全員覚悟ガンギマリなエロゲーの邪教徒モブに転生してしまった件 作:へぶん99
ドルドン神父はスーツ着用に必要な強心薬を探すために、武器庫周辺を駆けずり回った。
アプラホーネの研究室に忍び込んで強心薬を探すことも考えたが、彼女がいなければ何処にあるかも分からない。結局、
ドルドン神父の矛先は、アレックスやフアンキロ等のパイロットへ向かう。
彼が発見したのは、正教の街で指名手配されていた幹部候補インシロン・プランティアだった。間違いなく彼女も選ばれしパイロットであろうと適当な当たりをつけた老爺は、インシロンの顔をすれ違いざまに確認する。
間近で見てやると、手配書に描かれていた顔と同一である。気づいた直後、背後から音もなく接近して首の骨を折った。四〇センチ程もある体格差がインシロンに容赦なく襲いかかり、石臼を挽くような重い音が響き渡る。
「ぷぎゅ」
インシロンは奇妙な声を上げた後、ずるりと地面に崩れ落ちた。
彼女がパイロットでなければただの勘違いであったが、懐を探ると小瓶が出てきた。アプラホーネがアレックスに手渡した強心薬と見た目が全く同じだ。
「すまんなインシロン。油断したお前が悪い」
彼女もスーツの適合者だったのだろう。手間がひとつ省けた。
スーツの数だけパイロットがいるのなら、少なくとも誰か一人は殺しておかないと
メタシムは混乱の最中にある。適当な茂みの中に死体を放り投げておけば、しばらくは露見しないだろう。
死体を隠してその場を立ち去ろうとすると、背後からインシロンの声がした。
「お前は何になりたいんだ?」
振り返ると、死体の足が茂みからはみ出していた。生きているはずがない。幻聴だ。脚を折り曲げさせて、いそいそと隠蔽する。
ひどく興奮しているから、ありもしないものを感じているのだ。
「好き勝手に人を殺し、好き勝手に人を生かそうとする。神にでもなったつもりか?」
幻聴は続く。
神。アレックス流に言うのなら、盤面の支配者――といったところか。
神にでもなったつもりか、と問われたら、その通りだと返すしかない。自分のおかしさはドルドン自身が一番良く知っている。一人目の少年を殺してから、一九人目の少年――或いは
それに対するドルドン神父の答えはこうだ。
“人間は完璧ではない。矛盾を許容せよ”。
神父にとってはあまりにも都合の良い考えである。
自分がどうしようもない屑であるのはどれだけゴネても変わらないし、他人の評価に拘り過ぎるのは良くないよね。――オクリーの影響で生き方を捻じ曲げた男は、そんな矛盾だらけの言葉を添えて己の直感に従っている。
「お前は間違っている」
「無視するな」
「お前はこれまで何をやってきたか自覚しているのか?」
「無罪の青少年を強姦して殺しまくったんだぞ」
「その上、メタシムにいる死体に痴漢しまくって……」
「死者への冒涜だぞ」
「とてつもなく最低の行為だ」
「それらの行為に対する報いを受けずに逃げ切ろうとは何事か」
「おい、聞こえてるんだろ」
「おい」
「………………」
ドルドン神父が鼻歌混じりに幻聴を聞き流していると、いつの間にか何も聞こえなくなっていた。
「ワシは逃げんよ。この戦いを生き残り、民衆の前で絞首刑に処されるまでは」
強心薬を使うタイミングは、フアンキロが出撃する直前。彼女を襲撃する際はスーツを完璧に駆動できねば意味がない。老体にはきついスーツの駆使だが、己の人生の納得のためにやるしかない。
問題は正教連中がいつ来るかだ。想像を巡らせているこの瞬間にも正教幹部の『転送』が始まるかもしれないし、一週間後かもしれない。ポーク達は今日明日にでも敵が飛んでくると踏んでいるが、早とちりとも限らない。
