【完結】自称魔王ちゃんのごっこ遊び   作:千歳ふい

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妄想にふけってニマニマする女の子っていいよね


第10話

 ババアとの二人っきりの時間を久しぶりに堪能できたのは良かった。

 

 お互いに近況報告し合ったり、たわいもない話に花を咲かせたりして最高に楽しかった。

 でも、説教がましい話も言われてしまった。

 

 その筆頭が、両親への手紙である。

 

 これまではかなりの頻度で私もババアも両親と手紙のやり取りをしていた。

 しかし、私が魔王ごっこを再開してからはまだ一度も出していない。

 

 恥ずかしかったからだ。

 一度やめた魔王ごっこを再開しているし、Aランクに昇進したかと思えば二つ名は『まおうちゃん』だし。

 

 言えるわけないでしょこんなの。

 

 しかし、私はもう名実ともに一人前のAランク冒険者になった!

 何も隠すことはない!

 

 てなわけでその後の数日は両親に手紙を出したり、知り合いに昇進を一通り自慢しまわったりした。

 

 それが全部片付いた今日、私は王都をゆっくり散策しようと思った。

 Aランク冒険者として改めてこの街を感じて、その空気を吸うためだ。

 

 にぎやかな市場。優美な噴水。そびえ立つ壮大な王城。

 いつもと変わらぬ景色なのに、どれも新鮮に感じる。

 

 あ~、これが成長か。

 

 夕日に染まる街並みを眺望しながら、私は自分の成長を噛みしめてニマニマしていた。

 

 思えば長かった。

 この街に来て六年、冒険者を始めて五年。

 

 ようやく、ようやくAランクになれた。

 

 Aランクだ。私はAランク。

 何度も何度も胸の中で反芻し、感慨にふける。

 

 冒険者たちの誰しもが夢見て、そのほとんどが辿り着けなかった境地に私は立っている。

 

 そうなったきっかけが、まさか周りに否定され続けてきた、魔王ごっこだったとは。

 

 まったく、数奇なものだな。

 

 そうだ!

 せっかくだし、Aランクらしい装備を整えよう。

 

 いかにもそれっぽいローブと強そうな杖。

 そこに貴重なアクセサリーを加えればもうすっかり一流の魔法使いだね。

 

 ガハハ勝ったな。

 服屋行ってくる。

 

☆★☆★☆

 

 ......あれぇ?

 ローブ、高くね?

 

 適当に入った服屋で私はローブを色々物色し回ったけど、やけに値段が高くてビビってしまう。

 

 高級なローブ一着で私の所持金、ほとんど吹き飛ぶんだけど?

 こんなに高かったっけ?

 

 ぐぬぬ、でもだからといって服で妥協したくない......。

 

 私は昔から形から入るタイプだ。

 魔王ごっこを始めたときも、最初にやったのは衣装の制作だった。

 

 立派なローブを着ていれば立派な魔法使いになった気分でいられる。

 

 だから、ここはしばらく他の消費を我慢してローブを買うか。

 

 まぁ、私はもうAランク冒険者だし?

 Aランクの依頼は報酬も高いからすぐにお金貯まるでしょ。

 

 よし、買おう!

 

 ふふん。

 早速会計を済ませ、ルンルン気分で買ったばかりのローブに袖を通す。

 

 駆け出し冒険者が着ていそうな鼠色のローブから一転して、赤髪がよく映える漆黒のローブにした。

 ところどころ金色のラインも入っていて最高にクールだぜ!

 

 これになぜかローブとセットでついてきた真っ赤なマントを合わせれば存在感抜群!

