アーカイブには映らない   作:ミステイク

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第七話・懐古

 ゲーム開発部とエンジニア部の騒がしい声を聴きリオは足を止めた。

 傍に居たヒマリもリオが立ち止まったのを見て止まり、自身も声を聴いて理由を悟る。

 

「此処も随分と賑やかになりましたね」

 

「そうかしら? 貴方が普段から賑やかな人だから分からなかったわ」

 

「褒めてくれてありがとうございます、お礼に今度貴方のアバンギャルド君も賑やかにしてあげましょう」

 

「車椅子で動くなら足は要らないわよね?」

 

「やめろ、廊下の真ん中で何やってんだアホ共」

 

 皮肉の殴り合いから刀の鍔にリオが指を触れた瞬間、メイド服を着た子供そのものの姿の少女が現れた。

 愛らしい背格好だか荒々しい声とナイフの様な目付きは不良のそれ。

 

 C&Cの部長、美甘ネルが呆れたような様子で近づいてきた。

 

「たく、何時までもガキみたいな喧嘩ばっかしやがって、周りの目も気にしたらどうだ? 仮にもてめぇら、セミナーとヴェリタスの頭だろうが」

 

「もっともな言葉ですね、答えた方がガキそのものみたいな容姿でなければ私も戸惑わずに済んだでしょう」

 

「そうね説得力がないわ。エンジニア部で改造手術を受けてあと30cmほど身長を伸ばしてから出直して来なさい。話はそれからよ」

 

「表出ろ、決着つけようぜ」

 

 青筋を額に浮かべてネルが銃器を両手に言う。

 暴れようとしたネルは背後からカリンに抱きかかえられて制止される。

 

「ダメだってリーダー! 自分で止めてくるって言ったのになんで自分も喧嘩しようとしてる!?」

 

「うるせぇ!! 今度こそあの鉄仮面に吠え面かかせてやるんだ!!」

 

「でもリーダーの背が小さいのは本当じゃない?」

 

「てめぇも此処でぶっ殺されてぇか!?」

 

 メイド姿のC&C五人が勢揃いで現れた。

 

「お二人もネル部長を怒らせないでください、でないとまた教室一つが使えなくなるんですから」

 

「でも私またリーダーと会長の戦い見てみたいな! 銃弾を剣で弾くのとか映画みたいだったもん!」

 

「特別な事はしていないわ、真っ直ぐ突っ込んでくるだけの小物だもの……考えてみると真っ直ぐ突っ込んでくる小物ってネルと同じね」

 

「殺す! 絶対ぶっ殺す!」

 

「やめてください会長!」

 

 顔を真っ赤にして憤るネルから、ヒマリとリオは逃げるようにその場を離れて行く。

 

「賑やかなのも悪くないけど、騒々しいのは遠慮したいわね」

 

「騒々しくした原因は誰だと思って……私も人のことは言えませんか」

 

 ヒマリは隣を歩くリオへと視線を送る、正確にはリオの持つ日本刀。

 

 ━━━━赤刀・十字。

 

 名前の通り刀身が美しい赤に染められたリオの持つ刀の名前であり、銃を持たない彼女唯一の武器。

 エンジニア気質のリオがその性質とは反対どころか、キヴォトスの生徒達のように銃すら持たず、原始的な刃物を差しているのはとても異質だろう。

 

 特にキヴォトス屈指の科学が集まるミレニアムサイエンススクールの生徒会長の武器としては、一周回ってギャップ萌えを感じるという噂まである。

 噂を聞いた時、このビッグシスターに萌えを感じる層が居る事にヒマリは困惑を隠せなかった。

 

 だからと言ってヒマリがその事を否定することはない、誰が何を武器にしようと自由だ。

 その日本刀へと視線を送ったのは奇抜さからではなく懐かしさ。

 

「貴方達がまだその刀を持っていると知れば彼女はどう思うでしょうね」

 

「勝手に人の物を盗っていくなとでも言うんでしょうね、でもあの子も散々私の発明品を持って行ったんだからお相子よ。というか貴方も同じでしょう」

 

「ふふ、あの真面目なヒナさんまで同じ事をしているのだから、随分と大きな影響を受けましたね」

 

「キヴォトスの殆どは少なからずあの子の影響を受けているわ、ゲヘナだけじゃなくトリニティまで……そういえばそろそろエデン条約の調印式ね」

 

 ゲヘナとトリニティが正式に和解、正しくは不可侵条約を結ぶというもの。

 ミレニアムに匹敵するかそれ以上の勢力を持つ両学園のトップ、ティーパーティーと万魔殿が正式にその条約を受け入れるというのだから、学園間の不和を知る者からすれば驚きだろう。

 

