アーカイブには映らない   作:ミステイク

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あまねく奇跡の始発点編
第十三話・捨てた青春


 目を開けた時、暗闇がそこにあった。

 息苦しさと窮屈さ、妙な何かが自分の上に乗っかっているそういう感覚。

 

 いや実際に自分の身体の上に何かが乗っかっていた。

 自分は力いっぱいにそれを退けようとして、無理矢理上半身を起こした。

 

「はぁ! はぁ! はぁ!」

 

 バカでかい石を退かすと、自分は地面の下にいたのだと身体の泥のおかげで気付く。おまけに土砂降りの雨、空を見上げても月明かりさえ見えない。

 

 加えてこの世界に現れた時と同じく。

 

「私の服はどこだ?」

 

 泥だらけでクリーニング代は必要ないのは良いが、一体誰の仕業だこんな悪趣味なことをしたのは。

 ヒマリの悪戯でもここまで酷い事はしないぞ。

 

 それに酷く頭も痛い、確か自分はシュメール学園の祭りを見に来て━━━━それから無名の司祭らしき人影を見て。

 

 植物の化物と戦った。

 

「そこから……どうなった? 此処はどこだ……なぜ私は……?」

 

 何も憶えていない、そこから先の記憶だけが不自然に欠落している。

 

 妙な不安感に苛まれ、立ちあがろうとして自分が退かした石へと目を向ける。

 

 そこに書かれている人物の名前。

 それは間違いなく、自分で名付けた、自分の名前。

 

「なんで……」

 

 ━━━━夜空ナガレの墓石。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空崎ヒナは知っている。

 夜空ナガレという少女の優しさを、泣いている迷子がいれば手を差し伸べ親を探し、困っている老人が腰を壊していれば背負って病院まで連れて行き、怒っている生徒がいれば話し合って鎮めようとする。

 

 そう、ナガレという少女は徹底的に他者の不幸を許容できないのである。特に子供、生徒に対してその傾向は病的でもあった。

 口では自分は異物、これは最善ではない、後々になって後悔する。そう何度も言っては、止まらず進み続け、人を助けようとする。

 

 彼女はキヴォトス一番の嘘吐きだ、自分は自分が一番大切と言っておきながら、誰よりも自分を消費することを躊躇しない。

 精神を病んでいるのかと思えば、こちらの質疑にはちゃんと応答する。

 

 どこまでも矛盾している、一貫して滅私奉公を続ける様にヒナは尊敬の念を持ったことがある。それは今でもそうだが、あれの様になってはいけないとも反面教師にもした。

 

「あの子は……誰かが止めないと死んじゃう子だった。なまじ一人で何でも出来る才能があったから、余計にブレーキが利かなかった。怖かった……いつか私の知らない間に、人を助けたままどこかで死んでるんじゃないかって……結果は、私が予想した通りだった」

 

「”ヒナ……”」

 

 昔の事を語るヒナを、先生は心配そうな顔をして見つめる。

 思えば先生とナガレは似通ったところがあるなと思い、ヒナは苦く笑った。

 

「常識外の身体能力、他者を洗脳しているかのように都合よく動かせる話術、資金の工面や、敵対勢力を味方に付ける根回し……大人と生徒の良いとこ取りみたいな、まさに能力だけなら怪物だった」

 

 ドローンの射撃を搔い潜りながら短刀一本で解体し、周囲からの同時射撃攻撃を一つ残らず剣で切り落とし、弾き落とし。言葉を発するだけで誰もが言う事を聞き、連邦生徒会長でさえ意のままに操る。

 商売、特にリオが開発した機械を高値で売り付け、数十年分の作戦資金を苦も無く入手し、大人が支配していたキヴォトス外の生徒を全員丸ごと懐柔した。

 

 もしもナガレが悪意を持って生まれてきたなら、きっとキヴォトス史上最悪の邪悪が生まれていたことだろう。

 

「”仲が良かったんだよね?”」

 

「……忙しいっていうのに突然電話してきてデートに行こうとか、ショッピングに付き合ってとか……うん、やっぱり先生みたいだった」

 

 リオやウリアだけではなく、他の学園の生徒も連れてくることもあった。

 自治区も勢力の壁も無視して、学園間の禍根などないかのように振舞い、生徒達の毒気を抜くのも得意だった。

 