 まさしく百戦錬磨の魔法使いって感じだ。

 

 周りに人目がないことを確認し、私は店の中でポーズを取り始める。

 イメージするは様々な強敵に立ち向かう最強の私。

 

 手をかざして魔法を放つ私。攻撃を紙一重でかわす私。

 魔物をシュッシュッと拳でやっつける私。

 

 うん、なかなか動きやすくていい感じだ。

 

 着心地と機能性に問題がないことを確認した私は、上機嫌のまま店を出る。

 

 服でここまでワクワクしたのはいつぶりだろうか。

 まったくいい買い物をしたな。

 

 ただ、これを見つけた店ではやけに派手な服ばかり売っていたことがちょっと気になるかな。

 それと、道行く人たちが変な目で見てくることも。

 

 おかしいな。

 この目には見に覚えがある。

 

 幼いころ魔王コスプレして街を歩き回っていたときに向けられた視線だ。

 断じて偉大な魔法使いに向けるような視線ではない。

 

 一方、大人とは違って子供たちにはなぜかウケがいいみたいだ。

 

 行き交う子供たちの大半が私を指さし、笑顔を咲かせていた。

 

 私が軽く手を振ってやればすぐに大はしゃぎ。

 中にはハグをせがんでくる子もいた。

 

 子供たちは喜ぶし親御さんには感謝されるから、こっちまで嬉しくなってしまう。

 

 何だ?

 キャラクターの着ぐるみでも着ているみたいじゃん。

 

 まぁ、よくわかんないけどいいや。

 子供たちを笑顔にできて悪い気はしないし、私はもうAランク冒険者だ!

 

 細かいことなんて気にしない!

 

 そんなことより、私は一刻も早くこの新衣装をババアに披露したくてうずうずしていた。

 いつも仏頂面のババアでも、きっと私の神々しい姿に肝を抜かれるに違いない。

 

 スキップ気味に私はギルドの門をくぐり、脇目も振らずにギルド長室に入っていく。

 

 もちろんノックなどせずに全力で扉を開ける。

 

 どうだ、私の成長は!

 

 ハハハ、驚きで言葉も出ないか。

 

 ポカンと固まるババアに対して私はその場でくるりと一回転してピースをする。

 

「どう? かっこいいでしょ」

「......エミリー。確かに魔王ごっこをやりたければやればいいとは言ったけど......」

 

 困惑したように、言葉に迷っているようにババアは話を続ける。

 

 うん?

 魔王ごっこ?

 

「でもあまり両親を悲しませるな」

 

 何の話だ?

 娘が成長してパパとママはむしろ喜ぶと思うけど?

 

 ......あっ!

 マントだ!

 

 確かにマントを見ると魔王のコスプレだと思っちゃうね。

 

「あ~ごめんごめん。マント脱ぐから。はい! 改めて、どうよ?」

 

 私はマントを外してから、両腕を広げてローブをアピールする。

 自分で言うのもなんだけど、正直めちゃくちゃかっこいいと思っている。

 

 それなのに、ババアは目を丸くして言葉を失っている。

 

 あれ?

 おかしいな。こんなはずじゃなかったのに。

 

「......お前、もしかしてその衣装を知らないのか?」

「え? 衣装?」

「だからその大魔王だいだらぼっちの衣装」

 

 へっ? 大魔王......?

 

 その言葉を聞いた途端、スーッと冷たい汗が私の背筋を走った。

 

 まさか、間違ってコスプレ衣装を買ってきたってこと?

 もう所持金は底ついたから冒険用の服買えないよ?

 

「はぁ、本当に知らなかったのか......」

 

 笑顔のまま固まった私を見てババアはすべてを察したようだ。

 私を残念なものを見る目で見ながら額に手を当ててため息をついている。

 

「お前の常識のなさを嘆くべきか、センスのなさを嘆くべきか......」

 

 失礼な!

 これじゃまるで私が非常識な奇人みたいじゃないか!

 

 そう噛みつきたかったが、今はそれどころではない。

 

 この最高にかっこいいローブがただのコスプレ衣装だったら、今の私は立派な魔法使いではなくただのコスプレイヤーになってしまう。

 

「そもそもその大魔王なんちゃらって何?」

 

 まだだ。

 まだこれがコスプレ衣装だと決まっているわけではない。

 

 一縷の望みをかけて、私は先ほどババアが言った大魔王について聞いた。

 

「子供たちに人気な劇の登場人物だ。お前のそれは正真正銘のコスプレだということだよ」

「......コスプレ」

 

 しかし、ババアの口から告げられたのは残酷な事実だった。

 

 ......劇の登場人物か。

 

 このローブが高かったのってもしかしてそういうこと?

