アーカイブには映らない   作:ミステイク

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第十四話・捨てられた青春

 この最終編、あまねく奇跡の始発点で自分がやれる事は殆ど何もない。

 この物語は生徒と先生の腕に懸かっていると言っても過言ではない、一企業のCEOがこれ以上何か口出しする事はない。

 表向き死人の自分は何も出来ない、派手にやると知人に正体が割れる。

 

 事前準備を整えて、先生には限りなく余裕を持ってもらった。

 先生の余力という名の貯金をどれだけ稼げるか、迎撃に向かうはずのイベントもSRT部隊に代用してもらった。

 

 だから後は全てを任せるつもりだった、なのに。

 

 視界に映るのは謎の機械仕掛けの施設の何処か。恐らくアトラハシースの箱舟、シロコとプレナパテス、それからプラナ。いやまだこの世界ではA.R.O.N.Aと呼ばれているか。

 

 彼女達も船の何処かに居るだろう、そして自分の世界の砂狼シロコも。

 だが生憎私が閉じ込められている場所にシロコはいない、運が良いのか悪いのか、本編の影響を避けられたのは良い事だが。

 

 ブルアカのメインキャラ、で良いのだろうか。

 アプリのアイコンやOPで出てくるがストーリーそのものだと一章と最終編以外あまり出番はない。まあ一人のキャラクターとしてと考えると出番は多めだろう。

 

 そのシロコと同じ状況となったのは何故なのか、アトラハシースの中に連れて来られても意味などない。

 しかも先生、プレナパテスとシロコの両名が大人のカードをフル活用し、全力で連れ去ってきた。

 こんな事をして何の意味がある、自分の存在が彼等の計画になにを必要とさせる。

 

 シロコ、黒いシロコがシロコを誘拐した理由は同一人物が同じ世界に居る影響、パラドクスを回避する為であったはず。

 ならば自分を連れて来たのも同じ理由なのか、まさかこの箱舟の内部に色彩化した自分が居るのか。

 

 ……ちょっと気になるので見てみたい。

 グラマラスになるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静かになった校舎、自分以外誰もいない学園の隅で膝を抱えて蠢く。

 ただ時々もぞもぞと動く、意思のない肉の塊、それが私。

 

 広くなった対策委員会の部室で、死にながら、辛いだけの息をする。

 

『酷い顔だ、怪我も碌な治療をしてないな』

 

『…………誰?』

 

『私か、ナガレと呼べ』

 

 それが、私とナガレとの出会いだった。

 

 校舎の掃除、仕事の手伝い、借金の返済、お墓の用意。

 全部ナガレは手伝ってくれた。

 

『お前ツバキ派? ヴダルサスーン派? あ、ディモテ?』

『銃で撃つより締め技の方が痕が残り難いぞ、ムカつく奴を見た時はそうしろ』

『連邦生徒会の金庫を? 面白そうだな、アリス? ケイ? ちょっと外遊びに行こうぜ』

 

 久しぶりにゆっくりとお風呂に浸かった。

 

 誰かと一緒に戦ったのも、金庫強盗をしたのも。

 ナガレのご飯は美味しかった、ナガレと遊ぶと楽しかった、ナガレの笑顔を見ると、私も笑えた。

 

 誰かと時間を過ごすのが心地良かった。

 

 なのに、捨てられなかった、記憶に残った思い出が忘れられなかった。

 

 昼間の大通りを歩くのをやめた。

 仲の良い生徒達が談笑していたから、私はそれを見るのが嫌で路地の裏を通って帰った。

 

 ツーリングをやらなくなった。

 バイトや仕事、借金の返済で忙しいから。

 

 柴関のラーメンを食べなくなった。

 お店が潰れたから。

 

 食事の量が減った。

 喉を通らなかったから。

 

 脳裏に焼き付いた、青い春の記憶。

 大丈夫、私は一人じゃない、ナガレが居る、アリスが居る、ケイが居る。

 みんなが居る、だから私は辛くない、大丈夫、生きていける。

 

 ホシノ先輩、ノノミ、セリカ、アヤネ。みんなが居なくても……。

 

 平気、平気、平気へいき……へいきだから、辛くないから。

 

 痛みと苦痛から目を背けて、みんなの前で無理矢理笑って、私は平気。

 そう言い続けるの、もう悲しく無い様に大丈夫って言い続ける。

 

 でも、結局……私は失敗して、最後にこうなった。

 

 結局、私は最後まで間違い続けて、なにも捨てられなくて、弱くて、バカで、わからないから。

 

 みんなこぼした、とりこぼして、じぶんですてて。

 

 なのに、なくの、がまんできなくて。

 

