防弾チョッキを体に着け、その上からコートのようなものを身に纏う。
弾薬入れを肩から下げ、爆弾を肩から下げる。
リロード用の弾丸をショットガンに取り付け、戦いの準備を完了させる。
「スオウちゃん、準備できた?」
「…うん。問題ない」
シアンもまた同じように装備を身につけ、こちらに確認を取ってくる。
「あ、防弾チョッキコートの下に着たんだね?」
「ああ、こっちの方がバレづらいからな」
俺のアドバンテージである、一見するとただのロ、いや非戦闘員である事。
それを装備をわかりやすく着て、むざむざ捨てる理由もない。
「シアンは…サブマシンガンを使うのか」
「うん!私の力で撃てば一発一発が凶悪だよー!」
「はははっ…」
シュタタっと銃を撃つフリをするシアン。
普段と変わらないテンションの彼女に、少し安堵を覚える。
ああ、自分は思ったより緊張しているのだな。
内心彼女に感謝しつつ、ふとそんなことを考えた。
「あ、それよりごめんね。スオウちゃんの装備、ちょっとオーバーサイズだけど…」
「構わないよ。むしろ、俺が使えるサイズの装備がこんなにあることに驚いたくらいだ」
正直、今の俺の体は同年代の子供に比べても少し小さいくらいだ。
そんな俺が扱えるような装備が、かなり選択の幅がある程度にあることには驚かされた。
「そっか、ならいいんだけど…あとスオウちゃん、これ」
「…?なにこれ」
明らかに俺にはオーバーサイズの、拳銃のような武器。
しかし拳銃ではあり得ない程にゴツい見た目と重厚感があった。
なんだっけ、前世で見たことある気がする…えーっと、えー…。
「ハンド、キャノン…?」
「そう。よく知ってたね。すっごい威力が高いんだけど、反動が強いの。でもスオウちゃんでもギリギリ扱えるサイズだから、護身用にって。できれば使わないでね」
ふむ、お守りみたいなものか。
確かにハンドキャノンは威力も反動も桁違いと聞いたことはある。
きっと、攻撃力が乏しく決め手に欠ける俺のために考えてくれたのだろう。
「…ありがとう」
シアンに感謝を伝え、俺の体には不釣り合いな大きさのその銃を、コートの内側に仕舞い込む。
「じゃあ、改めて今回の作戦の目的を確認する」
「うん」
「つっても、そんな複雑じゃない。俺たち二人で行く目的は、アンナが穏健派の戦力をまとめ上げるまでの時間稼ぎ。その過程で、相手の戦力を削る、もしくは頭である副会長の拘束。大まかに分けてこの二つだな」
「わかった…でもサリアちゃん、今どこにいるんだろう…」
「うーん、そうだな…」
アンナから事前に渡されていたアリウス内の地図を見て、考える。
「普段はどこにいるんだっけ?」
「ここと、ここ。こっちが生徒会室で、こっちが古い大聖堂」
「うーん…ん?」
よく見れば大聖堂とやらは、俺も行ったことがある場所だった。
ベアトリーチェが色彩に触れるために利用しようとした、その施設。
一度破壊できないものかと赴き、失敗し、こっぴどく怒られた場所。
だからこそ、知っている。
「これ、地図には写ってないけど…隠し通路がある」
「そ、そうなの?一応、信用できる地図のはずなんだけど…」
「間違いない。何回か行った事がある」
俺が小さな体を駆使して探し回った結果、見つかったものだ。
実際、そこへ行くためには隠し通路を使用した。
というか、たまたま見つけた隠し通路が繋がってただけなんだけど。
「多分、爆破された居住地に行くならこっちからのほうが早いし、見つかりにくい。それに、副会長もこの通路を使ってる可能性もある」
「なるほど…じゃあ、そっちから行ってみようか!」
「オーケー、案内する」
そうして、シアンと共に隠し通路の方へと駆け出した。
◇
薄暗い通路の中を、シアンと共に全力で走り抜ける。
…シアンが滅茶苦茶早すぎて、ぶっちゃけ俺はもう息が切れてるけどねっ!
「ちょっ…!ゼェ…!し、シアン、早…!」
なんとかシアンにそう伝えるものの、シアンは不思議そうな顔をし。
「そんなに早くないと思うけどなー」
と、そう返すばかりだ。
「クソッ…!このゴリラめ…!!」
「最近スオウちゃんも私のことゴリラ扱いするようになったよねぇ!?」
だってゴリラだし。
というか、やっとこさ緊張が解けてきたな。
…ひょっとして、気遣っておちゃらけてくれているのだろうか?だとすると申し訳ないな。
「でも、あんまりのんびりしてる暇もないし…」
「わかってる…足手纏いになるつもりはない」
息を整え、走る準備を始めたところで。
「あ、そうだ!じゃあ私がおぶってあげるよ!!」
「はぁ…?」
本格的にゴリラとしての本能に目覚めたのか、そんなことを宣い始める。
「いいか、何度も言ってるように俺は体だけなら幼女だが、中身は23歳の大人、それも男だからな?おんぶとかされたら普通にアレだし、下手すりゃ警察行きだからな?」
この世界に存在するかもわからないどこかの先生にダメージが入った気もするが、多分気のせいだろう。
「関係ないよ。困った時は助け合い、ね?それに、スオウちゃんって言うほど大人っぽくないし」
「うるさいよ」
自覚はあるけどさぁ!!
