【完結】自称魔王ちゃんのごっこ遊び   作:千歳ふい

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恥ずかしさを誤魔化す女の子っていいよね


第14話

 Aランク冒険者としての新生活は順調に滑り出した。

 

 あれから、私は己の強みを発揮するために自分を改めて見つめ直した。

 

 何が得意か、何が不得意か。

 自分の能力を活かし、欠点を補うためには何が必要か。

 

 そのために修行を重ね、戦いの準備に奔走した。

 

 そのおかげで、Aランクの依頼もある程度自力でこなせるようになってきた。

 

 意外だったのは、ババアがすんなりと私を認めてくれたことである。

 てっきりまた反対してくるのかと思っていただけに拍子抜けた。

 

 ルーカスに関しては、あの後も数回依頼に出てあれこれ教えてもらった。

 私の知らない魔物や環境を解説する姿は、まさしくベテラン冒険者のものだった。

 

 色々な人に支えられた私は急激に成長することができて、瞬く間に一人前のAランク冒険者となった。

 

 それでも期間限定だったはずのルーカスとのパーティーは既成事実としてそのまま残しているけど。

 ルーカスもあまり気にしてはいないのか何も言ってこないしいいよね。

 

 というわけで順風満帆な冒険者ライフを満喫しているエミリーでございます。

 

 くせ者の多いAランク冒険者たちが受けたがらない煩雑で報酬の悪い依頼を積極的に受けた結果、今や王都のギルドで頼りになる戦力として一目置かれるようになった。

 

 そのせいで受付嬢として頼られることがなくなったのは少し寂しいけど。

 

 まぁ、それも成長の一部だと受け入れてポジティブに捉えている。

 

 さてさて、今日も冒険日和ですね。ひんやりと気持ちいい微風が肌を撫でる良い朝だ。

 

 上機嫌に鼻歌を歌いながら私はギルドに入る。

 

 しかし、ギルドの中では何だかいつもと雰囲気が違う。

 具体的に言えば空気が妙にピリピリしている。

 

 うん? 何かあったのかな?

 

 もう一度ギルド内を見渡してみる。

 

 受付嬢はひそひそと互いに何かを話しているし、冒険者たちはテーブルに集まって何かを熱く議論している。

 

 どれも当たり前の風景だが、よく観察すると違和感の正体に気づいた。

 

 笑い声が聞こえないことだ。

 

 危険な仕事を行っている冒険者たちは後悔のないよう、今を楽しむ。

 だからよく騒ぐし、よく笑う。

 

 一方、そんな陽気な奴らでも落ち込むことがあり、そのときはとことん黙り込む。

 

 しかし、今回はどこか異常だ。

 静かにしているわけでもないのに、騒いでいるわけでもない。

 

 いつものギルドから、笑顔だけが抜け落ちたかのようだ。

 

「おはよう、みんな。どうしたの?」

 

 不気味に思いつつも私は顔なじみな冒険者たちに近づていく。

 

 すると、彼らは白熱した議論を中断させ、私を輪に入れてくれた。

 

「何だ、エミリー、知らないのか?」

 

 そう言って新聞を見せられる。その一面には、でかでかとこう書かれていた。

 

『魔王、出現か』

 

 え?

 

 私、いつの間にそんなに有名になったの?

 いや、そんなまさか。

 

 一瞬ドキッとしたがすぐに思い直した。

 

 ごっこ遊びをやっただけで新聞に載らないよね?

 

「何でも北の国に魔王が現れたらしいんだ。まだ噂でしかないけどな」

 

 ああ、やっぱり私じゃない。

 

 そんな安堵と落胆を私は密かに味わっていたが、今はそれどころじゃなかった。

 

 魔王? マジ?

 

 私がいまいち事態を飲み込めなかった。

 

 魔王の出現はよく陰謀論に使われる題材だし、魔王を自称する人間は後を絶たない。

 

 しかし、これほど大々的に報道されたことは未だかつてなかったはずだ。

 

 いや、まだ噂でしかないんだ。

 何とでも言えるだろう。

 

 それより、噂の出処はどこだろう?

 

「噂でしかない? つまり何も確証はないってこと?」

「ああ、姿を見たものはいないらしい。あるいは目撃者が全員始末された可能性もあるがな。ただ、魔王が現れたって確信している人が急激に増えているみたいだ」

 

 何だそれ。

 誰も知らないのに何に確信しているんだ。

 

「むぅ。そんなんで噂になるのなら王都にもいるじゃん、魔王かもしれない人」

「うん? 誰だ?」

 

 私だよ!

 

 くそ、何でそんな不思議そうな顔をしてんだよ。

 いつも魔王って名乗ってるだろうが。

 

「......一応聞くけど、私魔王を名乗ってるし、実際勇者にも勝ってるじゃない? 魔王じゃなくても魔王の卵にはなるんじゃないの?」

「うん? ああ! エミリーは大魔王だもんな。いいと思うよ、大魔王」

 

 こいつ、何だよ。

 むかつくな!

