【完結】自称魔王ちゃんのごっこ遊び   作:千歳ふい

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旅に出る女の子っていいよね


第16話

 ミラとの語らいは深夜まで続き、帰ろうとしたミラを引き留めて私たちは寝床をともにした。

 

 二人きりの時間は穏やかで、あらゆる不安を忘れさせる。

 

 しかし、楽しい時間はいつもあっという間に過ぎ去るものだ。

 

 いつまでもここでぬくぬくしていると、決意が鈍ってしまう。

 

 早朝、すやすやと眠るミラを横目に私はこっそりベッドから抜け出し、着替えを済ませ荷造りをする。

 

 この旅は依頼ではなく、未知も多い。

 

 それでも、やらねばならない。

 少しでも異変の解決に役立つ情報を集めたい。

 

 私は強く、憧れの先輩でいたい。ミラの憧れを裏切らないために、私は今、ミラを裏切る。

 

 でも、それは今だけだ。

 事が済めば、私は戻ってくる。

 ミラとの楽しい日常に。

 

 だから、許してくれ。

 こんなわがままな先輩でごめん。

 

「先輩」

 

 いよいよ出発するとき、私を呼ぶ声がした。

 

 振り返れば、ベッドからのそのそと身を起こすミラがいた。

 

「......行ってらっしゃい」

 

 もう多くは語らない。

 ただ無事に帰ってきてほしいと、そう言外に伝えられた気がした。

 

「おう! 行ってきます!」

 

☆★☆★☆

 

 妙にソワソワしながら私は北に向かって出発した。

 

 色々と不安はあったけど、それでも私は無意識に魔王の出現に浮かれていたのかもしれないな。

 

 だって、何だかんだで六十年ぶりの魔王だ。

 

 どんな形であれ、私は歴史の節目に立っている。

 この瞬間を目に焼き付くように私は旅を続けた。

 

 ルーカスとどこかで合流できればよかったのに、彼は彼で行方知れずだった。

 だから仕方なく、私は一人で北へ北へと進み続けた。

 

 話には聞いていたが、訪れる町々はいつもと同じように見えていつもと違う。

 

 どこか落ち着きがなく、活気がないのだ。

 

 町に入れば明らかに人通りが少なく、閉まっている店舗が多い。

 冒険者はみな駆り出され、王都と違ってCランク冒険者をそれほど抱えていない地方のギルドは閑散としていた。

 

 どこを見渡しても、非常事態だと感じる。

 

 そして、いつもと違うのは人間だけではない。

 魔物はおろか、動物さえもいつもとは違う。

 

 動物は逃げ隠れ、魔物は殺気立つもどこか心ここにあらずの様子だ。

 

 彼らも、何かを感じているのだろう。

 

 これほどなのか、魔王の影響力は。

 

 実際に肌で感じると、その圧倒的な存在感をしっかりと認識できる。

 

 まだ姿を見せておらず、力を振るっていないというのに。

 存在しているだけであらゆる生物の営みを歪める。

 

 これで、魔王が邪悪な考えを持っているのなら確かに世の終わりだな。

 魔王が善良な人である可能性もあるというのに、世間がざわつくわけだ。

 

 そんなことを考えながら北に進み続けること二週間。

 

 人里から遠く離れた不気味な程静かな森を抜けて、異様な雰囲気に包まれた荒野に私は出た。

 

 見渡す限りの荒れ地で、大きな岩があちこちに点在している。

 

 生き物の痕跡は、まったく見られない。

 

 この場所はかつて大きな戦があったらしく、今でも兵士たちの怨念が漂っていると噂されている場所だ。

 

 しかし、今感じるのはそんな生ぬるいものではない。

 

 もっとおぞましく、厳かな雰囲気。

 すべてを飲み込み食らいつくすような覇気だ。

 

 遺跡で感じた巨大デビルスライムが醸しだす雰囲気とはまるで違う重たい空気。

 

 よく晴れた昼下がりなのに、まるで分厚い雲が太陽を覆い隠しているかのように、空はどんよりとしている。

 

 こうした事実を認識した途端私は怖気づいて、息が苦しくなった。

 水中にいるように身体の動きが鈍くなる一方で、ドクンドクンと自分の鼓動を鮮明に感じる。

 

 間違いない。魔王は、ここにいる。

 

 私の直観が、そう訴えかけていた。

 姿も確認されていないのに、魔王の存在を確信する人が続出するわけだ。

 

 この圧倒的な存在感は、魔王以外にあり得ない。

 

 それにしても、まさか数多の冒険者やルーカスに先駆けて、私があっさりと見つけてしまうとは。

 まだ誰も姿を見ていない、謎に包まれた魔王を。

 

 ふぅ。大丈夫だ。

 

