【完結】自称魔王ちゃんのごっこ遊び   作:千歳ふい

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しっかりと反省できる女の子っていいよね


第9話

 格上に勝利し、初めてAランクの依頼を達成した私は、晴れて一人前のAランク冒険者となった。

 

 同じ空気のはずなのに、帰ってきてから吸う王都の空気は何だか甘く感じる。

 ギルドへの道中を進む私の足取りは軽やかで、その顔から笑顔は絶えない。

 

 ギルドに着くなり私は依頼の達成を報告し、皆の衆に此度の功績を吹聴し周った。

 

 とんでもなく大きいスライムを一撃で葬ったぞと。

 勇者にすらできない方法でだぞと。

 

 そんな私のことを、ギルドのあちこちで噂されている。

 

 ふふ、もう茶番だとは言わせないよ?

 

「もしかして本当に魔王なのか?」

「それにしては弱い気が......」

「魔王の卵なのか?」

 

 うんうん!

 エミリーちゃんによる魔王かもしれないぞ作戦は順調そうだ。

 

 あとはこれを何度か繰り返していけば、いずれ懐疑はなくなり認められるだろう。

 

 そうすれば、私はようやく世界に示すことができる。

 

 強くなくとも、才能がなくとも魔王になれることを。

 

 しかし、有頂天の私がギルド内を凱旋していると、いつぞやのように水を差してくる邪魔者が現れた。

 

 いつまで経っても私の理想に共感しないババアだ。

 

「エミリー、私の部屋へ来なさい」

 

 あ、終わったー......。

 ど、どうしよう。どうにか回避できないかな。

 

「......じゃ、また」

 

 そう言ってルーカスは立ち去る。

 固まったままの私を置いて。

 

「何をしている。早く来なさい」

 

 じろりと睨まれて、思わずビクッとする。

 これ以上待たせると本気でやばいかも。

 

 そう思った私は階段を上り始めたババアを追ってそそくさとギルド長室に向かった。

 

☆★☆★☆

 

「で、何か釈明は?」

 

 執務室の扉を締めて机の前に立つと、ババアは疲れたように聞いてきた。

 

 なんだよその態度、まるで私が問題児みたいじゃないか!

 

「釈明などないっ!」

 

 そう言い切った瞬間、ババアは忽然と目の前から消える。

 

 直後、暴風とともに懐かしい痛みが頭を襲う。

 

「馬鹿者! なんで一か月も顔を出さなかった!」

 

 拳骨を振り落とされた頭を、さらにぐりぐりされる。

 

「なんで依頼を受けたとき声を掛けなかった! なんでいきなりAランクの依頼を受けた!」

「あ、あ、やめっ」

 

 あまりの痛みに涙が浮かんでくる。

 

「なんでこんなに軽々しく危険を冒す!」

 

 最後に私の頭を引っ叩いて、ババアはソファに倒れるように座り込んだ。

 

 溢れてきた涙でよく見えないが、ババアはどこか泣いているようにも見える。

 

 ......これは、心配を掛けてしまったな。

 

 寮にも帰らずギルドにも行かず、ふらっと現れたと思えばいきなり受けたこともないAランクの依頼を受けて行ってしまう。

 

 確かにそりゃ心配されるな。

 せめて一言声をかければよかった。

 

 しかも、そんな自分に向けられた心配に気づけなかったとは。

 

 不甲斐ない。

 

「まぁ、ごめん。でも、私は大丈夫だから」

「......お前を預かったとき、私は誓ったんだ。絶対にお前を立派な大人にすると。それはお前のためであり、お前の両親のためであり、そして、私のためでもあった」

 

 顔を伏せていたババアはおもむろに顔を上げて、遠い目をしながら珍しく昔話を語り始めた。

 

「それは、私がお前の両親に対して負い目を感じていたからだ。パーティーが解散されたときかなり迷惑をかけてしまったからな。その分、ここで恩返しをしてやると思ったんだ。どこまでも利己的な考えだった」

 

 壁を見ながら、ババアは淡々と語り続ける。

 

 両親とババアが冒険仲間だったのは聞いていたけど、そう言えば解散した経緯を聞いたことがなかったな。

 

 何かババアが負い目を感じることでも起きていたのだろうか。

 

「でも、蓋を開けてみれば、お前は若かりし頃のアリスと瓜二つだった。ひたむきなところも、危なっかしいところも、怒られて涙目になる顔さえも」

 

 若いころのママって、やんちゃだったんだ......。

 

 いつもおしとやかなママの意外な一面に私は驚く。

 

「そんなお前を見ていると、利己的な考えなんてとうに吹き飛んで、ただお前の成長を見守りたくなった。だから、本当はお前が魔王ごっこをやろうがやらまいがどうでもよかったんだ。ただ、すくすく成長していけばそれでよかった」

 

 一度言葉を切ったババアは、姿勢を正して真っすぐ私を見た。

 引退して久しいが、元Aランク冒険者の気迫は健在である。

 

「お前が冒険者をやろうが、魔王になろうが好きにしろ。だが、自分を大事にしろ。それすらできないんだったら、私は全力でお前を止める。どんな手を使ってでも」

 

 自分を大事にしろ、か。

 

 ここでそれをババアに約束しなければ、ババアは私を許さないだろう。

 それこそ、冒険者業を引退に追い込まれることだって考えられる。

 

 事態の重さに緊張した私はごくりとつばを飲み込み、ゆっくりと口を開いた。

 

 ババアのプレッシャーに負けないように、ババアの目を見返してしっかりと言葉を紡ぐ。

 

「わ、分かったよアンナさん。私、も、もっと、気を付けるから」

 

 正直自分でも情けないと思うような返事だったが、ババアは満足したように頷いた。

 

 それは私の返事に納得した故か、久しぶりに名前を呼ばれた故か。

 

「まぁ、分かればそれでいい。それより、ちゃんとお祝いをしないとな。Aランク昇進の」

「ふぇ? 昇進は一か月も前じゃ?」

 

 話の流れがようやく変わったな。

 

 先ほどまでの厳粛な雰囲気から一転して、ババアは柔らかな笑顔を浮かべながら話している。

 

「冒険者は依頼を受けてこそだ。ソロじゃないとはいえ、Aランクの依頼を完遂した今、お前はようやく本当の意味でAランク冒険者になった」

「うへ、へへへ」

 

 ババアの言葉を聞いて私の頬が緩む。

 

 やはり自分でも思うだけじゃなくて、他人に言われると嬉しいな。

 

「本当は罰のつもりで昇進させたんだがなぁ。まさか本当にAランクになるとは」

 

 感慨深そうに目を細めながら、ババアはゆっくりと立ち上がる。

 

 ふーん、やっぱりAランク冒険者として活動させるつもりはなかったな。

 それどころか、当面の間はそもそも依頼を受けさせない魂胆だったのか。

 

 でも、その目論見はものの見事に外れてしまった。

 私が予想外に強かったから。

 

「ま、まぁ、私魔王だしぃ? こんぐらい朝飯前というか」

「そこ、すぐ調子乗らない」

 

 むぅ、ちょっとくらいいいじゃん。

 

 頬を膨らませる私に背を向けて、ババアは窓辺に立つ。

 

「......なぁ。今夜、ご飯に行かないか」

 

 おっ、わざわざ窓辺に立ったのは顔を隠すためだったのか。アンナさん、かわいいね!

 

「はいっ、ぜひ!」

 




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