全員覚悟ガンギマリなエロゲーの邪教徒モブに転生してしまった件   作:へぶん99

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一三八話 お前だけずるいじゃないか

 

 時は少し遡る。

 正教の魔法使い共の権能により、アーロス、シャディク、ポークが散開する。

 テラス族の生き残りポークを追うマリエッタとセレスティアは、氷の(つぶて)と鎌鼬の合わせ技でポークの左脚を切断した。

 

 屋根伝いに走っていたポークが墜落する。咄嗟に展開した棘のネットを緩衝材にして、受身を取りながら静止した。

 そんなポークを前後で挟んだマリエッタとセレスティア。それぞれ、氷結の力、風の力を両手に現出させて戦闘態勢に入る。

 

 マリエッタは一時的に魔法使いになった。

 ――聖遺物『幸ある者の左手(フォーチュンズ・ハンド)』。この聖遺物を介して手を繋ぐことで、幹部としての魔法の力を他者に三日間だけ貸し与えることができる。これを利用して、マリエッタは序列二位の座と魔法の力を一時的に得た。

 

 得られる魔法は完全にランダムで継承したため、『原作』主人公のアルフィー・ジャッジメントと全く同様の『氷の魔法』を自然習得したのは運命の悪戯である。

 本来であればエヌブランの『水の魔法』を継承する手筈だったが、一度マリエッタに備わった本来の力を見ても良いだろうとサレンが『水の魔法』の継承を引き留めた。フアンキロのように戦闘に不向きな魔法が表出した場合、『幸ある者の左手(フォーチュンズ・ハンド)』と対を成す聖遺物『幸なき者の右手(アンフォーチュンズ・ハンド)』で強制的にマリエッタの魔法を引き剥がし、再び『幸ある者の左手(フォーチュンズ・ハンド)』で『水の魔法』を継承させれば問題ないため、マリエッタ本来の魔法を見ることはやり得だった。

 

 早くも魔法を使いこなしつつあるマリエッタは、目を血走らせながら魔法を並行演算し始める。

 地面に霜を走らせる力。空気中の水分を氷柱に練り上げ、射出する力。敵の棘を狙い澄まして氷結させ、無効化させる力――異常なほど熱を持った脳が鼻血と共に溶け出してくるのを感じながら、マリエッタは故郷の人間全てを奪い去っていった怨敵にありったけの魔法を叩き込んだ。

 

 ポークは俊敏な身のこなしで冷気から逃れようと藻掻く。射出した棘を建物に引っ掛けて足場とすることで、三次元的な動きによる連続回避を可能とした。

 だが、棘が建物に突き刺さる度に、セレスティアの鎌鼬が邪魔をする。足場にしようとした棘が途切れることで、跳躍に必要な張り(・・)が無くなってポークはバランスを崩す。

 

「くそっ」

 

 セレスティアはマリエッタの魔法を援護しながら思う。

 ――マリエッタはたった一日で魔法を使いこなすに至った。刹那の判断力を必要とされる実戦においても、他幹部と比肩するほどの魔法操作を見せている。それは本来異常なことなのだ。

 

 セレスティア自身は風の魔法を習熟するまで一ヶ月もの時間を要した。空気の屈折率を操作することによる透明化、不可視の刃“鎌鼬”、空気圧操作によるあらゆる技の習得――そして、飛躍的に向上した肉体の使い方、治癒魔法の使い方。

 元々風の魔法が応用力に長けた力なのもあって、これらを熟達するのに相当の時間を費やした。

 だが、最も時間を費やしたのは治癒魔法の使い方である。脳幹を失った直後に治癒魔法を駆使したり、たった一欠片の肉片から消失直前の体細胞を模倣して回復させたりと、常軌を逸した使い方が想定されるため、その訓練も困難を極めた。

 

 その点、マリエッタは以前から知っていたかのように治癒魔法を駆使してみせた。指先以外を消し飛ばされた直後、三秒以内に復活できるかどうかの最終試験も一発合格。それは戦士としては素晴らしい才覚であるが、一五歳の少女としては如何なものなのか――とセレスティア達は思ったのであった。

 

