アーカイブには映らない   作:ミステイク

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第二話・顔無しの味方

「ま、不味い……絶対叱られる!」

 

「あれ~? なんだか悪い事しちゃったかな?」

 

「いや、もとはと言えば社長が油断した所為だから気にしないで」

 

 依頼の最後の最後に失態を犯したアルの青褪めた様子を見てホシノは頬を掻いた。

 が、カヨコの言う通り元をたどればアルの勝手な自爆である。雇い主から違約金を請求されるだろうなとカヨコは何度目かの溜息を吐いた。

 

「ねえ! 返事しなさいよー!」

 

「多分こっちの音声を拾うだけだから無理だと思う」

 

「どんな方なんですか?」

 

「えー? どうしようかなー? アヤネちゃんに教えてニャン♪ って感じに可愛くお願いされたら私も喋っちゃうかもー?」

 

「言いませんよ!?」

 

「ほらほら~、その辺にしておきなよ~」

 

 部室でわちゃわちゃとする賑やかな生徒達。

 

「それじゃあ、何かあれば私達に依頼して来なさい。これ電話番号と住所」

 

「また変わるかもだけどね~」

 

「黙ってなさい!」

 

 アビドスの危機を救った便利屋68に別れの挨拶をして、ホシノ達対策委員会は部室の椅子に腰を下ろす。

 なんだか長かったような、あっという間だったようなそんな時間を便利屋、そして先生と過ごした。

 

 セリカの誘拐から突如現れた便利屋68という人物達に最初こそ警戒したものの、結局最後までアビドス存続の危機を助けてくれた味方だった。

 しかしホシノが一番気になるのは、その雇い主なる人物。

 

「雇い主さんも生徒なのかな?」

 

”どうだろうね、もし会えたらお礼を言っておくよ”

 

「ん、そう。アル達が居なかったら先生危うく死に掛けた」

 

 銀行強盗でセリカ誘拐の原因について調べている時も、ホシノを助けに行く際も、隠れていた伏兵に先生が攻撃される事が幾らかあった。

 

”今度は気を付けるよ”

 

 例え攻撃されたとしても、先生にはシッテムの箱に居る相棒が防いでくれただろう。

 それでも盾が無敵であるという確証はなく、万が一という事もある。そういう意味で言えば、確かに助けてくれた人物だ。

 

「でも、どうして便利屋の雇い主さんは私達を助けてくれたんでしょーか?」

 

「案外助けたのは私達じゃなくて先生だったのかもよぉ~? モテモテだねぇ先生?」

 

「ん……」

 

「「「……」」」

 

 ホシノの言葉に何人かの声が止まり、部室内に妙な空気が流れる。

 

”ど、どうしたの?”

 

 突然の沈黙に戸惑う先生にホシノは苦笑いしつつ流し、雇い主について思う。

 

(でも実際どんな人なのかな? 黒服やカイザーみたいな悪い大人? 私達(アビドス)を助けて得られる利益なんかない……なら本当に先生が目的? でも先生はアビドスどころかキヴォトスにきて日が浅いのに……)

 

 便利屋68は、自分達はアビドスと先生の行動に数日間だけ手を貸せと言われただけ、と言っていた。

 予定の日数が過ぎたので彼女達は帰還した、その間に彼女達に何を聞いても答えてはくれなかった。

 

 最後に自分達の行動を音声を通して聴いていたという事以外。

 

 そのことにホシノは警戒を強めた。

 人一倍警戒心が強いと自覚のあるホシノだが、こと雇い主という謎の人物については黒服の次くらいに注意しておいた方が良いだろうと考えた。

 目的も不明な者の援助ほど怪しい物はない。

 

「ホシノ先輩? どうかした?」

 

「ううん~、なんでもないよ~。何か話してた~?」

 

「あ、はい。カイザーが私有地としていた施設なのですが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手持ち無沙汰になりヒナはペン回しの様に動かしていた短刀を指で止める。

 

「カイザーがアビドスから撤退した?」

 

 アビドスで問題行動を起こし始末書を書き終えたアコからの報告を受けヒナは困惑した。

 理由は不明だがアビドスの自治区に異様な執着を見せていた彼らがなぜ、と。

 

「なぜ?」

 

「カイザーPMC元代表取締役が事が終わる前に違う企業のCEOへと売却したそうです、砂漠上に設置された施設を丸ごと買い取ったとか。失脚するのが分かって行動していたのでしょうか、腐っても大人ですね」

 

「買い取ったのはどこの企業?」

 

「ロドス・アイランド製薬会社です」

 

「!」

 

 知っている、現代のキヴォトス最大の製薬会社。

 製薬会社の名を冠しているが、その分野は内科外科を問わず医療に関連している事情には全て関わっている企業。

 

 その効果たるや守銭奴のカイザーが医療経営から手を引いた程だと噂されている。

 

「製薬会社のCEO……どうしてこう二つの大企業がアビドスの土地に強く意識を向けるの?」

 

「アビドスの地下に宝物が眠っているという情報ならばありますが、眉唾物です」

 

「そのCEOの名前は?」

 

「大子マヨイ」

 

 その名前を聞いて、ヒナは鞘に仕舞った短刀へと目を落とす。

 何の関連性も見いだせないのに、その名前を聞いた途端そうしたくなったのだ。

 

 本来、生徒からすればナイフや短刀などの刃物の類は爪楊枝程度の殺傷力しかない、それでも刺さるときはあるが、より高位の次元に立つヒナにとっては玩具同然だ。

 