「それに、さ。今はもう子供じゃん。少しは、頼ってもいいんだよ?」
「っ…!?ち、違う…!」
「…スオウちゃん?」
なぜだろうか。否定したくてたまらない。
体だけなら、まだいい。
でも俺がもう子供って、それを認めてしまえば、俺が俺でなくなってしまうような、そんな感覚。
違う、俺は、子供じゃない。そうであっちゃいけない、それじゃあ、それじゃあ『俺』は、
「スオウちゃん!!」
「…っは、え?」
「大丈夫…?息は荒いし、顔が真っ青だったよ…?」
「…そう、かな?ごめん」
「ううん。私こそ、ごめんね、変なこと言って」
なんだったんだ、さっきの。あんなの初めてだ。
なんか急に…まあ、今は落ち着いてるし大丈夫か。
ともあれ、だ。
「とにかく、俺はおんぶとか絶対やだからな!!」
「…うーん。じゃあ、これでいっか!!」
「えっ?」
突然シアンに腹の部分を抱きかかえ上げられ。
「じゃあ、全速力で!!!」
「ちょ、まさか!?離」
「いっくよー!!!」
「ああ゛あぁああああああぁぁぁああああ!!?」
そのままジェット機もかくやという勢いで、一気に運ばれるのであった。
◇
「はーい、とーちゃく!」
「っ、はぁ…!!し、死ぬかと思ったぁ…!!!」
前から裏へと景色が一気に移り変わるわ、アホみたいに揺れるわ、風圧はやばいわでもう最悪だったよ!!
「結局、副会長はいなかったねー…」
「なあ、俺の身を案じてくれても良くない…!?」
いや状況把握は大事なんだろうけどさぁ!!
…まあいい。
にしても、だ。
「ひどい状況だな…」
建物は所々崩落しており、火の手が上がっている部分もある。
耳を澄ませば一部では銃声が聞こえ、争いが起こっている事がわかった。
「こっちの人たちと協力するんだったよね?」
「ああ。まずは銃声のする方へ…バレないうちに、戦ってる相手を攻撃しよう」
「うん」
そうして銃声のする方へと歩みを進めてみれば、十人ほどの生徒が争いあっていた。
うち三人が穏健派、七人は過激派だ。
過激派は大きく分けて後方二人、中距離三人、前衛二人といったところ。
「絶対味方撃つなよ?」
「わ、わかってるよぉ…!!」
そんな軽口を叩きつつ、一応顔が割れないようにガスマスクをつけ、目深にフードを被る。
「私が四人もつ。多分二人くらいならあの三人でなんとかなるから、スオウちゃんは状況説明した後に残った一人をやって」
「わかった」
シアンと左右に別れ、敵の中距離一人に爆弾を投げつける。
「なっ…!?増援か!?」
「お、おい!!三枝シアンだぞ!!」
「なっ!?本当にきたのか!?報告を…!」
「ねぇ」
「ぐっ…!う、うぅ…!!」
シアンが逃げようとする前衛二人に小石を投げつけ、倒れたところを首を掴んで持ち上げる。
「逃すと思うのかなぁ…?」
「ひっ…!!ぎゃあああ!?」
その首を掴んだまま回転し、後方支援の二人に思いっきりぶん投げた。
「じゃ、私はアイツらやるねー!」
「…あ、うん、はい」
いやこっわぁ…悪魔か何かか…?スッゲェ遠くまで飛んでったぞ…。
「あの」
「ひっ!?」
穏健派の味方も怯えてる!?
