全員覚悟ガンギマリなエロゲーの邪教徒モブに転生してしまった件 作:へぶん99
『オクリー君が狂人だった?』
フアンキロとポークから報告を受けたアーロスは、その内容の不可解さに首を傾げる。詳細な報告を受けて事態を把握して、彼はやっと浮かせていた腰を落ち着けた。
「――彼の発言は意味不明で我々の理解の及ばないものでした。しかしこれまでの行動を鑑みるに、アーロス様に対する忠誠心だけは本物のようです」
『おや、そうなのですか? 嬉しいですねぇ』
嬉しそうにするアーロスに対して何とも言えない表情のフアンキロとポークは、オクリーの処遇について意見を求めた。
「そんなこと言ってる場合じゃありませんよ。彼はボクの死体を攻撃しました。狂人だからと言って何の処分も無しでは不和が生じるでしょう」
「ポークの言う通りです。……アーロス様、処分はどのように致しますか?」
『そうですね。彼は幹部との戦いに生き残る運の良さに加え、平均クラスより高い戦闘力があります。使い潰すには勿体ない人材ですよねぇ』
「となると、やはり異動か再教育という形になりますが……」
アーロスは思案する。ここまで自分の関心を集める教徒というのも珍しい。どのように扱ったものか。
再教育は個性を潰して人格を
どうせ異動という処分を下すのなら、獅子が我が子を千尋の谷へ突き落とすように、移動先の厳しい環境から這い上がって一人前の教徒へと変身してほしい。アーロスはポンと手を叩くと、優秀な教徒であるオクリーが伸び伸びと育てる環境を用意することにした。
無論、彼にとっての『伸び伸び』は一般人のオクリーにとって地獄に相違ないのだが……教祖の発言は絶対である。
『一旦はメタシムの後処理と復興を手伝わせます。そして準備が出来次第、“北東支部”で働いてもらうことにしましょう。再教育はナシです』
「ほ、北東支部ですか……」
北東支部という言葉を聞いたフアンキロとポークは動揺し始める。
『おや、意見があるなら言ってください。参考にしましょう』
そんな彼女達に対して、なるべく威圧感を出さぬよう優しく訊いてみるアーロス。彼は部下に対して非常に寛容な方だが、ポークもフアンキロも北東支部には良い印象がないため発言を躊躇ってしまう。
そんな中で、ポークは勇気を以て教祖に助言した。
「北東支部の環境は彼にとって厳しすぎます。あそこは特殊すぎて、潰れて再教育を受ける教徒がほとんどではありませんか」
古城を含む一帯を教団本部拠点とするなら、北東支部拠点は遥か北の大地に擁する洞窟内に存在する。主に正教の拠点や街の遊撃を担当する過酷な支部で、先のメタシムの戦いでも影の立役者となった重要な支部だ。
その概要からも分かるように、北東支部は教団の中で最も過激かつ過酷な支部に当たる。北東支部を構成する要素は、極寒の大地、武闘派揃いの幹部や支部長、戦闘三昧を楽しむ教徒達――そもそも環境に適応できるのは屈強な若者か、他国からやってきた元兵士くらいなもの。血肉に飢えた教徒が戦いに明け暮れるための拠点が北東支部と言っても良いほどだ。
ただし、北東支部の教徒達と言えども正教幹部に打ち勝てるほど強靭なわけではない。あくまで他支部に比べて一粒一粒が優れているだけで、選ばれし七人などの超人には全く叶わないのが常である。
それはさておき、アーロスはその極限の環境こそオクリーの成長に寄与することが出来るのではないかと考えたわけだ。厳しい冬と殺し合いを乗り越えてこそ、真の教徒として一皮剥けることができる。教団をより強く大きくするためにも、彼のような教徒を成長させることが重要なのだ。
ポークもフアンキロも、その意図はしっかりと理解していた。だからこそアーロスに反対している。
オクリーの印象が未だに定まらないポークはともかく、彼に良い印象を持たないフアンキロですらオクリーの北東支部行きを阻止しようと画策するほど。確かに教祖の注目を集めるオクリーという男は気に入らないが、彼が重要な戦力になりそうなのも事実。それ故に、もっと丁寧な育成方針を取るべきなのではないかとフアンキロは助言した。
「アーロス様、ポークの言う通りです。確かに厳しい環境を跳ね除けて成長していく者は存在しますが、彼がそうであるとは限りません。それに、オクリー君は既に精神的異常を来たしていますから……改善の兆しが見られた後に異動させてみてはいかかですか?」
