全員覚悟ガンギマリなエロゲーの邪教徒モブに転生してしまった件 作:へぶん99
オクリーは逆方向に折られた指を無理矢理元に戻して、周りを囲む三人を睨む。
警戒を怠らないオクリーに苦笑した憑依ヨアンヌは、彼の前で跪き顔を覗き込んだ。
『そう警戒しないでください。我々は仲間なのですよ』
「幻夜聖祭で決別したことを忘れたのか?」
『フフフ、そうでした。今の私とあなたが本当の仲間になるのは難しいかもしれませんね』
「てめえ……いつまでヘラヘラしてるつもりだ。この状況から逆転できるとでも思ってるのか」
『できますよ。何せ私には頼れる仲間が沢山いますからね』
「……反吐が出る」
飄々とした態度の憑依ヨアンヌに吐き捨てる。その反骨心溢れる態度に何を刺激されたのか、彼女の笑みはより深くなった。
憑依ヨアンヌはオクリーの傷を治すために近づこうとしたが、オクリーは腕を隠しながら彼女と距離を置く。アーロスは幻夜聖祭で潰したはずの左腕が生えてきていることに気づいて不思議がる。
『おや? あなたの左腕は幻夜聖祭で踏み潰したはずですが。ご自慢の生命力で生やしたのですか? やはりオクリー君は底知れませんね』
こんな状況でも冗談めかして質問してくるアーロスの不気味さにオクリーは言葉を失う。彼の状況の読めていなさ加減に顔が引き攣った。
わざとそんなことを言っているのか? どう考えても昔話をしている場合じゃないはずだ。それに、左腕が復活したのも底知れないとかいう理由で流していいわけがない。
軽んじられてるのか、貶されているのか、分からない。気持ち悪い。纏わりついてくるかのような不気味さがオクリーを叫ばせた。
「お前何なんだよっ!」
ポークがオクリーの肩を掴んで威圧感を発していたが、彼女の存在はあまり気にならない。
憑依されたヨアンヌは瞬きひとつしないで首を傾ける。白い前歯を露出する形だけの笑みを張り付けて、つらつらと言葉を並べた。
『私は思ったことを喋っているだけですよ。できることならあなたと復縁したかったですが……ここまで反抗されるとなると、やはり再び手を取り合うというのは難しいのでしょうかね。まあ、まだ諦めたわけではありませんよ?』
この男は会話が通じないのか? 今までアーロスに感じていた不気味さが裏返って、凄まじいばかりの非人間じみたオーラを醸し出している。
憑依ヨアンヌの喋りは止まらない。
『ねえオクリー君。あなたに夢はありますか? 私の野望を後押ししてくれるのなら、理想郷をつくってその先で夢を叶えましょう。私はあなたを歓迎しますよ。我々が力を合わせればきっと何だってできます!』
――人間じゃない。同じ言語を発するだけの化け物だ。今のアーロスは未成熟なプログラミングを施された人工知能とか機械なんじゃないかと思えるほど、オクリーの感情や実感と噛み合わなかった。
「も、もう喋るなよ……。お前に何を言われようと、俺はお前の仲間になったりなんかしない。俺が守りたいのはヨアンヌの身体だけだ」
『知っていますよ。私がこうしてあなたを唆しているのは、私の心がどうしてもオクリー君に意地悪したいと感じているからなのです。あなたは私の夢の半分だから……』
「あ、え……? な、なにいってんだ……?」
気持ち悪い。
気持ち悪い、気持ち悪い、キモチワルイ。
鳥肌が止まらない。言葉は通じているはずなのに、会話になっていない。キャッチボールをしていたはずが、ヤツはボールを足で蹴ってひとり遊びを始めている。憑依ヨアンヌはほとんど口を開かないまま早口言葉で好き勝手に語り出した。