「ヒナ委員長、偶にあの短刀で遊んでるけどなんでかな?」

 

「さあ? 本人の趣味じゃない?」

 

「私が好きな訳じゃないわ、貰ったのよ友達から」

 

「ヒナ委員長に友達!?」

 

 部室内の風紀委員達がざわめく。

 

「なに? 私に友達が居ないとでも思ったの? その首を切り落として漬物石にするわよ」

 

「いえ!? 滅相もありません!」

 

 友達が居るだけでそれほど驚かれるとは心外だとヒナは抗議を込めて友達の口調を真似たが、思った以上に怖がられた。

 やはり自分は彼女の様にユーモアのセンスはないらしい。わかっていたことだが。

 

「委員長と友達……!? なんて羨ま! じゃなくッ!」

 

「アコ?」

 

「んん! コホン!」

 

 ボソボソと喋るアコは、わざとらしく咳を一つして空気を切り替えようと。

 

「それでその友達の方はどのような人なのでしょう?」

 

「続けるのね……」

 

 話を変えるのかと思ったらアコまで乗ってきた。

 そんなにも自分の友達が気になるかと、ヒナは話題の中心になっている友人に少し嫉妬の念を覚える。

 

 まあ自分のような愛嬌もない者に友達が居ればその反応も当然か。

 

「変な子……だったわ」

 

「だった?」

 

「一年前、私が風紀委員長になって直ぐ……亡くなったの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、はい……あそこは施設共々私が買い取りました。返せ? 不法な取引? そんな事はありませんよ、きちんと書面を通して売ってもらいました。カイザーPMCの代表に、まあ貴方方が彼を解雇する数時間前の時点ですが。売って欲しいですか? 御社の有する株式や土地やそれらに関する権利一切合切全て用意してくれるなら考えましょう。お話は以上で終わりですか?……では」

 

 怒鳴り立てる相手を無視して受話器を置く。

 

 アビドス砂漠の地下、カイザーがアビドスから買い取った土地を丸ごとマヨイは買い取った。

 名もなき神と敵対する者達が造り出したという宇宙戦艦、名称をウトナピシュティムの本船と作中では呼ばれていた。

 

 黒服がカイザーにそのことを話し、興味を持っていたという話が印象的だったので憶えている。

 最終編はこの宇宙戦艦が鍵になるが、自分にこの船を動かす方法はない。

 

 そも一人で動かせる物でもない、車の運転が精々の自分では。

 恐らくだが電源のスイッチを入れる事もかなわないだろう、この船の起動にはシッテムの箱かサンクトゥムタワーの力が必要だ。現代のミレニアムの科学でも、無名の司祭とも違う技術である為再現して同性能の船を作るのも難しい。

 

 カイザーグループはこれの使用に連邦生徒会を制圧することになるが、これでその出来事は防ぐ事が出来る。

 

 恨みを買ってしまいはしたが、これで少しは先生も事態の終結に動きやすくなる。

 

 まだまだ安心できない事は多いが、先生が必要になったときの為にアビドスへと売り渡す準備だけはしておく。

 

「凄い……大人とあんな風に……カッコいい……私もあんな風に」

 

「いやぁあのレベルはちょっと難しいと思うよぉ?」

 

 自分は正座させられる四人に目を向ける。

 その時びくりと四人の肩が自分の顔を見た瞬間に震えるが、それほど恐ろしい形相を今の自分はしているのだろう。

 

(む、無表情なのに凄まじく冷たい目ー! 今から殺す家畜を見る様な目をしてる!)

 

「さて次はお前達だ、間抜け屋ダブルオーセブン」

 

「敬語消えちゃった! しかも、社名の原型留めてない!?」

 

「契約違反として報酬どころか違約金を請求する、ない場合お前らの頭蓋を切り取ってティーカップにする」

 

「ひぇ……」

 

「わ、私の所為です! アル様を止められなかったから死んじゃいましょうか死んだ方がいいですよね?」

 

 ガタガタと震えながら銃口を自身に押し当てるハルカを止めるアルとカヨコ。

 

 こういう抜けた部分が彼女達にはある事をこの数年で忘れてしまっていたようだ。彼女達はスピンオフの漫画をだされるくらいには人気で、個々のキャラ性や容姿もファンは多い。

 

 スピンオフを出されるくらいにはトラブルメーカー気質なのを懸念していなかった、それを考慮しなかった自分にも少しは責任がある。

 

「私の名前を言わなかっただけでも良しとするべきか」

 

「なんかごめん」

 

 可愛らしく眉を下げるカヨコ。

 鋭い目つきと鉄仮面は誤解を受けやすい容姿らしいが、外見偏差値が東大クラスしかいないブルアカ世界出身者なら兎も角、自分はチャームポイント程度にしか思わない。

 

 うん、なんだか別に問題じゃない気がしてきた。

 

 元々アビドスのストーリーを平和的に解決させられるなら言う事はない、これで対策委員会はそのまま、シロコがテラー化せず、プレナパテスも生まれない。

 

 それは評価するべきだ。

 

「もういい、違約金の方は手加減してやる」

 

「え? 本当!」

 

「ただし次の仕事を手伝え、それで帳消しだ」

 

「任せて! 次は失敗しないわ!」

 

 燃え上がる背景が見える程やる気を出したアル、真っ当な人間の癖して何故こうもアウトローに生きようとするのか。

 まあ可愛いのでいいが。

 

「……で? 何をすれば良いの?」

 

「治験」

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