【完結】自称魔王ちゃんのごっこ遊び   作:千歳ふい

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周りから愛される女の子っていいよね


第20話

「なるほどねぇ。厄介なのに目を付けられたな」

 

 すべてを聞いたアンナさんは、最後にそう言った。

 

 軽い言葉とは裏腹に、その声は若干震えていた。

 

「まぁ、大丈夫だ。エミリーは、決して一人じゃない。だから、そんなに思いつめるな」

「......でも、私」

「刺激を求めたがるのはよくあることだ。でも、だからといって今の生活を否定しているわけでもない」

 

 確かに......。

 

 アンナさんの言葉は、魔王の言葉と同じくらい、いや、それ以上に納得のいくものだった。

 

 私は今の生活が大好きだと心の底から思っている。

 その気持ちが偽りだとは思えない。

 

「まぁ、刺激の求め方に問題がないわけでもないけど、実害があるわけでもない」

 

 私の後頭部を撫でながら遠い目をするアンナさん。

 

 私がやってきたやんちゃを思い出しているのだろうか。

 

「とにかく、エミリーを大事に思う人はたくさんいる。エミリーが傷つくと、みんな傷ついてしまう。だから、あまり自分を責めるな」

 

 そう言葉を締めくくったアンナさん。

 

 ......やっぱりかっこいい。

 いつか、私もアンナさんのような大人に......。

 

「元気出せ! うじうじしている場合じゃない! やることはたくさんあるぞ!」

 

 私がアンナさんのかっこよさに痺れて感動していると、アンナさんは私を元気づけるように明るく声を張り上げた。

 

 それとともに彼女の太ももに座っていた私はくるりと回転され、互いに向かい合う形となる。

 

「まず、その首輪! 一体どうなってるんだ!」

 

 そう言って私の首輪をガチャガチャと弄り出すアンナさん。

 

 しかし、黒光りするごっつい首輪はびくともしない。

 金属でできているのに不思議と重さは感じないし痛くもならない。

 

 そんな首輪としばらく格闘したアンナさんは、やがて諦めてしまった。

 

「こんな首輪見たことないぞ......」

「魔王が自分で作ったって言ってたよ」

「通りで......」

 

 上質な素材で作られた精巧な首輪にはしっかりと私の名前が刻み込まれているらしい。

 

 うーん、益々ペットみたいで惨めだなぁ......

 

「うぅ、これからこんなペットのような首輪で過ごさなきゃいけないなんて......」

「いや、ペットでもこんな首輪はしないぞ」

 

 冷静に追い打ちをかけてくるババアには人の心がないらしい。

 

 はいはい、どうせ私はペット以下ですよ。

 

「......まぁ、これ外れないだけで実害はなさそうだな」

 

 さらりとそう言うと、アンナさんは私を立ち上がらせた。

 

 どうやら、魔王は所有権を示したいだけのようだ。

 まったく、なんてはた迷惑な魔王だ。

 

「じゃあ、ひとまず首輪の件はこれで終わり!」

 

 えっ終わり!?

 

 パンと手を叩き、ささっと話題を変えようとするババアに私は驚きを隠せない。

 

 私にとっては一大事なんだけど......。

 

「魔王は、お前を手に入れる気満々だ。また接触しに来るだろう」

 

 私は再び首輪に話題を戻そうとしたものの、ババアが出した次の話題を聞いて口を噤まざるを得なかった。

 

 うっ、魔王......。

 また会おうなんて言ってたし、絶対来るよね。

 

「今回は見逃してもらったけど、次もそうしてくれるとは限らない」

 

 魔王のことを考えると嫌な妄想が脳裏をちらついて、呼吸が荒くなる。

 

 嫌だ、魔王になんて会いたくない......!

 

「だから、お前を魔王から守らないといけない」

 

 魔王への恐怖を思い出して取り乱した私に構うことなく、ババアはどんどん話を進めていった。

 

 あれっ?

 

 さっきまで私の気分が悪くなる度に慰めてくれていたのに、今度はなぜか慰めてくれない。

 それどころか、ババアは羊皮紙をひらひらさせながら妙にニヤついていた。

 

 なんでだろう、なんだかすごく嫌な予感がする。

 

「そこでだ。ギルド長権限で緊急クエストを出そう。Aランク冒険者『まおうちゃん』を魔王から守れってな」

 

 えっ!?

 

「よかったな。お姫様のように守ってもらえるぞ」

 

 ニマニマしながらババアは羊皮紙に筆を走らせる。

 

 えっ、ちょっと待った!

 そんなの嫌だぞ!

 

☆★☆★☆

 

 必死の抗議も虚しく、程なくして完成した依頼書を持ってババアは一階に降りて行った。

 

 あっという間に話は広まり、もとより騒がしかったギルドがより一層慌ただしくなる。

 

 しかし、私はその場に居合わせることができなかった。

 執務室の前でミラに出待ちされて尋問されていたからだ。

 

「それで、何か言い訳はございますか?」

 

 もう洗いざらい話したというのに、未だに口を尖らせて分かりやすく拗ねているミラ。

 

 どうやら私が帰還するなり真っ先に会いに行かなかったことについて怒っているようだ。

 

「いやー、何というか合わせる顔がなかったし、ほら、私としても申し訳ないというか」

「私がそんなことを気にすると思いますか?」

 

 くぅ、顔怖いよこの子!