 

 おいこら、他のやつらも便乗するな!

 

 抵抗虚しく、悪ノリした冒険者たちによる大魔王コールが沸き起こる。

 

 北の魔王など忘れて、ギルドはいつもの活気を取り戻す。

 

 そんな中で、私は顔を真っ赤にして俯く。

 

 なんだろう、確かに自分から大魔王を名乗ってきたけど、これは違うよなぁ。

 

 明らかに自分を大魔王だとは思っていないやつらに呼ばれると、自分のバカさ加減をまざまざと見せつけられている気がするんだよ。

 

「いい加減にしろてめぇら! そろそろ働けよ!」

 

 そこに呆れたと言わんばかりにババアは怒鳴りこむ。

 それを聞いた冒険者たちの騒ぎはようやく終息する。

 

 やれやれ、ノリが悪いなぁ。

 そんなんだから鬼ババアだとか言われるんだよ。

 

「ま、まぁ。みなさん、働きましょ?」

 

 ギルドが微妙な空気になりつつある中、模範的な冒険者である私は率先して依頼を受けに行く。

 

「ああ、エミリー。悪いけどしばらくは受付をやってくれないか? ちょっと人手不足でねぇ」

 

 しかし、ババアは私を呼び止めて、あろうことか私に受付嬢をやらせようとしてきた。

 

 まったく、どうしようもないなぁ。

 

「ま、まぁアンナさんがそういうならやらないことはないけど、私はもうAランクだよ? 受付なんてやらせていいのか?」

「ああ。助かる。頼んだぞ」

 

 そう言ってババアは執務室に帰る。

 

 本当にいつも忙しいなぁ。

 

「あら? エミリーちゃん手伝ってくれるの?」

 

 たまには労ってやろうかと考えながらババアを見送っていると、顔見知りの受付嬢が近づいてきて私に声を掛けてくれた。

 

「おう。特別に、手伝ってやるぜ!」

「いいわね。じゃ、こっちでお着替えしましょうね~」

 

 よーし!

 久しぶりの受付、張り切って頑張るぞー!

 

☆★☆★☆

 

「エミリーちゃん、この依頼受けさせてくれや」

「帰ってきたわよ、エミリーちゃん。査定をお願い」

 

 むふふ。

 私は慌ただしくも楽しい受付嬢ライフを満喫していた。

 

 どういう形であれ、頼られるのはやはり気持ちがいい。

 

 そんなことを思いながら職務を忠実に果たしていると、気づけば一週間が過ぎていた。

 光陰矢の如しとはまさにこのこと。

 

 一日中ギルドにいられて、ずっとギルドの人たちと戯れる生活はとても充実していて楽しい。

 

 みんなも私がギルドにいてくれて感謝しているし、最高だ。

 

 しかし、やはり魔王の件は無視できない。

 

 噂の真相を確かめるために数多くの偵察依頼が出され、情報がギルドに集約してきた。

 

 未だに噂の真相は謎に包まれたままだが、どうやら異変が起きているのは本当のようだ。

 

 北を中心に魔物の凶暴化や大移動などの異常行動が観測されているし、見たわけでもないのになぜか魔王の存在を確信する人がより一層増加している。

 

 こうした現象は人々の心をざわつかせ、不安を煽る。

 

 六十年ぶりの魔王。

 そのことがどんどん、現実味を帯びてきた。

 

 魔王の出現はこの数十年間、よく物語や演劇に使われるトピックだ。

 

 そうしたお話の中で登場する魔王は大抵偉大で寛容な魔王が多かったが、中には残虐で貪欲な魔王を描く物語もある。

 

 果たして、現実世界に現れた魔王は、どんな魔王なのか。

 

 憶測が憶測を呼び、雪だるま式に不安は膨れ上がる。

 

 今日も不穏なニュースが入ってきた。

 

 何でも北の方でオーガが縄張りから出て暴れているらしい。

 

 そんなこと、滅多にない。

 

 オーガは強い上に、群れる。

 だから彼らが縄張りを放棄するのは資源が乏しくなったか、とてつもなく強い存在から逃げる場合だけだ。

 

 考えたくない可能性を直視せざるを得ない。

 

 魔王は、出現した。

 

 いや。

 別に魔王が悪いやつだと決まっているわけではない。

 

 もしかしたらルーカスと同じように親切な人かもしれない。

 

 それに、伝承によると、むしろそっちの可能性の方が大きい。

 

 みんな、大げさなだけだ。




2000UA、ありがとうございます!
ここからシリアスな展開が始まり、物語は徐々にクライマックスに向かっていきます。

また、本日より17時の1日1回更新にさせていただきます。


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