そして、ドルドン神父に正教幹部の『転送』情報が伝わってくるかどうかも重要だ。実はもう音もなくメタシム内部に侵入していて、邪教徒どもの首を狙っている可能性すらある。
ドルドン神父は思考を転換する。
――もう、やってしまおうか。
先んじてフアンキロを潰し、何もかもめちゃくちゃにして、邪教潰しの露払いとなってやろう、という考えが過ぎった。
内部からの破壊工作は、奇しくもかつてのオクリーが成そうとしていた行為と重なる。今のドルドン神父は、まるで
(……やっていることが滅茶苦茶だな)
ドルドン神父は手にした強心薬を一気に流し込み、空になった小瓶を握り潰した。
一方その頃。ダスケルに一泊した正教軍が、聖地メタシムに行軍を始めていた。
兵士の半数ほどはダスケルに駐在する。ダスケル再建の拠点を作ること、拠点を作るための仮拠点を作ること、荒廃した道の再整備など急務は山積みだ。
オクリー・マーキュリーとヨアンヌ・サガミクスは隊列の先頭に位置し兵士達を率いている。二人がいなければ――セレスティアは例外的な存在として――正教徒は『認識阻害』の掛かったメタシムを認識することすらできない。
オクリーはポークの棘に包まれた外壁を望める道に差し掛かったところで足を止め、隣のヨアンヌと顔を見合せた。
「メタシムだ」
二人だけがその姿を捉えた。青年にとっては、アルフィーを失った挙句スティーブに騙され、どん底に落ちた因縁の地。少女にとっては、心に身を任せて虐殺を行った悔恨の地だ。それぞれ心の中に重いものを抱えながら、変わり果てた『聖地』を睨めつける。
「あれから一年か……」
長蛇の列の兵士達はオクリーの声を聞いて頭上に疑問符を浮かべている。『認識阻害』の対策として、オクリーとヨアンヌについて行くことだけを指示されているため、釈然としない表情である。
しかし、街に近づいていくと彼らの顔色が変化し始めた。ぎょっとして緊張に満ちた表情になった後、夢うつつな惚けた表情になる者。首を伸ばして遠方を望み、アッと声を上げた直後、何事も無かったかのように行進を再開する者。落ち着かない周囲の兵士に困惑する者――メタシムを目撃した兵士から順繰りに『認識阻害』が効いた結果、覚醒と忘却の繰り返しによって混乱が広がっているようだ。
オクリーは下馬して装備を確認すると、サレンに目配せする。
「作戦開始地点に到達した」
「そうか……」
「どうした? 調子が悪いのか?」
「『認識阻害』のせいで、雲を掴むように意識がはっきりしない。この感覚が辛い者もいるだろうから、さっさと終わらせてしまおう」
不自然な忘却の連続は精神を摩耗させる。サレンも『認識阻害』の影響をまともに食らっているため、数十秒間隔で覚醒と忘却を繰り返していた。
その都合上、正教徒間では専ら『メタシム』という固有名称ではなく『敵本拠地』や『作戦地点』といった代名詞が使用され、忘却対策がなされている。メタシム内部に到達さえしてしまえば『視える』のは確実なので、それまでの辛抱だ。
ここからはオクリーとセレスティアが別行動だ。別れしな、「ポークの棘に気をつけろよ」と注意を受けた。
ヨアンヌの肉片探知能力をきっかけに作戦を展開する都合もあって、少女は本隊に残留する。セレスティアは正教徒だが、例外的に『認識阻害』を無力化できるため、オクリーの護衛役として選ばれた。
サレンによって『転送』のための炎が灯される。身体を消し飛ばすための、超高温の焼却炉である。合図があれば、彼らはいつでもそこに飛び込んで『転送』が可能だ。
「こちらへ」
オクリーとセレスティアは腕を組み、世界から姿を消す。風の魔法によって空気をねじ曲げ、光の屈折率を変えたのである。魔法演算のために同時並行して魔法攻撃はほぼ扱えないが、敵地への潜入に際しては無敵同然の影響力を有する。