「これもあの子の影響かしら」

 

「そういえばティーパーティーとパンデモニウムにも知り合いが居ましたね、確か……ハナコさん?」

 

「ハナコは次期ティーパーティー候補よ、今はまだ二年生だから」

 

「あら? そうでしたっけ?」

 

「もうそこまでボケが進行していたの? そろそろベッドに戻りなさいヒマリおばあちゃん」

 

「憶えていますよ、うっかりしていただけです! ハナコさんはトリニティ風紀委員でしたよね」

 

「ついでに言うなら副委員長よ」

 

「憶えていますって! ボケてません! ちょ、待ちなさい!」

 

 抗議する様に両手を上げるヒマリを無視して歩くリオ。

 

「あの子は私から合理性も発明品も勝手に持って行って勝手に死んだ、だから私も勝手に約束して勝手に持って行ったのよ。そしたら皆同じことをした、私とウリアは刀、ヒナは短刀、貴方は杖みたいにね」

 

「……」

 

「お陰で私の隣には、小姑みたいにうるさい理解者が出来てしまったわ」

 

 困ったようにヒマリに笑むリオ。

 

 口ではお互い嫌悪し合っているように見える、実際お互いの事を理解すればするほど口喧嘩は多くなる。相手をとことん理解しているから嫌いなのか、理解した上で嫌いになったのか、もうヒマリは忘れてしまった。

 

 考えるのも嫌ではあるが、リオの言う通りヒマリは彼女の理解者と言えるのだろう。

 

「……アリスとケイが暴走した時、貴方はどうしますか?」

 

「以前と変わらないわ、ヒマリ。貴方が選ばなかった方を選ぶ。貴方が助けるなら、私は殺す方法を考える。貴方が殺すなら、私は助ける方法を選ぶ。選択肢は一つじゃない、可能性は幾らでもある」

 

「あの子の言葉ですか」

 

「私達はバラバラだから、だからこそあらゆる可能性を模索できる。どんな道も、必死で考えて辿り着いたのなら、きっと間違いじゃない」

 

「……貴方には似合わない台詞ですね、そんな柔軟な思考が出来るんだからまあ成長した方なんでしょうけど」

 

 まるで漫画の主人公のようでもあった。

 不安定で先行きなんて分からないのに、何故か説得力のある言葉を簡単に捻り出せた。

 

「うるさいわよ、天邪鬼」

 

「ふん、ビッグシスターに言われたくありません」

 

「ナルシシスト」

 

「唐変木」

 

「バカ、おバカ、スーパーバカ」

 

「バカって言う方がバカです、このおバカ!」

 

「「~~~~━━━━…………!!」」

 

 そうして子供のような喧嘩をしながら二人は一緒に歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の言葉を聞いた時、リオは目を見開いた後沈黙した。

 くたびれているようでしかし、既に先の人生を生きているような大人の様な言い様。

 

 自分の選択を正しいと信じていたリオにとっては、とても合理性から外れたような考え。

 

「相変わらず深いのか浅いのか、良くわからない人ですね貴方は」

 

 呆れにも似た溜息をヒマリは吐き、しかしそれでこそ彼女であると何処か納得してしまうような感覚を覚えていた。

 それは自分以外も同じなのか、周りの者達はヒマリの言葉を聞いた瞬間に笑みを浮かべる。

 

「ふう、まるで漫画の主人公のような事を言いますね。砂糖の様に甘い考えだ、その可能性を増やした結果、より悪い方向へと向かった場合はどうするのです?」

 

「ウリア……」

 

 リオの背後から出てきた金髪にメガネを掛けた少女ウリアが鋭い目付きで言う。

 

 もっとも目に怒りや警戒の意味はなく、元々鋭いだけで声色も平静そのもの。

 

 だがその問いには決して誤魔化しは許さないと言うように、ウリアは懐に隠した銃に手を伸ばしている。

 

「良い結果は得られないかもしれない、選択肢を増やした結果選べず大切な時間を浪費してしまうかもしれない……そうなった時は?」

 

「全部が上手く行くなんてことはない。私達は全能の神じゃない、失敗する時もある。それでも、皆が必死で考えて出た答えは、その時一番の最善策だろうとは思う。だがそうだな、それでもダメになったその時は……」

 

 ━━━━私が責任を負う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その責任の結末が、それ? ……ふざけないでよ」

 

 リオが吐き捨てる様に、忌々しげに。

 だが震え涙を溜めながら。

 

 身体の半分だけを残して倒れ伏す、血塗れの少女に呟いた。




「高潔な精神を持つ者の行動は、高潔な精神を持つ者にしか出来ない。異物が同じ事やっても、酷い目に遭うだけって分かってたよ」
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