【完結】自称魔王ちゃんのごっこ遊び   作:千歳ふい

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スランプから立ち直る女の子っていいよね


第13話

 意気揚々と向かった一週間ぶりのギルドは何だかいつもよりに静かで居心地が悪かったが、それも最初のうちだけだった。

 

 みんなすぐに活力を取り戻して、話し声が徐々に重なってゆく。

 

 何だったんだろう。

 まさか私を心配していたのか?

 

 いや、そんなわけないか。

 

 それはともかく、私は今日ギルドに来た目的であるルーカスを探した。

 

 しかし、そううまくはいかなかった。

 あちこち歩き回って併設されている酒場も探し回ったが、ルーカスの姿はどこにもいなかった。

 

 まぁ、それもそうか。

 

 ルーカスはあの勇者さまだ。

 そう都合よく現れないか。

 

 出鼻をくじかれて、しょんぼりと肩を落とした私は受付のカウンターに向かう。

 

「おはようございます。Aランクのエミリーですけど、指名の依頼は来ていますか?」

「っ! エミリーさん。ただいま確認いたしますので少々お待ちください」

 

 おっ!

 図らずもまたミラちゃんの列に並んでしまったか。

 

 私の顔を見て少し驚いたミラが、そそくさと奥に向かう。

 

 ふふ、真面目だね。

 

「お待たせしました。エミリーさんに指名の依頼は来ておりませんが、伝言は預かっております」

 

 数分後、帰ってきたミラにそう告げられた。

 

 その表情は晴れやかで、私がスランプから立ち直ったことを喜んでいるようだ。

 

「伝言って?」

「ルーカスさまより、西の平野で待っているとのことです」

 

 ルーカスが......。

 

 わざわざ伝言を残すなんて、そこまで私のことを気にかけてくれていたのか。

 

「うん。分かった。行ってくる」

「ええ、行ってらっしゃいませ」

 

☆★☆★☆

 

 久しぶりに来た平野は日に照らされており、草花が風に揺らめいている。

 目を凝らせば遠くに馬車がゴトゴト走る姿も確認できる。

 

 疲れを忘れさせる平和な景色だ。

 

 しかし、その一角では時折爆発音が上がり、空気が振動する。

 

 その中心には、険しい顔をした男が一人。

 

 ルーカスだ。

 

「『ファイヤーボール』!」

 

 ルーカスは手をかざし、空に向かって魔法を打ち上げる。

 

 勢いよく飛び出た火の玉は徐々に失速し、やがて空中で分解する。

 さながら花火のようだ。

 

 そんなことを私が着いたときからずっと、繰り返している。

 

「それ、いつまでやるの」

「......納得するまで」

 

 我慢できずに声をかけると、ルーカスはようやく私を見た。

 

 その顔に浮かべているのはいつもの無表情ではなく、呆れ顔でもなく、不思議に思う気持ちと尊敬の念が混じったような初めて見る顔だ。

 

 いくら未熟な私でも、さすがにルーカスが何をやろうとしているのかは分かる。

 

 魔法を制御する練習だ。

 それも私と同じように『ファイヤーボール』でやろうとしている。

 

 しかし、見る限るあまりうまくは行っていない。

 

 ルーカスの『ファイヤーボール』は勢いも、大きさも私のものより優れているが、肝心の軌道はどれも真っすぐ飛んでいくだけ。

 

 制御できている兆しはまったく見られない。

 

「驚いた。勇者にもできないことってあるんだ」

「ああ。勇者になっても所詮は人間だ。得意不得意くらいあるさ」

 

 確かに、言われてみればルーカスは前衛で、魔法はあまり得意ではなさそうだな。

 

 まぁ、それでも地力が違いすぎるせいで魔法使いとしても通用する腕前ではあるけど。

 

「それに、これに関してはもう得意不得意の話ではない。凄腕の魔法使いでも魔法の制御はなかなかできないだろう」

 

 そんなルーカスの言葉を受けて、私は耳を疑った。

 

 え?

 そうなの?

 

 私は案外すんなりとできたよ?