 そのマリエッタは今、犬歯を剥き出しにしながらポークに襲いかかっている。動きは俊敏、反応は臨機応変、まさに百戦錬磨の動きだ。どんな戦場に送り出しても成果を持ち帰ってくるのではないかと思えるほどである。

 だが、殺意が前面に出過ぎている。セレスティアはそれを指摘し諌めようとしたが、なまじ彼女の出力が魔法使いの中でも上位に位置するため割り込めない。

 

「殺す――殺すっ!!」

 

 氷剣を現出させた少女が男装の麗人に斬りかかる。

 宿敵ポーク・テッドロータス。死者への冒涜を繰り返した許されざる女。過去の被虐を盾に、現在進行形の虐殺を正当化する性悪女――

 ポークはその事実から目を逸らしている。やられたことをやり返しているだけという肚で好き放題に人命を弄んだ。マリエッタはそれが許せない。正しいとか正しくないとか以前に、むかむかしてしょうがないのだ。

 

「ポークッ!! 逃げるなッ!!」

「マリエッタ、のめり込みすぎです!!」

 

 セレスティアの制止は届かない。マリエッタの氷剣が凍てついた棘を切り開き、ポークの右腕を捉えた。

 

「うッ!?」

 

 ――切断面が凍りつき、治癒魔法が駆使できない。それどころか、斬られた部位から浸透するように氷結が拡がっていく。ぱらぱらと音を立てて身体が崩れ去っていく。

 ポークは慌てて右腕を肩口の辺りから切り離した。それで氷結の進行は止まったが、あまりの無法さに冷や汗が止まらない。

 

 あの剣を受けてはならぬ。サレン・デピュティの不死鳥の業火と同等かそれ以上の威力を誇る魔法だ。一度掠るだけで簡単に死が見える。

 スティーラ・ベルモンドはサレンの炎を受け止め、猛毒の蓄積により死んだ。サレンの魔法が即効性の毒なら、マリエッタの氷の剣は更に即効性に優れた毒のようなものだ。

 

(恐らくあれは、氷剣の一部が体液に反応して連鎖的に凍っていく原理なんだ。だから切断面から次々に身体の芯が凍りついた……。浴びるだけで死に近づくサレンの炎の次は、触れるだけで死に至る氷かよっ! 厄介な魔法使いが多いな、正教はっ!)

 

 マリエッタとの戦闘で何より厄介なのが、攻撃を受けた時に氷に浸された部位を切り離すという無駄な工程を踏む必要があるため、戦闘に使えるリソースが減ることである。

 

 まだ氷の魔法の深淵を披露していない状態で、この効力。あまりにも異常すぎる。彼女の魔法が真価を発揮した時、勝てる未来が見えない。

 

死屍(ゾンビ)の軍勢で対応するしかない! あれらをとにかく集合させて戦わなきゃやってられない! けどそうすると、メタシム外縁部の防衛がまずい……正教兵どもが流れ込んでくる。でも、リソースの再分配をしてる暇はない――ああクソッ、兎にも角にもボクが生き残らなくちゃ話にならない!! 外の防衛は諦め気味にするしかない! まずはセレスティアとマリエッタをぶちのめしてから考える!!)

 

 ポークが断ち切られた手首から棘を飛び出させ、マリエッタの右側の顔面を消し飛ばす。半分で済んだのはセレスティアが風の魔法でマリエッタを押したからだ。

 たたらを踏みながらマリエッタは数歩後退するが、すぐに闘志を取り戻してポークの胸ぐらを掴み上げる。

 

(ボクの魔法じゃ即死させるのは難しい――)

 

 マリエッタに掴まれた部分から霜が伝い、ポークの上半身が一瞬で凍りつく。咄嗟に左足の指を踏み抜いて身体から分離させていたため、全身が氷漬けになる前に脱出できた。

 だが、左足の指はセレスティアの魔法によって真上から木っ端微塵に消し飛ばされた。凍りついていた肉体も、圧縮した大気圧による空気砲で消滅してしまう。

 

「――ッ」

 

 ポークが辛くも生還できたのは、単純に運が良かっただけである。セレスティアの攻撃は細胞一片すら残さずポークを消し去ったが、マリエッタの氷結が甘く体温を保ったままの部位があった。そこから復活したポークは再び逃走に転じる。

 

