全員覚悟ガンギマリなエロゲーの邪教徒モブに転生してしまった件   作:へぶん99

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六話 ダルマorバナナ そして婚約指の輪っか

 結局、双方の生き残りは三人。正教側はセレスティアのみが生存し、邪教側は俺とヨアンヌが生存。頭部を破壊されたり魔法で耳朶以外を消し飛ばされたりした少女はピンピンしている。意味が分からない。

 

 被害は正教側が四十五名死亡、邪教側が十九名死亡。これは提案なのですがアーロス様、宗教戦争はもうやめにしませんか? 殺し合いしたいと思ってるのあなたしかいませんって。多分正教側もやめたいと思ってますよ。

 

 まぁ、せめてもの(たくわ)えに……と、壊れていないクロスボウと剣と防具を死体から強奪して馬車に詰め込んだ。死人から物を奪うなど普通に倫理観を疑うような行為だが、任務失敗でマイナスになってる教祖ポイントの埋め合わせをしないといけないからな。

 俺の篤信な行いに、思わずヨアンヌの口元から白い歯が零れる。

 

「オマエは気が回るな」

「いえいえ、そんなことはありませんよ」

 

 俺が気の回る男だったら、無意識に狂人を攻略して気付いた時には好感度マックスみたいな状況にはならないよなぁ。

 

 俺、何か悪いことしてたかなぁ?

 ヨアンヌに手伝ってもらって死体を埋葬した後、帰路に着きながら過去の行いを振り返る。

 

 俺は大それたことなんて何もしてない。

 一般教徒から畏怖されている幹部少女の戦闘に果敢に加勢したり、戦闘後に裸になっていたのでローブを掛けて身体を隠してあげたり、教団がプレゼントしてくれるペンダントに彼女の肉の一部を詰め込んだり、貴方様の服はもちろんお似合いでございますと言ってみたり、破れてしまったローブをもう一度掛けてあげたり――

 

 数え役満ってところか……?

 俺、結構フラグ立てるの上手いかもしれない。前世でモテなかったのが不思議なくらいだ。

 

(どうしよう)

 

 そういうわけで、俺は隣にちんまりと腰掛けている少女――ヨアンヌを攻略してしまったらしい。俺からの好感度は限りなくゼロに近いのに、彼女をこうさせてしまった責任を強制的に取らされそうなんだが?

 まぁ婚約指輪ならぬ婚約指を渡されちゃったからね〜。怖すぎるし重すぎるしどうしようって感じで、流石の俺も熟考せざるを得ないというか。

 

 あ〜まずい。史上稀に見る異常事態のせいで頭が働かん。このままじゃヨアンヌの愛の表現方法である『監禁・四肢切断』まで一直線ではないか。それだけは阻止しないといけないのだ。

 上手いこと一線を超えないように、のらりくらりと彼女の狂愛を躱し続けなければ……。

 

「……ヨアンヌ様は……何故私のことを好きになったのですか?」

「何故って、そりゃ――おい、アタシに理由を言わせるのか? 少し照れ臭いぞ」

「失礼しました。聞いてみただけです」

 

 おいオクリー聞いてみただけって何だ? 狂人に向けてそういう思わせぶりな発言は一番言っちゃいけないんだよ! 向こう側が勝手に都合良く解釈しちゃうから!

 俺は自分の頭を殴りつける。間違いなくギャルゲーエロゲーをやり過ぎた前世の影響が出ている。イケメン主人公か人気ヒロインにしか許されないセリフがスラスラ出てきてしまう。

 

「ところでヨアンヌ様、何も左手の薬指をマーカーにすることは無かったのでは?」

 

 先の失言を誤魔化すように早口で捲し立てると、ヨアンヌの瞳が大きく見開かれた。そのまま彼女は真顔で首を捻る。梟が首を傾げるように非人間じみていた。

 

「何か不満か?」

 

 有無を言わせぬ圧力。俺は小さく「いえ」と返すことしかできなかった。

 

 人間の指には色々な意味がある。人に向かって親指を立てると「いいね!」になるし、中指を立てるととんでもないことになる。左手の薬指を両想い記念のプレゼントとして贈ってきたと言うことは、やっぱり婚約指という風に受け取ってほしいんだろうか。

