タイトルまんま。
関係者の脳みそはもうボロボロ。
よっしゃあ!
「ボール、ボールボール! 9番の加藤さんが粘ってフォアボール! ガッツポーズをして一塁まで全力疾走! 嬉しい! 嬉しい! さあ打順がトップに回ります!」
加藤ちゃんが一塁から「宣言どおり出ましたよ」とバッテを仕舞いながら目で伝えてくる。
ネクストバッターズサークルから立ち上がると地鳴りの様な声援があがった。
ベンチから、3塁側スタンドから、もしかしたら1塁側スタンドを除く球場全体から、自分は応援されているのではなかろうか。
驚いて思わずスタンドを見回す。両親や姉さん、妹は3塁側スタンドにはいない。下手に自分の親族だとバレると厄介だからだ。養子の自分に我が子と変わらない愛情を注いだ挙句、金と時間のかかるスポーツをすることを受け入れてくれた日野家には頭が上がらない。
応援席にクラスで隣席の文学少女がいることを意外に思いつつ、味方の三塁側スタンドをよくよく見ると、見慣れたちびっ子2人組が必死に声を張り上げている。もしや学校をサボったのか。金髪のクソガキはともかく黒髪のいい子ちゃん、君はキャラじゃないでしょう。
仲良しの2人を見て、ふと幼い日の出来事を思い出した。そういえば迷子になっていたあの子は、まだ野球を続けているだろうか。大勢の大人に連れられて去る彼女に、野球をしていればまたいつか会えると軽約束してしまったが、ついぞ今日まで会えていない。ちょっとボールとバットとグローブで遊んだだけの話だ。あっちもきっと覚えてはいまい。
まだ終わってもいないのに思い出に浸るとは我ながら女々しい男だ。いや。今世では雄々しい、か。
頭を切り替えて打席に向かう。チラリとベンチを確認すれば監督のスーちゃんが一瞬困り笑いを浮かべて、すぐに無表情を装った。
ボックスの前で準備運動をしているとネクストバッターと目が合う。
声には出さないが「私が返してやる」と顔に書いてあった。小中と同じチームで戦い、途中からはバッテリーを組んだ、頼もしい幼馴染兼女房役。もしかしたら家族より長い時間を過ごした仲だった。
1番 ピッチャー 日野くん 日野祈来くん 背番号1
仮にこれが全て夢だったとしても出来過ぎだ。
「地区大会決勝、11回ウラの攻撃ワンナウト1塁。ホームランが出ればサヨナラの場面で、右バッターボックスには日野君が入ります。高校野球初の男子選手として、本大会でその才能を如何なく発揮していますが、本日はここまで3敬遠。マトモに勝負されたのは初回のみという状況ですが、いかがでしょうか解説の芳賀さん」
「言っちゃ悪いですがこの打席も敬遠の可能性が高いですね。先程の投げミスによる被弾を見る限り疲労はありますが、一打席目の内容を省みるに、下手に勝負すれば同点は間違いないでしょう。昨日までにホームラン3本打ってますし、サヨナラも十分ありえます」
「それほどですか、日野君は」
「先発の友技さんの外角低めを完全に捉えてましたからね。多分ツーシームだと思うんですが、左打席で右ピッチャーの逃げていく球をあそこまで完璧に打つというのはプロでも難しいですよ。しかもツーストライクから腕ではなく膝で拾ってましたからね」
「そのあとは全て敬遠。6回からは2年生エースのサウスポー、瀧田さんに代わっていますが彼女もマトモに勝負していませんからね」
礼をしてバッターボックスに入るとキャッチャーとマスク越しに視線がぶつかった。彼女にも言いたいことはあるのだろうがこれは勝負だ。教育野球はもう中学校で卒業している。
借りはかえさないとね
ボソリと何かが聞こえたが意識をピッチャーに向けたため分からない。
何よりそいつがマウンドで、剥き出しの敵意をギンギンにぶつけてくるもんだからうるさいったらありゃしない。どうせ敬遠なんだろうから静かになさいなお嬢さん。