『私の夢はね……私を見捨てたゲルイド神聖国を地獄に叩き落とし、人々を疲弊させ、決して癒えない深い傷を負わせて、跡形もなく滅ぼすことなんです。その上で、私と心を通わせた仲間達と、本当の安らぎを得るための
――違う。この男はこの期に及んで嘘をついている。オクリーは恐怖した。
ポークやアレックスがいるからだろう。『邪神』のことについて何一つ触れないのは確信犯だ。
奴の本当の狙いは――
『カイル文書』によると、『邪神』は『唯一神』に成り代わるために使徒を使って現世に影響を及ぼしている。使徒を通じてでしか現世に関与できない邪神が必要としたのは、アーロスのような実体を持ったカリスマだった。
人々の信仰を集めて力を得ていく過程をアーロスで再生産し、アーロスの存在をそっくりそのまま『邪神』に置換することで、人々の心の中心に返り咲く『神』になる。そのために『天の心鏡』を頼ったのだ。『国盗り』は『天の心鏡』による願望の成就の副産物でしかない。
この戦いは、邪神が人々の心の中に棲む『神』に復活するための戦争であり、アーロスがゲルイド神聖国に復讐を果たし理想の世界を叶えるための戦争でもある。
その背景を隠すのは部下に対して誠実さに欠けている。バレていないとでも思っているのだろうか。いいや、もはやどこまで本心を語っているのかも分からない。
――“嘘”。
嘘の仮面。
何もかも偽物で、何が本当か分からない。
それこそがアーロスの性質なのかもしれない。
オクリーは様々な言葉が口から飛び出しそうになったが、それを語るほどの余裕がなかったため押し黙った。
『そして、もう半分の夢はね、仮面を被っていない私の夢なんです……』
「……?」
『その夢は……私の野望を阻止してくれる英雄が現れること、ですよ』
――またふざけたことを吐かしやがる。オクリーの口からそんな罵倒の言葉は出てこなかった。アーロスの口調があまりにも穏やかで哀れみを含んでいて、真実味を帯びていたからだ。
『人間だった頃の私の善意が反抗するのです。こんな惨いことはやめろと。しかし、もう止められません。復讐し破壊することもまた私の真の夢になってしまった』
「…………」
『誰も私の悪意を止められない。
そんな中で出会ったのが君ですよ、オクリー君。
あなたはどんなことがあっても私の野望を打ち砕こうと立ち上がった。
魔法すら使えない愚図の一人が、孕み袋から生まれた
私は嬉しかった……。本当に本当に嬉しかった。
愚鈍で怠惰で傲慢で虚勢を張る滓のような人間でも、何度でも立ち上がって希望を持って生きていけるんだと、大真面目に感銘を受けました。
しかし、あなたが言うところの
どうせこのイレギュラーもすぐに折れてしまうのだろう、いや折れてしまえ、そうすれば納得して世界を滅ぼせる。
そうやって、期待して、半ば諦めつつも、あなたを泳がせていた。
一年前のメタシム奇襲、ダスケル襲撃、北東支部での修練を経て、あなたは自爆まがいに記憶をなくしてしまった。流石にあなたの牙も折れただろうと……私は自分に言い聞かせながら、もはや聖都サスフェクトへの片道切符として使う他ないと、使い捨てる気満々であなたに転送源を埋め込んで放流したのです。
一度、あなたのことを、完全に諦めたのですよ。
否、また折ってしまった、と……。
私の悪意にまけずにめげずに上を向いてくれる人間は、ついぞ現れなかったのだと。
アプラホーネも、シャディクも、スティーラも、ポークも、ヨアンヌも、フアンキロも、結局は私の仲間に
正気を保ったまま進み続ける狂気の人間は何処にもいないのだと、私はどん底に堕ちたような気分だった。
だが、私の意に反して、あなたは地獄のような世界でも決して折れなかった。
記憶喪失から復活した上で、私の野望を阻止しようと健気に動き始めたのです!
