アーカイブには映らない   作:ミステイク

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第六話・今を生きる王女達のためのパヴァーヌ

 時計じかけの花のパヴァーヌが通常通りに進まないが、あの調子であれば平和的に終わるだろう。

 ならば自分も三章、四章、最終編へ向かって準備をしなければならない。

 

 アリスとケイの居た廃墟にあった無名の司祭が残したであろうオーパーツ、アリスの身体を分析しても完成されたアトラ・ハシースの箱舟のバリアを貫く武装の開発には至らなかった。長い時間を掛け完成したのは出来損ないの小型熱光線(レーザービーム)

 物理的干渉を無力化するバリアを貫く性能はない。つまり失敗作だ。

 

 別の技術を内包するウトナピシュティムからまた別の答えが得られるかとも思ったが、無駄な時間を過ごすだけに終わった。

 

「ゲマトリアならどうだ? いやダメだな」

 

 目的を同じくするゲマトリアとの協力を一瞬考えたが、あれらの活動過程で生じる不幸を見過ごせるほど自分は人間を捨ててはいないし、既にメンバーの一人と揉めた後なのでどの面下げてというやつである。

 

 ゲマトリアから無理矢理研究を奪う? その方法は彼等と完全な敵対行動を取るということ。あちらの研究がどの程度先に進んでいるのか不明で、尚且つヘイローの破壊方法を知っている者が居る。

 彼等相手にはどうあっても慎重に行動せざるを得ない。

 

「ダメだ、何も思いつかん」

 

 ソファーに身を投げて横になる。

 

 どんな事になろうとあの時約束した通り責任は負うが、好き好んで責任を取るほどドMではないのでそんな状況に至る前に対策は済ませておきたい、子供たちを危険な目にも遭わせたくはないのだ。

 だがその対策が何も思いつかない。

 

 思考を放棄したくなるほどの疲労感で、眠気まで襲ってきた。

 今日はこのまま眠ってしまおうか。

 

 そう考えていると。

 

「CEO、大変です!」

 

 ウサギの耳飾りのような物を付けた少女がバタンと激しく扉を開けた。

 自室に突然入ってきた少女に目を向ける。

 

 考えたくない存在の一つが来やがった。

 しかしその顔は緊急事態と書いていた。

 

「何かあったか?」

 

「ミレニアムプライスで、エンジニア部が三分で美味しいプリンを製造するという発明を発表したんです!」

 

 だからなんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミレニアムプライス、エンジニア部の開発した安価な素材で製造する『三分プリン』は見事に最優秀賞を受賞。

 ゲーム開発部だが、『ミレニアムクエストⅡ』は受賞を果たすことが出来た。

 

 しかし最優秀賞こそ逃したものの、完成した出来栄えに先生とユウカから苦労を労われた。

 

「”お疲れ様、みんな”」

 

「いやー、凄かったね。ウタハ先輩達の発明」

 

「あんなの絶対勝てないよ、あんなに美味しいプリンを三分で幾らでも作れちゃうんだから」

 

「というか審査員絶対プリンの美味しさで選びましたよね? 絶対発明の凄さとか無関係ですよね?」

 

 審査の決定に不満があるのか、納得できないのかケイは困惑した顔を隠せない。

 

「ケイ、悔しいのは分かります。ですが、負けは負けとして認めましょう、うう……次こそはゲーム開発部が勝利します!」

 

「いえアリス? 違います、そもそも誰ですあの審査員呼んだの、ウタハ先輩の話完全に無視してプリンにしか意識向いてませんでしたよね?」

 

「ケイちゃん、大丈夫だよ。ケイちゃんの分のプリンもあるから」

 

「誰も欲しいとは言ってません、なんでこの都市の生徒全員プリンに執着してるんです?」

 

「なんでも今回の審査員、他学園から募ったらしいよ。レッドウィンターの生徒らしくて」

 

「では次回からは中止した方が良いですね、ミレニアムプライスがプリン祭りにならない為にも」

 

「”そ、そうだね”」

 

 鋭い意見をズバリと言うケイに、先生は苦笑いしながら頷いた。

 

「ですが、負けはしましたけどアリスは楽しかったです」

 

「そうだね、二度目は勘弁したいけど、もう二度とあんなバイトはしたくないし」

 

「結局ユウカに予算なくなったのバレて、C&Cの戦闘訓練に付き合うことになったもんね……その所為でアリスもメイド恐怖症になっちゃったじゃん」

 

「ひぃ! アリス、当分メイド服は見たくありません!」

 