左の2年生エース。春の練習試合では長打2本で打ち崩してやったがーー今回はやたらとサイン交換が長い。捕手が立ち上がる気配もない。
クイックから投げられたのはインコースのボールになるスライダー。左腕から放たれる身体に巻きつく様な軌道のそれを、上体を捻ってかわす。
「ボール!」
……これは。
ベンチからのサインを確認すると「任せた」と手を振られた。
まだ分からない。次の出方次第だ。
放られるのは再びインコースのスライダー。ただし今度は膝下に食い込むような高さ。いわゆる軸足を動かすためのもの。
これも軽く足を引いてかわすが、デッドボールスレスレのボール。
最後の確認の意味を込めて自軍ベンチを睨んだが変わらずノーサイン。
第三球は外角低めにストレートが決まって審判の手が挙がる。マウンドのお嬢さんは相変わらずギラギラしている。
成る程。
一度構えを解き、改めてピッチャーに照準を合わせる。
「じゃあまたぐちゃぐちゃにして帰してやるよ。お姫さん」
カウントは2ボール1ストライク。元々甘い球が来やすいカウントだが、今大会で自分は2ストライクまでほとんどスイングしていない。
データで判断するようならとっととご帰宅願おう。
「ッ……と」
4球目はスライダーを外角に入れてきた。際どいコースだが手を出してファール。甘い球ならセカンドの頭を越えるイメージはあったが、無理にフェアに入れようとすればミスショットの可能性があるコース。
撒き餌には引っ掛からなかったか。流石は高校No.1キャッチャー、こっちを良く見てる。
バットを顔の前に持ってきて息を吐く。カウントは2ボール2ストライク、勝負どころだ。目を瞑って理想と現実を擦り合わせる。
狙い球? この場面は来た球を打つしかない。
内角を引っ張って外角は流す? んな器用なバッターじゃあない。
柵越えのイメージ? 残念ながら狙ってホームランが打てる技術も筋力もない。
結論。|ボールの中心をバットの真芯で捉えて全部センター返し。《いつもどおり》
なんてシンプルな世界。色すらここではただの不純物に成り下がる。
サイン交換が終わってもピッチャーはすぐには投げない。セットポジションから中々動かない。
そうして限界まで引き伸ばされた時間で放たれた5球目。
流れる様なクイックモーション。
膝がピッチャーを引き寄せる様に動いた。
勝負球はインハイのストレート。それを感じた瞬間、身体がバットを最短距離で走らせる。
硬式ボールが弾けた音。
手に残った感触が、ボールの中心をバットの真芯で捉えたことを確信させる。
同時に嫌な予感で背筋が冷たくなった。
充実した感触が間違いなく、ボールをバットの中心で捉えたことを伝えてくる。つまり
「まずい」
打球が上がらない。
ショートが顔の前にグラブを構えていた。ランナーは飛び出している。
送球は正確にファーストに投げられた。
夢の終わりはあまりに唐突だった。
表彰式が終わると優勝チームそっちのけで報道陣が押し寄せてきたが、監督とチームメイトによって程々で解放された。ただ早めにバスに行っても囲まれるだろうし、結局はチームメイトを待つしかない。どうしようもなく暇になってしまった。
手持ち無沙汰でウトウトしているとドアが控え目にノックされた。
「えーと、日野くんいますか。大和三校の野田です。大丈夫なら出てきてもらえると嬉しいです」
この声は三校のキャッチャーか。相手控え室に来るのはマナー違反だが、一体どうしたのだろう。
ふて寝しても良いが、興味が勝ったので扉を開けると、深々と頭を下げるポニーテール娘がいた。試合以外はその髪型なのか。そのまとめ方って地味に手間と聞いたが、私生活は意外とおしゃれさん?
