装備を一新し、さらに魔法の練度も上がった私はまさに絶好調である。
これまで手こずっていたような魔物にも颯爽と勝てるようになり、名実とも立派なAランク冒険者となっていった。
しかし、私の冒険者ライフは順風満帆とはいかなかった。
ババアが、未だに私が単独でAランクの依頼を受けるのを嫌がっているからだ。
門出のお祝いをして指輪までくれたのに、いざ私が単独で高難易度の依頼を受けようとすると妨害してくる。
あんなに一人前になったとか言って祝ってくれたのに、それは勇者にお守りされている場合に限るってことか。
おかげさまでルーカスがいない日は何もさせてもらえない。
「だから! 私はこの依頼を受けたいの!」
「申し訳ございません。エミリーさんには指名の依頼が来ていますのでこちらの依頼をお受けすることはできません」
矢面に立たされている受付嬢が可哀想だよ。
ほら、すごい困ったように眉をひそめているじゃん。
そんな受付嬢によって手に持っていた依頼書をサッと取られ、代わりに指名の依頼書を渡される。
「指名を受けるかどうかはこっちの自由のはずだけど? 強制じゃないよね」
「通常であればその通りですけど、この依頼はギルド長からの依頼ですから」
付け入る隙もないと言わんばかりにきっぱりと拒絶されてしまう。
うぐぐ。
ギルドにおいてギルド長の言うことは絶対だ。
逆らえば追放されることもある。
でも、やっぱり納得できない!
「おら! ギルド長を出せや!」
「ですからギルド長は出張でいらっしゃいません」
むぅ。
ダメかー。
不貞腐れながらも、私は改めて目の前の受付嬢を見る。
名はミラ、種族は魔族。
青色の髪と白い角を持つ理知的で几帳面な上京したての十六歳。
身長は私より少し低いくらいだし、先輩の受付嬢として面倒を見たこともある。
正直私が先輩風を吹かせられる数少ない存在だ。
ふむ。どうすれば......。
どうにかこの状況は突破できる方法はあるはず。
あ、そうだ!
「ねぇ。ミラ、金出すからこっそり受けさせてよ。お姉さん、結構稼げているし。ね、利害は一致しているでしょ」
同じ道を通った私には分かる。
ミラは今、絶対に金欠だ。
受付嬢は花のある仕事だが別に給料が高いわけではない。
特に新人のうちは尚更だ。
我ながら名案だと思う。
「はぁ。やはりそう来ますか」
しかし、私の妙案はなぜかウケが良くなかったみたいだ。
あれ?
何だかアホの子を見るような目で見られている気がするな。
何でだろう。
あ、もしかして大した額を出せないって思われてる?
「ほ、ほら、言い値出すよ? あ、それともほしいのはお金じゃないとか? ふふん、いいよ。今ならお姉さん、なんでもしちゃうよ?」
あれぇ?
どうしてジト目で見てくるの?
うぐぐ、思ってた反応と全然違うんだけど!
どういうこと!?
「うぎゅ」
「あなたのような幼稚な人間に先輩風を吹かれたくはありません。諦めてください」
いきなり頭をチョップされて変な声が出てしまった。
うぅ、痛い......。
頭をさすりながら私はミラを見ると、その顔は呆れ果てて無表情になっていた。
「それと、このことはギルド長に報告しますからね」
「えっ!? ちょっと待って?」
ねぇ何でそんなに冷たいの?
先輩先輩と言いながら私の後を付いて回ったかわいいミラちゃんはどこ行ったの?
「はーい次の方どうぞ!」
「ねぇ。ねぇってば!」
こら! 目を逸らすな! 会話を切り上げるな!
「失礼」
渾身のアピールを虚しくもスルーされ、私は後ろに並んでいた冒険者にどかされてしまった。
ああ! このままだとまたババアにシバかれる!
くそぉ、どいつこいつも冷たいなぁ。
仕方なく観念した私は失意のうちに手元の依頼書に視線を落とす。
どれどれ。
うん? お菓子配り?
はぁ?
