全員覚悟ガンギマリなエロゲーの邪教徒モブに転生してしまった件   作:へぶん99

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三八話 暗黒ガールズトーク☆

 オクリーの部屋で血みどろ内臓交換洗脳バトルが行われる中、セレスティアはアーロス寺院教団のことを更に知るべく、フアンキロに頼んでとある施設の見学をさせてもらっていた。

 

「なるほど……ここが人間を生産する工場なのですね」

「そうそう。あんまり触っちゃダメだからね、暴れ出しちゃうからさ。あはは!」

 

 拠点の地下空間に広がる広大な空間。そこに整列して並んでいるのは、人間の雌を素材に練り上げた孕み袋。もはや彼女達に自我や人格というものは存在せず、投薬によって形成された快楽の中に浸漬していた。

 柵の中で飼われる家畜よりも下等な扱いだ。球体のような歪な身体に変化した孕み袋たちは、人間の膝ほどの高さの薬品プールに漬けられて管理されている。

 

 これらの施設はメタシムの地下にも建設予定であり、既に孕み袋の素材や地盤調査のデータは充分に揃っていた。後は時間さえあれば着工できるため、このタイミングで見学をお願いしたわけだ。

 セレスティアは興味ありげに周囲を観察する。天井、壁、床、孕み袋、それらを入れる薬品プール、管理のために働く教徒達。ここで働いているのは女性や子供が多いようだ。

 

「ひとつ質問してもよろしいですか?」

「何かしら?」

「いえ……正教にいた頃のわたくしの認識では、アーロス寺院教団内の女性は皆孕み袋になると考えていたのです。でも、フアンキロやヨアンヌ、ポークのように女性の幹部も存在しますよね? なる(・・)女性(・・)とならない女性の違いは何でしょうか?」

 

 セレスティアの疑問は、孕み袋にさせられる女性と働く女性の違いを問うものだった。また、表に出てくる邪教徒に女性が少ないこと、その上で幹部の座にのし上がったフアンキロ達の不可思議さを暗に問うものでもある。

 セレスティアは、彼女達が不妊体質であるとかそういった類の予想を立てていたが、実際のところはもっと過酷であった。

 

「基本的には有能か無能かでワタシ達の命運は決まる。一定の能力基準を満たさない女は問答無用で孕み袋になるわ。まぁ、教団やアーロス様への貢献の仕方の違いよね。中には自ら志願してこうなる子もいるけど」

 

 その他には、スパイなどの敵対者や誘拐してきた女は基本的にここに連れて来られる。実情はポークの操り人形との二択なのだが、ほとんどの人間はどんな形であろうと生きていたいらしく、死んでゾンビになるより孕み袋になる道を選ぶ。

 無論、どんな場合にも例外はあるものだ。凄まじく有能な人間は幹部によって引き抜かれ、洗脳の後に一般邪教徒として生まれ変わる。なるほど合理的だとセレスティアは唸った。

 

 男の場合においても、一定の能力を証明しなければその行く末は悲惨である。駒は駒でもポークの操り人形として働いてもらった方が使いやすいから、という理由で殺害されるのだ。こちらの性別は無能に選択肢が与えられないため、当時のオクリーは死に物狂いで能力を証明した。

 

「フアンキロ達は能力を証明して今の立場にいるのですね」

「そうよ。一応ケネス正教の幹部と同じくらいエリートなんだから」

 

 画期的な人間生産メカニズムと洗脳教育による組織の拡大と、究極的なスパルタによる人材選別。それを裏から支えるアーロス寺院教団の組織力と、幹部の純粋な戦闘力。これが教団の原動力なのだ。

 正教のシステムよりも随分と過酷なピラミッドである。特殊な薬を始めとした、人間改造に対する意欲が高いのだなとセレスティアは理解した。

 

「おや……?」

「セレスティア、何かあった?」

「いえ、昔見た顔がいたものですから」

 

 セレスティアが目撃したのは、かつて正教が送り込んだスパイの女であった。

 幸せそうに目を閉じ、ゆっくりと呼吸を繰り返すだけの肉。外部から与えられる刺激に緩慢に反応し、役目を果たすべく口からドロドロの液体を取り込んでいる。

 

 その液体の正体は、彼女達の食料だった。

 管理に当たる教徒が孕み袋達の食欲を察知し、大きなバケツから掬い上げて与えているらしい。管理する人間がいなければ飯すら食えないということか。まるで雛である。

 