 高級だったからじゃなくて?

 

 私、コスプレのために所持金を使い果たしたバカってこと......?

 

「よかったな。子供たちには人気出るだろうね」

 

 うっぜぇ!

 私がショックを受けているのを知っていて煽ってくるとは!

 

 ま、まぁ、別にいいし?

 どうせ後で魔王ごっこ用の衣装を買う予定だったし?

 節約できてラッキー!

 

「そもそも私が着ればコスプレじゃないよ? 私、大魔王エミリー=チューニだから」

「おおがんばれ大魔王」

 

 バカにしたように鼻を鳴らすババア。

 

 うぜぇ!

 

 そう内心で怒りを爆発させても、私には何も反論できない。

 

 これは明らかに自分のミスだからだ。

 というかそもそも恥ずかしすぎて言葉が出ない。

 

 顔を真っ赤にしたまま、私は俯いて震える。

 

 こんなはずじゃなかった。

 かっこいいローブを身に纏ってバッタバッタと魔物をやっつけるはずだった。

 

「まぁなんだ。服装のセンスは人それぞれだ。それより、お前の両親から預かっているものがある」

 

 さすがにやりすぎたと思ったのか、ババアは話題を切り替えてくれた。

 

 そのままババアは横の棚から布に包まれた棒状の何かを取り出して私に手渡す。

 

 布が徐々に取り除かれると、拳ほどは大きい赤い宝石が嵌められた黒い棒が姿を現す。

 

 その長さは一メートルほどで、手に持つとそれなりに重い。

 

 おっ、これはもしや?

 

「上質な杖だ。Aランク昇進のお祝いだそうだ」

 

 おおお! やっぱり! いかにも強そうな杖!

 軽く魔力を流すと宝石が赤く煌めく。かっこいい!

 

 ありがとー、パパ、ママ!

 

「それと、これは私からだ。受け取れ」

 

 杖に頬ずりをしている私に、顔をそらしながらババアは小包を差し出してくる。

 

 うん? なんだろう?

 

 手に取ってみるとあんまり重くないな。

 

「魔力を増強させる指輪だ。昔ダンジョンで拾った」

「えっ!? それってめっちゃ貴重なんじゃ?」

 

 ダンジョン産の装備は性能が優れている反面その収集に危険が伴うため、基本的に高値で取引されている。

 

 そんなものを私に譲るなんて。

 

「どうせ私が持っていても仕方がないだろ」

 

 それはそうだけど。ババアは前衛だし、そもそも引退しているから確かに使わないだろう。

 

 うぅ、だとしてもこんなのもらえないよー!

 

 そう言いかけた言葉を、私はすんでのところで飲み込む。

 

 考えてみれば、この指輪はババアの気持ちだ。

 ずっと前から準備していたのかもしれない。

 

 であれば、受け取らないなんてありえない。

 

 だから、私は小包を返す代わりに中身を取り出して指に嵌めた。

 金属性の指輪は少し冷たかったが、私にはとても暖かく感じられた。

 

「よし! ありがとう! では、この私がババアの代わりに有効活用してやろう!」

 

 一気に装備が整った!

 ハハハ、我が向かうところに敵なしだぜ!

 

「......お前、そろそろババア呼びやめろよ」

「ヒェッ! ちょ、調子乗ってごめんなさ~い!」

 

 ああもう! いつもつい口を滑らす。

 

 逃げるようにギルド長室を後にして、私は冒険者がたむろする一階に降りていった。

 

 慣れ親しんだ喧騒を聴きながら、私はどこか安心感を覚える。

 

 ふふ、やっぱり私は冒険者ギルドが大好きだ。

 

「よっ! 大魔王!」

「だいだらぼっちさまー!」

 

 やかましいわ!

 冒険者ギルドなんて大っ嫌いだわ!




ついに、評価バーに色が付きました!
UAも500を突破しています!

うれしい!

皆様、どうもありがとうございました!


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