【完結】自称魔王ちゃんのごっこ遊び   作:千歳ふい

5 / 28
自分の失敗に気が付いてあたふたする女の子っていいよね


第5話

「......エミリーは何で魔王になりたいんだ?」

 

 王都を目指して平野を歩きながら、デリカシーに欠ける社会不適合者であるルーカスが唐突に聞いてきた。

 

 こいつ、怖がらせた女の子が漏らしたのに、気遣うこともなくあろうことかバカにしてきたんだぞ?

 普通にあり得ないよな。

 

 まだちょっとムカついているし、正直無視したかった。

 

 しかし、これは重要な質問だ。

 ちゃんと回答を用意しているし特別に答えてやろう。

 

「世界を、変えるためだ」

「......変える?」

 

 意外そうにルーカスは言う。

 

 なんだよ、本当にガキのごっこ遊びだと思ってたのかよ。

 

「そう。この世界は勇者と魔王を中心に回っている。でも、勇者と魔王になれるのは才覚に恵まれた一握り。そんなの、いやだと思わない?」

「......才能だけでは魔王になれないぞ」

 

 ああ、そういうと思ったよ。

 才能のあるやつらは自分の才能を過小評価し、才能のないやつらは他人の才能を過大評価する。

 

 よくある話だ。

 

「もちろん才能だけではない。でも、才能がなければ努力することすら叶わないのも事実だよ。私は、そんな現状を変えたい。才能がなくても魔王になれることを示したい。夢を夢で終われせずに済むと人々に希望を持たせたい。そのために今回、ルーカスを利用させてもらったってわけ」

「......ふーん」

 

 そう言って会話を切り上げたルーカスは、あまり納得できてはいない様子だった。

 

 まぁ、それもそうか。いきなりこんなことを言われても困るよね。

 

 再び二人の間に沈黙が訪れ、そのまま私たちはひたすら歩き続けた。

 二人で黙々と歩くのは少し気まずかったが、どこか新鮮で悪い気はしなかった。

 

 日が傾きつつある頃にようやく王都の城壁が見えてきて、どこか夢見心地であった私の意識は現実に引き戻される。

 

 その流れで、私はこの怒涛の数週間を振り返り始めた。

 

 浮かれて勢いとノリで走り切った二カ月間。

 私は何かを成し遂げられたのだろうか。

 

 とりあえず、私がやったことを列挙してみよう。

 

 ・貯金をすべて使い果たす

 ・ギルドでイキリ魔王ごっこをする

 ・勇者に喧嘩を売る

 ・勇者をずぶ濡れにする

 ・勇者の前で漏らす

 

 ......あれぇ?

 私、結構やばいことをやってしまったのでは?

 

 これ帰ったらかなりまずいことになるんじゃない?

 

「ね、ねぇルーカス。今回のこと、怒ってないよね」

「......ああ、別に怒ってはない」

「だったらさ」

「でも気にしていないわけでもない」

「えっ」

「冒険者ギルドでギルド長が待っている。たっぷり叱られて反省することだな」

 

 冷たくそう言って、ルーカスはまた黙り込んだ。

 交渉の余地を一切与えるつもりがないようだ。

 

 そ、そんな殺生なぁ。

 あのババア、絶対叱るだけじゃ終わらないじゃん。

 

 嫌な想像をしてしまって、悪寒が身体を駆け巡る。

 そのまま不安がさらなる不安を呼び、私は焦りまくった。

 

 あああ、あれこれ考えたのに何でこういうところでは短慮的なんだ。

 ばかばかばかー!

 

 というか何度もやってるせいで感覚が鈍ってるけど、魔王ごっこってやっぱり恥ずかしいんだよなぁ。

 ばっちり見られたしこれからどうやってギルドに行くんだ!

 

 しかもルーカスと名前で呼び合ってるところを見られたら勇者ファンクラブに殺されるぅ! 

 

 あはは。これはもう詰みだね。

 

 心の内で自虐的に笑って、私は観念して現実を受け入れることにした。

 

 自業自得。因果応報。

 今更悪あがきしたって無駄だろう。

 

 それに、そもそもみんなに注目されるところまでが今回の計画だ。

 ここまで来たんだし最後までやり通さないと。

 

 くっ、腹をくくって行くしかない!

