【完結】自称魔王ちゃんのごっこ遊び   作:千歳ふい

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尊大な態度を取っているのに裏ではめちゃくちゃ努力してる女の子っていいよね


第2話

 世直しの決意をしてから数週間、私はとてつもなく忙しくなった。

 

 特別でもなければ有名でもない私が勇者をぎゃふんと言わせられれば自ずと人々の注目が集まる。

 

 さらに話が広まればゆくゆくは世の中に大きな影響を与えられるだろう。

 

 しかし、勇者との戦いは一筋縄ではいかない。入念な準備を行う必要がある。

 

 彼を知り己を知れば百戦殆ふからず。

 

 臨時の受付嬢であり、Bランク冒険者でもある私は受付嬢の職権や冒険者としてのノウハウを駆使して情報を集め対策を立てた。

 

 勇者の行動パターンの観察、使用する装備やアイテムの把握、そして達成した依頼や冒険者の噂話による勇者の性格や戦い方の考察。

 

 こうした情報をもとに私は戦術を練り、装備を整え自分に一番有利となるようなシチュエーションを考え抜いた。

 

 その上で何度も何度も脳内で勇者をボコボコにするシミュレーションをしてきた。

 

 しかし、それだけでは足りない。

 なぜなら私の目標はあくまでも世直しであって、勇者を倒すことではないからだ。

 

 つまり、ただ勇者に勝つのではなく、大衆に注目されて勝つ必要がある。

 

 そこで出てくるのが、幼き私が今の私に残してくれた種、魔王ごっこだ。

 古来より勇者と競う者といえば魔王と相場が決まっているからな。

 

 だから、私が辿るべき道筋はこうだ。

 

 ・私が派手に魔王ごっこをして注目を集める。

 ・勇者に喧嘩を売って実際に勝つ。

 ・私がさらに魔王ごっこをして印象を深める。

 

 我ながら完璧な作戦だ。

 

 幸い、ここ六十年くらい魔王は不在であった。

 

 勇者はいるのに魔王だけいない状態が長く続けば、人々は自ずと魔王の出現に期待するものだ。

 

 実際、もうそろそろ新しい魔王が出てくるのではないかとの噂も流れている。

 

 だから、私が勇者に勝つことができれば、魔王ではなくとも魔王の卵くらいには思ってくれるはずだ。

 

 くくっ、待っていろ勇者!

 ふんぞり返っていられるのは今のうちだけだぞ!

 

 そんな思いを胸に、私は戦いの準備を進める傍らに魔王ごっこの練習にも励んだ。

 

 残念ながら幼い頃の小道具や衣装はもう残っていなかったし、お金もなかった。

 

 だから、代わりに普段使いしている鼠色のローブに黒いマントと指ぬきグローブを加えるだけで妥協し、あとは私の演技力で補うことにした。

 

 思っていた以上に私に演技の才能があったのか、魔王ごっこの練習は驚くほど順調に進んだ。

 

 正直衣装を纏って不敵な笑みを浮かべるだけですごく様になるからね。

 

 おかげで増々私は調子づき、最初は恥ずかしかった魔王ごっこも今はノリノリでやれるようになった。

 

 そんな魔王ごっこを欠かさず毎日行ってきた結果、私は子供時代よりはるかにレベルの高いごっこ遊びをするようになった。

 

 まぁ、目的意識がある分上達が早いのかもね。もう徐々にプロ意識まで芽生えてきたもん。

 

 魔王ごっこを再開してから格段に見る機会が多くなった自室の鏡の前に立つと、途端に気が引き締まる。

 

 ごっこ遊びとは言うが、私は行っているのは決して遊びではない。

 れっきとした戦の準備だ。

 

 さて、そんなよくある勘違いを否定しながら、私は今日も今日とて魔王ごっこに勤しむ。

 

 杖を掲げてマントを靡かせ、凛とした表情で胸を張る。芯の通った強い声に堂々とした仕草。フワッと舞い上がる長い赤髪に存在感を主張する漆黒の角。

 

 長身ではないがチビでもない身長をブーツで水増し。紅い瞳に火を宿すつもりで鋭い眼光を浮かべる。

 

 うん、鏡に写る私は最高にかっこいい!

 

「フハハハハ、魔王エミリーである!」

「会えてうれしいぞ勇者よ!」

「食らえ、上級魔法『インフェルノストーム』!」

 

 よし! 今日もばっちり!

 まだまだ行くぞー!

 

「必殺『ドラゴンブラスト』!」

「秘儀『フレイムリザレクション』!」

 

 フハハハハ!

 今ならどんな敵でも薙ぎ倒せる気がする!

 

☆★☆★☆

 

 あれよこれよとしている間についにやってきた決戦の日。

 

 あらゆる準備を済ませ、より一層演技に磨きがかかった私は通常より早起きした。

 

 着心地と動きやすさを重視するローブの上に黒いマントを羽織り、初冬の肌寒い空気を物ともせずに意気揚々とギルドに向かう。

 

 今日はババアが出張でいないから絶好の宣戦布告日和だ!

 あの腐れ勇者め、目に物を見せてやる!