「私も当分ロボットは見たくありません」

 

「二人共ロボットでしょ」

 

「今度から予算の使い方には気を付けることね」

 

 美甘ネル率いるCleaning&Clearingという、表向きミレニアムに奉仕するメイド部。

 その実態はメイド服を着た特殊部隊のエージェント達であり、ミレニアムでは公然の秘密となっている。

 

 そのミレニアム最強の戦闘集団との戦闘訓練のバイトを請け負う事で来月分の予算を前借りすることになったが、ゲーム開発部共々少なくないトラウマを与えられ、アリスに至ってはメイド恐怖症を発症した。

 

「しかし私のサテライトレーザーを軽々と避けたトキ、次があれば今度こそ撃墜してみせます」

 

「”ケイの光の魔法だっけ? それもエンジニア部に造ってもらったの?”」

 

「これはエンジニア部製ではありません、母から受け取りました」

 アリスの固有武器である光の剣・スーパーノヴァはエンジニア部が宇宙戦艦に搭載する為、予算の70%をかけて作り上げた巨大なロマン砲、つまりレールガンだ。宇宙戦艦は開発できずに中止、エンジニア部の部室の隅で埃を被っていた物をアリスが貰い受けたという経緯があるという。

 

 重量140㎏以上、砲撃時の反動は200㎏相当の怪物兵器、個人で扱えるのは見た目に反して強靭な肉体と腕力を持つアリスしかいない。

 アリス曰く選ばれし勇者の武器。

 

 対照的にケイの固有武器はアリスの光の剣どころか、拳銃以下のサイズしかない。しかしその正体はケイの思考に応じて飛び回る五つのファンネル型レーザー砲。

 

 固有名称は光の魔法・サテライト。

 

 五つを束ねることで、エンジニア部が作成したレールガンと同等の威力を発射でき。ケイの処理能力と組み合わせれば、たった一人で複数人の戦力を得られるも同然の性能を発揮する。

 

「正確には母の研究によって開発された兵器ですが、失敗作と仰っていました。私を守る為の武器であり、馬鹿を申した部員を黒焦げにするのが主な役目です」

 

「もっと使い道があると思うな!」

 

 抗議の意味も込めてモモイが言う。

 その直後、ゲーム開発部の扉が開いた。

 

「それは随分と向上心の強い方なんだね、嫉妬と同時に尊敬するよ」

 

「ウタハ先輩?」

 

 部室に現れたのはミレニアムプライスで最優秀賞を手にしたエンジニア部達。

 

「ケイと出会った時からもしかしてと思ったが、やはりそれはロドスの科学力で造られたのかい?」

 

「ロドスではなく母のです」

 

「おおやはり!」

 

 興奮した様子でケイに、正確にはケイのサテライトファンネルに詰め寄るエンジニア部。

 

「ロドスCEOが手ずから開発したというあの!」

 

「しかもレーザービーム、ロマンの塊!」

 

「ぶんか……いや解析してみたい!」

 

「ちょっとちょっと! ケイちゃんが困ってるでしょ、ウタハ先輩も少し落ち着いて」

 

「構いません」

 

「え」

 

「エンジニア部の科学力が母に及ばないレベルなのは重々承知していますが、それでもキヴォトスでは最高位の技術を持つと認識しています。ロマンは分かりませんが、母の技術を解析して自分達との差を理解すると良いでしょう」

 

「つまり分析して良いってことだね?」

 

 エンジニア部がジロジロとファンネルを見ていたが、先生と開発部の部員達はケイがあっさりと武器を渡したのに意外そうな表情をした。

 エンジニア部にはそれなりの信用があるので、ユウカも壊すような事はないだろうと思いつつ、ケイが分析を拒まなかったのが意外なのか同じように驚いている。

 

「良いの? ウタハ先輩に渡しちゃって」

 

「母からは許可は受けています、何をするのも自由と。それにアリスの光の剣への借りもありましたので」

 

「……本当はウタハ先輩達にお母様の作ったのを褒められて嬉しいからです、ケイは恥ずかしがり屋ですからね」

 

「王女、おやめください」

 

 コソコソと言うアリスの言葉が聴こえていたのか、ケイは顔を背けるが耳が赤くなっている。

 

 調子に乗ったモモイが回り込んでケイをニヤニヤと見るが目潰しをされて蹲った。

 

「ところで、ロドスって病院の名前だよね? 兵器も造ってるの?」

 

