全員覚悟ガンギマリなエロゲーの邪教徒モブに転生してしまった件 作:へぶん99
ヨアンヌ含む幹部達と別れ、俺はダスケルの街へ続く道に放り出された。
俺に課された任務は、街への完璧な潜入と市街地の中心部に幹部五人を転送すること。メタシム奪還に動く正教徒の出鼻を挫くため、ダスケルの街を荒らしに荒らして撤退に追い込めれば邪教徒側の勝利になるだろう。
街の中には民間人が多く暮らしている。正教幹部は、ダスケルの街が戦場となってメタシムのように火の海になることを恐れるだろう。そういう意味では、戦闘時の行動が大きく制限されていると言ってもいい。
対するこちらは心置きなく暴れられる分、戦闘が始まってしまえば優位に立てるだろう。民間人を巻き込んでの戦闘となれば、ポークの卑劣な
操り人形を生きた人間と偽って盾にすることもできるし、逆に生存者の中にゾンビを紛らわせてパニックを起こすことだってできる。
邪教幹部の魔法や能力の内容に
遮蔽物や地形に上手く紛れながらダスケルの街へと接近していく。今のところは特に問題なく進めているが、外壁に近付けば近付くほど監視の目が増えていくものだ。
街を囲うように円を描く外壁の上から、相当数の兵士が目を光らせているのが分かった。俺の視界に映る正教兵は十人程。ある程度の距離まで肉薄したことで、察知される可能性は危険なほど高まっている。
(ここからは何かしらの策を考えないとバレるな)
俺は茂みの中に突っ伏しながら、大きな溜め息を吐いた。
正教幹部が全員集結して厳戒態勢を取っていると考えるのなら、この任務は不可能に間違いないだろう。しかし、召喚獣の姿は街の上空にも外壁の上にも見つからない。どうやら召喚獣使いの幹部――ジアター・コーモッドはこの街に不在のようだ。
彼女の不在は俺にとって朗報である。彼女は目の良い召喚獣を持っているからな。それと、血の臭いなんかを嗅ぎ付けられる可能性もある。ジアターの不在を見抜けたのは大きかった。
また、外縁部の監視に当たっている正教幹部が今のところ見当たらないのも結構な追い風だ。向こうが警戒しているのは街の内部なのだろう。外部は基本的に一般兵に任せておくつもりか。
(……ん? 正教兵が一斉に驚いたみたいな反応を……って、あの女はまさか――)
外縁部を沿うように移動していたところ、街の入口付近に舞い降りる一人の女性の姿が見えた。
銀のロングヘアーを風にたなびかせた、清楚を絵に描いたようなシスター。凛とした涼しい雰囲気が肌を刺すような、その美しさが内面から滲み出しているような女性の正体は、正教幹部序列七位のセレスティア・ホットハウンド。見間違えるはずもなかった。
「こちらに異常はありませんか?」
「セレスティア様、お疲れ様です!」
「今のところ異常はありません!」
――見惚れている場合ではない。この隙を逃してどうする。だが、入口から堂々と潜入できるほどザルな警備でもない。入口そのものに四人の兵士と、外壁の上に数十人が見回っているのだ。入口門の四人が外側から目を離していても、セレスティアや外壁上の兵士が俺の侵入に気付くはずである。
結局セレスティア巡警のチャンスを活かし切れず、俺は潜伏を続けることになった。
(やらかしたか……? いや、さすがにセレスティアの目の前に飛び出すのは無理筋だろう。他の案を探そう)
俺は隙を見つけて街に侵入することを諦め、別の案を思案し始めた。
壁を登るのは無理だ。いや、頑張ればできるんだろうが、必要な道具の持ち合わせがない。それに、登り切ったところで兵士にバレるだけだ。上の方は隠れる場所が全くない。
ならば正教兵に成りすますか? そんな考えが脳裏を過ぎったが、兵士達は二人一組で行動しているため難しい。上手く二人同時に倒せたとしても、その他の兵士にバレないというのは不可能に思える。
