巨大な白い身体の怪物が、家を壊し瓦礫を砕く。辺り一面は瓦礫の山で、地面は所々赤く染まっている。
今日は真木ちゃんと楽しく図書館デートの筈だったのに、今、俺の目の前には巨大な怪物がいる。突如、上空に現れた黒い穴のようなものが厄災を撒き散らしてやがる。
「真木ちゃん!大丈夫か!?」
俺は、白い巨体の化け物の前腕による薙ぎ払いにより打ち飛ばされた彼女に向かって叫んだ。
白い化け物は俺達から興味を失ったように人気の多い方へと移動する。化け物が離れていったのを確認した彼女は掠れた声で答える。
「若槻……私は大丈夫。それより、早く逃げて……」
真木ちゃんは苦痛に顔を歪めながら、懸命に立ち上がろうとしていた。俺は彼女に駆け寄り、その身体を支える。すると、彼女は辛そうにしながらもいつもの大人びた笑顔を浮かべた。
「私のことは良いから、早く逃げて」
真木ちゃんの言葉に、俺は首を横に振った。
「いや、駄目だよ。真木ちゃんも一緒に逃げよう」
しかし、彼女は俺の腕を振り払った。
「私はもう逃げられないかな……足を怪我してしまったんだ」
真木ちゃんはそう言って自分の右足を指差す。確かに、彼女の右足は血に染まっていた。
「そんな……」
俺は愕然とする。その時、真木ちゃんが何かを呟いた。
「ねえ、若槻」
「何?」
俺が聞き返すと、彼女は儚げな笑顔を浮かべた。
「私、ずっと前から若槻のことが好きだったんだ」
真木ちゃんの言葉に、俺は思わず息を飲む。まさか彼女からそんなことを言われるとは思ってもいなかった。
「真木ちゃん、でも……」
俺は動揺する。しかし、真木ちゃんは俺の言葉を遮るように言葉を続けた。
「わかってるよ、若槻が私のことを何とも思ってないってことくらいは」
彼女は自嘲気味に笑う。そして、続けて言った。
「でもね、私は若槻のことが好きだから……私のせいで、君が死ぬなんて耐えられないんだ」
真木ちゃんの瞳から涙が流れ落ちる。その涙を見た瞬間、俺は自分の中でずっと引っかかっていた言葉がふと頭に浮かんだ。
『お前は愛されてなんかいない』
その言葉が、俺の頭の中で何度も反響する。俺は彼女になんと答えるべきか分からず、ただ呆然と立ち尽くすだけだった。
すると、真木ちゃんはそんな俺に優しく微笑みかける。そして、震える声で言った。
「若槻、早く…逃げて」
俺はその言葉を聞き、ハッと我に返った。そして、考えるよりも先に身体が動いていた。真木ちゃんを背負って、その場から走り出す。
「何をやってるの!?」
真木ちゃんが慌てたように声を上げる。しかし、俺は足を止めなかった。駆け足の音を聞きつけたのか、白い怪物が追ってくる音が聞こえる。
「駄目だよ、若槻!私はもう逃げられない!」
真木ちゃんが叫ぶように言う。しかし俺は彼女の言葉に聞き耳を持たず走り続ける。俺の持つ
「どうして……!?」
真木ちゃんは困惑した様子で尋ねる。俺は彼女の質問には答えず、ただ前だけを向いて走り続けた。
やがて破壊跡も目立たない場所に辿り着き、化け物の足音も聞こえなくなった頃、俺はゆっくりと立ち止まった。真木ちゃんを下ろして壁にもたれさせる。そして、静かに口を開いた。
「なぁ、真木ちゃん」
「…何?」
俺が声を掛けると、彼女は少し緊張した様子で答える。俺はそんな彼女を安心させるように笑顔を浮かべた。
「真木ちゃん、さっきはありがとう。でも、俺は君を置いて逃げたりなんかしない」
俺の言葉に、彼女は驚いたように目を見開く。そして、少し怒ったように言った。
「状況が分からないの!? まともに歩けない私を連れて逃げ続けるなんてできない!」
しかし、俺は首を横に振った。
「駄目だよ、俺が君を置いていくなんてできない」
俺の言葉に、彼女は戸惑ったような表情を浮かべた。
「若槻……?」
真木ちゃんは困惑している様子だったが、俺は気にせず言葉を続ける 。
「こんな、誰にも愛されない俺に、自分の身も危ないのに本気で俺を心配してくれた……真剣に好意を伝えてくれた」
俺の言葉に、真木ちゃんは困惑したような表情を浮かべた。
「でも、俺は君に何も返せない……何も与えてあげられない」
俺がそう言うと、彼女はゆっくりと首を振った。そして、俺に問いかける。
「そんなことないよ、若槻。私は君が側にいてくれるだけで嬉しいんだ」
そう言って笑う彼女を見て、俺は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。そして、思わず本音が漏れてしまう。
「真木ちゃん、俺は……君の事を愛していないんだ」
俺がそう言うと、彼女は悲しそうな表情を浮かべる。しかし、それでも俺は言葉を続けることにした。
「でも、こんな俺を心から好きになってくれたことが嬉しいんだ。だから、俺も君を大切にしたい」
真木ちゃんは、俺の言葉に涙を流し始めた。そして、俺に抱きついてくる。俺はそんな彼女を優しく抱きしめた。
「若槻……ありがとう」
彼女はそう言うと、俺の胸の中で嗚咽を漏らし始める。俺はそんな彼女の頭を撫でながら呟いた。
「ごめんな、真木ちゃん……」
俺の言葉は彼女に届いていないようだった。俺は彼女を抱きしめる腕に力を込める。そして、真木ちゃんの耳元で囁いた。
「ありがとう、愛してくれて」
俺の言葉に、彼女は泣き止んで顔を上げる。そして、俺の顔を見て微笑んだ。普段の凛とした彼女からは見たことない、とても優しい慈愛に満ちた顔。
俺と真木ちゃんはしばらくの間、互いの体温を感じながら抱き合っていた。しばらくして、俺は彼女を離すと口を開いた。
「そろそろ行こうか、真木ちゃん。ここもいつまで安全か分からないしね」
俺の言葉に、彼女は凛としたいつもの表情に切り替える。そして、ゆっくりと立ち上がる。しかし、足に力が入らないのかフラフラしている様子だったので、俺は彼女を再び背負う。
「ごめん、若槻」
真木ちゃんは申し訳無さそうに言うが、俺は笑顔で答えた。
「気にしないでいいよ。それより、今は俺の背中でゆっくり休んでよ」
俺の言葉に、彼女は嬉しそうに微笑む。そして、小さな声で呟いた。
「ありがとう」
俺はその言葉に微笑み返すと、歩き出した。
しばらく歩くと、化け物の足跡も完全に消えていた。救助隊と道路の端に止められた救急車が目に入った。俺は真木ちゃんを下ろすと、彼女を救急車のところまで連れていく。
救急隊員は俺達を見ると、すぐに駆けつけてくれた。真木ちゃんは担架に乗せられると、救急車の中へと運ばれていく。俺もそれについて行く。こうして俺達はある程度の怪我も負いつつも、何とかこの惨劇を無事に生き残った。
後に、第一次大規模侵攻と言われる事件が起こった日。俺にとっての悲劇は、この後に待っていた。
*迅と真木での態度の違いは軟派男ゆえと思ってください。
ヒロインについて(真木理佐は確定です) ※参考にさせてもらいますが、結果が反映されるとは限りません。
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全て背負ってこそ……漢だ