 

「たのもー!」

 

 大声を出しながら冒険者ギルドの扉を全力で開くと、広いギルドのホールを埋め尽くしていた有象無象どもが一斉に私を見た。

 

 しかし、私は眼中にないと言わんばかりにそんなやつらを無視した。

 

 驚きが困惑に変わっていく中、私は唯一振り向かなかった人、即ち勇者に向かってずかずかと歩いていく。

 

 勇者は今日も金髪をきれいに整えていて、クールに何かを思案しているようだ。

 そして、勇者オーラなのかは知らないが勇者の周りには誰もおらず、逆に目立っていた。

 

「エミリーちゃんどうしたの? というか何その格好?」

 

 いつもお世話になっている受付嬢が話しかけてくるが無視だ。

 今更この格好を指摘されても鋼のメンタルを身に着けた私は動揺しない。

 

 視線を定めて背筋を伸ばし、まっすぐ歩みを進める。

 

 やがて勇者のテーブルに着くと私はマントを靡かせて勇者の傍で仁王立ちをした。

 

 剣呑な雰囲気を感じ取ったギルド内で談笑が止み、四方から注目される。

 

 うぅ、何だか見られすぎてムズムズするな。

 

 それにしても、こんな状況の中でも私を一瞥すらしないとは、相変わらずいけ好かないやつだな勇者。

 

 ふん、私を無視できるのはこれで最後にしてやる。

 

 いざ、尋常に勝負!

 

「我が名はエミリー=チューニ!」

「......うるさい」

 

 明らかに苛立っている勇者にぎろりと睨まれ、一瞬ものすごいプレッシャーを感じたが私はすぐに言葉を続けた。

 

 ふん。

 私が今日のためにどれだけ準備をしてきたことか。

 

 この程度のことで怯む私ではないわ!

 

「うぐっ、えっと、その、とにかく、勇者ルーカスよ、ここで会ったが百年目、われ」

「......昨日もいただろ」

「ええい、いいからしゃべらせろ! 我は魔王なり! 貴様は倒す者なり! 勇者よ、我と勝負しろ!」

 

 立派に宣戦布告をした私に対して、勇者は呆れたように額に手を当てため息をついた。

 

「はぁ、ここ最近俺に付きまとってきたのはこのためか」

「えっ、なんでバレて」

「悪いがガキのごっこ遊びに付き合うつもりはない」

 

 そうきっぱり言い放つ勇者だが、この程度は想定内だ。

 

 尾行がバレていたのは予想外だが関係ない。

 早くも対策の成果を見せるときが来たと、無意識に口角が吊り上がる。

 

「なんだ怖いのか? 勇者とは聞いて呆れるね!」

「......そんな見え見えの挑発に乗るわけ」

「腰抜けが! そんなんだから未だにソロで活動してるんでしょ! 社交性ゼロのかっこつけ野郎!」

「っ! おまえ......」

 

 おっ! 効いてる効いてる!

 あんなに気取っていた勇者が感情を露にして驚いている。

 

「格好つけたくて髪型も一人称も変えてるようだね! これってもしや勇者デビューってやつ?」

「何でそんなことを!?」

「ぷぷっ残念! 髪型を変えてもモテない! 一人称を変えてもモテない! 冒険仲間もいなければ彼女もいない! 何が勇者だ、魔法使いの方がよっぽど向いてるよ!」

 

 賢いエミリーちゃんは勇者の怒りポイントをしっかりと押さえてきたのだ!

 

 冒険者ギルドのデータベースには勇者の駆け出しの頃の記録がばっちり残っていたからね。

 

 パーティーを組もうとしては失敗してきたことも、ぼさぼさヘアだったことも、一人称が僕だったこともぜーんぶ把握済みだ!

 

 さらに独自の調査によって街中でカップルを見かけてはさり気なく悪態づいていたこともリサーチ済み!

 

 ふふ、チェックメイトだ!

 

 悪いなぁ勇者、勝負は始まる前に既に終わっていたのだ!

 

「......いいだろう。無視するとさらに面倒なことになりそうだし、その勝負、受けてやる」

「よーし! では勇者よ、二日後の午前、西の峡谷で待っているぞ。それまで、しばしのお別れだ!」

「はぁ......」

 

 まだ勇者は何かを言いたそうにしていたが、その前に私は颯爽と身を翻した。

 

 まだ準備をすることが多いし、これから戦う相手に話すことなどない。

 

 すべては決着をつけてからだ。

 

 来たときと同じように冒険者たちを無視して、まっすぐ家に帰る。

 

 そもそも私は未だにギルドの寮に住んでいるのだ。

 自室にいたままでは出張から帰ってきたババアにしばかれる。

 

 自室に残してきた荷物を持って早急に寮から離れるためにも、私は浮かれる気持ちを抑えて足早に歩いた。

 

 部屋に着くなりあらかじめ用意した荷物を再度点検し、必要な装備や食料が入っていることを再度確認する。

 

 作業を終わらせた後、私は着ていたマントをも荷物に詰め込んで出発の準備を終わらせた。

 

「ふふ、ふふふ」

 

 ついに計画を実行できることと、ここまで計画通りに事が進んでいることに対して浮かれてしまう。

 

 ニマニマする頬を抑えて、私は気持ちを入れ替えようとする。

 

「落ち着け~。すべてはここからだ。絶対にあの勇者をわからせてやる!」

 

 勇者絶対分からせ隊隊長としての抱負を改めて口にしてから荷物を背負って部屋を出る。

 

 冒険に向かって、未来に向かって、私はついに世界を塗り替えるための第一歩を踏み出した。




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