 このまま押し切ってやる!

 

☆★☆★☆

 

「たのもー!」

 

 二日前と同じように全力で冒険者ギルドの扉を開くと、これまた二日前と同じように有象無象どもが一斉に私を見る。

 

 うわっめっちゃ見られてるぅ!

 

 正気になるとみんなの視線が気になって死ぬほど恥ずかしくなる。

 こんな中で平然と魔王ごっこをやった私は本当無敵だったな。

 

 さらに、私のメンタル以外にも前回との相違点が一つ。

 私を般若の如く睨みつけて仁王立ちするババアだ。

 

 しかし、ここが正念場だ!

 私は怯まない!

 

「ありがとう勇者。報酬はあとで渡す。そして、お帰りエミリー。楽しかったか?」

「あ、ああ、楽しかったぜ。何せ、あの勇者様をぶちのめしたんだからな!」

 

 私の宣言を聞いて、ギルド内にどよめきが走る。

 

 ふふ、狙い通りの反応だね。

 

「本当か!?」

「あのエミリーが勇者を?」

 

 そんな声があちこちから聞こえる。

 中には私の後ろに立っている勇者に直接問う者もいた。

 

「勇者殿。その話は真か」

「......ああ、彼女の力は本物だ」

「なっ!?」

 

 ルーカスの言葉を受けてギルド内がさらなる驚愕に染まる中、私はふんぞり返り胸をドンと拳で叩いた。

 

「聞いたか愚民ども。我は本物の魔王だ。断じていい年してごっこ遊びに興じる痴れ者ではない! これからは我を敬うんだぞ!」

 

 よし! うまくいった!

 なかなかのインパクトになっただろ。

 

 ようやく計画の最終目標を達成できて私は天にも昇る心地だ。

 

 しかし、絶好調の私に水を差す者がいた。

 怒りを通り越して無表情になってしまったババアだ。

 

 やべっ、こんなことをババアの前でするのは失敗だったか?

 

 でも他にやるタイミングがないし......。

 

「エミリー、私の部屋に来なさい」

 

 そう言って踵を返し、二階のギルド長室に向かうババア。

 私はその背中を見ながら、わなわな震えるだけで動き出せずにいた。

 

 ああ、覚悟は決めてきたはずなのに、いざこの場に立つとやっぱり怖いぃ!

 

「......どうしたエミリー。自業自得だろ、早く行け」

 

 ルーカスに名を呼ばれた瞬間、一気に矢のように私を射抜く視線が突き刺さる。

 主に女性陣から。

 

 やばい、さっそく名前呼びがバレた!

 まったく、いつもは寡黙のくせに何で肝心なときには要らんことを言うの!?

 

 心の中で悪態をつきながら、声を掛けられる前に私は顔を伏せて移動し階段を駆け上がる。

 

 くそぉ、本当ついてないな私!

 

 部屋に逃げ込むと、ババアは束ねていた茶色の髪をおろし、部屋の奥にどっかりと座っていた。

 険しい表情に鋭い眼光を浮かべていて、すごく厳かな雰囲気を醸し出している。

 

 な、なんだよ!

 今年で四十になるババアよ、そんな顔をしてると皺が増えるぞ!

 

「......はぁ。この期に及んでもバカなことを考えているし、どうしようもないなお前は。再教育はうまくいったと思っていたんだけどなぁ。まさか六年越しに再発するとは......」

「ひ、人を病人扱いするな!」

「一度は正常に戻ったんだ。魔王ごっこの恥ずかしさは理解しているはずだろ? それなのにまた魔王ごっこに走ってるんだ。立派な病気だ、頭のな」

 

 ババアはバカにしたような表情をしながら頭をトントンと叩くジェスチャーをする。

 

 ......うざい!

 正論をかましてんじゃねよ! 魔王ごっこが痛いのは私が一番分かってるから。

 

 傷つきながら目標に邁進していく若者をどうして素直に応援できないんだひねくれババア!

