【完結】自称魔王ちゃんのごっこ遊び   作:千歳ふい

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いつも明るく図太いのに本当は繊細な女の子っていいよね


第12話

 気づけば夕刻になり、子供たちは元気に帰宅した。

 

 そんなおチビちゃんたちに手を振って見送ったのち、私は依頼達成の報告をしにギルドに戻る。

 

 何だか当初の予定とはまったく違ったが、これはこれで充実した一日を送ることができた。

 ギルドにも貢献できたし、私も楽しかった。

 

 しかし、やはり違う。

 この扱いには納得できない。

 

 お菓子配りをするAランク冒険者なんて聞いたことないからね。

 明らかに私だけ扱い方が異なる。

 

 そのことに強い憤りを感じた私は、一刻も早くババアに直談判したい。

 

 しかし、ババアは未だに出張から帰ってきていないようだ。

 

 だから、ババアが返ってくるまで私は報告を済ませた後もカウンターに残り、ミラとだべることにした。

 どうせ他に並んでいる人なんていないから許されるはず。

 

「ねぇ。ミラはどう思うの? やっぱりこの扱いはおかしいよね」

「いいえ。適所適材だと思いますが?」

 

 作業の手を緩めず、こちらを見ることもなくミラは淡々と答える。

 

 くぅ。やっぱり冷たい!

 何で?

 

「だってAランクだよ? 魔物をバッタバッタやっつけたいじゃん」

「いい年してごっこ遊びをしているエミリーさんには早いですよ」

 

 あああ。

 聞こえない聞こえない。

 

 かわいい後輩による正論パンチなんて聞こえない。

 

「それより報告が済んだのなら早くどいてください。営業妨害です」

 

 え?

 何でそんなこと言うの?

 

「ねぇやっぱりおかしいよ。何でそんなに私に冷たいの? 前まではそんなことなかったのに」

 

 私がそう言うと、ようやくミラは私の方を向いてくれた。

 

 しかし、その眼差しには強い呆れが浮かんでいた。

 

「分かりませんか」

「分かりません」

 

 分かんないから聞いてるでしょうが!

 

 おい、こら。

 ため息つくな!

 

「はぁ。でしょうね」

 

 残念なものを見るような憐みの目を向けられる。

 

 本当失礼だなこの子!

 

「まぁいいです。エミリーさんにはそこまで期待していませんから」

 

 それだけ言うとミラは視線を書類に戻してしまった。

 

 くそ!

 勝手に話を終わらせるな!

 

「それよりギルド長がお見えになりましたよ」

 

 私がまたミラの注意を引こうとした矢先に、どうやらババアが帰ってきたようだ。

 

 もう、タイミング悪い!

 ていうかお前、書類を処理しながらよくババアの帰還に気が付いたな。

 

「行ってくる! それと、ミラ。絶対デレさせるから待ってろ!」

 

 私は諦めないから!

 いつかかわいい後輩ちゃんを取り戻すんだ!

 

☆★☆★☆

 

「ババア! 過保護もいい加減にしろ!」

 

 部屋に入るなり開口一番、私はそう啖呵を切る。

 

 しかし、威勢のいい私に対して、ババアは疲れ気味だ。

 

「はぁ。何だよ藪から棒に。それとババアはやめろ」

 

 いつもならババア呼びをされると怒るのに、今回はリアクションが淡泊だ。

 よっぽど疲れているのだろう。

 

 それでも、私は止まらない。

 それだけ私は憤りを感じているのだ。

 

「私への依頼だよ! 何だよお菓子配りって。Aランクにやらせる仕事じゃないだろ!」

 

 しかし、そんな私の怒涛の追及を受けても、ババアはどこか吹く風だ。

 

「お菓子配りもなかなか良かっただろ? ギルドのイメージ向上にもなるし」

「そうだけどそういうことじゃない! 私は魔物を討伐したり遺跡を探索したりしたいの。分かるでしょ!」

 

 もう!

 言いたいことは分かってるはずなのに何でまともに取り合ってくれないの?

 

「勇者とパーティーを組んだんだろ? 二人で行けよ」

 

 うぅ。やっぱりそう来るか。

 当たり前のように当たり前のことを言われてしまった。

 

 でも、それじゃダメだ。

 いつまでもお守りされているだけじゃ、嫌だ。

 

「そんなんじゃいつまで経っても一人前になれないでしょ」

「最初はそういうものだ。お前にソロはまだ早い」

 

 きっぱりとそう言ったきり、ババアは書類と向き合う。

 もうこれ以上話すことはないと言わんばかりに。

 

 確かにババアの言う通り、私にはルーカスが必要だ。

 

 予想外の事態にはテンパってしまうし、魔法の発動に時間が掛かる場合は擁護してもらう必要がある。

 

 でも、Aランクの中には比較的に易しい依頼だってある。

 

 そういう依頼なら、私に一人でやらせたって構わないはずだ。

 

 それを主張しに来たのだが、土壇場になって私は口を噤んでしまった。

 

 出張から帰ってきたばかりだというのに、ババアが早くもせわしなく仕事をし始めたからだ。

 

 そんなババアを見ていると、しょうもないわがままを主張するのが申し訳なくなってしまった。

 

 よし、手短に済ませよう。

 

「だったら条件を付けてよ。これができたら単独でAランクの依頼を受けさせるって」

「ふっ。そうだな。自分でその条件を見つけられるようになったら受けていいぞ」

 

 バカにしたように鼻を鳴らしながらババアは言う。

 

 かぁー!

 せっかく人が気遣ってやってんのに何だよそれ!