 セレスティアは無感情にかつての仲間を一瞥した後、純粋な興味から流動食の正体を質問した。凡その予想はついていたが……。

 

「フアンキロ。あのドロドロの原材料は何ですか?」

「普通に穀物とか野菜とか水とか()とか混ぜた奴」

「何の肉ですか?」

動物の肉(・・・・)だけど?」

「……美味しいのですか?」

「…………」

「あぁ……なるほど……」

「良い肉使ってるんだけど、味付けが塩と薬品だけだから不味いのよね。アーロス寺院教団は食事の内容と味付けの重要さも学んでおくべきだわ」

「食べたことはあるんですね」

「そりゃあるわよ。色々と知っておきたかったし。セレスティアも食べる?」

「ではお言葉に甘えて一口だけ……」

 

 フアンキロがハイヒールを鳴らしながら一般邪教徒に近付いていく。話しかけられた少女は幹部の言葉に何度も頭を下げながら、固体と液体の入り交じった乳状の流動食入りバケツを手渡した。

 フアンキロは細い腕でそれを懸命に持ち上げようとしたが、容器の重量を悟ってセレスティアの元へ運ぶのを早々に諦めてしまう。

 

 そんなフアンキロに手招きされたセレスティアは、彼女が大匙を持ち上げるのを見て耳に髪の毛を掛けた。

 

「いただきます」

 

 正教にいた頃は、まともな食事と言えば温かく柔らかいものであった。たまに硬いパンを食べる時はあったが、こういったドロドロしたスープは当然息を吹き掛けねば舌を火傷してしまうもの、という認識がセレスティアの中に根付いており――

 流動食を大匙から唇に流し込まれると同時、銀髪のシスターはその不愉快な冷たさに舌を引っ込めた。前屈みになっていた姿勢がピンと上に伸び、口の中のドロドロを呑み込む気になれず頬に貯めてしまう。

 

「ワタシと同じような反応をするのね。これは興味深いデータだわ!」

 

 フアンキロが噴き出したように笑う。

 セレスティアは思わず口の中のモノを一気に吐き戻しそうになったが、気を取り直して食感と味の分析に入った。

 

(……不味いですね。ご飯の美味しさはケネス正教の圧倒的勝利です。というかこれ何の肉? やっぱり人肉とか入ってるんでしょうか……)

 

 萎びた野菜、液体か固体か分からぬ穀物、極めつけはゴムのような味がする謎肉。咀嚼するとレバーのようにパサパサと解れて、舌の上に形容しがたい味が拡がっていく。冷たいのにコリコリが入っているのも最悪だ。生臭さと塩味と薬味が絶妙に反発し合って、舌の上で味わうことを拒絶している。

 セレスティアは喉奥が痙攣するのを感じて、目尻に涙を浮かべながらドロドロの食べ物を一気に嚥下した。

 

「大変美味しかったです。フアンキロ、次の部屋に向かいましょう」

「別に嘘つかなくても良いのに……」

 

 二人は飼育空間から別の部屋に向かった。次なる部屋は生まれた子供達の管理部屋である。先程よりも大きな空間に並ぶようにして屹立しているのは、巨大な培養槽の軍勢だ。効率化の先に生まれた技術の結晶であった。

 

「これが……成長を促進させる培養槽なのですね」

「えぇ。どれだけ教徒を殺されようと、この培養槽があるおかげで頭数には困らないわね。最近は供給が足りてきて、現場の人材不足も解消されつつあるわ」

「なるほど……」

 

 セレスティアは培養槽の分厚い硝子(ガラス)に触れる。

 手のひらに伝わる冷たい感覚の向こうに、無防備な子供達が薬品漬けにされている様子が観察できた。

 

 肉体の成長を促進する特殊な薬品に頭から足先までを漬けられた赤子は、たった数日のうちに肉体年齢が一〇歳になるまで成長させられる。精神及び脳の成長が追いつかないため、身体の大きくなった子供達は別の容れ物に移されて数ヶ月間の投薬を受ける。

 その数ヶ月間で幹部に従順な自我形成が行われると、いよいよ子供達が出荷されていくわけだ。

 

「人道的観点を一切無視すれば、非常に効率的な兵隊の生産が可能なわけですね」

 

 薬品入りの溶液の中で眠る子供達を眺めながら、セレスティアは何故アーロス寺院教団を潰し切れなかったのかを悟った。

 彼らには体裁というものが無い。外面を整える気が皆無なのだ。ケネス正教の撃滅とゲルイド神聖国の乗っ取りという目標に対して、あまりにも猪突猛進すぎる。

 

