全員覚悟ガンギマリなエロゲーの邪教徒モブに転生してしまった件   作:へぶん99

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五六話 これが寄生体の力だ!

 ヨアンヌによる虐め同然の過酷な訓練は二日目以降に真の姿を現した。

 結局ヨアンヌから一本を取れたのは一日目だけ。五日目までは再び触れることすら許されなかった。地獄のようなシバき上げが早朝から夕刻まで続けられ、治癒魔法を掛けられなければ確実に死ぬレベルまで追い込まれた。綺麗な骨折なら身体の負担無しですぐに治せるということで、何回も骨を折られた。

 

 だが、痛みは俺の行動を的確に修正させてくれた。薬品によって短期間で成長させられた身体だからなのか、学習速度も尋常じゃなく早くなっているような気がする。筋肉自体は元からついていたので、後は技術を脳に叩き込むだけだった。

 

 そして五日目に突入した頃、俺とヨアンヌの組手に明確な変化があった。急所を狙ってくるヨアンヌの攻撃を避けられるようになったのはもちろん、逆に彼女の攻撃にカウンターを取れるようになったのだ。

 ……ヨアンヌはそのカウンター攻撃に更なるカウンターを合わせてくるので、結局有効打は取れず終いだったのだが。

 

 八日目、五〇本目。カウンターに対するカウンターをいなし、俺は何とか彼女の脇腹に一撃を食らわせることに成功した。ヨアンヌは渾身の一撃を食らってたたらを踏むと、僅かな笑顔を取り繕う。

 

「一週間ぶりの一撃おめでとう」

「どう、いたしましてぇ……ふぅ、ひぃ」

「オマエらのような一般人同士の対決は初撃を当てた方が勝ちだ。その調子で頑張れよ」

 

 そう言ったヨアンヌはムキになったのか本気モードになり、残りの時間は一方的にボコボコにされた。

 

 九日目。戦闘訓練の相手がヨアンヌからホイップ=ファニータスクに代わった。ヨアンヌ曰く、手加減したアタシに一本取れるようになったオマエならそこそこやれるだろうとのこと。ホイップの戦闘スタイルはほぼ初見だったが、いざ戦ってみると本当にそこそこ戦えてしまった。

 

「あれ、オクリーちゃんって結構強い?」

「どうでしょうか」

「じゃ、どんどんギア上げてくからね〜」

 

 両手に携えた二刀を振り回すスタイルらしいホイップ。一応組手だったはずなのに俺の急所ばかり狙ってくるし、殺す気満々である。そんな彼女の攻撃に対抗できる自分に驚いた。

 アーロス寺院教団最強クラスの一般教徒とあって、彼女の攻撃は確かに鋭い。基本的には圧される。それでも防御に徹すれば現状維持は容易かった。ヨアンヌの場合は俺が受身に徹することのできる許容を遥かに超えているから、彼女の攻撃は格落ちと言わざるを得ない。

 

 悲しいかな、俺達一般人がどれだけ技術を駆使しようと、策を弄しない幹部達の足元にも及ばないのだ。いや、逆か。技術を使うから底が見えるのだ。各個人の力の上に成り立つものが技術。その技術をひけらかしてしまうことこそ、底を見せることに同義なのだ。

 

 本気を出したヨアンヌは、拳を振り抜くだけで突風を巻き起こす。やろうと思えば大地を平らに(なら)すことだって可能だ。セレスティアならちょいと念じるだけで天候を変えられるし、スティーラであれば世界を溶岩の海に変えることだって可能である。

 対するホイップは、武器を叩きつけて地面を削るのが限界。俺は彼女より更に矮小な力しか持たない。強くなればなるほど理解できる。非戦闘員のフアンキロならワンチャンスで殺せるかもしれないが、他の幹部をどうやって倒せばいいのか分からない。

 

(幹部を倒すために幹部を頼らなきゃならない今の状況、マジでもどかしいな。近代兵器が無いんじゃ、やはり奴らへの対抗策は皆無と言って差し支えない。どうしようもなく絶対的だ)

 

 少なくとも原作中に『実用的な銃』は出てこなかった。一応紹介されたのは火縄銃のような物か。開発自体はされているのに使用されていない理由は、長期戦闘においては実用的でないこと、次弾を込めるのに時間が掛かりすぎること、火薬弾丸等の調達やメンテナンスに結構な資金を要すること……その他諸々の理由があって正教徒も邪教徒もボウガンを使用している。

 実用的な銃があれば情勢が大きく変わりそうなものだが、期待はできないな。夢物語に希望を持つのは時間の無駄である。

 

「オクリーちゃん、何か考え事してなぁい!?」

「してませんよっ」

 