「北東支部に送る者は心身共に健全であるべきです」
フアンキロの言葉にポークが付け加えると、アーロスはしゅんとしたように俯く。多数決の形勢的には一対二で敗北である。部下二人の反対を受けて、アーロスは思案の後に考えを改めていく。
オクリーに対する処分は必ず必要だ。そうでなければ他の教徒に示しがつかない。遠方に飛ばして『教祖様のお膝元で働けない』という罰を与えなければならないのだ。そして、彼にとって成長の機会が見込めるのは北東支部以外にない。彼が最も伸ばすべき長所は戦闘力である。ただ、過酷な環境に行かせるのは時期尚早で、彼の精神をケアしてやる必要がある、と。思考を纏めたアーロスは顔を上げる。
『……そうですね。やはりポークとフアンキロを私の傍に置いて正解でした。良い助言をありがとう、二人共。オクリー君の異動は少し先延ばしすることにします』
その言葉を聞いて、フアンキロとポークは肩の荷が下りたような気分になった。無限の可能性に満ちた青年の未来は、教団を上げて大切に育てていかなければならない。早まった判断がされなくてよかった。心からそう思うのだった。
☆
狂人になりきることが出来たとはいえ、過失は過失。ポークの所有物であるスティーブに攻撃して何のお咎めなしとはならない。いくらか処分は軽くなるだろうが、人格を破壊される再教育を受けさせられるのが妥当だと思っていた。
そう思って自我に別れを告げようとしていた俺だったが、下された処分は『異動』。しかも、俺の精神状態が正常に戻るまで異動を待ってくれるらしい。
そんなわけで、俺はしばらくメタシムの街の復興作業を手伝わされることになった。
明確な裏切り行為を働き、教団に不利益を齎すような教徒に対しては、尋問の後に幹部序列四位スティーラ・ベルモンドへの『胃袋行き』の処分が下される。つまり処刑、というか普通に死刑だ。
――スティーラ・ベルモンド。幹部序列四位に位置する少女で、個人的にはヨアンヌと同じかそれ以上に関わりたくない幹部である。その見た目は黒髪ドリルのゴスロリで、人形のように美しかったと記憶しているが……そもそも邪教徒である上、前述した人肉嗜好のおかげで恐怖の対象でしかない。
ケネス正教の幹部に比べて、アーロス寺院教団の幹部は愛情表現というか性癖の終わっている人間が多い。向こうの女幹部は何やかんや可愛い奴らが多いけど、こっちの女幹部は全員まともじゃない。
ヨアンヌは四肢切断して監禁しようとしてくるし、フアンキロは体液フェチで体液の呑ませ合いを強要してくるし、ポークは男に女装を強要した上で逆レイプするのが大好きだし、序列四位のスティーラはカニバリズムだし……えげつない性癖の大渋滞である。
原作をエロゲーという観点で見るなら、邪教側はゲテモノ性癖のバーゲンセールであろう。ポークに関しては、むしろ原作ファンから『寺院教団唯一本番シーンで抜ける女』という評価を受けているが、それはそれとしてヨアンヌとスティーラは突き抜け過ぎていると思う。
特にスティーラとの本番シーンは、背景がずっと真っ赤だったのを覚えている。しかも何が恐ろしいかって、流石にゲームとして売り出す以上、ライターが描写を省いて自重していた節があること。つまり、この世界で生きているスティーラのカニバリズムは、原作ゲームの狂気を下回ることがないということだ。
本部拠点で関わってしまった四人の幹部――ヨアンヌ、フアンキロ、ポーク、アーロスに関しては仕方ない部分もあるが、他幹部との関わり合いについては今のうちに考えておいた方が良いだろう。
(少なくともスティーラとは関わりたくないな。本気でエンカウント回避だ。……もし回避に限界が来たら、恋心を抱かれない程度に取り入るしかないわな)
運の悪いことに、俺の異動予定先である北東支部にはそのスティーラが待ち構えている。もちろん、幹部は忙しい身――常に支部拠点内にいるわけではないから、エンカウントは運に左右されるんだろうけど……。
(不安しかねぇ。数日関わっただけでヨアンヌは俺のことを好きになっちまったし……もしかしたら俺、ヤンデレの子に好かれる体質なのかもしれん。仮にスティーラに惚れられたらマジで詰むぞ……殺しても死なないカニバリズム女と殺しても死なない四肢切断女からどうやって逃げ切れと?)