 敵に対して的確な攻撃を行い、スパイを送り込んで情報を錯綜させる傍ら、戦力増強のために非人道的な技術を磨き続けるとは――戦争に勝つためなら何でもやるという教祖アーロスの執念が垣間見えた。

 それに対してケネス正教は、それ自体が国を支える宗教集団であるが故に非人道的な行為に踏み込むのを尻込みしていた。全く(・・)していない(・・・・・)わけではないが。

 

「ケネス正教は面子があるぶんこういった徹底管理はできませんから、向こうからすれば羨ましい限りでしょうね」

「ケネス正教は国家を支える巨大組織だもの。非人道的行為がバレたら他の国家から批判殺到でしょ。まぁ、既にワタシ達が暴れ回ってるせいで非難されまくりだと思うけど……」

 

 実際、いちカルト教団の躍進を止められないケネス正教は批判の的になっていた。だが、アーロス寺院教団のことを詳しく聞かされた部外者は、その異常性に忽ち口を噤むことになる。

 「カルト教団に建国されるくらいなら……」と、正教にある程度の強硬策が許される風潮が漂っているのもある種の事実だった。

 

「ケネス正教は何かやってるの?」

「戦闘の際、気分が高まる薬を使っている兵士がいましたが……わたくしが知る限りはその程度でしたね」

「ふ〜ん。他にも色々とやってそうだけどなぁ。ウチに負けないくらい……」

 

 セレスティアは、薬を使ったことが無い程度にはケネス正教の暗部を知らない。彼女はケネス正教で最も純粋な幹部と言えるだろう。

 続いてセレスティアは、この広大な施設を支える資金源を知るべく質問した。

 

「気になることがひとつ。教団の資金源は何なのですか? 薬品の製造に加え、拠点の維持管理、一般兵の装備や食糧品を揃える程の莫大な資金は何処から湧いてくるのです? 村や街からの略奪で賄える規模を遥かに超えていますが――」

 

 ただのカルトなら、数十人の一般人の全財産を巻き上げれば充分活動できるくらいの規模感だろう。

 だが、アーロス寺院教団の規模はいち(・・)カルトとして見るには異常な程に膨れ上がっている。教団の背後に何らかの資金的援助が無ければ、あっという間に活動が息詰まるのは明白だった。

 

 当然フアンキロはその答えを持っている。資金面のやり繰りをしているのがフアンキロやポークで、資金面に関する指示を出しているのが他でもない彼女だからだ。

 少女は金の双眸を細めると、培養槽からタイミング良く放出された子供の頭を鷲掴みにした。

 

「……お金を求めて世界中を探し回ってるとさ〜、雇い主に従順な少年少女を欲しがる人が割と沢山いるのよね〜。用途は様々……戦争の兵士、使用人、奴隷、その他諸々……みんなこれくらいの(・・・・・・)年齢の(・・・)子供を(・・・)欲しがる(・・・・)から困っちゃうわよね、全く……」

「……なるほど。つかぬことをお聞きしました」

「いえいえ」

 

 セレスティアは密かに戦慄していた。仲間意識は既に植え付けられていたが、ここまで容赦のない方針を取っていることに恐怖を隠し切れない。

 お客様専用レーン(・・・・・・・・)で生産された者達はそれ(・・)用に作られているため、オクリーのような種類とはまた別の造りをしているのだが……それはまた別の話。

 

 フアンキロは下卑た笑みを消して、清楚な少女のような表情を取り繕う。鷲掴みにしていた子供を突き放し、次なる施設にセレスティアを誘うべく歩き出した。

 セレスティアは放置された子供が棒立ちになっているのが気掛かりで、やはり孕み袋出身の子供は普通の人間とは違う構造なのではないかと疑い始める。

 

「孕み袋から誕生した人間は、健康上の影響を受けないのですか? 例えば普通の人よりも寿命が短いとか……思考力が落ちているとか……」

「少なくとも寿命は物凄く短いでしょうね。普通の人間が八〇歳まで生きられるとしたら、孕み袋出身の寿命は長くて三〇年ってところかしら。あ、もちろん肉体年齢の話ね」

 

 けらけらと笑うフアンキロ。

 

「ま、ワタシ達は死体もちゃんと教団の役に立ててるから。サステイナブルってヤツよ」

 

 セレスティアは、孕み袋から産まれた人間は少しだけ可哀想だな、と他人事のように思った。

 

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