「まずはごめんなさい。どうしてもこの子が会うって聞かなくて」
「日野! あんた野球やめんの?」
動くポニーテールに視線を誘導されているところに、ショートボブの美少女の顔が割り込んできた。
春から少しは大人しくなったかと思ったが訂正、やっぱコイツ変わってないわ。
「ユイ、何をやってるの。まずは頭ぐらい下げなさい」
「あんま時間ないし良いでしょタケさん。で、ホントにやめんの?」
「気にしなくて良いよ野田さん。そうだね。インタビューのとおりだと少し語弊があるね。正確に言えば野球そのものはともかく、大学で続けようとは考えてないかな」
本当にごめんなさい。と再び頭を下げる野田さんを手で制しながら正直な現状を話す。何というか、彼女達にはある程度打ち明けるのが礼儀だと思った。
「何で? あんたならどこ行ったって通用するわ」
「それは買い被り過ぎだよお嬢さん。男ならともかく、俺より速い球を投げる女はゴロゴロいるでしょ。君もその1人だし」
「球が速いだけでピッチャーが出来るなら、ウチのレギュラーは皆マウンドに立ってる」
同じ左腕だが自分のMAXは精々142km/h。しかし目の前のじゃじゃ馬は一歳下で既に145km/hを越えている。変化球もスライダー、フォーク共に一級品、これからの伸び代にも期待大だ。
対する自分はストレートの調整と、カーブのみというオールドスタイル。イズミは組み立てに苦労してただろう。一応目の前にいる野田さん対策でシンカーを習得したが、そう多く投げるものではない。
「とにかく勝ち逃げだけは許さないから」
「それは言ったとしてもこっちの台詞じゃないか?」
「アタシがあれで納得すると思ってる?」
「最後のアレか。それも野球だろう。正面に飛んだのはオレの技術不足だ。こんだけ騒がれても、その程度なんだ、オレ」
「だから……!」
「勝った負けたはひとまず置いといて、日野くん。貴方の高校野球、まだ終わってないわよ」
「……引退の練習試合くらいはやってくれると思うけど、それ以外に何かあったっけ?」
野田さんの仲裁に感謝しつつ首を捻る。心当たりが全くない。
「U-18代表。この先を続けるかは、それが終わってからでも良いんじゃないかしら?」
「代表? 冗談きついな。選ばれる訳がないだろ。所詮地区大会どまりだぜ?」
「必ず選ばれるわ。貴方」
冗談だと思ったが、あまりに真剣な目に黙りこくるしかなかった。
「どうか真剣に自分の将来を考えてちょうだい。そろそろ時間ね。話してくれてありがとう。行くわよ、ユイ」
「良い? 絶対野球を続けること。いつかアンタに絶対勝つから。そしたら……ってタケさん置いてかないでぇ!」
流石にサシはむーりー!
言うだけ言って帰っていった。いや見つかったら問題だし、それでも言いたいことがあったのだから仕方がないのだが。
「いや。ホント疲れた」
まだ外の報道陣は捌けてないだろうし、監督達が来るまで寝よ。
その日の夜、本当にU-18招集の電話が来たのに驚いていると、テレビで国内12球団とメジャーの複数球団と1王国が、自分を指名する意思があるとテレビで報道された。
馬鹿じゃねえの野球の神様?
貞操観念逆転いる? これ。
男女の比率はともかく、身体能力はこちらの男女差基準になってるイメージで。
主人公
物心ついた頃から施設にいた。そして前世であるこっちの記憶と野球への情熱があった。
女子に混じって野球をする姿が男らしくないと男子としては珍しく施設にいる期間が長く、逆にそこを気に入った日野夫妻に引き取られる。
前世はそこそこの野手。甲子園を真面目に目指す高校の7番セカンドで活躍。大学まで野球を続けて、社会人になっても草野球チームに所属していた所までは覚えている。
今世での選手能力は俊足巧打の技巧派二刀流。
前世での記憶から自分を野手ピッチャーと割り切っているため、チームを勝たせれば良いと考える気楽な投球スタイル。
身体能力とセンスは前世以上と感じつつも、男女で身体能力が逆転していると思い、本人としてはこの世界では男は高校レベルまでが関の山だと考えたため、大学以降は程々にするつもりだった。
だから色々と寝耳に水。
なおこの世界では彼のみ、前世の男性アスリートの肉体が基準である。
元になったボディをあえて小型化することで、最大出力を落とした分、操作性と整備性を向上させた。これで初号機唯一の弱点であった、その性能故に現世では肉体が耐えられないという部分を克服している。
勿論、生殖能力も前世仕様。この世界で○ンデー○イレンスになれる。
当然というか、お約束というか、やっぱり彼本人は気付いていない。
何も起きません
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姉
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妹
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文学少女
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ちびっ子
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幼き日の思い出
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幼馴染
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練習試合
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U-18
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野球