「ミドリ、それは違います。ロドスは製薬会社と名乗っていますが、内科外科問わないキヴォトスにおける最先端医療技術を持つ製薬会社です。病院だけでなく医療施設であれば大半がロドスと関係があるか、若しくは下部組織としてあります」

 

「流石娘、よく知っているね。しかしロドスはその最先端技術の影響か、様々な組織から注目され、ミレニアムでも有名で度々幾つかの計画に協力したこともある。逆に言えば、キヴォトスの様々な組織から狙われているということだよ」

 

「はい、C&Cのような特殊部隊を隠し持っているという噂もあります」

 

「噂なんだ、知ってるわけじゃないんだね」

 

「流石に会社の全てを知り尽くしている訳ではありません、実行しようと思えば可能ですが」

 

 もはやロドスは一介の医療機関を超えた組織となっている、非常に危険な組織である。

 そう揶揄する者も少なくないが、それと同時にキヴォトスで起きた流行病の治療法、対処法。トリニティの救護騎士団と協力しての自治区内での負傷者の手当などで様々な実績を持っている。

 

「二人の母親ってどんな人なの?」

 

「かなりユニークな人っぽいけど」

 

「どんな……と言われても返答に困りますね……。正しい事をすれば褒め、間違いを犯せば叱る、しかし判断や選択肢を強要はしない」

 

「先生の様な方です!」

 

 端的にアリスが表現した言葉に、ケイも間違いではないとは思った。

 

「確かに、しかし先生とは違い事前準備、もしもの保険など様々な物を仕込んでいるのが母です。もっとも比較するという訳ではありませんし、先生と母ではそもそも役割も違うので━━」

 

「”凄い早口”」

 

 まくし立てるように言うケイ、とても母親のことを大切に思っているのだろう。

 先生は二人がアンドロイドであり、その母親とは血の繋がりがないのだと分かっているが、血を超えた絆と親子愛には微笑ましい感情があった。

 

「なんですか先生その表情、なんだか母に似た視線……いえなんでもありません」

 

「ケイってマザコンなんだねー」

 

「モモイ、次は喉に指を突っ込みますよ?」

 

「いや凄いお母様です! 先生も二人のお母様に感謝するべきだよねー!?」

 

 わざとらしく母親を称えるモモイに、その意図を理解しながらも悪い気はしないケイは指を下ろした。

 それにモモイは七割は嘔吐しない為の言葉であるが、三割は本心から出たものである。

 

 結局は無事だったので大袈裟だと感じるが、バイトで起きた戦闘訓練の事故で危うく先生は死に掛けたのだから。

 

「そうだね、訓練場にした廃墟の地面が崩れて先生ったら危うく落ちちゃうところだったんだから」

 

「ケイのファンネルが支えてくれなかったら死んじゃってたよ」

 

「その通り、あれがなければ私がトキに敗北を喫することはありませんでした。反省してください先生」

 

「”はい反省します……”」

 

 前にもアビドスで似たような事を言われたので、先生もシュンと肩を落として反省している。

 もっとも地面が崩れたのはゲーム開発部とC&Cの戦闘の余波の所為でもあるのだが。

 

「そうですケイ、今度お母様をミレニアムにご招待しましょう。私達のミレニアムクエストⅡをプレイしてもらうんです!」

 

「ロドスCEOをお呼びする!? いやアリス流石にそれは……」

 

 確かにミレニアムも、ロドスの計画や仕事に参加した経験はある。

 エンジニア部が医療機器の一部の開発を担当したり、ヴェリタスも対ハッキングシステムの構築に協力することもあった。

 セミナー、生徒会のメンバーとしてユウカもロドスの社員や幹部と会話したこともある。

 

 しかしそれらは飽くまでもロドスの中でも末端や最高でも幹部クラス、それもロドスの一部門を担当しているに過ぎない人物。

 唯一生徒会長の調月リオ、明星ヒマリ、美甘ネルなどミレニアムの裏事情を知っている者達はCEOと直接会話したことがあるらしいが、機密事項としてノアもユウカもその会話には参加していない。

 

「お母様に相談してみましょう! ユウカも話しますか?」

 

「い、いやちょっと待って! 流石に急すぎて心の準備がって言うか相手も忙しいだろうし……」

 

「ではモモトークでお暇か聞いてみましょう!」

 

「ちょ!?」

 

「さ、流石に不味いってアリスちゃん!?」

 

 その場に居た殆どが大慌てでアリスを止めようとしたが、結局モモトークを送ったのは別人であったため、CEOが返事をすることはなかった。

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