 

「私が聞きたかったのはですね、何故耳朶や他の指ではなかったのかな……ということです」

「あぁ、そういうことか。ビックリさせるなよ」

 

 ヨアンヌは『無』だった表情をパッと明るくさせると、本当に嬉しそうに話し始めた。

 

「アーロス様が言ってた。『女性の左手の薬指と心臓は一本の血管で繋がっているのですよ』って。特別な指だからオマエに持ってて欲しい。それに、オマエがアタシを身につけてくれてると……堪らなく嬉しいんだよ……」

 

 お、おぉ……言葉だけなら可愛らしいのに……いや可愛らしいか? 騙されるな俺、相当毒されてきてるぞ。彼女の言葉で引き攣ってしまった頬を、何とか笑顔に見えるように雰囲気で誤魔化す。すると、ヨアンヌは照れたようにはにかんだ。

 ただ、俺の四肢をチラチラと盗み見ているのがバレバレである。至近距離で俺に向けられる瞳の温度は冷えているし、何がしたいのか手に取るように分かる。そう遠くない未来、俺は彼女の手無しには生きていけなくなるのかもしれない。

 

「なぁオクリー……少し寄ってもいいか?」

「はい」

 

 彼女の中では「良い雰囲気」なのだろうか、頬を染めたヨアンヌが太ももをくっつけてくる。対する俺は馬の尻に鞭を振り上げていたので、断ることもできなかった。

 

 距離の詰め方が尋常じゃない、今思い返したら原作エロゲーだったわ。

 

 とか考えながら馬を操っていると、ふと視線の端に上気した彼女の鎖骨が映った。そういえばこの女、耳朶から復活して服がないから、裸ローブとかいう際どい格好なんだった。何もしなければ見てくれだけは良いヨアンヌを見て、俺はほんの少しだけ動揺してしまう。そして、彼女から女性特有の甘い香りが漂って――くるはずもなく、凄まじく濃い鉄の臭いが漂ってきたのを感じて正気に戻った。

 

(やっぱりキツいわ。画面上のエンタメとして楽しめる環境だったらなぁ……)

 

 原作のキャラデザが神なのもあって、生で見る彼女は二割増の美少女である。精神性と設定のマイナス分が大きすぎるものの、ビジュアルだけならどんなゲームでもメインを張れるレベルだ。彼女を象徴する緑のグルグル目とスプリットタンは魅力的と認めざるを得ない。見た目だけならね。

 初めて生でお目にかかった時は、正直なところテンションが上がりかけたものだ。多くの原作ファンが素晴らしいキャラデザだ――なお性格には触れない模様――と評するだけはあった。

 

 ……まぁ、アレだ。人は見た目よりも性格の方が大事って言うじゃん? 個別ルートは地獄すぎる性癖に溢れてるし、仮に関係性がもう一歩進んだとしても……ね。

 しかし、驚くなかれ。個別ルートは欠損フェチや極限のマゾに大人気で、頭がおかしくなってしまったのか彼女を最推しに上げるファンもいる。彼らは実際に会ったことがないからそんな脳天気なことを言えるんだ。

 

「スゥ――――ハァ――――……」

 

 ヨアンヌの息遣いが危険な熱を帯び始めたのを察知して、俺はヨアンヌと距離を置いた。

 

「ヨアンヌ様、今はそれどころではないでしょう。我々は任務に二度失敗したのですよ。教祖様に対してどのように報告すれば良いかを考えるべきです……」

 

 実はそっちも怖かったりする。ダルマもしくはバナナコースに両足ズブズブな時点で今更何をって話だけど、現実的にはこっちの脅威の方が早く直面することになるからな。

 

 教祖の名前を出されて多少の落ち着きを取り戻したヨアンヌは、前方に見えてきた古城を見上げた。

 

「今回は偽の情報を流したスパイがいたからな。大目に見てくれるんじゃないか?」

「……そんな甘い判断が下るでしょうか」

 