 ぜんぶ、ひとりでがんばらないとって、おもってたのに。

 

『なあ、別に……お前が何者になろうとお前の自由だよ、シロコ……だけど、このマフラーだけは失くすなよ』

 

 もう、何もかも、いらないと思っていたのに。

 

「”シロコは……ずっと、苦しんでいたんだね”」

 

 先生の声が聴こえる。

 

 みんなの声が……。

 

「マフラー……ボロボロにして、ごめんなさい……せっかく貰ったのに。せっかく、直してくれたのに……せっかく、見つけてくれたのに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プレナパテスと黒いシロコを、先生とシロコは撃破し彼女の慟哭するシーンにまで進んだ。

 

 自分は今そんな彼女達を物陰に隠れながら様子見している。

 ウトナピシュティムのリンちゃん達から確認されないか心配だが大丈夫なようで誰にもバレていない。

 いやそんなことはどうでもいい、それよりも。

 

 お前はなにとんでもないタイミングで名前暴露してくれてんの?

 

 立体映像越しのヒマリとリオとハナコが、え? ナガレ? なんで? みたいな顔してるぞ。

 しかもご丁寧にアリスとケイの存在まで先生に言いやがった、預かってる自分に思い切り追及が来る。

 

 セリカとかずっと誰? って顔してるし、アビドス組も困惑しっぱなしだ、ゲーム本編なら出ちゃいけないタイミングだよ。

 

 ……まあ、やってしまったことを気にしても仕方がない。

 

 それよりも、あの様子では黒いシロコの居た世界の自分は失敗したらしい。本編開始前から間違えたのか本編が始まってから間違えたのか、シロコのテラー化を避けられず、先生の色彩化も止められなかった。

 

 出来る限りシロコを甘やかし、対策委員会の代わりを努めようとしたみたいだが結局彼女の心を溶かすには至らず死の神アヌビスの覚醒を招いてしまった。

 

 黒いシロコのその後を知らないので自分ではどうしようもない、先生がなんとかしてくれることを願おう。

 

 そうしていると箱舟全体のエネルギーがプレナパテスへと集まり出している。

 もう決戦が始まろうとしているようだ。

 

 ウトナピシュティムの砲撃が発射されると、一人、また一人と先生の手によって生徒達が転送されていく。

 

 ……待てよ? 自分はどうやって脱出すればいいんだろうか。

 

 このままだと自分、また死ぬんじゃない? 流石に三度も死ぬのは勘弁したい。

 

 と思っていたら足元の地面が崩れて空へと放り出される。

 

 前に、何者かに手を掴まれる。

 ボロボロの手、包帯で覆った大人の手。

 

「先生?」

 

「”初めまして、えっと……ナガレちゃんって呼んだ方が良いかい?”」

 

「……マヨイと呼べ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プレナパテスはボロボロの身体で何処にそんな力があるのか、落ちようとしていた自分を引っ張り上げてくれた。

 

 光の消えたタブレット、シッテムの箱を片手に瓦礫に座るプレナパテス、いや先生と呼ぶべきだろう。

 

 色彩の影響がまだあるはずだが普通に話せている、代弁者としての機能を失い自分を取り戻したのか、そう予想しながら先生の前に自分も腰を下ろした。

 

 既に自分の知る先生は落ちて消えた、まあアロナとプラナが何とかするだろう。

 穴の開いたシッテムの箱が反応しない辺り、プラナが移動しているのだと推測できる。

 

「居たの、気付いてたのか?」

 

「”偶然見えてね”」

 

 爆発し、崩れていくアトラ・ハシースの内部。

 振動音から恐らく此処も長くは保たないだろう。

 

 ボロボロの身体で良く動く、どうして自分を掴めたのか分からない。

 

「”ごめんね、此処に連れてきちゃって……君が居ると勝てないってシロコが言うから”」

 

「それだけの理由? もう一人の私が居るかと思ってたよ……ほら、スタイルの良い私が出て来てくれないかなってちょっと期待してたのに」

 

「”確かに気になる、でも色彩になんてならなくてもマヨイはちゃんと可愛いよ”」

 

「……」

 

 なるほど、流石は生徒特攻持ち。

 先生という概念故か、ちょっと嬉しいと思ってしまった。

 

 女も青春も捨てた身で何を感じているのか。

 

「”でも、どうやって君を地上に送ろうかな……”」

 

「ああ心配するな、私は死んでも蘇る」

 

「”そうなの? 凄いね。痛くない?”」

 

「疑問とか湧かないのか……って先生はそういう人だったな」

 

