アーカイブには映らない   作:ミステイク

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短編です。
その後のちょっとした話。


幕間
アリウス分派の長と、便利屋68の社長の後日談


 一切の光が消えた、暗闇の夜。

 行く道も分からない先を、月明かりだけが照らしてくれた。

 

 光のない世界で、私達を照らしてくれた。

 

「サっちゃん、眠れないの?」

 

「ああ……少し、昔を思い出していた」

 

 マダム、いやベアトリーチェの片腕と足が空中を舞ったのを今でも憶えている。

 銃弾を剣で弾き飛ばし、目にも止まらぬ速度で動いていた。ヒヨリの読む雑誌に、似たような場面があったが同じことが彼女にも出来るのだろうか。

 

「良く、してもらった」

 

 例えを上げればキリがない。

 何から何まで助けてもらったという事しか私は語れない。

 

 衣食住、仕事、勉強も。

 彼女はその中で、アリウスの憎悪を限りなく削ぎ落とした。

 

 だが、トリニティやゲヘナへの憎悪を語る気は失せたが、長年抱き続けてきた虚しさは今も残っている。

 全てが無駄ではないのか、意味などないのではないのか。

 

 アズサが聞けば、それは今日を生きない理由にはならないと言うのだろう。

 彼女が亡くなったと聞いた時は一番に泣いていたというのに。

 

「サっちゃん、あの人のこと好きだったもんね」

 

「?」

 

「違うの?」

 

「……」

 

 初対面の時は、怪しい人物と強く警戒した。

 黒髪に真っ白な肌、光り輝く金色の瞳は全てを見透かされているかのような気分になる。

 気配も全くない彼女を見て、背筋が凍る気分だった。

 

 そんな、良い第一印象とは言えない初対面から考えるなら、マシにはなったのだろうが、好意的な感情を向けていたかは……。

 

「……今となってはもう分からない。私は最後まで彼女を理解できなかった」

 

 ベアトリーチェが消えてから、流されながら生きてきたような気がする。

 アリウスがトリニティと統合されてから、迷い続けてきた。

 

 自分が此処に居て良いのかを。

 

「みんな、良く笑うようになった」

 

「サっちゃんもだよ」

 

「ああ、先生とウリアのお陰だ」

 

 自分の意思が持てるような場所を提供され、ここ数ヵ月で楽しさや欲望と言ったものがアリウス内でもはっきりとではないが、少しずつ現れてきた。

 それらが強く出るようになったのは先生が来てからだ。

 

「姫は分かるか? なぜナガレが、ああまでして私達を救おうとしたのか」

 

「……慈悲や同情じゃないと思う、多分」

 

「多分?」

 

「本人に聞きたかったけど、もういないから。お墓に話しかけても返事はしないし」

 

「ふ、そうだな」

 

 慈悲や同情ではない感情。

 その感情の理由は、いずれ分かる日が来るのか、永遠に分からないのか。

 

 何も分からずとも、月は輝いている。

 

「綺麗な月だ、もっと早くにそう思えていたら……」

 

 本当に美しく輝いていた、そう伝えられたら良かったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 便利屋68の社長、陸八魔アルは白目を剥いて戸惑っていた。

 

「ひひひひ! ヒーロー!?」

 

「あははははは!」

 

「あーあ……」

 

「すすす素晴らしいですアル様! 美しく写っていて!」

 

 連日テレビのニュースや新聞、SNSで大騒ぎ。

 便利屋68がカイザーの汚職を暴いた英雄としてキヴォトスで語られている。

 

 その場面の写真や映像まで録画されており、アルは頭を抱えた。

 

「ヴァルキューレから感謝状貰ったのなんて初めてだよね、こういうのも偶には良いかも!」

 

「この感謝状、どこに飾りましょうか……」

 

「入口で良いんじゃない? 人目に映りやすい場所に置いておこうよ」

 

 アウトローを目指して邁進していたアルにとって、かつてのキヴォトスの英雄のように報道されるのは衝撃的だった。

 テレビに報道されるということはアウトローとして名を上げた時と決めていた、その時はその時で日和るかもしれないが、兎に角内心では思っていた。

 

「こ、こんなの聞いてないわよ! ていうかいつの間に感謝状なんてもらったわけ!?」

 

「アルちゃんが気を失ってる間、ハルカと先生が代理で受け取りに」

 

「ハルカ!?」

 

「はい! 先生と一緒にアル様の素晴らしさをクロノスやヴァルキューレの人達に知らしめてあげました!」

 

「ああそう……道理で視線を感じるわけだ」

 

 普段は恐れられやすいと自他共に思っているカヨコだが、ここ最近好意的な視線を感じ困惑していたが、その理由を把握する。

 つまりハルカは先生とクロノスやヴァルキューレでアルについてあれこれ言い触らしたのだろう。

 

 英雄的な方面で。

 

「ろ、ロドスは!? あの子達がやったでしょ!」

 

「今回の件でロドスは表向き動いてないって事になってる。現場に来てたSRTもいつの間にか消えてたし、居たって証拠も残さなかった。ロドスに自分達がやったって訂正させようにももう手遅れだと思うよ社長」

 

「な、なんですってーーー!? がくッ……」

 

「アル様ー!?」

 

 カヨコの言葉に英雄化を止める術がないと理解したアルはショックで気を失った。

 今後はアウトローではなく、正義の便利屋68としてやっていく事になる未来を想起して。

 

 ちなみに数日後、色彩が訪れアルの英雄化の話題はかっさらわれることになったという。




サっちゃんの最後の台詞、本人に深い意図はありません。
隣で聴いてたアツコは(え、そういう好きだったの?)って驚きましたけど。



便利屋68は風紀委員に見つかっても派手に動かないなら見逃されるようになりました。
でもまた騒ぎを起こすので元通りになると思います。
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