「その首輪を破棄しろよ気持ち悪い。お前なんてやっぱり魔王だよ!」
「ええ、魔王だよ? 今更気づいた?」
魔王と言われてなぜか満足気な魔王の顔面を全力でぶん殴りたいぃ......。
魔王を誉め言葉だと思ってんじゃねぇよ。
「それに、この首輪はすごいのよ? 何と主人と眷属に魔力のパスを作ることができるの。ほら、先日の戦闘でもそのパスを通して魔力を送っていたじゃない?」
「え? 何それ知らない」
「まぁ、気づかれないようにやったからね」
くそ、この無駄に技術を持った変態め!
だからあの日調子が良かったのか!
自分のおかしな思い違いに気付かされた私は赤面し、八つ当たりするように魔王に向かって枕を投げようとした。
しかし、投げる寸前になって魔王の反撃が怖くなり、代わりに私は自分の顔を枕にうずめた。
「むふ......」
もう、魔力のパスがあったなんて......。
つまり、あの首輪はただの悪意ではなくて私をサポートする目的もあったってことか。
何だか誤解していたかもな。
「......でも、だからといってあんなごっつい首輪にする必要はなかったよね。別におしゃれなチョーカーでもよかったよね」
「それは、妾の趣味だね」
こいつ! 悪びれる様子もなく!
「さ、元気になったらギルドに顔を出しておいで」
諭すように魔王、いや、イルザはそう言うと、私から枕を取り上げてベッドからつまみ出した。
くぅ、お前は絶対、いつか見返してやるからな!
☆★☆★☆
いつものようにガヤガヤしているかと思いきゃ、ギルドの中は思いのほか静だった。
そんなギルド内を、私は堂々と歩く。
「エミリーちゃんだ!」
「エミィちゃんが帰ってきた!」
私の姿を確認すると冒険者たちは徐々に騒めき出し、ギルドにいつもの活力が蘇ってくる。
うんうん、これよこれ。
ギルドはこうでなくちゃ!
みんなの歓声に応えるように、私は笑顔で手を振る。
「冒険者『まおうちゃん』、ただいま戻りました!」
ミラが待つ受付に着くなり、私を心配してくれた人たちを安心させるように私は元気に声を張り上げた。
「エミリーさんっ!」
抱き着いてくるミラちゃん。
取り囲む仲間たち。
掛けられる暖かい言葉。
......ああ。
私は、帰ってこれたんだ。
「ね。言ったでしょ。魔王を名乗った私は絶対に帰ってくるって」
「......もう、バカ」
よしよし。
私はギルドのみんなに撫でながら、嗚咽の止まらないミラの頭を優しく撫でた。
まったく、かわいい後輩を心配させすぎだな、私。
「こほん、何だか感動の再開みたいになっているけど、全部エミリーちゃんの勘違いだったのよ?」
これからはもう少し大人しくしようと反省していると、たまたま行先が一緒だったらしいイルザが背後から水を差してくる。
「何も起きてないんだから最初から大人しくしていればよかったのにね」
そんなイルザの言い分は確かに正しくて、同時に間違っている。
そのことを教えるために、私はギルドのみんなにもみくちゃにされながらイルザに応えた。
「無駄じゃないよ。こうしてみんなと笑い合えるんだから」
ひねくれたひきこもりには分からないんだろうね、と煽っておく。
「そうだぞイルザ!」
「もっと気楽に行こうぜ!」
え、イルザ......?
名前呼び?
いつの間にそんなに仲良くなったの?
冒険者たちの言葉に驚愕した私がそう聞くと、イルザはさも当たり前のように口を開いた。
「エミリーちゃんは四日も寝ていたのよ? そんなにあれば打ち解けて当然でしょ」
いやいや信じられない。
だってあの魔王だよ?
初対面の人を愛玩動物扱いするサイコパスだよ?