あれほど嬉しいことはなかった。
あれほど心躍ることはなかった。
あれほど人を羨んだことはなかった。
あれほど人を妬んだことはなかった。
あれほど人を壊さなきゃいけないと思ったことはなかった。
私はこの世界を本気でぶち壊そうとしていました。
それと同じくらい本気で、清濁併せ呑む混沌の英雄を欲していた。誰かが私の野望を打ち砕いてはくれないのかと、希っていた……。
あなたは我々の悪意に唆されず、使徒にならなかった。
私の部下から邪魔されても決してめげず、前を向き続けた。
苦悩と葛藤の中、死に体になりながらも立ち上がり続け、善を貫こうとした。
幻夜聖祭で再会して、あなたが正教と共に世界を守ろうと決意したのを知った時、私は本当に感動したのですよ。
だからこそもっと意地悪して邪魔しないと駄目だと思って、心を鬼にしたんです。
あなたに見合う『邪』でなければいけないと、改めて決意したのです。
私の夢を叶える役目は、サレン・デピュティや正教幹部共では駄目でした。最初から私の悪意に反抗できる力を備えてしまっている。そういう人間は、持たざる者の気持ちなんて分かっちゃくれないんです。
弱者の気持ちが分かるほど無力で無能で、些細なきっかけで善悪のどちらにも傾き得るような危うい精神の持ち主で、それでいて孤独や絶望に耐えうる鋼の心を持ち、あらゆる矛盾を嚥下して包み込むような人物でないとダメでした。
オクリー君しかいなかったのですよ。
結果的に、私が唆した部下達でも駄目だったのです。
孕み袋出身の人造人間で、何も持っていなくて、愚かで情けなくてちっぽけな人間じゃないと努まらなかった。
紆余曲折あって私に付き従うような者は、私のもう半分は求めちゃいなかった。
私のもう半分が求めていたのは、大虐殺と大混乱を引き起こしたアーロス寺院教団ではなく、現実的手段により理想郷を目指そうとするケネス正教こそ正しさの一つである――そう熱弁できる弱くて強い人間だったんです。
私の英雄は、あなたしかいなかった。
オクリー・マーキュリー。
私はあなたをずっと待っていた……』
彼の演説の間、オクリーは一言も発することができずに押し黙っていた。
世界を滅ぼそうという野望を持ちながら、その逆――世界を滅ぼそうとする自分を止めてくれる英雄を求めていただと? ふざけている、馬鹿げている、狂っている。どこまでコケにするつもりだ。この男は、この世界をゲームのような非現実とでも思っているのか? アーロスが言う言葉は全て軽すぎる。世界を俯瞰して見すぎている。その夢に巻き込まれて死んでしまった人々のことを軽視しすぎている。
怒りを通り越して、脱力した。オクリーはその場に膝を折って項垂れると、大きく息を吐いた。瞬発的な怒りではなく、ふつふつと奥底から湧き上がってくるようなどす黒い激情がオクリーの思考を塗り潰した。
「どっ、どこまで……。どこまで人を――人の心を馬鹿にするつもりだっ!!」
オクリーは憑依ヨアンヌの胸倉を掴み上げ、拳を振り上げた。
しかし、愛する少女の勝ち誇った顔が視界に飛び込んできて、その拳を振り下ろすことはできなかった。
「しかもてめえ――嘘を混ぜやがったなっ!!
この男の話を聞いてはならない。嘘をついている。どこからどこまでが嘘で真実か全く掴めないが、人を不愉快にさせるためだけに同じ言語を話している。オクリーの心を深く傷つけたスティーブの存在すら引き合いに出してきた。人の心を惑わす悪魔のような男だ。話しているだけで気分を害される。
アーロスは心の弱った人々が求める英雄の姿を演じ続けてきた。被った仮面は彼の素顔を隠し、人々は仮面の下の素顔を想像する他なかった。アーロスには元の顔なんてものがなかったのだ。全て嘘で空っぽだから、人々は英雄的なアーロス像を想起して肥大化させていた。
この男には何もない。偉大なる教祖アーロスなどではなかった。ただの空っぽの人形。“悪意”と嘘の絡繰人形――アーロスはオクリーが想像するより何倍も醜悪で奸悪で邪悪だった。
これが“悪意”。
邪神の使徒たる男の純粋悪たる性質なのだ。
『嘘ではありませんよ。あなたは私を恐れ憎しむあまり、言葉の真偽が掴めなくなっています』
「黙れっ!! お前は人の心を惑わす悪意の塊だ!!」
『いいえ、違います。私は人間です』
「――ッ、さ、さっき、お前は
『フフ、そんなことも言いましたっけ……』
「……!!」
――駄目だ。言葉を交わせば呑み込まれる。オクリーは憑依ヨアンヌの螺旋状の瞳から目を逸らした。
化け物だ。これまで色んな人間と言葉を交わしてきたが、これほどまでに“怪物”という印象の似合う存在と出会ったことはなかった。
『オクリー君……あなたは本当に素晴らしい。本当に美しい……。妬ましいほどに、心をへし折ってやりたくなる……』