 下るわけがない。ヨアンヌが幹部の立場にいるから、俺達モブの立たされている状況を分かっていないんだろう。

 

「イザって時は一緒に怒られてやるよ」

 

 青春かな? しかし、一緒に怒られようって……具体的な解決策が何も無いってことだぞ。

 

 不安を隠せない俺は、拠点への帰還を素直に喜べなかった。

 

 …………。

 

 幹部への報告が終わった俺は、両手両足を椅子に縛られて尋問室に閉じ込められていた。

 

(地下牢にぶち込まれるよりヤバいことが起きてしまった……)

 

 尋問室にぶち込まれた経緯はこうだ。まず拠点に帰ってきたアーロスに任務失敗を告げると、彼は大層残念そうに首を振ってその場を後にした。見限られたかと思って慌ててスパイのことを告げようとしたところ、アーロスは幹部のフアンキロを連れてきた。

 

 それからはフアンキロと詳しい『お話』をするべく尋問室に入れられたわけだ。普通にお話するだけならわざわざ地下に行かなくても良いんじゃない? モブ遣いが荒すぎる。

 

 ぐったりしながら天井のシミを数えていると、尋問室の扉が開いた。

 

「オクリー君、で合ってるかしら。待たせて悪かったわね」

 

 幹部序列七位、フアンキロ・レガシィ。タイトなスカートを身につけた、白髪ボブで褐色肌の少女だ。原作では影が薄く、闇落ちルート以外では立ち絵が出ることすら稀である。一応個別ルートはあるが、流石にヨアンヌよりは内容が薄い。でもプレイの内容的には一番抜けた。

 

 フアンキロは普段から本拠点の維持管理を行っており、長い時間を非戦闘員として過ごしている。彼女の幹部としての仕事は、その能力に裏付けられた尋問能力の高さだ。

 俺は生唾を嚥下して、思わず背筋を伸ばした。こいつはヨアンヌより大分頭が切れる。しかも、彼女の能力の引っかかり方によっては死を免れない。『お話』の内容を想起して、俺は尋問室内の冷たい空気を肌に感じ始めた。

 

 フアンキロは薄汚れた箱を抱えながら、足で蹴って扉を閉めた。箱の中には様々な拷問器具が詰め込まれており、やはりと言うか……まともな対話ができるわけじゃないようだ。あくまで一方的なやり取りになるだろう。

 

「話すのは初めまして、かしら」

 

 フアンキロの持つ魔法は少々特殊である。直接戦闘に向かない代わりに、ある条件を満たすと任意のタイミングで相手を即死させることができるのだ。その条件は確か――『相手の顔・氏名・年齢』を知っている時、半径二メートル以内で自身に対する虚偽の発言をした者を呪死させるというものだったはず。条件達成に手間のかかる能力だが、蘇生を貫通して即死効果を与えるという見返りは相当のものだ。

 

 ただ、彼女の出番や功績が少ないのは、敵が悪かったとしか言い様がない。尋問でしか輝けない女とファンに評されるのも納得である。

 

「フアンキロ・レガシィよ」

「……オクリー・マーキュリーです」

 

 こうして俺とフアンキロの『お話』が始まる。

 

「ヨアンヌから話は聞いてるわ。この数日で二回もセレスティアに襲われたんですって? 大変だったわね」

 

 フアンキロは俺の周りをくるくると回り始めた。

 コツ、コツ、とハイヒールの軽い音が室内に反響する。ヨアンヌとは違った緊張感。俺は唇を舐めた。

 

 フアンキロの能力は、俺のようなモブ雑兵にとって最強格の魔法である。八方塞がりとはこのことだ。

 

 何かを口にする勇気もなく、俺は押し黙って俯いた。うなじの辺りにじんわりとした脂汗が滲み、シャツと素肌の間に不快な感覚が宿る。

 

「まず聞きたいのだけど――」

 

 やばい、質問が来る!

 ビクンと身体を固めた俺は、詰みに至る質問でないことを心から祈った。

 

「君、ヨアンヌに何をしたの?」

「はい?」

 

 唐突な変化球。何故ヨアンヌの名前が……?