 粉雪の中、ホイップとの実戦訓練は長時間に及ぶ。ある程度互いに攻撃を打ち込む中でホイップの癖が掴めてきた。彼女は右手に持った剣を起点に攻撃してくる確率が高い。

 例えば、ホイップは右手の剣を俺の真正面に叩きつけて出方を窺った後、後出しで左手の剣を振るう。俺が回避したなら回避先に叩きつけるように、防御してきたなら防御が間に合わない身体の箇所に剣を振り回す。カウンター攻撃を仕掛けてくるようなら、左手の剣で防御する。そんな感じで、ホイップは流れを途切れさせない攻撃をテンポ良く叩き込んできた。しかし、全ての攻撃がヨアンヌより劣っている。スピードもパワーも。彼女と渡り合うのは苦痛ではなかった。今のところは。

 

(手を抜いているとはいえ、ヨアンヌの攻撃を真正面から受け止められるようになった俺が捌けない攻撃じゃない。確かに人間の出力を超えたスピードとパワーを出せているようだが……例の蟲のドーピングの効果はこんなモノなのか?)

 

 俺はホイップに対して初めて攻撃を仕掛ける。蟲ドーピングがこの程度なら、ホイップがここまでのし上がってくるのは不可能だ。奴の本気を引き出してやる。

 

「おっ! 初めて能動的に攻撃してきたね?」

 

 乱雑に剣を薙ぎ払うホイップ。双剣を同時に叩きつけるような格好だったので、咄嗟に剣の平を上方に押し出すようにして受け止める。炸裂するような音が鳴り響いて、俺は後方に引っ張られるようにぶっ飛ばされた。

 

「……!?」

 

 雪の上を転がると同時に、北東支部の男衆から歓声が上がる。先程立っていた場所には、真後ろに引き摺るような靴跡がくっきりと残されている。踏ん張る暇もなく、あっという間に吹き飛ばされたのか。

 間違いない、彼女がギアを上げたのだ。比べ物にならないくらい出力が上がっている。

 

(一瞬ヨアンヌの一撃かと思ったぞ。蟲の力で出力を上げたのか)

 

 あの瞬間、俺はホイップを幹部の姿と見間違えた。受ける前から、どう足掻いても受け止めきれないと分かってしまう一閃だった。これが幹部候補の器。なんという膂力。瞬発力。相手の実力を決めつける愚か者め。先の思考を撤回しなければならない。

 

「それが蟲の力か」

「今ので三割。よく受け止めたね」

「三割……」

 

 これで三割。底が見えたと早合点していたが、全く違うようだ。周囲の反応からして、彼女の潜在能力はまだ発揮されていないのだろう。どうしたものか。

 ヨアンヌが無言でこちらを見つめていて、その隣のアレックスが男衆に混じって野次を飛ばしてくる。ヨアンヌは顎でしゃくって、「早くやれよ」と言わんばかりに頬を膨らませた。勘弁してほしい。

 

(今の一発は力任せの一撃だった。あくまで蟲の力のお披露目のつもりなんだろう。もし全力を出したなら、瞬間的にヨアンヌの出力に迫ることも考えられる)

 

 全力のヨアンヌにボロ雑巾にされていた時を思い出せ。全く違うタイプの相手だが、あの経験は役に立つはずだ。

 

 立ち上がった俺は、模擬刀を拾い上げて再度仕掛けた。大きく振りかぶって、胴を狙った横薙ぎを繰り出す。キラキラ金髪少女は高く跳躍すると、俺の脳天目掛けて双剣を叩きつけた。

 間一髪の防御。だが、腰が砕けて膝を折らされる。これが剣の重さなのか。まるで巨大な石柱を押し付けられているような――

 

「う、おおっ!」

 

 耐え切れないと判断した俺は、刀身に滑らせるようにしてホイップの斬撃を右方向にいなした。雪を巻き上げながらホイップの双剣が地面にめり込む。間髪入れずに、ホイップの剣が脇腹に叩き込まれる。姿勢を立て直す直前の重い一撃。何とか上腕でガードしたが、俺は再度宙を舞った。

 

(これが寄生虫の力……!)

 

 きりもみ回転して背中から岩壁に打ち付けられる。腰と同時に後頭部を強打し、バウンドした勢いのまま地面と鼻っ面が激突した。目の粘膜に土混じりの雪が接触する。激痛で仰け反るようにして立ち上がろうとすると、支えにしようとした左手が思うように動かない。

 右手を頼りに姿勢を起こすと、左手首が折れていた。焼け付くような灼熱が手首に宿り、その熱の先の感覚が鈍くなっている。俺は膝をつきながら立ち上がり、残った右手で剣を構えた。

 痛みには慣れたが、不快感だけはどうにも拭えないな。肋骨も折れているのだろうか、息をする度に心を折られそうな激痛が胸の中に発生する。

 

 結局相手が変わってもタコ殴りか。俺にはお似合いだ。ヨアンヌとの組手が無かったらホイップの攻撃に対処できないはずだから、間違いなく成長はしているんだろうが……一段落つくごとにヨアンヌの治癒魔法が挟まれない分、こっちの方がキツイかも。