セレスティアは更に空気の流れを操り、目を凝らせば薄ら浮かんで見える膜のようなものを周辺に漂わせた。
「空気の層をつくりました。これでわたくし達の声は誰にも聞こえません」
「便利だな」
「行きましょう。……因縁の地へ」
セレスティアが洗脳されるきっかけとなったのもメタシムである。オクリーは彼女に散々な仕打ちをしたことを今更猛烈に後悔し、心がじくじく蝕まれる感覚を覚えながら、歩幅を合わせてメタシム外壁へ寄り始めた。
作戦の流れはこうだ。
メタシム内部に潜入したオクリーが、ヨアンヌの肉片を通じて合図を送る。オクリーの合図を探知したヨアンヌがゴーサインを出せば、待機した幹部達が炎に飛び込み『転送』を開始する。ジアターやヨアンヌは兵士を率いてメタシム外壁を攻略し、内部へなだれ込む。
――四半世紀に渡る因果を断つ時が遂に来た。
これは約束された勝ち戦だ。ダスケルで受けた仕打ちをそっくりそのまま叩き返し、正教軍の物量で以て押し潰す。負けるはずがないのだ。
問題は、どう決着をつけるかである。
「ポークの棘には気をつけて」
「あぁ」
勝手知ったる動作でポークの棘をすり抜けて、外壁へ接近する。外壁の外にある畑や牧場は無人だ。ゾンビが運営していたのであろうが、今は
壁の上にあるバリスタは鳴りを潜めていて、動く気配すらない。目標を目視できないのだから当然なのだけど。
一年前、マリエッタが惨劇を逃れた下水道出口の近くを通る。セレスティアは口に出さないが、その場所を確かに目で追った。
外門の扉は固く閉ざされている。木・石・鋼鉄の素材で何重にも塞がれていた。セレスティアは手のひらを扉に当て、両足で踏ん張って強行突破を試みる。
魔法は使えないが、強靭な肉体を駆使することは当然可能である。セレスティアは石畳を踏み抜きながら扉を押し込み、外壁と一体化した框の部分を撓ませ、亀裂を入れた。
「ふんッ!」
鬱憤を晴らすように、扉の中央へ前蹴り。
構造上有り得ないはずなのだが、ドミノのように門扉が倒れていく。
「さぁ、参りましょう。あの日と同じように、真正面から」
セレスティアが妖艶に微笑む。口を開けたメタシムへの道を歩き、二人は外門を潜った。
――廃墟と影が混在した生気のない変わり果てた街。ゆっくり歩みを進める二人の傍らには、倒れ込んだ門扉に巻き込まれた邪教徒が息絶えている。棘に覆われた外壁が、見渡す限りの景色を囲んでいる。
『聖地』などではない。これはアーロスの牢獄だ。外界から自分達を守るための防壁の数々が、そのまま彼らを閉じ込める障壁になっている。
アーロスは英雄と大罪人の狭間に居る。勝てば官軍、負ければ賊軍。天秤は敗北へと傾いた。
奴を勝者にしてはならない。しかし、未来の勝者となるケネス正教も、賊軍の根底にあったものを蔑ろにしてはならない。
聖地メタシムを、ただのメタシムへ戻す。
天地を引っくり返したような騒ぎとなったメタシム外縁部を他所に、セレスティアとオクリーは堂々たる歩みで中心部に向かっていく。
「な、何だ!?」
「扉がいきなり倒れた……!?」
「砲撃か!? 遠距離からの砲撃で扉を破られた!?」
「ポーク様を呼べ!! 異常事態だ!!」
錯綜する情報。誰かが現場で起こした勘違いを一次情報として、尾ひれのついた二次情報がポークに伝わっていく。
そんな惨状を横目に、二人は聖地メタシム中心部で魔法を解除した。
「敵はあらぬ場所に注意を引かれています。さぁ、転送を始めましょう」
ふぅ、と一息ついたセレスティアが後ろ髪を手の甲で流す。
オクリーは刃渡り三〇センチほどの短剣を取り出し、左腕の袖を捲り上げた。