 ポークの魔法『棘の隷属』は対集団戦に極めて有効だが、対魔法使い戦になった時やや不利となる。サレンやスティーラの魔法のような絶対性、ポーメットやクレスの魔法のような対人性能を持つわけでもない。

 生成可能な武器は身体から射出・設置可能な棘のみで、精々棘を武器状に練り上げて振り回すか、飛び出した棘を直接当てるくらいしか直接的な攻撃方法を持たない。

 

 だからこそポークは死屍(ゾンビ)の軍勢を呼び出しているわけだが、それまでの時間稼ぎすらできるかどうか――

 

(マリエッタだけじゃない……セレスティアもヤバい!! 何だあの攻撃は……!? あんな破壊力の攻撃方法を持ってるなんて聞いてないぞ!?)

 

 セレスティアは大気圧縮や形質操作により、空気の不透過層をつくることができた。不透過層による不可視の空気パーツを組み立て、アプラホーネの改造銃の仕組みを参考にした巨大な空気砲を完成させていた。

 セレスティアはイメージを固定化するため、不可視の空気砲を肩に担いで使用する。帝国の楽器隊が有する大型バルブ式金管楽器(スーザホン)を模した格好(スタイル)である。

 

 まず、空気砲の上方に位置する漏斗状の部位に大気を吸気させる。

 不可視の長大な配管(バルブ)に溜め込まれた空気を機構の中で押し留め、極限まで圧縮する。

 準備が整うまでに、セレスティアの周囲には異様な音が鳴り響く。小さな孔に空気が吸い込まれていくような音を、幾重にも重ねて木霊させたような――巨大な大気の層が弛み歪む音である。

 

 この世界では、地球と同じく、海抜〇メートルで一平方メートルあたり約一〇トンの空気の重さが伸し掛る。本来であれば下から押し上げる力が働いているため空気の重さと均衡が取れて物体は潰れない。

 だが、この空気砲の場合は違う。セレスティアの大気操作により、伸し掛る空気の重さを吸気と圧縮に利用していた。

 巨大な水槽の底に孔を空けるように、セレスティアの空気砲に空気が流し込まれていき、次々に空気の重さで圧縮されていく。それらの工程を幾度となく繰り返し、弾丸発射の準備が整うのだ。

 

 空気砲を炸裂させる時、セレスティアは不可視の引き金(トリガー)を引く。

 人差し指を引き込んだ瞬間、機構の天辺に位置する撃鉄が振り下ろされる。審判の槌。銃口を覆っていた不透過層が開放され、猛烈に圧縮された空気が暴力的な余波を伴いながら解き放たれるのだ。

 

 その一撃が解放された時、秒速二〇四〇キロメートル(マッハ六)の爆風が一直線に吹き抜ける。

 

 セレスティアが引き金(トリガー)を引く度に、世界が(・・・)削れる(・・・)

 人間の身体など容易く消える。建造物どころか地形も削ぎ取っていく。

 突風という言葉が安っぽくなるほどの風が、轟音と共に全てを薙ぎ払う。

 

 ――『擘柳(はくりゅう)(あま)(かぜ)”』。

 それが、セレスティアの必殺技の名前である。

 

「な、何なんだよ、これは……!!」

 

 サレン・デピュティは必殺技を必要としない。彼女の操る魔法全てが異教徒への殺意を纏っているからだ。

 アーロスも同じ。マリエッタもそうだ。放つ技全てが致死たりえる。相手を殺すための必殺技も、命名によるイメージの固定化も必要ない。

 

 必殺技を編み出す必要があるのは、弱い者だけ。

 弱者だけに許された隠されし爪が、宿敵の動きを尽く封じ込める。

 反撃も許されない。ポークが何度棘をばら撒いても封殺されてしまう。

 

 ポークは何度か攻撃を受けた時に勘づく。不可視の空気層で何らかの機構を形作り、人差し指を起点に空気砲のようなものを操っているのだ――と。その証拠に、攻撃の寸前に人差し指が連動するように動いている。

 恐らく本体に攻撃を当てれば止められるはず、とセレスティアの周辺に棘を飛ばしてみるが、『擘柳“天つ風”』の連発により棘が霧散する。

 

「ううぅっ……!!」

 