「セナ、ハナコ、ヒマリ、キサキ、チセ……多くは学園で大きな影響力を持つ人物を引き連れていた」

 

「彼女、変人に好かれやすいんですかね?」

 

「それ、自分も変人って自称してるようなものよ」

 

 話を聴いていたウリアとリオが言う。

 

「まあこんな風に、変人達に好かれていたわ。先生も出会えば気に入るかもね、貴方も変な人だもの」

 

「”そっか……ヒナも、その子が生きてると思うんだね?”」

 

 先生に問われて一瞬ヒナは黙り込むが、すぐに首を縦に揺らして肯定した。

 

「僅かな可能性でも、この目で見るまでは信じるつもりよ」

 

「それは悪魔の証明よヒナ、存在しないものを存在がないと分かるまで探し続けるつもり?」

 

「もちろん、ナガレならそうした……それに、悪魔ならここにいる」

 

 ヒナは自分を指差して二人に言うと、ウリアは鼻で笑い、リオは呆れたように溜息を吐いた。

 

「貴方がその手の冗談を言うと、彼女の影響を感じますね」

 

「……怖い事言わないでくれない?」

 

「ええ、私も付き合いますよ。彼女を見つけに行きましょうか……この()()()を、すんだ青に戻してから」

 

 空を見上げたウリアの言葉にヒナは頷く。

 

『緊急速報です!!現在D.U.で怪奇現象が━━━━突如として出現した巨大な塔が落下━━━』

 

 ━━━━サンクトゥムタワーに激突しました!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パヴァーヌ、カルバノグをカットした影響なのか、それとも色彩の動きが思った以上に速いのか、最終編が始まってしまった。

 

【申し訳ありません、ゲマトリアは解散しました】

 

 長ったらしく電子メールに書かれていた内容を簡潔にまとめるとこうなる。

 どうやら黒服はベアトリーチェの働きに関係なくシロコの襲撃を受ける運命にあるのか、こちらからの連絡にも出ない。

 

 既に空が赤く染まり、サンクトゥムタワーは崩壊している。

 カイザーが事実上消滅した以上、先生を邪魔する者はいないので行動は本編よりも早いはずだ。

 

『こちらFOX1、FOX小隊並びにRABBITじょっ! ……その他到着!』

 

『省略された!? ちょっとFOX1!? 噛んだからって酷くない!?』

 

「作戦通り先生の指示を仰げ、場合によっては増援を送る」

 

『了解』

 

 とりあえずやれることはした。

 この件で黒服達ゲマトリアは倒れ、しばらく動けない。先生にウトナピシュティムの存在を教えてくれるだろう、それが無理なら自分で行くまでだが。

 

 FOX小隊からなるロドスのSRT達は全員、ミレニアムを通してシャーレの先生へと協力してもらう。

 こんな形で先生と彼女達が初対面になるとは思わなかった、ユキノとミヤコがあの大人嫌いの台詞を言わないか心配である。

 

 まあ二人もプロなので作戦行動中にそんなことはしないだろう。

 本編とはかけ離れ、精神に余裕もある。

 

 自分がこれ以上、先生の行動を助けることは難しい。

 ここからは先生の行動に掛かっている、ウトナピシュティムを動かすのも、プレナパテスを倒せるのも、砂狼シロコを助けられるのも先生だけ。

 

「……大人のカードを使わせないようにしなければな」

 

 アビドスからエデン条約、そして最終編を通して先生が大人のカードを使って大きな力を使用した事は確認されていない。

 これはまだ始発点、まだまだ先がある。

 

 だが自分は最終編以降の、カルバノグの兎以外クリアしていない。

 

 せめて先生の余裕を此処で稼いで置かないと━━━━。

 

「見つけた……マヨイ」

 

「なに?」

 

 声が聴こえると突如として目の前に真っ黒な空間の穴が発生し、視界を闇が覆った。

 

 そこからシロコ*テラー、色彩の嚮導者の二名が現れた。

 

「……シロコと、先生。どうして、いま━━━━」

 

「……ん、貴方を連れて行く、マヨイいや━━━━━━━━ナガレ」

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