 生徒のことなら無条件で信じようとする。

 なんでとか、理由を聞かない辺り本当に助かると信じてくれているのだ。

 それと自分自身の落ち着きようを見て思ったのかもしれない。

 

「黒いシロ……シロコの事は気にするな、こっちのあなたが何とかする」

 

「”うん、もう頼んだ。マヨイは、戻らなくていいの?”」

 

「なにが?」

 

「”元先生として、生徒の不登校は見過ごせないっていうか……”」

 

「……」

 

 死んでいるので不登校というレベルの話ではないのだが、先生からすれば自分はまだ子供だということか。

 

「これから死ぬって言うのに他人の心配か、先生は相変わらずだな」

 

「”あれ? もしかして私の事、結構知ってる? そっちだとちゃんと学校行ってるの?”」

 

「いや? ただ一方的に知ってるだけ」

 

 元先生という意味でなら自分もそう、飽くまでプレイヤーとしてなのだが。

 ストーリーの中で何度も見てきた、この人の凄さ、強さ、勇敢さを、プレイヤーとしてこの世界の誰よりも知っている。

 

「”君も、自分の友達のところに帰ってあげたら? みんな心配してるよ”」

 

「……私は貴方に嫉妬している、そして同時に尊敬もしている。貴方のように生徒達を助ける方法を考えて、死んだふりをした……私が居るとこの世の何かがねじれてしまう、私は異物なのだ」

 

 心配を掛けているのは誰よりも知っている。

 先生にも、リオもヒナもウリアも、大勢の人を悲しませている事は知っている。

 

 でも、私無しでも笑えていた彼女達を、これ以上悲しませたくない。

 

 もうストーリーが破綻している事は分かっている、だからせめてこれ以上、彼女達の青春の物語を邪魔したくない。

 いずれはアリス、ケイ、FOX小隊やRABBIT小隊の面々とも関係を断つ。

 その準備はもうすぐ出来る。

 

「私が居るから、シュメールの生徒達は半数も死んだ。私が居なければあんな事にはならなかった、私と居ればみんな死ぬ」

 

 自分が不幸の種だなんて悲劇のヒロインぶるつもりはないが、少なからず私と言う存在が何かを歪めているのは確かだ。

 自分は死にたくない、でも誰かが死ぬのも嫌だ。

 

 そんな我儘を通すには、自分は彼女達と居てはいけない。

 

「先生を助ければ、みんなも自分も助けられる。それは良い事だろ?」

 

「”うん、でもマヨイはそれで楽しいの?”」

 

「……楽しくはないな」

 

 寂しさを感じないと言えば嘘になるが。

 

「”だったら、みんなも同じ気持ちだよ。マヨイが悲しいと、きっとみんなも悲しんでる”」

 

「……」

 

「”こっちの私も、マヨイと話したいと思ってるよ”」

 

「それは……!」

 

 アトラ・ハシースの箱舟の姿勢制御装置が破壊されたのか、自分の居る場所が傾いていく。

 

「”あんまり長く話せなかったね”」

 

「先生!」

 

 咄嗟に先生へと手を伸ばそうとするが、箱舟の一部が落下して阻まれる。

 落ちて来る瓦礫は段々と多くなり、先生の姿が見えなくなった。

 

 先生は此処で死ぬ、生き残ったとしてもあの身体では長生きできない。

 

 助けに行ったところで、高所からの落下に耐えられはしない。

 その前に瓦礫に押し潰される方が早いかもしれない。

 

 だからと言って、助けに行かない理由にはならないのだが。

 

「先生!」

 

 壁を蹴り破り、無理矢理先生の所まで進む。

 

 途中落ちてきた鉄骨や破片に身体がぶつかるが、慣れた痛みだ無視出来る。

 

 そうして先生の真上に落ちてきた瓦礫を蹴り飛ばし、ボロボロの身体を抱えてその場を移動する。

 

「”ちゃんと仲直りしてね、みんな許してくれるから。あと学校にも行って、きっと楽しいから”」

 

 知っている、そんな事は知っている。

 みんなが優しい事も、みんなと居れば楽しいことも全部知っている。

 

 でもそこは貴方が居るべき場所なんだ。

 

「…………わかったよ、ちゃんと仲直りはする……でも一人じゃ怖いからさ、一緒に謝ってくれ。今更生きてましたなんて言えないから、ずっと隠れてたなんて、恥ずかしくて言えない。言い訳一緒に考えてくれよ」

 

「”……”」

 

「なあ? 先生……?」

 

 返事をしない先生。

 

 自分はそっと地面に先生を寝かせた。

 

「…………………………お疲れ様です、先生。おやすみなさい」




主人公は何もすることがないのでシーン大幅カット。
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