 破壊そのものを纏った女が二人。

 氷と風。絶対零度と不可視の砲弾。

 逃れられるはずがない。

 

「く、くそおおおっ!!」

 

 ポークは棘の両端部を地面に突き刺し、弦のように突っ張らせる。それを足掛かりにして、弓矢の矢を飛ばす要領で遥か遠方へと跳躍した。

 

「セレスティア様!」

 

 逃亡したポークに氷の礫や氷剣を射出するが、弾丸のような速度で跳んでいった敵には追いつけない。マリエッタはポークから目線を切らずにセレスティアへ叫ぶ。

 

 セレスティアの右目の前には、黒く着色した空気式照準器(エア・サイト)が備わっている。視力の良い彼女の眼球が捉えられる範囲であれば、若干の偏差射撃を織り込んで狙撃可能である。

 豆粒ほど小さく遠くなったポークに照準を合わせる。直角に曲げた左腕が空気砲『擘柳“天つ風”』のグリップを支え、脇を締めた右腕が引き金の周辺に添えられる。小さく息を吐き、セレスティアは煌めく双眸を細めた。

 

「――穿ちなさい、擘柳(はくりゅう)(あま)(かぜ)”」

 

 ――鼓膜を劈く轟音が響き渡る。どん、という音がして、セレスティアとマリエッタの内臓を音の波が叩いた。

 音そのものが破壊の波となって空気を震わせ、射撃の反動による風が周辺の建物を薙ぎ倒す。

 

 放たれた空気の塊は、弾というよりは砲弾――否、光線の如き重厚さを有していた。

 背景を僅かに歪める空気の塊が僅か数瞬のうちに空へ飛んでいき――

 豆粒ほどの大きさになっていたポークを貫いた。

 

 爆散したポークの四肢が墜落していく。

 マリエッタは諸手を握り締めて喜びを表現した後、振り返って「行きましょう!」とセレスティアの手を取った。

 

 地面を凍らせて道を作り、セレスティアの風を後方に噴射することで加速的に滑走する。ポークが肉体を治癒し切る前に現場に到着した二人は、地面で藻掻く宿敵を見下ろし魔法を使用した。

 

「一回、おまえに文句言いたかったんだ……!!」

 

 マリエッタが壮絶な表情で叫びながら、己の両腕から冷気を噴出させる。

 少女の故郷メタシムを地獄絵図に変えた因縁の敵――家族や知人、親類から幼馴染に至るまで全ての人間関係を奪った悪魔。オクリーやエヌブラン曰く、『テラス族』という虐殺を受けた民族の生き残りらしい。だからこそ言いたいことがあった。

 

「おまえは弱い……!! おまえはクソだッ!! 奪われることの痛みを知ってる人間が、のうのうと奪う側になってんじゃねえよ、このボケがっ!!」

 

 肉体を芯から凍りつかせた直後、拳骨で脳天を打ち砕く。

 バギン、という耳に残る歪んだ音がして、ポークの上半身が粉々に飛び散った。

 

 氷結の力は治癒魔法を鈍らせる。完全に凍りついた部分は融けるまで復活しない。ポークの棘さえ凍てつかせるマリエッタの魔法は、一度射程圏内に入ってしまえば一方的に相手を殴れる力を有していた。

 

 ポークの肉体全てが凍りつく。頭部だけを残して全てが氷の層に覆われた。

 マリエッタの背後には『擘柳(はくりゅう)(あま)(かぜ)”』を構えるセレスティアがいる。

 チェックメイトだ。ポークが苦し紛れに口内から棘を射出するが、マリエッタに届く前に凍りついて推進力を失った。

 

故郷(メタシム)で普通に暮らしてただけの人間が、突然死の恐怖に曝される恐怖と理不尽さ――おまえも知ってるだろッ!! おまえが与える側になってるんじゃねえよ!!」

 

 唇まで氷に覆われたポークは口答えすることもできない。

 

「お父さんとお母さんは生きたまま食い殺された! 友達は絶叫しながら炎の海に呑まれた! 近所の女の子は喉笛掻き切られて涙を流しながら死んだ! 大切な幼馴染はあたしを生かすために命を投げ打って、結果焼け死んだ!! ――その、みんなの姿と声が、あたしの頭からあたまからアタマから離れてくれないんだ!! 何でこんな目に遭わなきゃならないのって――どうしてこんな理不尽で絶望の底に叩き落とされるのって――おまえらを恨んだ!! 世界を恨んだ!! ポーク、おまえだってあるんだろうッ!! 理不尽な暴虐がどれだけ人の心を殺すのかを……!! どうしておまえは、その理不尽を振り撒く側に回った!!?」

