知っているのか答えは聞けなかったけど」

 

「でも、協力したの?」

 

「目的が同じだったから、何よりあの子を殺した犯人を見つける為……キヴォトスを守る為にもね」

 

 公的にも私的にも、無名の司祭と敵対する理由はある。

 

「で? 話が全く見えてこないのだけど。その話の結論は?」

 

「話が逸れましたね……セイアさんの予知が外れた理由とシュメール学園で亡くなったはずの彼女。私の予想を当ててくれる答えがこの場所にあります」

 

「!? なにを!」

 

 刀を抜いたウリアは墓前に刃を突き刺し、抉るように振り上げた。

 墓石ごと地面の土が舞い上げられる。

 

「”ウリア!?”」

 

「何をしているの!?」

 

 当然、突如起こしたウリアの奇行と蛮行にヒナは止めようと近づく。

 

 しかしウリアは三人を無視して墓前に腰を下ろし地面を見下ろし、近づいたヒナは目を見開いて固まった。

 

「私の勘は正しかったようですね……何もありません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして死を偽装したのですか?」

 

 ロドス本社の事務室で座るマヨイの護衛中に気になったユキノは問いかけた。

 任務中は私語の少ないユキノに唐突に問われたのが不思議だったのか、マヨイは困惑する様に目を細めて口を開く。

 

「より良い未来を作る為、異物が外を歩いてこれ以上拗れないため」

 

「貴方は異物ではないでしょう」

 

 赤い肌の異形に言われた事を気にしているのか、いやマヨイはそれより前から自身の死を偽っていた。

 誰にも生きている事を知らせず一人で戦っていた。

 

 なのになぜ異物を名乗るのか。

 

「こっちも聞くがお前達こそなんで此処に入ったんだ? SRT特殊学園の復活を望んでいると思っていたが」

 

「SRTの復活は連邦生徒会長が戻らない時点で絶望的、それならば私は昔から考えていた正義の在り方に従うだけです」

 

 SRT特殊学園、所謂特殊部隊員達の学校。

 連邦生徒会長の直属学園であり、会長の命令一つであらゆる自治区へと入ることが出来る。練度、武装、連携、あらゆる学園の武装戦力の平均を上回る。

 

 その精鋭チームの一つがユキノ率いるFOX小隊。

 現在SRTの名を変え、所属をロドスにしている。

 

 ユキノ含むFOX小隊は過去、カイザーコーポレーションの不正を暴き七囚人の一人を制圧したこともある。

 ニュースで報道されたそれらはSRT特殊学園の生徒として誇りを感じていた。

 

 任務を達成した先にある正義が、仲間達とやり遂げたそれらはユキノの自慢だった。

 

 だがその正義を以てしても救えない者達がいた。

 

 シュメール学園の生徒会メンバーの死亡、電波妨害による通信手段の切断。

 計画的に行われた襲撃によって学園は地獄と化した。

 

 独自の連絡手段を持っていたミレニアムが一番早くに気づき、SRTは遅れて介入する始末。

 連邦生徒会長が指示を出す前に事は終わっていた。

 

 それから少しした後。

 シュメール学園の生徒達、グリーンズ事件。整理された当時の事件内容がテレビで放送された。

 SRTの機密任務やシュメール学園の調査の為に、ユキノはその惨劇が録画されていた物を見たことがある。

 

 そこに━━━━英雄が立っていた。

 

「今の私達の正義は、貴方と共に戦うことです」

 

「……へぇ」

 

 一本の赤い刀身を片手に、まるで物語の英雄のように怪物と戦う背中。

 

 逃げ惑うシュメール生徒達を背に、たった一人で怪物と戦う姿は英雄そのもの。孤立無援、他自治区の生徒の為に命を燃やすその姿を見てユキノは身が震え、身体の内に熱い物を感じたのを憶えている。

 

 決して折れず、曲げず、逃げなかった少女は生徒の半数を命懸けで助けた、最期まで。

 

 誰の命令も受けず、自らの意思一つで戦う者の姿に感銘を受けた。

 

「FOX1はCEOのファンなんですよ、あとでサインを書いてあげてくれませんか?」

 

「違う、そんなんじゃない」

 

 言う必要のない事を突然言ったニコに反論する。

 

 自分はただ英雄に尊敬の念を持ち、場合によっては偶々懐に入れていた紙に、本人が良ければ名前を書いてもらい永久に保管しておきたいとは思うが、いやそうじゃない。

 

「今更取り繕う必要ないでしょ、もう皆にバレてるし」

 

「え」

 

「それにCEOの事が好きなのは私達も同じだし……っていうか皆かな〜?」

 

 窓から外を見るオトギは、同じくSRTの生徒だった者達へと顔を向ける。

 SRT特殊学園が閉鎖され、ヴァルキューレ公安局へと吸収される事になったが、一部の生徒達は納得しなかった。

 

「いつ公表するの? 連邦生徒会からはもう許可は貰っているんでしょう? 企業と学園を融合した新しい学園。ここの社員、生き残ったシュメールの生徒達の為に用意したんじゃないですか」

 

 ロドスの社員達の殆どはごく一部を除き、生き残ったシュメール学園の生徒で構成されている。居場所を失った生徒達に仕事と家を与え、長い時間を掛けて新しい学園を再建する手伝いをしていた。

 

 それにFOX小隊、それ以外の元SRT生徒達も協力した。

 

 マヨイは最初から最後まで、ずっと生徒達の為にしか動いていない。

 

「もう少し勢力を大きくしてから学園設立を宣言するつもりだが……本当に良いのか? 此処が一つの学園として認められ、シュメールの生徒という事になればもうSRTに戻れないぞ」

 

「我々の正義は決して揺らぎません、例え学園を変えようと。私達の正義は変わりません」

 

 SRTの復活自体に未練はある。

 だが真に正しき行いをするのに、学園や所属は関係ない。

 

 今でもその正義が揺らいではいない。

 

 しかしマヨイは肩をすくめて困った様に笑う。

 

「私はお前達のような高潔な人間じゃないよ」

 

「高潔に生き、それを実現した者は高潔な人間ではありませんか?」

 

「……お前意外と口が上手いんだな、驚いたよ。狐みたいな性格になるのも時間の問題だな」

 

「ありがとうございます!」

 

「褒めてないよ?」




FOX小隊は主人公が大好きです。

エデン条約編終了しました。
カルバノグの兎編はプロットから消滅しました。
カヤは防衛室で泣いています。
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