 

「あの子、ワタシが君と『お話』するって言ったら急に暴れ出したのよ。役職のない教徒に尋問するだけなのに……君のことになると明らかにおかしくなっていたわ」

「…………」

「しかも、よく見たらヨアンヌの薬指が無くなってた。話を聞いたら『マーカー』として君に渡したって言うじゃない、どうなってるの全く……」

 

 ヤバい予感がする。

 

「ヨアンヌはあんな子じゃなかったわ。君が変えたのね」

 

 フアンキロが俺の拘束された椅子の背後に立ち、背筋をなぞってくる。全身に鳥肌が立ち、俺は激しく身を捩った。

 

「うっ……く! な、何を……」

「これから質問タイムよ。素直に答えないと死ぬから注意しなさい」

 

 その声がした刹那、俺は死神の鎌を幻視する。

 首筋に冷たい空気が流れ込み、喉仏に触れた。

 

「まずはジャブから。前々から怪しいと思っていたのだけど、君は我々アーロス寺院教団の敵ではないのよね?」

 

 ――部屋の闇から一本の鎖が飛び出し、俺の首に絡み付く。この鎖こそ、彼女の魔法が条件を満たしている証。フアンキロには顔も名前も年齢もバレている。後はこの鎖が嘘を暴いた瞬間、俺の命を刈り取っていくのだ。

 

「二つ目の質問。あの子は君と『両想い』だと言っていたけど――君達は本当に両想いの関係にあるのかしら?」

 

 新たな鎖が飛び、俺の胴体を締め付ける。

 

「三つ。本当は魔法を使えたり……しないわよね?」

 

 腰に鎖が巻き付き、俺は完全に動きを封じられた。質問に答えなければ逃げられない。

 

「ぐ……あ……!」

 

 鎖に締め付けられながら懸命に思考する。

 三つの質問の内容からして、フアンキロは俺を正教側の人間と疑っているのだろう。そして、何かしらの力でヨアンヌの心を惑わせたと考えているのだ。だから予防線を張ってまで俺を殺しに来た。

 仮に俺が敵だったとしよう。彼女の能力に怯えて本当のことを言うようなら、魔法に関係なく拷問道具で嬲り殺しにすればいい。逆に彼女の能力に刃向かって嘘をつくなら、任意のタイミングで俺を即死させることができる。仮に俺が味方であれば疑念を晴らすことができる……完璧ではないか。

 

 二つ目の質問には私情が入り交じっている気がするが、最初と最後の質問は非常に合理的だと言わざるを得ない。

 

 最初と最後の質問の答えは簡単だ。

 俺はアーロス寺院教団の敵では(・・)ないし、魔法なんか使えない。

 

 だが、二つ目の質問にどう答えたものか――俺は完璧な回答を探り始める。

 客観的にはヨアンヌが俺に片想いしているだけなのだが、俺もヨアンヌというキャラ自体は多少好きだから、そういう意味では両想いと言えるし――

 

 いや、そんなこと、今はどうでもいいだろう。俺達は両想いじゃない。本心で答えるべきなんだ。早く鎖を解き放たないと窒息死してしまう。

 

 そして、酸素を求めて胸を仰け反らせた時、ペンダントの中の『マーカー』が激しく震えているのに気付いた。

 

(……あ?)

 

 視線を感じる。粘っこくて、しつこくて、それでいてモノを観察するような――不思議な視線。反射的に、部屋の外に繋がる扉の鉄格子に目をやった。

 錆び付いた鉄格子。その隙間から、螺旋状の双眸が瞬きひとつせずに俺を見ていた。

 

「…………」

 

 ――ヨアンヌだ。『マーカー』で位置を特定して、『お話』の様子を見に来たんだ……。

 

 俺は二つの絶望に当てられた。

 

 俺の本心は『両想いではない』。

 だが、ヨアンヌの目の前で『両想いではない』と答えてみろ、俺は即行血祭りに上げられる。

 

 逆に、『彼女と両想いだ』と答えてしまえば――フアンキロの魔法によって俺は即死させられる。

 

 俺は……俺はどうすればいい?

 

 誰もが押し黙ったまま、時は流れていく。

 

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