一度街の外縁部から遠く離れ、落ち着ける場所に戻ってきた俺は、出発する際にアーロスから手渡された道具を懐から取り出した。
(治癒魔法も挽回手段も持たない俺だからこそ最大限に活かせる強み……か)
俺はアーロスの発言を反芻する。あの発言は悪くないヒントだ。彼は意味深な発言をして丸投げするだけの人間ではない。答えに辿り着くことを期待してか、彼は『君の人生に役立ててください』と俺にライターをプレゼントしてくれたのだ。
正解への道がここまで舗装されてしまえば、鈍感な俺でも一応答えに辿り着けていた。俺はセレスティアに面が割れており、もしかすると他の幹部にも情報を共有されているかもしれないから、火傷痕や切り傷で顔を変えてから潜入しろということなのだろう。
相変わらずえげつないことを要求してくる。甘ったるい言葉で人を誑かし、引き返せない状況に追い込んで行動に移させるのはアーロスの常套手段だな。
顔を潰すことに加えて、追い風になりそうな事実がもうひとつ。邪教徒を警戒するあまり、正教幹部がダスケルの街に対して一定期間民間人の出入りを禁じたらしいのだ。
メタシム奪還という大義があっても、旅人や商人は街に拘束されるのを嫌がるだろう。先程街の様子を観察していたところ、街から脱出できない内部の民間人が正教兵に対して文句を垂れていた。ちょっとした暴動寸前の危ない雰囲気だった。
内側の者達から文句が出るなら、当然外からやってくる者達からも文句が出てくる。この状況を知らないで街に到着した商人や旅人がいるとしたら、彼らは憤慨し「何故街に入れないのか」と兵士達に詰め寄るだろう。
つまり、街に入ろうとする商人や旅人がいれば、高い確率で正教兵と彼らの衝突が起こる。その騒動に便乗して兵士の壁を突破すれば、人の波に紛れて街の中に侵入できるかもしれない。
顔を潰した後、街の周りを回って行商人などを探してみよう。馬車と人集りが見えれば、俺の思惑は成功したも同然だ。
(……さて、民間人に紛れて潜入するか)
俺は懐に突っ込んであったナイフとライターを取り出し、顔に巻きつける用の包帯を用意した。そのまま適当な布を噛んで、周囲に誰もいないことを指差し確認する。
自傷の際の痛みや恐怖心を和らげるコツとしては、『思い立ったらすぐ行動』。拷問などはゆっくり時間をかけるものだから、理論的にはその逆を行けば良いことになる。色々と考える前にエイヤッと気合を入れて済ませるわけだ。
「アチッ! 火ってやっぱり熱いな……」
瞼や鼻腔、咥内を避けて顔を切り刻み、止血の意味を込めて火で炙る。そのまま生乾きの状態で包帯をぐるぐる巻きにして、今にも死にそうな重傷患者の完成。どうせヨアンヌ達を召喚すれば顔は治るんだから、オクリーとは分からなくなるくらいの傷痕にした。
……唯一の問題は、
水溜まりで自らの姿を確認して、丁度良い塩梅になっていることに安心する。木の枝などに引っ掛けていたローブはボロボロで、両手を隠すために装着しておいた手袋もそれっぽい雰囲気に拍車をかけていた。どこからどう見ても俺は重傷の民間人だ。
(弱者にのみ許された潜入方法ねぇ。まぁ、顔が割れてないぶん一般人に紛れやすいのはモブの特権だろうな……俺は若干バレてるけど)
転送のタイミングは一任されている。俺がヨアンヌの指を切り落とし、地面に接触させることを一応の『合図』とした。
薬指に伝わる衝撃によって、街の中心部の地下に潜むヨアンヌ達は己の身体をミキサーにかけ消滅させる。そのまま転送されてきた五人の幹部が、息をつかせぬ速攻で街を破壊するわけだ。
召喚場所を選ぶとしたら路地裏などの暗がりだろうか。大通りで指を切断して注目を浴びてしまえば、偶然そこを通りかかった正教幹部に早期対応されかねない。あくまで移動要塞は闇討ちの延長線上にあるからな。