「お前は俺に嫉妬してるんだ。かつてのお前は、絶望で心を折られて悪意に唆されて、邪神の手先になった。だから折れない俺の邪魔をする……。かつてなれなかった自分の姿を見て、そいつの心をぐちゃぐちゃにしないと気が済まなくなってるんだ!」
『その通り。ヨアンヌに憑依したのも、あなたを絶望させるためです。そしてあなたの心を折り、人間だった頃の私の夢を諦めさせる。そうすれば、私は私の過去に納得することができる。オクリー君でも折れるのなら仕方ない、と』
アーロスはオクリーの拘束を手の甲で弾いて襟を正した。
『これは私からの試練ですよ、オクリー君。あなたは大切な人と世界のどちらを選ぶのですか? 両取りは不可能――』
「いいや、両取りする」
『…………』
「俺には頼れる仲間がいる。この程度の悪足掻きでハッピーエンドを諦めてたまるか。俺が諦めの悪い男だって、お前も知ってるだろ」
『……素晴らしい』
憑依ヨアンヌが満面の笑みを浮かべる。これまでの笑顔と違って、心の底から漏れ出したような狂喜が滲み出ていた。
オクリーはやり取りを聞いていたはずのポークに目を向ける。お前はここまでコケにされて何も思わないのか。彼の顔からはそんな想いが読み取れた。
「ポーク、ここまで言われても、お前はアーロスに付き従うんだな? 絶対に後悔しないんだな?
「関係ない……。ボクはアーロス様についていく……」
「……くっ」
ポークはばつが悪そうにオクリーから目を逸らす。彼女も利用されてきただけだと本心では分かっているはずなのだ。しかし、今まで成してきた悪事の取り返しのつかなさと、その先に待つ理想郷という名のリターンが、彼女に正気を取り戻させてくれない。
しかし、正気を無視するだけの理性が残っているのだ。何かきっかけがあれば、オクリー側に引き込むことも不可能では無いはず。それでも、今はそんなことをしている時間のリソースがない。アーロスの行動を阻止しながらヨアンヌの身体を守るという無理難題を叶えることが第一目標である。
アレックスは相変わらず何を考えているか分からない。大火傷で水膨れになった痕を撫でながらにやにやと薄ら笑いを浮かべている。彼の頭の中にあるのは、恐らく世界を混沌に陥れ破滅的な結末を迎えさせるにはどう動いたらいいか――という道化師じみた発想だけだ。今は無視するしかない。
「アーロス、お前は大聖堂に行って何をするつもりだ」
『さぁね』
アーロスを大聖堂に行かせてはならない。聖地メタシムの
(――ヨアンヌを殺すしかないのか?)
一瞬、そんなことを考えてしまう。
その心の揺らぎを察知したかのように、アーロスがヨアンヌの声で囁く。
「オクリー、アタシを殺してくれ』
「――――」
彼女は目元に涙を浮かべていた。
その一言がアーロスの演技なのか、ヨアンヌの本心なのは分からない。
いいや、憑依ヨアンヌが悪辣な笑みを浮かべているのを見るに、演技なのだろう。オクリーがヨアンヌを殺せないと分かっていて煽ったのだ。それでもお前は折れないんだろうと期待するかのように、けたけたと嗤っている。
人の心を究極的に弄ぶその発言に、オクリーの糸がぶつりと音を立てて千切れた。大声を上げて地面をぶん殴り、手の甲から血が出るほど強く瓦礫を殴りつけた。ヨアンヌの身体を殴ることはできなかった。
「お、おまえ、おまえぇっっ!! 許さないっ!! 絶対許さないっ!!」
『さあ皆さん、大聖堂に向かいましょう! 我らの野望を成就するために!』
オクリーを残してアーロス達は出発する。深く傷ついたスーツを操る瀕死のアレックスと、真の操り人形と化したポークと、ヨアンヌに憑依したアーロスと、彼らの企みを阻止するべく動きたいオクリー。
目指すゴールが違うのだから、纏まって動けるはずがない。少なくともオクリーについてはアーロスの行動を阻害するために動く。アレックスも彼なりの悦楽を最優先の行動理念とするはずだし、ポークも心の中に爆弾を抱えている。チームとしての一体感は今まで以上に壊滅的だった。
何より、彼らの様子を窺いながら自分の理想を貫き通せるかと問われれば、やり遂せる自信があまりなかった。四人の纏まりの無さと宙ぶらりんな精神状態が、いつ爆発するか分からない時限爆弾のように思えて気が気でない。
今まで何度も絶体絶命のピンチを味わってきたが、今以上に読めない状況というのも中々ないだろう。メタシム襲撃の際にアルフィーに会いに走ってしまったやらかしや、ヨアンヌと内臓交換する直前の絶望、サテルの街で突発的に起こった円卓会議の混沌以上にきついものがある。
誰にどう働きかけて立ち回れば良いかの正解が全く見えてこない。これから相手取らなくてはならない正教幹部の存在も、鉛のようにずしりと重い印象を与えてくる。
(俺は今までどんな絶望も踏み越えてきた。視野を広く保て。思考を高速回転させろ。細い細い糸を手繰り寄せていけば、必ず俺の求める理想が実現できるはずだ……!!)