これ、Aランク冒険者にやらせる仕事じゃないだろ。
過保護もいい加減にしろよあのくそババア。
しかもよく見るとすでに受注しているし。
はぁ。
どうせ他にやることないし。お菓子配り、やるか。
そう思った私は配るお菓子をもらうためにトボトボとギルドの倉庫に向かう。
このお菓子配り、別に初めてじゃないけど依頼としてやるのは初めてだ。
今まではあくまでもボランティアだったからね。
何でも冒険者ギルドの顔でもあるAランク冒険者がやると広告にもなるからと依頼になったようだ。
一般の民衆が依頼を出してくれるから我々に仕事が来る。
だから冒険者ギルドとしては地域との良い関係を維持していきたいのだろう。
うん。
何だかババアのこじつけのようにも感じるけど、考えてみれば確かにAランクに相応しい大事な仕事だ。
よーし、そうであれば張り切っちゃうぞ!
あ、そうだ!
たくさん注目されるだろうし、これは魔王ごっこをするまたとないチャンスだ。
いっぱい魔王アピールして魔王だと勘違いさせちゃうぞ?
ふふん、お菓子配りも案外悪くないかも!
☆★☆★☆
「お姉ちゃんかっこいい!」
「何か魔法使ってよ!」
街中の広場で私は子供たちにお菓子を手渡す。
普段より市民の憩いの場として使われる広場が、子供たちの眩しい笑顔に彩られる。
「いいよ。ほい」
魔法に興味津々の子たちのために軽く手に炎を浮かべる。
それだけでみんな大はしゃぎ。
「すごーい。それどうやってるの?」
「ふふん。これはね、よーく食べてよーく寝るといつの間にか使えるようになるものだよ」
「へぇ! そうなんだ」
純粋なおチビちゃんたちを見ていると、何だかこっちまで浄化されていく。
汚い大人の一面がそぎ落とされて、純真無垢な子供に若返りした気になる。
それだけで、今日来た甲斐があったと思える。
「ねぇ、お姉さんは本当に魔王なの?」
「おうよ。最強の魔王さまだぞ~」
矢継ぎ早に質問される。
もう色々な質問に答えたはずなのにちびっ子たちの好奇心は未だに衰えない。
そんなちびっ子たちのために今度は炎を消して代わりにマントをアピールする。
魔王コスプレとしてはかなり雑だが、その分仕草や表情で補えば子供たちには大ウケ。
そんな子供たちの反応を見ると、私は楽しくなってもっと演技に力を入れる。
こうした微笑ましい循環で私も子供たちも和やかな昼下がりを楽しんだ。
「ありがとうねエミリーちゃん。子供たちはみんな大喜びよ」
「そういえばAランクに昇進したんですって? 告示見たわよ。すごいわね」
時折主婦たちにも話しかけられ、感謝される。
「いえいえ、私はごく当たり前のことをしているだけですよ」
それに対して私は優雅に微笑んで応える。
子供には優しく接する一方で、大人に対しては大人の対応をする。
私、最高にイケてるな。
「ところで二つ名『まおうちゃん』になったみたいだけど、これもごっこ遊びなの?」
「え、あっいや、私は本物の魔王で」」
「そういう設定なんでしょ。まったく熱心だねぇ」
「......はい。設定ですぅ~」
うぐっ。
言葉のナイフが......。
もう、何だよ!
大人だってたまにごっこ遊びしたくなるときあるだろ!?
まったく、微笑ましいものを見るような目を向けてくるんじゃねぇよ。
ちびっ子たちに向けろよそういうのは。
「じゃエミリーちゃん頑張ってね」
しばらく雑談に花を咲かせたのち、主婦たちはそう言って子供のところに向かう。
その背中を見送りながら、私は胸がポカポカとしてきたのを感じる。
思えば、子供の頃からずっと煙たがられてきた魔王ごっこで感謝されるのは初めてだ。
うん。
たまにはいいことあるな、魔王ごっこ。
なんと、オリジナル日間ランキングにランクインしていました!
ありがとうございます!
エミリーちゃんたちの物語はまだまだ続きますので、どうぞ最後までお楽しみください!
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