あぁ、ヨアンヌの俺に対する想いが勘違いだったら良かったのに。俺は何度目か分からぬ後悔を溜め息と一緒に吐き出した。
まぁ、後悔ばかりしても前には進めない。彼女を上手く利用する方針は一応思い浮かんでいる。色恋営業をして金を巻き上げるホストの如く、幹部に可愛がられているというメリットの美味しいところのみを吸い取ってやるのだ。
正直、解除不可能な爆弾とも言うべきヨアンヌにホスト営業が適応できるかは分からないし、何ならホストって時々刺されてニュースになってたよなとか考えてしまったが……俺はやると決めたんだ。刺されないホストだっている。俺は死の運命に全力で立ち向かって死ぬと決めたんだ。だから気持ちを強く持て。頑張るんだ俺。
メタシム地方に行進していた俺は、そろそろ到着の頃合かと顔を上げた。あの時街を見下ろしていた道から、再びアルフィーの故郷を見下ろす。
邪教の手に落ちたメタシムの街は一変していた。
ポークの魔法により周囲数キロメートルに渡ってドーム状の棘の結界が張られ、その他にも正教徒が容易く近付けないようアーロスの認識阻害の魔法がかけられている。普通の人間はメタシム地方を認識することが出来なくなり、仮に認識できてもポークの棘の毒によって近付くことは叶わないわけだ。地図にその名前が乗っていたとしても、何故か人々の意識から離れていき、忘れ去られていく……。
毒々しい異様な光景に一瞬足を止めたが、俺はすぐに足を進めてメタシムの街へと降りていった。
街で行う作業は、瓦礫の片付けと街の再興。邪教幹部は壊すことが得意な反面、創造することが苦手である。魔法の性質的に街の再建は不可能だったため、これだけは人力に頼る必要があった。
『あ〜、あ〜、聞こえるかなオクリー? ボクだよ、ポークだよ』
「聞こえております」
無心で瓦礫を片付ける作業をしていたところ、自動運転の死体を介してポークが伝言を飛ばしてくる。焼死体が突然ポークの声色で喋り出したので驚いたが、何とか平静を取り繕った。
『その作業が終わったら、周辺エリアの見回りをお願い』
「見回り……とは?」
『そのままの意味。変な人とか変な所とか、気になった点があればすぐに付近の死体に報告すること』
ポークの死体達は一心不乱に家屋を解体したり瓦礫を運んだりと、生き生きと働いている。普通に生きている教徒も作業に当たっているが、むしろ死体達の方が活発に活動しているように思えるのは皮肉である。
「何故私に作業を振ったんですか? 死体に命じれば周囲の状況なんて一目で分かるでしょう」
『キミはしばらくメタシムの街で過ごすわけだからね。周辺の地理情報を実感しておいてほしいのさ』
「なるほど、そういうことなら」
俺は大きな瓦礫を荷台に積み込んだ後、ポークに言われた通りに周辺の探索を始めた。
「…………」
スティーブと戦った場所に戻ってくる。
彼の死体とは再会していない。どうなったのかは分からない。もしかしたら真っ黒焦げになって、俺が判別できなくなっているのかもしれない。
そして、俺が進みたかった道の先に――
倒壊したアルフィーの家があった。
(……見つけた。原作主人公の……アルフィー・ジャッジメントの家……)
彼が家族と過ごしていた家だ。裕福ではなかったが、愛に溢れた家族……。
今は見る影もない。
俺は彼の家を素通りした。そもそも接近してすらいない。三十メートル程遠くから、景色を見渡すフリをして一瞬視界に入れただけ。この街はポークの死体の巣窟だ。俺の言動は全て見張られていると思っていい。
アルフィーが戦いをやり過ごしたのは家の床下だ。そこでゾンビに生きたまま内臓を食われて死んでいく両親を目撃し続け、常人には想像のできない絶望を味わった。そこから彼は街を脱出し、何とか生還することに成功している。
アルフィーは生き残ることが出来たのだろうか。
無事だった建物の屋根から、遥か遠くにあるアルフィーの家の床を盗み見た。
(……見えた! 壊れかかってて分かりにくいが……)
家が倒壊すると同時に破壊されたのだろう、見る影もない床下扉の跡が確かに見えた。誰かが脱出したような擦れた汚れもある。つまり、アルフィーは床下に隠れて惨劇を回避し、生き残ったということではないか。
(生きてるんだな、アルフィー。……お互いに頑張ろうぜ)
俺はこの世界のどこかに居るであろう彼にエールを送り、毒の棘で閉じられた空を見上げた。
彼の苦しみを拭えなかったのは切ないが、彼が生き残ってくれた事実に勇気を貰えたような気がした。