私のそんな思いが顔に出ていたのか、イルザは額に手を当てて呆れた仕草をした。
「本当失礼な奴だわ、エミリーちゃん。この四日間、誰があなたのおむつを取り替えたと思っているの?」
「えっ? 嘘だよね?」
「嘘よ」
ざけんな!
周りも笑うな!
面白くねぇよ!
「くすくす。あ、ごめんなさい」
そんな会話を聞いていたミラは、私に抱き着いたまま目に涙を浮かべて笑った。
......そんなに面白かったのか?
「ほら大魔王ちゃん。頑張ったご褒美に私がギューッとしてあげますから」
いや、お前もう抱き着いているよね。
そもそもこんな大勢に見られてる状態でこれ以上抱き合うの嫌なんだけど......。
私がそうやんわりと断ろうとした矢先、ギルドのあいこちから抗議の声が上がる。
「おい、ミラ! えみりんを独り占めするな!」
「そうだぞ! エミィちゃんはみんなのものだ!」
「聞き捨てならないわね。エミリーちゃんは妾のものよ?」
ああもうなんだよこの変態集団!
私は誰のものでもねぇよ!
呆れ果てた私はミラを無理やり引っ剥がし、纏わりつく手をひっぱたいて人ごみをかき分けた。
みんなとわいわいするのは楽しいけど、ちょっと今は勘弁して欲しいな。
まだ顔を見せていない、大事な人たちがいるからね。
さーて、どこだ?
やっぱり二階か?
しばらく探し回ったたが、目当ての人物たちは階段付近に佇んでいた。
「お帰り、エミリー」
「......お帰り」
感慨深そうに目を細めるババアと、大勢の前ではうまく喋れないコミュ障っぷりを発揮するルーカス。
「......ただいま!」
二人にそう言うと、二人は不器用ながらも笑みを浮かべてくれた。
そんな二人を見ていた私は感極まってババアの胸に飛び込んだ。
たちまち私の身体は暖かくてたくましい両腕に包まれ、心は幸福感で満たされていった。
そのままババアの胸に顔を押し付けていた私は、やがて優しく頭を撫でられて思わず涙が零れる。
「うぅ、おばさん......」
「これに懲りたらやんちゃも大概にしときな」
「うん、善処はする」
ああ、ずっとこうしていたい......。
珍しく涙腺が緩んだ私は、自制することができずにポロポロと涙を零し続けた。
それを慰めるように、私の頭を撫でる手も止まらない。
しかし、そんなご褒美タイムは唐突に終わりを迎えてしまった。
私がババアに身を委ねて団らんを堪能していると、突如頭から手が離れて代わりに肩をがっちりホールドされたからだ。
困惑して顔を見上げた私は、ババアの嫌らしいニヤつきにぎょっとした。
え、何?
「さーて、年貢の納め時だエミリー。みんなを心配させた分、しっかりと奉仕してもらうぞ」
奉仕?
いきなり何の話だ。
私がそう戸惑っている間にも背中を押されて、奥の部屋へと向かわせられる。
「ほら。今日はとりあえず一番要望の多かったメイド服だ。明日からはもっと過激な衣装になるだろうけど頑張れ」
過激!?
って、これ、緊急クエストの報酬か。
すっかり忘れてたよ。
確か一か月コスプレしながら受付嬢をやるんだっけ。
まぁ、みんなにはいっぱい迷惑かけちゃったし、これくらいは頑張るか。
☆★☆★☆
私が魔王ごっこを再開してから今まで、たったの数カ月。
次から次へとイベントが舞い込んで、単調だった私の生活を色鮮やかに彩った。
正直、魔王の覚悟なんて知らない。
絶望を終わらせた勇者や魔王の気持ちなんて推し量れない。
歴史の重みなんて想像もできない。
それでも、仲間や家族に囲まれて、一緒に時を過ごせる。
不安も憂いもなく、共に笑える人たちがいる。
それで、私には十分だ。
「フハハハハ、自称であっても、魔王は負けない!」
以上で完結になります!
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
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