肘先から断たれた左腕の先端には、ヨアンヌの左腕が接着されている。
更に、彼女の五指には、正教幹部達の指が無理矢理癒着させられていた。
親指、《不死鳥》サレン・デュピティ。
人差し指、《韋駄天》クレス・ウォーカー。
中指、《聖騎士》ポーメット・ヨースター。
薬指、《賢者》ノウン・ティルティ。
小指、《絶対零度》マリエッタ・ヴァリエール。
薬指にオクリー以外の肉片をつけるのは嫌だったらしく、ヨアンヌに拒絶反応を示された一幕もあったわけだが――それはともかく、ヨアンヌの肉片が地面に落下したのを合図に『転送』が始まる手筈だ。
狂気の閃きから始まり、ケネス正教を苦しめた驚天動地の戦略『移動要塞化計画』がここに完成する。
小指。
ブツリと音を立てて、強引にくっつけていた組織の結合を断ち切る。
薬指。
小指が地面に叩きつけられる寸前に、流れるように切り落とす。
中指、人差し指、親指。
一息に短剣を引くと、ぼとぼとという音を立てながら地面に落ちる。
肉片の新鮮さは保たれている。
最後の仕上げに、手の平に短剣を押し当てた。
「ッ……」
一太刀で切る、というよりは、鋸を扱うようにしてヨアンヌの一部を切り落とした。もう激痛にも慣れた。
痛みで収縮を繰り返す視界の中、ヨアンヌの肉片が地面に落下していく。
「さぁ、来い。あの時とは違う、正義の魔法使い達――」
滴る血液。手の平の一部が地面に叩きつけられて、衝撃が伝わる。
地面との衝突を合図に、ヨアンヌは正教幹部達へ告げた。
転送を開始せよ。
転送を開始せよ。
二度の号令が響き渡ると、魔法使い達は正教軍に残留するジアターやヨアンヌ達へ別れを告げた。
「それじゃあ、また後で」
街の内側に転送した魔法使い達が物理的な『道』を本隊まで繋げることで、認識阻害を回避する作戦がある。正教軍が雪崩込む準備はすぐに整うだろう。
サレンが形成した力場に飛び込んだ魔法使い達は、数キロメートル離れたオクリー達の元へ。
メタシム裏路地の薄闇に、五人の魔法使い達が『転送』されていく。
初めにやってきたのは、拭い切れない血の香り。身体の芯を通るようにして根幹の骨が生成され、続いて敷き詰められるように肉付けが成されていく。
筋肉の上に肌が張り付き、あっという間に五人の人間を形作った。
「よう、さっきぶり」
クレスが軽口を叩きながら血の海から這いずり出してくる。サレンやポーメットらもそれに続く。
「ふむ。内側に入り込んでさえしまえば、『認識阻害』の効力は無に帰す……か」
サレンはそう呟くと、オクリーの左腕に治癒魔法を施した。彼の左腕はヨアンヌのものなので、治癒に反応したヨアンヌが驚いて肘先から先を完治させた。
オクリーが向き直った先には、六人の魔法使いが立っている。
サレン・デュピティ。
クレス・ウォーカー。
ポーメット・ヨースター。
ノウン・ティルティ。
セレスティア・ホットハウンド。
マリエッタ・ヴァリエール。
――反転した移動要塞化計画が、邪教徒に襲いかかる時が来た。
心強い仲間達。心を交わした戦友達。誇り高き英傑達が、
「マリエッタ、調子はどうだ?」
「この身体凄いですよ! こう……物凄いパワーが漲ってくるんです!」
「問題なさそうだな」
「ただ……この身体の生活には慣れたくないですね」
「元々そういう制約だ。この戦いが終われば、君は魔法使いでなくなるはずだよ」
「オクリー、マリエッタ。準備はよろしいか?」
サレンは各々の準備が整ったのを横目に、高らかに宣言する。
「さぁお前達、存分に暴れ回ってやろう! そして全員無事に帰還するぞ!」
その言葉と共に、幹部全員に覚悟の笑顔が弾ける。
――思う存分暴れていいんだってさ!
――さぁ、クソッタレな敵をぶち殺そう!
