【完結】自称魔王ちゃんのごっこ遊び   作:千歳ふい

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計画通りに行動する女の子っていいよね


第25話

「ふんっ! お返しだ!」

 

 私が唐突に強くなった自分の魔法に一人で納得していた一方で、ルーカスはそんな強化された火の玉を避けずに、剣ですべて切り伏せた。

 

 さらに、その勢いのままルーカスは剣に魔力を乗せ、斬撃を飛ばしてきた。

 

 いつも私なら必死に避けているところだが、今日は何だか無限にパワーが湧いてくる。

 魔法の出力が上がっているし、多分魔法で打ち消せるはず。

 

「『ファイヤーボール』、加速っ!」

 

 予想した通り、衝突した火の玉と斬撃は爆発とともに消滅した。

 

 ふんっ!

 私が、勇者と戦えているっ!

 

 その事実に私は増々調子づいて、戦闘のペースを上げた。

 

「どんどん行くぞ! 『ファイヤーボール』!」

 

 矢継ぎ早に『ファイヤーボール』を放つ。

 

 加速、減速、直進、旋回。

 工夫を凝らした軌道でルーカスを翻弄する。

 

 ふ、そこ! 追加だー!

 

 流石にこのペースに付いてこられなくなったルーカスは先ほどとは打って変わって、華麗に火の玉を避け始めた。

 そんなルーカスを、私は前回のように設置された魔法スクロールにうまく誘導していく。

 

 ルーカスが何もしなければ、このまま前回と同じようにルーカスは罠にかかり、勝負は終わるだろう。

 

 しかし、世の中はそんなに甘くなかったようだ。

 

「ああ、またスクロールを埋めているのか。......ふん!」

 

 そう言ってルーカスは地面に斬撃を入れる。

 

 途端に舞い上がる土塵。

 そんな土埃とともに、私の罠が破壊されていく。

 

 ルーカスはきっと私の企みを先読みして回避したことに達成感を感じているはずだ。

 土埃で確認できないが、前回とはわけが違うぞと、ドヤっているのかもしれない

 

 それが私の作戦だとも知らずに。

 

「これでもう罠の心配はない」

「げ、気づいてたのかよ」

「ああ、同じ手は二度使えない」

 

 やはり少し調子に乗っているルーカスは、視界を晴らすために剣を鋭く振るう。

 その様子を、私は目に土塵が舞い込まないように注意しながら見守る。

 

 今だ!

 

 視界が晴れる瞬間を狙って、私は閃光の魔法を使った。

 

 目を凝らそうとしたところに襲い掛かる目くらまし。

 いくらルーカスとて怯むはずだ。

 

 案の定、不意打ちを食らったルーカスは目を瞑って顔を伏せた。

 その隙に、私はさらなる追い打ちをかける。

 

「『ウォーターボール』!」

 

 目くらましに続いて私はルーカスに向かって水の玉を放つ。

 

 しかし、この『ウォーターボール』はいつものように勢いよくは飛ばさずに、ゆっくり進ませた。

 

 私はそんな『ウォーターボール』が計画通りに飛んでいることを確認すると、すかさず懐にしまった転移魔法のスクロールに触れる。

 

 転移先は、ルーカスの真後ろ。

 

「『ウォーターボール!』」

 

 もう一度『ウォーターボール』を使う。

 今度は、勢いよく飛ばせる。

 

 前回の戦いにて、私は魔法スクロールを使って勝った。

 だから、ルーカスは今回も魔法スクロールが本命だと思い込むだろうし、どうせ遠見の魔法で覗いていた魔王もそう思うはずだ。

 

 そのため、今回は魔法スクロールを本命だと思わせといて、自分の魔法で決めに行く。

 

 目くらましで怯んだ隙に、時間差を置いて放たれた速度の異なる魔法を放つ。

 そんな緩急をつけた魔法のタイミングをうまく合わせることで、魔法を複数の方向から同時に着弾させる。

 

 それが今回の作戦だった。

 

 そして、その作戦は、うまくいった。

 

 前と後ろから同時に『ウォーターボール』がルーカスに迫る。

 翻弄されて対応が遅れたルーカスは慌てて魔力を練って防衛しようとしたが、時すでに遅し。

 

 ペチャっ。

 

 ハハ、ずぶ濡れ勇者の完成だー!

 

 びしょ濡れのまま、ルーカスはその場に立ち尽くす。

 

 ルーカスの背後に回ったせいでその表情を窺い知ることができないが、きっと悔しそうに顔を歪めているに違いない。

 

「ふ、ふふ、フハハハハハ! どうだ、我が魔王の力は!」

 

 勝った!

 勝ったぞ!

 

 私が、再び勇者に!

 

 パチ、パチ、パチ、パチ。

 

 私が勝利の余韻に浸っていると、突如平野に乾いた拍手が響き渡った。

 

 音のする方を見ると、魔王はいつの間にかすぐ近くまで来ていた。

 

「おめでとう、エミリーちゃん。見事な戦いだったわよ。緻密な作戦、精巧な魔法、そして勇猛な胆力。どれをとっても一級品だわ」

 

 私からも、ルーカスからも程よい位置に陣取った魔王はべた褒めしてくる。

 その顔はどこか誇らしげで皮肉には聞こえない。

 

「ただ、残念ながら満点は上げられないわ。一つ、致命的な間違いを犯しているもの」

 

 一度言葉を切った魔王は、先ほどとは打って変わってその顔から一切の笑みをかき消した。

 

 え、何?