 

「ギルド長からエミリーが色々伸び悩んでいると聞いた」

 

 私はまだ先ほどの言葉に困惑しているのに、ルーカスは広々とした平野を眺めながら話題を変えてしまった。

 

 いや、今までのが前触れでここからが本題なのか。

 

「まぁ、そうだね。強くなるビジョンが浮かばない」

 

 これまで行き詰ったときには地道に努力をすることで乗り越えてきた。

 

 魔法の練習、戦術の見直し、装備の一新。

 さらには先輩によるアドバイスやギルドの資料室での調べもの。

 

 だが、それは所詮Bランクまでの話。

 

 Aランクにはもっと特殊な何かが必要なのだろう。

 常人を超越した何かが。

 

 私は、自分のそんなありきたりの悩みをルーカスに伝えた。

 

 果たしてルーカスには分かるのだろうか、こうした弱者の悩みを。

 

「俺が思うに、エミリーの才能は魔法の制御にある。他の追随を許さないほどの才能だ。だから、身体能力や魔法の出力を鍛えるよりは、その才能を活用する方法を模索するべきだ」

 

 ルーカスのアドバイスを聞いて、私は少し落胆してしまった。

 

 強者による暴論だと感じたからだ。

 

 仮にこの制御が本当にとんでもない能力だったとしても、弱者には宝の持ち腐れだ。

 

 へなちょこな魔法をいくら制御したところで、余興にしかならない。

 

 才能があって初めて努力できるものだよ。

 

「活用って、いくら軌道を指定できても肝心の魔法が火力不足なら何も意味ないでしょ?」

「何でデビルスライムを討伐しただけでいきなりAランクだと認められたのか、分かるか?」

 

 私が抱えている問題を勇者にぶつけると、なぜかルーカスは質問を質問で返してきた。

 

 え?

 いきなり何の話?

 

 そんなのAランクの依頼を達成したからでしょ。

 

「あの突然変異したデビルスライムは厄介な敵だった。核を突けば一撃で倒せるとはいえ、無数の触手や粘液を全方位に展開できるからな。純粋な強さはさておき、求められていた技量はまさしくAランク冒険者のものだ」

 

 あの日のことを思い出すためか、遠くを眺めていたルーカスは目を細めながら話を続けた。

 

「そもそもああいう手合いの魔物は一人が前から攻撃して、もう一人が後ろから攻撃する作戦が基本だ。それをお前は一人でやってのけた。だから認められた」

 

 そんなルーカスの説明を聞いて、私はババアの態度がすごく腑に落ちた。

 

 あのスライム、それほど厄介な敵だったのね。

 わけも知らずにはしゃいでいた自分がバカみたいじゃん。

 

「火力が低くても、状況によってはジャイアントキリングが可能だ。その状況を整えるのが、お前のやるべきことだ」

 

 一度言葉を切ったルーカスは私に視線を移した。

 

「俺を川に落としたときもそうだったろ。弱点を特定して、それを突く。基本中の基本だ」

 

 耳に痛い言葉だ。

 何で失念していたのだろう。

 

 弱者の戦い方を、強者に言われるなんて......。

 

「それに、魔法の制御は応用も効く。他人が放った魔法を制御したり、アイテムを駆使して弾幕を張ったり、色々できるかもしれない」

 

 確かに。長所を伸ばすってことね。

 

 うん。色々やってみる!

 

「さ、後はお前次第だ」

 

 私が頷いたのを見て、ルーカスは身を翻す。

 

 え? もう帰るの?

 もしかしてここにいたのは私にアドバイスするためだけなの?

 

 いや、私ずっとひきこもってたし、いつ来るのかも分からなかった。

 多分何かの用事を済ませたついでだろう。

 

 去っていくルーカスを尻目に、私は空を仰いだ。

 

 雲一つない快晴の空。

 

 それは努力する方向を見つけ、悩みが吹き飛んだ私の心のように澄み渡っていた。

 

☆★☆★☆

 

 ルーカスが去った平野で、私は改めて私の才能、魔法の制御と向き合った。

 

 状況が整えば一撃必殺の武器にもなりえる、そんな能力に。

 

 振り返ってみると、かつてはちょっと右に逸らすといった程度の制御しかできなかった。

 それなのに、今は加速や旋回などより高度の制御ができるようになっている。

 

 練度を上げていけば、もっとたくさんのことができるようになるかもしれない。

 

 まだちょっと現実味がないけど、私にはこんな武器がある。

 

 誰にもない、私だけの武器が。

 

「『ファイヤーボール』」

 

 勢いよく飛び出た火の玉が蛇行し、加速する。

 最後に地面に衝突し、土埃が宙を舞う。

 

 意のままに火の玉は動く。

 

 私にとっての当たり前。

 

 安易に人を強者だとか弱者だとかに分類するのは愚かだった。

 人にはそれぞれの当たり前があるのだから。

 

 私には私の戦い方がある。ただそれだけだ。

 

「『ファイヤーボール』」

 

 思考を張り巡らせる。

 私の舞台は、どうなっているべきなのか。

 

「『ファイヤーボール』」

 

 感性を研ぎ澄ませる。

 私の敵は、どんな特徴を持っているべきなのか。

 

「『ファイヤーボール』」

 

 心を落ち着かせる。

 私の冒険には、どんな準備が必要なのか。

 

 日が暮れるまで、そんな構想を練り続けた。

 

 私の、Aランク冒険者としての、本当の出発点だった。




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