許しを得た幹部達は、思い思いの方向に向かって飛び立つ。
セレスティアが暴風を巻き起こし、広場に屯していた邪教徒達をあっという間にバラバラにしていく。錆びついた風は粘性の質量を孕んでおり、以前のような抜き身の刃物じみた性質に加えて、どす黒い暴風雨のよう。人を軽々と持ち上げ、切り刻み、建物をミニチュア細工のように押し潰し折り畳む。
鋭利な切れ味を持つ風が通り抜けた邪教徒は、己の肉体が切り刻まれたことにすら気づかない。下半身だけが走る。首から上だけが会話する。細胞すら己の死に気づかない。
エヌブランの『魔法使い』の権限を聖遺物によって一時的に得ているマリエッタは、『原作』のアルフィーと同様に氷の魔法を自然習得した。セレスティアと背中合わせのマリエッタが大地に氷柱の森を走らせ、鋭い棘を纏った氷塊を風に乗せて運ぶ。
氷弾を食らった邪教徒は大小様々な穴を穿たれ、出血する間もなく氷の膜に包まれた。身体の芯まで凍りついた人間は、微かな振動を受けるだけで
全身に紫電を纏うクレスが、指先から圧縮された超高電圧の雷を放つ。もはや理不尽な域に達している速さと破壊力の雷撃は極地的に磁場を発生させ、メタシム内の金属類や武具を猛烈な勢いで絡め取る。電流を操る両手を開閉するだけで、人間が面白いように爆散していく。そして、彼が光速で駆け抜けると、衝撃波だけで教団施設を地盤ごと吹っ飛ばした。
ノウンは地下にある人間生産工場に向けて植物の根を地中に走らせ、トンネル状の穴を掘った。直接的な破壊行為は他の者に任せて、次の戦いの準備をしているようだ。ポーメットは聖剣に手を添えながらその様子を静かな表情で見守っている。
空高く飛び立ったサレンが熱線で街並みを薙ぎ払う。着弾点は呼吸するだけで肺が焼け爛れるほどの超高熱となり、小型バーナーで炙ったような跡が石畳に刻まれていく。そのままメタシムの外壁を焼き尽くし、貫通し、外縁部で立ち往生していた正教軍へ道を通した。
世界が光に満ちる。不死鳥の業火を纏った波動がメタシムに波及していき、ほとんどのゾンビが一瞬で無力化。灰となって空気中に溶けていった。メタシムに市民や外国人がいないのを良いことに、早くも最大火力でポークの配下を消滅させた。
その波動を間近で食らったオクリーは、肺が爛れるかのような痛みに襲われてしまう。
「悪いなオクリー。これでも火力控えめだ」
サレンの双眸には冷徹な意志の焔が燃えていた。
メタシムが再び戦場になろうかという中、騒ぎの大元を突き止めた邪教幹部達が到着する。アーロス、ポーク、シャディクの三名である。
「ご機嫌ようアーロス! お茶は用意してくれたかな?」
その問いに愕然とする男装の麗人の隣、仮面の男が静かに佇んでいる。老剣士は死んだ魚のような瞳で女騎士を睨めつけている。
アーロスはオクリーや正教幹部達の姿を見て、わざとらしいくらい演技じみた溜め息を吐いた。
『……意趣返しのつもりですか、サレン』
「そうさ。いい加減貴様の復讐にも飽き飽きしていてな」
『復讐ですか。それにしても、随分と派手にやってくれますね』
「此処は我々の街だ。断じて『聖地メタシム』とは認めん。まずは
ハーフアップに纏めたクリーム色の髪を舞い上げながら、異教徒に特攻の聖火が発現する。サレンがその姿を業火と一体化させ、ジェット噴射の要領で宙を舞い始める。
怒りに震える手で振り翳した焔の鞭がアーロス達を薙ぎ払う。仮面の男は背から生やした闇の翼で仲間を覆いながら、闇の力で以て聖なる炎を打ち消した。
聖地メタシムは大地に闇の力を蓄えている。言わば闇の大地だ。
聖都サスフェクトを襲撃した際は正教徒に力の均衡が傾いていた。
今は違う。サレンとアーロスの力は完全に拮抗していた。
眩い光の中に浮かぶ琥珀色の瞳。
闇の陽炎の中に揺れる仮面。
崩壊した街で、光と影が激突する――