 

 怖いんだけど......。

 

「妾の前で、魔王を名乗ったことよ。魔王の従者にはあるまじき失態ね。お仕置きをしなきゃ」

 

 は?

 魔王を名乗った?

 それだけ?

 

 そんなことでお仕置きされるの?

 

 くっ、苦しいけど、ここはどうにか誤魔化してこの場を切り抜けないと!

 

「え、いや、その、これは言葉の綾で、別に」

「ああ別に取り繕わなくて大丈夫よ。ぜーんぶ、分かっているから」

 

 ふひぃ、顔怖いぃ......!

 

「魔王! エミリーに手を出すな!」

 

 私が前回のお仕置きを思い出して震えていると、それまで静観していたルーカスが魔王を牽制するように怒鳴りつけた。

 ルーカスの怒気によって、心なしか気温が下がった気がする。

 

 しかし、そんなルーカスの怒声を聞いても、魔王はどこか飄々とした様子だ。

 

「なーに、心配することはないわ。それよりエミリー、まだ自分のことが分かっていないの? あんたが本気で魔王になりたいと思っているわけないじゃない」

 

 何を言い出すのかと身構えていただけに、私はそんな魔王の的外れな発言に拍子抜けした。

 

 まさか、あの魔王がこんなことを言い出すなんて。

 全部分かってるなんて言っておきながら結構間抜けなんだね。

 

「ううん。私も一時はそう思ってたけど、違う。私は魔王になりたい。あなたとは違う、安心と笑顔をもたらす魔王に!」

 

 最近ようやく悟った、魔王を名乗る意味。

 

 それは、不安と絶望に染まっていたギルドを安心と希望に塗り替えたとき、王都で行き交う子供たちを笑顔にしたとき。

 

 私が魔王と名乗ることで心を救われる人がいるのなら。

 私が魔王として振る舞うことで元気になる人がいるのなら、私は、いくらでも魔王を演じよう。

 

「......ふーん。安心と笑顔ねぇ。魔王ごっこの次はヒーローごっこってことかしら」

 

 しかし、本物の魔王は私の理念には共感しないようだ。

 

 怒りに任せて魔王はおどろおどろしいオーラを発し、それによって一気に空気が氷点下まで下がった気がする。

 いきなり変貌した魔王に戸惑いながら、私は粟立つ身体を自分の両腕で抱きしめる。

 

 やっべ、何か地雷を踏んだか?

 うぅ、でもここは強く主張しないと......!

 

「ち、違う、ただのごっこ遊びじゃない!」

「そうだ! エミリーは本気で魔王に......!」

 

 声が情けなく震えた私を擁護するように、ルーカスも声を張り上げてくれた。

 しかし、何が面白いのか、魔王は口角を吊り上げならルーカスに振り返る。

 

「本当にそう思っているの? 勇者や魔王について何も知らず、何も知ろうとしないのに?」

 

 何を言ってるの?

 勇者と魔王?

 

 そんなの誰でも知ってるじゃん。

 

「それは......」

 

 私の困惑をよそに、なぜかルーカスは罰の悪そうな顔をして口ごもった。

 

 えっ?

 もしかして何か秘密でもあったの?

 

「エミリー、本物の魔王と、自称魔王の違いを教えてやろう」

 

 私に背を向けたまま、魔王は言葉を続けた。

 そんな魔王はこれまでの口調とは一転して、堂々とした口調に切り替わっていた。

 

「覚悟だ。魔族を率いて栄光をもたらす覚悟が違う」

 

 力強く、魔王はそう言い切る。

 私はその並々ならぬ雰囲気に引き込まれる。

 

「魔王は自分で名乗るものではない。世界に選ばれるものだ。一番覚悟の強く、一番魔王にふさわしい魔族が選ばれる」

 

 世界に選ばれる?

 どういうこと?

 

 おとぎ話のような、笑い話のような話だが、魔王がこんな状況で冗談を言うとは思えない。

 

「エミリー、あなたにはその覚悟がない。だから、ごっこ遊びはごっこ遊びのまま終わる」

 

 ここで、魔王は私に向き直る。

 いつもの微笑みではなく、至って真剣な表情をしている。

 

「疑問に思ったことはないのか? 明らかに人類を逸脱した強さを持つ勇者と魔王に」

 

 確かにそれは思ったことがある。でも、それはもう単純に才能の差じゃないの?

 

「人魔大戦なんて今は昔。種族が融和して千年。ヒト族も、魔族も同じ人類なのに、なぜ勇者と魔王が存在するのか」

 

 一度言葉を切って両腕を広げた魔王は、どこか諦めを漂わせるやるせない表情をしていた。




ラスボスによって明かされる世界の真実、大好きです。


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