 ヨアンヌの方に目をやると、何故かめちゃくちゃブチ切れていた。彼女の両目はカッと見開かれ、口端から血を流すほどに唇を噛み締めていた。ヨアンヌは俺を見ていない。彼女の視線は間違いなくホイップ=ファニータスクへ向けられている。いや、お前も俺のことボコボコにしたじゃんという感想が湧いてきた。いざ他人に傷付けられると我慢できないタチなのだろう。

 

「オクリー……そいつ殺せ……」

 

 風の音に紛れたヨアンヌの呪詛のような声援を受けて、俺は息を整える。実は気になっていたことがあった。これだけのパワーを発揮して、彼女の身体は無事なのだろうかということだ。硬い岩盤に彼女の攻撃を誘導できれば、反動をモロに食らって腕を骨折してくれる……かもしれない。剣の強度にお祈りタイムだな。

 背後に丁度良い剥き出しの岩盤を発見して、俺は足を引き摺るようにして位置調整した。ホイップの攻撃を受けてきた模擬刀にはガタが来ている。ヨアンヌの時と同じで、数少ない隙を突いて一本をもぎ取るしかあるまい。

 

「次は普通に全力でイッちゃうよ! 骨折じゃ済まないからね!」

「わざわざ宣言してくれるなんて優しいな――」

 

 俺の言葉を言い切る前に、瞬歩の如き瞬間移動で距離を詰めてくるホイップ。彼女の身体からはギチギチという異音が漏れており、まるで身体の限界を知らせる悲鳴のよう。ホイップは勝利を確信したような表情で、双剣を振り下ろした。

 

 だが、ヨアンヌによる超速の攻撃を受けてきた俺なら。

 見切れない速さじゃない――

 

 自我が加速する。世界が歪む。灼けるような熱が全身に迸り、肉体に掛けられていた限界が取り除かれる。火事場の馬鹿力を引き出すのだ。意図的に脳のリミッターを解除し、怪物の領域へと足を踏み入れる。

 目前に迫るホイップ。模擬刀を扱っているとは思えぬ殺気。実戦形式の訓練とは言ったものだ。本気で殺しにかかってくる。背後の岩盤を意識しながら、両斜め上から俺の間合いに侵入してくる双剣に意識を集中。一ミリ単位で空間を動いている。視えている。後は肉体が追いつくかどうか。

 背中には岩盤が迫る。逃げ場はない。両の肩口に差し込まれるような模擬刀に合わせて姿勢を捻じる。膝を折ってギリギリまで引き付けて、背後の岩盤に模擬刀が当たるよう位置調整。もうこれ以上は身体が曲がらない。模擬刀が胴体に触れようかという寸前、めいいっぱい低くしていた姿勢が功を奏した。

 

 前進と共に繰り出された斬撃が、俺に触れるより前に岩肌に触れた。狙い通り。風雪に隠されていたのも大きいか。ホイップの常軌を逸した出力の一撃が硬い岩によって反射され、刃を潰した剣を破壊に至らせる。気持ち良いくらいド真ん中で破断された剣の破片がホイップを襲う。そして、剣が殺し切れなかった衝撃を吸収したホイップの両手首もまた、有り得ない方向に折れ曲がった。剣が脆すぎるということもなく、彼女の手首は完璧に「く」の字に湾曲してくれた。

 しかし、彼女の振り下ろしは手首と刀身が破壊された程度では止まらない。一度は手放した模擬刀をぐちゃぐちゃになった五指で掴み取り、ホイップは俺の胸を切りつける。ほとんど同時、俺は敵の剣が折れたのを見て模擬刀を首元にお見舞いしていた。

 

 ワッと男衆が喝采を起こす。欠けた剣の切っ先が俺の胸を薄く切り裂いていた。対照的に、ホイップに至ろうとする剣は頚部の寸前で止まったまま。ホイップは溜め息を吐くと、折れた両手をぶら下げながら肩を竦めた。

 

「……ちぇっ、やられちゃった」

 

 決着はついた。最初から蟲の力を使われたら分からなかったが、戦闘訓練としては俺の判定勝ちとなった。

 

(やっぱり、蟲による運動性能の後押しは普通の人間に耐えられるパワーじゃないんだ。蟲のドーピングにもデメリットがあるってこったな)

 

 だが最悪なことに、ホイップとの組手は二本先取。残りの二本を死闘の末もぎ取られた俺は、幹部候補最強の座をホイップに明け渡すことになった。

 特に驚いたのは、三本目のホイップが口内に仕込んだミルクちゃんに剣を持たせて三刀流してきたこと。普通にズルじゃんと思ったのだが、嫌なら俺も蟲に寄生されたら良いだけだ。攻撃をいなしきれず敗北した俺は、初見殺しの攻撃手段を備えておくべきだと強く考えるようになった。

 

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