しかし、裸の男女五人を召喚することになるのか。ローブはヨアンヌに掛けてやるとして……五人分の服を用意することもできないし、そこら辺は大丈夫なのだろうか。
まあ、服に関してはアーロスが何とかしてくれそうな気がするな。知らんけど。
俺は街の外壁周辺を大回りして、街の出入り口で立ち往生する民間人の集団を探し始めた。
すると、先刻の出入り口とは違う場所で、予想通り正教兵と衝突している人々の姿があった。
「おいっ、どういうことだ!? このワシが街に入れないだと!?」
「すっ、すみません。とある理由がありまして……」
大量の馬車と付き人を連れた商人が、物凄い剣幕で兵士に捲し立てている。積荷は何だろうか。食料か、服か、それとも他の物か。いずれにしても、長い旅路の果てに「しばらく街には入れません」なんて言われたらそりゃ怒るだろうな。
魔獣蔓延るこの世界では、街から街への移動も割と命懸けだ。商人なんかは尚更。その商人の背後には、旅人や一般人などが
俺は誰にも気付かれぬよう、背後から一般人の中に紛れ込んで息を潜める。
商人を見たところ、かなり社会的地位のある者のようだ。もしかすると、原作で色々なアイテムを売ってくれる商会の関係者だったりするのかもしれない。
逆に、一般人の中には俺のように身体に包帯を巻いた者達もいた。魔獣に襲われて怪我でもしたのだろうか。恐らく彼らは、治癒の奇跡を扱える正教幹部を当てにしてダスケルまでやって来たのだろう。
商人と兵士の押し問答がしばらく続いて平行線を辿る中、遂に兵士が折れたのか、街中を警戒しているであろう幹部に許可を取りに走っていった。
まあ、正教側は商人達の願いを却下するだろうな。中途半端な対応が最も傷口を広げるものだと、彼らは良く知っているはずだから。
だが、事情を知らぬ民衆は愚かだ。何故私達は救われないのか、どうして私達だけ街に入れないのか、と文句を垂れるに決まっている。
だからこうして騒動が長引いているのだ。正教がメタシム奪還のためという理由を伝えたとしても、邪教幹部の能力や魔法を詳しく知らない一般人は首を傾げるのみ。彼らの脳内では『メタシム奪還のための準備』と『数日間街の出入りが禁止される』ことが結びつかないのだ。
暴動すら起きそうな雰囲気になってきた門の前で、俺はわざとらしくふらついて地面に膝を着いた。ああ、もう限界だ――というふうに。
(……見事なまでに、アーロスの手のひらの上で転がされている気がする)
商人は、ボロボロになって蹲った俺を指差して何かを叫ぶ。彼らは自分を正当化する理由が欲しいだけなのだろう。
あそこに怪我をして辛そうな人がいるのに、お前達は街に入れてくれないのか。多分、そんな心境。
そして、比較的元気そうな一般人が、俺や他の怪我人を指差しながら正教兵に掴みかかる。破裂しそうだった空気が決壊する。正教が強気に出られないと見た商人達は、集団の力で門を押し開いていく。
(……終わりだ)
遂に押せ押せの雰囲気になった民衆は、門を開いて勝手に中に侵入し始めた。こうなると収拾が付かなくなって、街に入りたい人と街から出たい人同士で衝突し合って膠着状態になってしまう。
俺はそんな彼らの間を何とかすり抜けて、ダスケルの街の侵入に成功した。
ケネス正教の戦力や組織力は確かに強大だが、民衆までを完璧に掌握できるわけではなかったようだ。何より、民衆の愚かさまでは予想できなかったのだろう。
あの商人達は自分の我儘を通したことで死ぬことになる。幹部五人分の指を揃えた邪教徒が街に入り込んでしまったのだから。
(後は街の中心部で奴らを召喚するだけ。しかし、街の中を巡警してる幹部が何人いるかは分からない。気をつけていこう)
これは、アーロス達の信頼を集め、幹部に上り詰め、邪教徒殲滅の謀反を起こすための前準備なのだ。
俺は自分に言い聞かせながら、果てしない罪悪感を覚悟で塗り潰した。