【完結】自称魔王ちゃんのごっこ遊び   作:千歳ふい

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格上相手に啖呵を切るも本当は内心ビビってる女の子っていいよね


第3話

 私が決闘の場に指定した西の峡谷は、王都から平野を超えて西に一日ほど歩いたところにある。

 

 あたりに人影はなく、川の水が透き通っていて風景が美しい場所だ。

 王都の近くということもあって魔物の姿は少なく、邪魔が入らない。

 

 正に魔王と勇者の戦いの場にふさわしい。

 

 私は下調べのときに確認した峡谷への最短ルートを通り、魔物との遭遇を避けて日が沈む前に到達した。

 

 テントを張り野営の準備を整えてから、さっそく勇者との戦いに備える。

 

 まぁ、結局辺りが暗くなると大したことはできないので、しばらくしたら素直に寝るけど。

 

 私とて、一概のBランク冒険者がSランク冒険者に勝負を挑むことがどれほど無謀なことなのかを理解している。

 

 正々堂々と正面から戦ったら勝つ見込みは万に一つもないだろう。

 そもそも戦いにすらならない。

 

 だからこそ、私は色々と小細工をさせてもらう。

 

 卑怯かもしれないが、逆に小細工さえすれば一般人でも勇者に勝てることを世に示したい。

 

 勝率をわずかにでも上げる術は考えつくした。あとは実行するだけだ。

 

 翌朝、予定通りばっちり起きた私は軽く朝食をとったあと、距離を測りながら慎重にアイテムを設置し、シナリオ通りに事が運ぶように舞台を整えた。

 

 さらに、午後は勇者が通るであろう西の平野に赴き、魔物たち挑発して殺気立たせた。

 

 それを終わらせてテントに帰還したときには既に夜であり、私は最後に手持ちのポーションと装備を並べて、もう一度シナリオを思い返す。

 

「大丈夫だ。すべて計画通りにいく」

 

 あとは当日、魔力の量や出力を増強するポーションを飲むだけ。

 

 準備は万端であると自分に言い聞かせてから、私は期待と不安を押しとどめてどうにか就寝した。

 

 ふふ、驚く勇者の顔が楽しみだなぁ。

 

☆★☆★☆

 

 私が勇者との戦いを午前に指定したのには理由がある。

 

 見栄っ張りでいてめんどくさがりの勇者はその性格上、たとえ一方的な約束であったとしても集合時間は守るだろうし、かといってわざわざ二日割くのは避けたいはず。

 

 いくら勇者だろうと、王都から急いでも八時間は掛かる峡谷に時間通り到着するためには、前日の夜中に出発するしかない。

 

 頭のおかしい女のせいで深夜に移動する羽目になってイラついているところに、昼間いきなり攻撃されて同じくイラついている魔物たちが襲い掛かる。

 

 王都の近くに生息する魔物は大して強くはないけど、上手くいけば勇者の精神力と体力を削ることができるだろう。

 

 万全の状態で挑む私に対して、勇者は本調子ではなくなるはずだ。

 

 決戦の日、案の定時間通りに現れた勇者を見ながら、私はニヤついた。

 

 これで舞台は整ったし、役者も揃った。

 

 いよいよ、ショーの始まりだ!

 

「待ちわびたぞ勇者! さぁ、勇者と魔王の最終決戦、開幕だー!」

「......一応聞くけど、平野の魔物たちはお前の仕業じゃないだろうな」

「何のことか知らないなぁ? それより、勇者! 我は丸腰だ! 貴様だけ武器を持つのはおかしくないのか?」

 

 勇者の呆れた眼差しを無視して、私は両腕を大きく広げて何も持っていないことを示す。

 

 そして、足元にはこれ見よがしに私の杖が無造作に転がっており、どこかに隠しているわけでもないとアピールする。

 

 勇者は勇者らしく剣を腰に差しているが、この剣がなかなか厄介だ。

 

 魔物をバターのようにぶった切る剣を相手せずに済むのなら、どうせ役に立たない安物の杖なんて喜んで手放そう。

 

 そんな私の意図を察したのか、勇者はジト目を向けてくる。

 

「......一応言うけど、この剣は昔から使っているもので別に特別なものじゃないぞ?」

「は? いや、いいから剣を捨てろ!」

 

 なんだよそれ! 正真正銘の化け物か!

 まさにそうだもん勇者だから! クソ!