 

「ババアなんて知らない!」

 

 そう吐き捨てて、私は身を翻して勢いよく執務室を飛び出そうとする。

 

 直後、鈍い音とともに私の後頭部に激痛が走る。

 

「あうっ!」

「だからババアはやめろって言ってるだろ。何度も同じことを言わせるな」

 

 くぅ痛い!

 筆立てを投げやがって!

 

 覚えてろくそババア!

 

☆★☆★☆

 

 ババアへの直談判に失敗してから数日、私は自室にひきこもってしまった。

 

 最初は不貞寝していただけなのだが、冷静になると悩みが一気に噴き出して飲み込まれてしまう。

 もう、私にはどうすれば良いのかがまったく分からない。

 

 ババアが心配する気持ちは分かる。

 でも、その心配で私が割りを食うのはおかしいと思う。

 

 それなのに、そんな不満をぶちまけるのも間違っている。

 

 そもそも私が弱いのがいけないからだ。

 

 ババアの心配を消し飛ばすような力が私にあればそもそもこんな問題は起きていない。

 

 強くならないと。

 でも、どうやって?

 

 ぐるぐるする思考で頭を悩ませながら、いたずらに時間だけが過ぎていく。

 

 もう、そろそろ一週間くらいか。

 

 らしくないよな。

 こんななよなよしているのは私じゃない。

 

 不安を押し付けるように、私は枕に顔をうずめる。

 

 ムフー。枕は最高だー。

 もうすべてを忘れて寝よう。

 

 ......ガチャ。ガチャ。

 

 そのまま再び不貞寝をしようとした私の耳に、扉の方からそんな音が届いた。

 

 誰かが扉を開けようとしているようだ。

 

 誰だ?

 

 鍵を持っていることを考えると、私とそれなりに親しい人だろう。

 

 そんな人に私の凋落を見られる不安と、その人に救いを求める期待が私の脳裏で交錯する。

 

 そのせいで身動きが取れていない間に、無情にも扉は開けられた。

 

「エミリー」

 

 現れたのはババアだった。

 

 その顔はどこまでも真摯であり、呆れや侮蔑の色はまったく見られない。

 

 そのことを確認した途端、どこかほっとする自分が嫌になる。

 私はいつもこうしてババアに甘えてしまう。

 

「ほっといてよ。忙しいんでしょ」

「ああ、忙しい。だから、手っ取り早く要件を済ませよう」

 

 手っ取り早く済ませる?

 私を説得しに来たんじゃないの?

 

「あうっ!」

 

 そう困惑していると、いきなり首根っこを捕まれてベッドから引きずり出された。

 

 そのまま、私は床に放り投げられる。

 

 うぅ、愛しの布団離れていくぅ。

 さ、寒いぃ!

 

「そうやってくすぶっている暇があるのなら少しでも強くなる努力をしろ」

 

 私を見ることもなく、私の布団を畳みながらババアは話す。

 

 一見投げやりにも見えるその態度に、私は強い思いやりを感じていた。

 久しぶりに人と関わって、心細かった私は救われた。

 

 しかし、それでも私はババアの言葉に納得できない。

 気持ちだけで強くなれたら誰も苦労しないからだ。

 

「新しい魔法を考えるなり、既存の魔法を練習するなり、やることはいくらでもあるはずだろ。それに、勇者もいる。何のためにパーティーを組んでもらったんだ」

 

 ああ、もう全部正論すぎて耳が痛い!

 

 確かにルーカスにあれこれ教えてもらえばこのスランプから脱却できる。

 

 一人では迷走していた魔法の修行もいい方向に向かっていくだろう。

 

 でも、それは何だか申し訳ない気がする。

 

 迷惑をかけるルーカスにも、私と同じように伸び悩んでいる他の冒険者にも。

 

 それに、ルーカスにお守りされたくないからとルーカスを頼るのは、何だか本末転倒の気がする。

 

 しかし、そんな私の思いは、ババアが続けて発した言葉にかき消された。

 

「できないんなら受付嬢に専念するか、実家に帰れ」

 

 布団を畳み終えたババアは、未だに尻餅をついたまま言葉を返せずにいる私を真っすぐ見下ろす。

 

 その視線は冷たいようで、暖かい。

 こんなに親身になって気遣ってくれる人、他にいるだろうか。

 

 そんなババアの言葉を胸の内に反芻する。

 

 冒険者を続けるか、やめるか。

 

 考えてみれば、冒険者の傍ら私に受付嬢をやらせたのは違う道を提示するためだったのか。

 冒険者をやらなくても王都で生きていけるのだと。

 

 でも、そんなのは嫌だ。私は冒険者を続けたい。

 

 それは幼いころに抱いた両親への憧憬であり、ギルドで出会ったみんなへの感謝であり、冒険者になると決めた私自身への責任である。

 

 そんな思いが複合的に合わさって、今の私を突き動かす。

 今更引き返すなんて有り得ない。

 

「......嫌だ。私は冒険者を続ける」

「そう。頑張れ」

 

 座り込んでいる私の頭を軽く撫でて、そのまま出ていくババア。

 

 忙しいのは本当のようだ。

 

 うん。これ以上迷惑はかけられない。

 

 使えるものは何でも使って、どうにか立ち直らないと。

 

 私は覚悟を決めて立ち上がり、髪を整えて着替える。

 

 久しぶりに漆黒のローブに袖を通すと少し前向きな気持ちになれた。

 

 ようやく準備を終わらせて、鏡の前に立った私は両手でパンパンと顔を叩く。

 

 よーし。

 私は大魔王エミリー=チューニだぞ!

 

 どんな困難だって乗り越えてみせる!




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