 別に戦うわけじゃない。

 ちょっと顔を盗み見るだけ。

 

 私はそんな風に自分を落ち着かせ、旅の目的を果たすために遠見の魔法を展開する。

 

 遠見の魔法は目視できる範囲に限り、対象を拡大し具に観察する便利な魔法である。

 

 こういう場合にはうってつけの魔法だ。

 

 さーて、凶と出るか吉と出るか。

 どこだろう、魔王。

 荒野はかなり広い。

 

☆★☆★☆

 

「こーんにちは。のぞき見とは、感心しないわね」

「っ!」

 

 しばらく荒野を探し回っていると、いきなり背後から声を掛けられた。

 身体がビクッと跳ねて心臓が飛び出るのかと思った。

 

「ふふ、まさか会いに来てくれるなんて」

 

 振り返ると、黒髪を長く伸ばし、黒いドレスに身を包む上品な佇まいをした魔族の美人が立っていた。

 笑顔なのに、頭上の立派な角と怪しく光る赤い瞳がなんとも恐ろしい。

 

 どこから現れたの? 転移?

 

 でも転移はそんな使い勝手の良い魔法ではない。

 予め魔法陣を刻む必要があるからだ。

 

 数多くの疑問を感じながらも、私は彼女が漂わせる強者のオーラに圧倒された。

 

 ......これが、魔王か。

 

 本物の魔王を認識した私は、乾いた笑みを零した。

 

 私の活動は、本当にただのごっこ遊びだったな......。

 

「妾も会いたかったわよ、エミリーちゃん」

 

 魔王が続けて発した言葉を聞いて、今度は心臓を鷲掴みされたのかと思った。

 何で、私の名前を?

 

 そう聞こうとしても、口は金魚にようにパクパクするだけで喋ってくれない。

 

「うふふ、その顔、いいね。もっと見せてね」

 

 魔王は近づいてくる。

 一歩一歩。

 

 それでも、私の身体は硬直して動けない。

 

 やがて顔を両手で掴まれて、至近距離で顔を覗き込まれた。

 向こうの方が頭一つ分背が高いため、その恐ろしいほどに整った顔を見上げる形になる。

 

「うふふ、涙目になっちゃって可哀想。さぁ、泣かないで。別に取って食うわけじゃないわ」

 

 優しい笑顔なのに、心臓が止まりかける。

 魔王の深い瞳が私を深淵へと誘う。

 

「あなた、魔王を名乗っているみたいじゃない? 北の方まで噂になっていたわよ? 南に魔王を名乗るAランク冒険者がいるって」

 

 うそ、噂になってたの?

 

 じゃあ、もしかして自分を差し置いて魔王を名乗る不届きものの始末に来たのか?

 

「ああ、今思い出してもゾクゾクするわ。初めてあなたを遠見の魔法で覗いたとき、妾は一目ぼれしたの」

 

 へっ? 一目ぼれ?

 

 てか待って。

 北の大地にいながら遠見の魔法で王都の様子を覗いていたってこと?

 

 そんなの遠見の魔法じゃないでしょ。

 聞いたことないぞ、そんなでたらめな魔法。

 

「ただ勇者を覗いていただけなのに、あなたが突然現れて、おかしなごっこ遊びを始めるんだもの。妾はすぐに魅了されたわ。運命だと思わない?」

 

 私を初めて覗いたときって、もしかして私が初めてルーカスに魔王ごっこを吹っ掛けたとき?

 

 その姿に一目ぼれしたってこと?

 

 その考えに至った私は、全身に鳥肌が立つのを感じた。

 

 私がルーカスに目を付けたとき、魔王も私に目を付けたというわけか。

 

「あなたの賢いところも、馬鹿なところも、ひたむきなところも、優しいところも、素直になれないところも、強いところも、弱いところも、ぜーんぶ素敵よ」

 

 話しながら、私の頬を愛おしそうに指で軽く撫でた魔王は恍惚の表情を浮かべた。

 

 一体どれだけ覗いてたんだ、この変態。

 

「ああ、まさかこんなに面白い娘を見つけられるなんて。我慢できなくて屋敷を飛び出してきたのよ? あなたに会うために」

 

 私に会うために?

 

 その一言を聞いて、疑問は尽きないのに、私はあまりのショックで言葉を失った。

 

 それじゃまるで、私の魔王ごっこが異変のもとになっていたみたいじゃないか。

 

 魔王ごっこをやったから魔王に目を付けられ、私に会うために魔王は表舞台に姿を現したと。

 

 勇者であるルーカスですら見つけられないのに、私だけあっさりと魔王を見つけられたのってそもそも目的が私だったから?




ようやく魔王の登場です。
ドS魔王にロックオンされたエミリーちゃん可哀想~


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