 

 心の中で自分にツッコミを入れて私は驚きを消化する。

 まったく、でたらめにも程があるでしょ。

 

「......はぁ。別にいいけど、そもそも勝負の内容を聞いてなかったな。まさか本当にやり合うつもりなのか?」

「当然、やり合うつもりだ!」

「......引き返すのなら今だぞ。ギルド長も相当怒っていたし、ろくなことにならないぞ」

「黙れ勇者! ギルド長なんて糞くらえ!」

 

 はっ! どうやら勇者はこの期に及んでもまだ私の覚悟を甘く見ているらしい。

 

 私がどれほどの苦難を乗り越えてここに立っていると思っている。

 

 自分の黒歴史を直視し、受け入れた今の私は無敵なのだよ、勇者!

 

「そうかよ。その言葉、ギルド長に伝えておく」

「ごめんなさい嘘です。謝りますので言わないでください」

 

 ババアを引き合いに出すとは卑怯な!

 カンカンに怒ったババアの顔が脳裏をよぎり、恐怖のあまり私は一瞬硬直する。

 

 うぅ、でも怒られるのは最初から百も承知だ!

 このまま突っ走る!

 

「とにかく、これから魔法と拳で殴り合う! 先に相手に一撃を入れた方が勝つ! ルールは以上!」

「まぁ、ほっとくと面倒だし、どのみちギルド長にはバカ者に灸をすえるよう言われているから付き合ってやる。その代わり、こんなバカのことはこれっきりにするんだぞ」

 

 ふてぶてしく勇者はそう言う。

 

 まったく、言葉が多い! 勇者なら黙って剣で語れ!

 

「しゃらくせえー! 行くぞ、勇者!  勝ったらちゃんと我のことを魔王だと認めろよ!」

 

 開戦の合図として、私は勇者に向かって愛用の初級魔法『ファイヤーボール』を飛ばす。

 

 それを片手で難なく薙ぎ払った勇者は、彼我の差を見せつけるように私のものより三倍ほどは大きい『ファイヤーボール』を飛ばしてきた。

 

 慌てて私は飛び退き、すかさず閃光の魔法で姿を眩ませる。

 

 その間に、私はそそくさと計画した位置に移動する。

 

 この戦いのみそは魔法スクロールだ。

 

 魔法スクロールは予め魔法陣を記した紙であり、魔力を流し込めば簡単に魔法を発動できる。

 

 私はこの戦いに備えて、魔法スクロールをたっぷり買い込んだ。

 おかげで貯金があらかた吹っ飛んだが、うまくスクロールを活用することに私は活路を見出していた。

 

 魔法スクロールは普通、使うときに取り出して、魔力を込めて使うものだ。

 

 しかし、それでは緊迫した戦闘においては遅すぎる。

 

 そのため、魔法スクロールはあくまでも補助的なアイテムとして扱われ、戦闘においては自分で魔法陣を展開し自力で魔法を放つことが基本である。

 

 でも、自分の魔法だけでは勇者に勝てない。かといって魔法スクロールでは遅すぎる。

 

 そこで、私は魔法スクロールを予め見えないように罠のように設置しておく戦法を思いついた。

 

 そうすれば、後からスクロールに向かって魔力を飛ばすだけで同時に複数の魔法を展開できるようになる。

 

 私の知る限り、このような使い方をしている人間は他にいない。

 勇者とて虚を突かれるはずだ。

 

 目くらましが切れる前に私は二つ目の魔法を使う。

 

 初級魔法『ゲイル』だ。

 

 これに先ほどと同じ『ファイヤーボール』を乗せて、灼熱の暴風を作り出す。

 

 同時に二つの魔法を展開し相乗効果を狙う。

 

 珍しい戦い方であるから、きっと勇者はこれを私の隠し玉だと勘違いする。

 

 油断させて隙をつく。格上と戦うときの基本だ。

 

「ほう、ちょっとは考えてきたようだな」

 

 私の魔法を見て感心したように勇者は言うが、彼は未だに一歩も動いていない。

 

 まだまだ余裕のようだ。

 

 しかし、私がこの戦いに勝つためには勇者に移動をしてもらう必要がある。

 当然、そのための策は用意している。

 

「連続『ウォーターボール』!」

 

 懐にしまっておいた初級魔法『ウォーターボール』のスクロールを一気に五つ展開する。

 

 無駄に格好付けたがる勇者、ずぶ濡れになることは絶対に避けるはずだ。

 

「......ちっ」

 

 不機嫌そうにその場を飛び退く勇者を見て、私は勝利を確信した。

 

 やはり格好つけ野郎には水責めが似合う。




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