 

 なんて思ったが口に出すと痛い目見るのは自明なので黙っておく。

 

「お前はもう十八歳の大人だぞ。まったく何やってるんだか。両親にはどう説明するんだ」

「お、親は関係ないでしょ! それに、世直しに子供も大人も関係ないし!」

「......はぁ。お前はもう大人だ。昔のように叱りたくはない。自分の行いには自分で責任を取れ。それさえできればもう何も言わない」

 

 疲れたようにそう話すとババアは椅子を回し、窓の景色を眺め始めた。

 

 おや? 今回は何だか今までとは随分違うぞ?

 つまり私が成長したってことだな?

 

「へぇ、分かってるじゃんババア!」

「ほう?」

 

 やべっ。

 つい口を滑らせてババアをひそかに心の中でババアって呼んでたのバレちゃった。

 

 内心ヒヤッとしながら、再び私に視線を戻したババアに睨まれる。

 

 くっ、ここはうまく取り繕って乗り切るしかない!

 

「ち、ちょっとしたジョークだよギルド長! ねっ! 堅苦しい雰囲気だったし、場を和ませるために気を利かせただけというか」

「何を慌てているんだ。さっきも言ったが、もうお前をいちいち叱りたくない。大人ならもっとしゃんとしろ」

 

 ほえ?

 よくわかんないけど、大人最高ー!

 

「それはそうと、さすがに勇者に勝った冒険者をいつまでもBランクにするわけには行かないな」

「ふぇ!? そ、それって」

「ああ、喜べ。念願のAランク昇進だ。そして二つ名はもう決めてある」

 

 これもよくわかんないけど、やったー!

 Aランクだ!

 

 ババアの口から放たれた思わぬ言葉に私は狂喜乱舞した。

 

 あれほど夢見たAランクが突然天から降ってきた。

 

 それだけで十分うれしいのだが、おまけにAランクからつくかっこいい二つ名まで一緒に教えてくれるらしい。

 

 そんな急に決められるものではないし、きっとババアが前々から考えてくれた素敵な名前なのだろう。

 

 ふふ、一体どんな二つ名かなぁ?

 『獄炎の魔術師』とか? それとも『謀略の魔法使い』とか?

 

「そ、それで、どんな二つ名なの?」

「『まおうちゃん』だ。勇者に喧嘩を売る馬鹿者にはお似合いだろ?」

 

 は?

 はぁぁぁ!?

 

 『まおうちゃん』

 

 それは、煙たがられてきた幼少期の私につけられていたあだ名だ。

 

 ああああ! ふざんけんなよくそババア! よりにもよって私の黒歴史を......! 

 

 意地悪な笑みを浮かべるババアを全力でぶん殴りたい!

 人の二つ名を何だと思ってるんだ!

 

「横暴だ! 職権乱用だ! 何が大人だ! 結局ただの鬼ババアじゃねぇかー!」

 

 『まおうちゃん』だなんて聞くだけでフラッシュバックする二つ名は嫌だー!

 

「職権乱用? さすがギルドのデータベースに不正アクセスする臨時職員はやはり言うことが違うな」

 

 全身で不満と怒りを表現しながら必死に抗議していた私は、ババアの言葉を聞いて凍り付いた。

 

 えっ? まさかルーカスの個人情報を漁ったのがバレていたのか?

 

 いや、でも再三の注意を払っていた。

 バレてはいないはず。

 恐らくババアはカマをかけようとしているだけだろう。

 

 うん、きっとそうだ。

 

「え、い、いやー、そんなまさか~。私がそんなことするはずがないじゃない~」

「ああ、別に疑ってない。それはそうと、最近人手不足でね。向こう二週間、給料は出せないけどシフトに入ってもらってもいいか?」

「はいぃ、喜んで......」

 

 あひゅー。圧がすごい。断ったらとことん追求してやると言わんばかりに。

 

 さようなら二週間。君のことは忘れないよ。

 

「いやー、助かるなー」

 

 ぶー! 万年独身の行き遅れババア!




評価、感想、お気に入り登録、お待ちしております!

Twitterはこちらです
https://twitter.com/chitose_fui
活動報告や作品に関する事柄をつぶやいていきます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。