 もうどうすればいいの?

 

「私では慰められないとでも思ったのですか? 私では頼りないと思いますか?」

 

 鋭く問い続けるミラに私はオロオロしてしまう。

 

 確かに一番に顔を見せるべきだったのは、私を見送ってくれたミラだったのかもしれない。

 

「はぁ、もういいです。アンナさんを母のように思っているのは知っていますから」

「いや、そんなことないけど!? ただのくそババアだけど!?」

 

 もう、いきなり何言ってるのこの子?

 そんなわけないだろ!

 

「だから、代わりに抱きしめてください。それで水に流してあげますから」

 

 おっ!

 ついに許してくれるのか!

 

 お言葉に甘えて、私は両手を広げたミラを力強く抱きしめる。

 

「お帰りなさい、先輩」

「ああ、ただいま」

 

 また心配をかけちゃったな。

 

 強い姿を見せようとしたのに、気づけば情けない姿ばかり晒している。

 そんなダメな私を、ミラはそれでも先輩と呼んでくれるのか。

 

「ほら、行きますよ」

 

 しばらく抱き合っていたら、ミラはそっと身体を離した。

 離れていくミラのぬくもりを寂しく思いながら、私は困惑した。

 

「行くって、どこに?」

「一階ですよ。緊急クエストが発令されるんでしょ」

 

 そう言えばそうだった......。

 

 重要なことをすっかり忘れていた私に、ミラのジト目が突き刺さる。

 

 うーん、何だか日常に戻った感じで嬉しいなぁ。

 

☆★☆★☆

 

 ミラを連れて一階に降りると、ババアは既に一通りの説明を済ませたようだ。

 

 みんな事態をどうにか飲み込むことができて、ギルド内は徐々に落ち着きを取り戻しつつあった。

 

 そんな中、私に四方から視線が集中する。

 見渡せばみんないい笑顔で優しい目つきをしていた。

 

 え?

 なになに?

 

 何でみんな嬉しそうなの?

 

 困惑して固まっていると、私の肩に手が置かれた。

 

「まぁ、自分がどれほど愛されているのか、身をもって知るんだな」

 

 そう言ってババアは自分の部屋に戻ってしまう。

 

 えっちょっと、私を置いていかないで!

 

「お祭りだー!」

「ヒャッハー!」

「えみりん、えみりん、えみりん!」

「キャーエミィちゃん素敵っ!」

 

 えっ待ってなにこの状況。

 さっきから怒涛の展開で理解が追い付かないんだけど。

 

 未だに固まっている私に、数人の女性冒険者が話しかけてくる。

 

「さぁ安心してエミリーちゃん、私たちがついてるから」

「もう自分の居場所がないなんて寂しいこと、言わないでよね」

「うふふ、ほっぺたぷにぷだー」

 

 えっ、何でそんなことを知ってるの?

 ババアのやつ、あんなことまでベラベラしゃべったのか?

 

 てか最後の人は何してるの?

 

「あはは、何でって顔してる~」

「はい、これ」

 

 そう言って差し出された此度の依頼書を見る。

 

「緊急クエスト:Aランク冒険者『まおうちゃん』を魔王より守れ」

 

 うわはっず。

 何だよまおうちゃんって。

 

「詳細:魔王は、王都冒険者ギルドのマスコットにしてアイドルのエミリーちゃん手に入れようとしている。そのために、自分の傍以外に居場所はないと信じ込ませようとしている。各人、それぞれのやり方でエミリーちゃんを守り、自分の居場所を正しく思い知らせてやること」

 

 うん?

 マスコットにしてアイドル......?

 

 いきなり雲行きが怪しくなったぞ?

 

「報酬:後日、エミリーちゃんは諸君の功労を称え、一カ月間要望のあった衣装を着用して受付の業務にあたる。その際、此度の功労者諸君には着せる衣装の選択及び撮影する権利が贈呈される」

 

 ......えっ?

 何これ?

 

 こんなの知らないよ?

 

「あとがき:この公告を持って、エミリーちゃん保護条例は撤廃される。各人、良識を持ってエミリーちゃんに接すること」

 

 ......いや、マジで何これ。

 

 もしかして私が注目を集めている割には話しかけられないのって、この意味不明な保護条例のせいなの?

 痛い変人だと思われてたからじゃなくて?

 

 ああもう、ちょっと待ってくれよ!

 

 怒涛の情報開示で状況に追いつけない私は依頼書を放り投げ、頭を掻きむしった。

 

 その間に依頼書はサッと回収され、掲示板の一番目立つところに掲載されてしまった。

 

 ぐぬぬ、破り捨てればよかった。

 

「じゃあ、よろしくねエミリーちゃん。それと、前からサインが欲しかったの。書いてくれるわよね?」

 

 サイン!?

 私、有名人!?

 

「おい抜け駆けすんな!」

「エミリーちゃんこっち向いて!」

「首輪姿もかわいい!」

 

 え、えぇ~?

 本当にどうなってるの!?




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