大聖堂に向かおうと行動を起こした彼ら四人の元に、遥か遠方から風切り音と共に飛来する四つの影があった。憑依ヨアンヌが片手を上げて制すると、四つの影はオクリー達を囲むように地面に着地した。
土煙が上がる。灰色の靄が横に流れて晴れていくと、影の正体が明らかになる。クレス、ポーメット、ジアターの召喚獣、セレスティアである。恐らく転送源を残りの三人の元に残してきたのであろう、幹部達の耳朶は分かりやすく欠けていた。
「よぉオクリー、残念ながらぶち殺しに来たぜ」
クレスが言いながら地面に手を付き、電磁波の領域を作り出す。アレックスはスーツに持たせたポンプ銃で対抗するが、あえなく撃墜される。そのついでにセレスティアを狙い澄まして狙撃するが、彼女には矢避けの加護がある。弾丸や飛翔物の方が勝手にセレスティアを避けていくため、無意味であった。
「ありゃりゃ、面倒なのがいっぱい来ちゃったっすね」
『オクリー君はポーメットの相手を頼みます』
「俺に指示するな、クソ野郎」
『アレックスはジアターの召喚獣を相手なさい』
「分かったっす!」
『ポークはセレスティアと戦いなさい。リベンジマッチですよ』
「分かってます」
『そして私の相手はクレスですか。掛かってきなさい』
正教幹部達が転送源を残してきたのなら容赦する必要はない。ヨアンヌを守るために全力で戦っても良い。だが、あまりにもアーロス達の有利になるように動き続けてしまえば、結局は大聖堂に到着させてしまう結末に繋がる。
いつかどこかで、アーロス達を止める手立てを考えなければならない。それも、決定打となる妙案で、アーロスの足並みを完全に止めなければならない。そんな手は残っているのか? 分からないが、全力で考えなければ終わりだ。この戦いが終わるまでに、知識の全てを総動員して、世界とヨアンヌを救うウルトラCを実行するしかない。
そんなこと、できるのだろうか。
――やるしかない。
そもそも、クレス達に勝てるかどうかも分からない。
世界最速の韋駄天クレスに、パワーアップして帰ってきた風使いセレスティアに、万の幻を操る召喚獣使いジアターに、大陸最強の剣士ポーメット。
勝てるわけがない。だって、こっちの魔法使いは二人しかいない。この場で最も弱いアレックスが負けてしまえば、数の有利を押し付けられて絶対に負ける。つまり、アレックスを守りながらポーメットの相手をしなくちゃいけない。
無理難題だ。できるわけがない。
しかも、彼ら正教幹部との戦いに勝利した後、そのウルトラCを発案して、実行して、世界とヨアンヌの両取りに成功させるしか生き残る道がないと来た。
――馬鹿な道を選んでしまったものだ。
アーロスの言う通り諦めた方が簡単な道だ。
でも、諦めるわけにはいかない。
これまでに乗り越えてきた絶望に比べれば、こんなもの屁でもない。
自分を信じる。
それさえできれば、この絶望だって打ち砕けるはずなのだから。