「――キミに何が分かる。キミとボクは違う」

 

 辛うじて氷の層を破った声帯が微かな声を紡ぐ。綺麗事ばかり抜かしやがって、反吐が出る。ポークの口はそう紡いだ。

 そんな反論に対してマリエッタは更に苛立ち、全身から発する冷気を強めていく。

 

「確かにあたしとおまえは違う。境遇は同じかもしれないけど、こころの在り方が違う。おまえの心は腐り切ってウジが湧いてる。あたしはこの痛みを他の人に振り撒いて癒やそうだなんて、絶対にしない。痛みを知っているからこそやらないんだ。できないんだ。悪意にまけて世界を恐怖と混乱に貶めようだなんて、絶対にしないんだ!」

「ふ、はは……。何を言おうと人殺しは人殺しだ。ボクはボクの正義に従い世界に復讐する。キミ達も正義の名のもとにボク達を殺すだろう。何も変わりやしないんだよ」

「知ったような口を聞くな!! このマリエッタ・ヴァリエールは、おまえなんかとは絶対に一緒じゃない!!」

「……じゃあ、そこにいるシスター様はどうなんだよ!? セレスティアは一時的にボクらと正教徒ぶっ殺してたんだぞ? 正義や大義なんてどうでもいいんだよ! 人間、やるかやられるかだろうが!! 何と言おうと同じなんだよ!!」

「違う違うちがうちがうッッ!!! おまえみたいなドブネズミとッ! あたしの尊敬するセレスティア様をッ! いっしょにするなあぁぁあああッッ!!」

 

 感情を過剰に揺さぶられたマリエッタが、自身を中心に氷結の陣を張る。半径一〇メートルほどを一瞬で覆った白い空気は、忽ちポーク・テッドロータスの全身を凍てつかせた。

 ポークの喧しい口を塞ぐように、その魔法陣は数十秒間持続した。白い空気が空気中に溶けてなくなると、ポークの全身が完全に氷漬けになっていた。

 

「う、うああああああぁぁぁあああああああっっ!!」

 

 マリエッタが右手を振り上げ、氷像と化したポークの顔面を拳で撃ち抜く。

 呆気ない軽い音がして、ポークの顔面が飛び散った。

 

「マリエッタ、やめなさい!」

「フーッ、フーッ、くそ……くそおっ!! あの女、セレスティア様のことを愚弄しやがった!」

「マリエッタ!!」

 

 セレスティアが鋭い口調で制止すると、幾度かの死体蹴りの後にマリエッタの攻撃は止まった。

 

「わたくしのために怒ってくれたのですか? ……ありがとう。でも、彼女の言うことにも一理ありました」

「そんなことありませんよ」

 

 マリエッタが吐き捨てる。セレスティアは首を横に振った。

 

「わたくしには洗脳中の記憶が残っています。……守るべき者達を殺してしまったのです」

「セレスティア様は悪くないじゃないですか。こいつら、こいつら……あたしの大切な人達を傷つけて、それを当然の報いだって嗤ってるんですよ? そんなの、許せるわけ無いじゃないですか……」

「…………」

 

 少女の双眸から涙が溢れ落ちる。

 既にポークの肉体は機能を停止し、全てが絶対零度の氷霜の中で眠っている。

 

「大切な人を守るために戦いましょう。その使命を邪魔する者がいれば、蹴散らすだけです」

 

 セレスティアの『擘柳(はくりゅう)(あま)(かぜ)”』が発射され、氷漬けになったポークの身体を全て攫っていく。

 そして、消えた。ポークの身体を構成する組織の全てが、消滅した。

 

「行きましょう」

「はいっ」

 

 二人は風に乗って、メタシム中心部へと舞い戻っていく。

 

 しかしセレスティア達は気づかない。

 

 ポーク・テッドロータスの操る死屍(ゾンビ)共が機能を停止していないことに。

 

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