「あ、あの、味方だ…一応。よく見てアレ、生徒会長」
「あ…本当だ…」
「一人は俺が受け持つから、残り二人をやってくれ」
「え…でもあなた、こど」
「子供じゃない。とにかく、任せてくれ」
三人は顔を見合わせ、こちらに向き直り頷く。
「…わかった、お願い。気をつけて」
「まかせろ」
先程の爆発で分断した一人の元へ向かい、相対する。
「っ、やはり増援か…先程はよくもやってくれたな…!」
「いやー、悪いけどこれ戦争なのよ。奇襲闇討ち、なんでもござれってね」
「っ…!」
「そんじゃ、やりましょ、かっ!!」
相手を煽りつつ手早く距離を詰める。
「なっ…!!」
小さい体格を利用し、懐に潜り込んで腹にショットガンを放つ…が、しかし。
「っ、たぁ…!」
相手も一切怯むことなく、逆に横からマシンガンの銃身で打ち付けられてしまう。
「フンッ!」
「ぐっ…」
「フー…」
負けじとショットガンを放って、一旦距離を取る。
今度は腹ではなく腕に当たった。少しはダメージが入ったようだ。
あー、防弾チョッキ着てやがんなぁ、アレ。
今の俺じゃブチ破れねぇか。
じゃあ狙うのは関節、手元、足元だな。
考えをまとめて今度は爆弾で遠距離から攻撃を始めるも、特に躊躇う様子もなく空中で撃ち抜かれ、僅かに距離を詰められる。
ダダダッ、とマシンガンで撃たれ、体に痛みが走る…が、耐えられないほどではない。
そう判断し、可能な限り銃弾を避け、滑るようにして相手の足を通り抜け、膝裏に銃を撃つ。
「くそっ…!」
体勢を崩し倒れたところで、頭を横から蹴って吹き飛ばし、手榴弾のピンを抜いて投げつける。
「かっ、ゴホッ……!!」
「な、まだ…!」
倒し切れなかったのか、反撃を喰らいかけた所で。
「ただいまー!って、あ、まだ終わってなかったんだ?」
「っシアン…」
どうやったのか空から降ってきたシアンに潰され、完全に意識を失っていた。
「ふー…ありがとう…正直、助かった…」
「うーん?あんまりダメージ受けてないように見えるけど」
「多分少し弱めの生徒だったからかな…それでも、反撃喰らってたらちょっと苦労した」
初めての実践に未だ激しく動悸する心臓を抑えつつ、周囲の様子を伺う。
どうやらあの三人も無事勝利したようだ。
「その、ありがとうございました。助けてくださって」
「気にしなくていいよー!」
「えっと、アンナから通信が来てないか?」
「あ、はい、確認し終わった直後に見つかってしまって…ひとまず、状況をお伝えしますね」
そうして話を聞いたところ、やはりと言うべきか過激派からの急襲を受けたらしかった。
多くの穏健派の生徒が倒れ、今この場で戦えるのは十人ほどなのだとか。
「そうか…して、その残りの七人はどこに?」
「えっと、向こうでまだ戦っています。敵の勢力は二十人弱…できれば、そちらの方も──」
と、そこで突然俺の後ろから銃声が聞こえる。
「し、シアン…?」
「そこの生徒…まだ意識があったみたいだね、通信してた。…多分、私がきた事がバレたよ」
「ッ、マジか…!」
まずいな…シアンが来ている事がわかっているのなら、相応の戦力を準備をしてくるはず。
「どうする?」
「…ひとまず、その七人を助けて、一旦撤退」
「うん、わかった」
「ッ、ありがとう、ございます…!」
シアンと三人と共に、戦場へと向かう。
…しかし、少々きな臭いな。ただでさえ向こうが有利な状態で、そんなにもここに戦力を割く必要があったのか…?
◇
戦場に着けば、七人とも意識はあるものの、ほとんど満身創痍といった様子だった。
「いた。基本的に私が戦うから、四人は七人の手当と、撃ち漏らした奴らをお願い」
「了解。頼んだぞ」
「まっかせといて!私最強だし!」
戦いへ赴くシアンを尻目に、集まって敵の襲撃をなんとか凌いでいる七人の元へ向かう。
「みんな無事!?助けが来たよ!」
「…っ、なん、とか…!」
「よかった…」
「感動の再会中悪いんだけど、怪我人はいる?」
「みんな相応にしてますけど、重症の患者はいないです」
…うん、不幸中の幸いだな。
「その、増援はどのくらい…?」
「今は俺ともう一人だけだけど、安心して。片方は…」
『あははははは!!!弱い弱い!!その程度で倒せると思ってるのかなぁ!?』
「ひっ!?」
…悪役のセリフにしか聞こえねぇ。それも考えうる限り最悪のタイミングで。
「…と、こんな感じにめっちゃ強い生徒会長だから」
「え、あ…ほんとだぁ…」
気が抜けたのか、何人かは意識を失うように倒れてしまった。
こっちは、問題なさそうだな。そう判断し、周囲の警戒をしつつ、シアンの戦闘を見守る。
最初は二十人ほどいた敵も、すでに五名が倒れている。
銃を放てば敵は倒れ、爆弾を投げた場所はチリも残らず、一切の攻撃を受け付けない、完成された暴力。
これはあまり時間がかからなそうだ。
…そう、思ったのだが。
「くっ…!!今だッ!!!」
「!」
突如として敵の一人がシアンの体を捨て身で掴み、掛け声をする。
次の瞬間爆発物が投げられ、シアンに着弾、しかけたところで。
「せいっ!」
「なっ…ぐ…っ!!」
右手に持った石を投げて勢いを落とされ、結局地面に着弾する。
「…なんだろ。それ、ヤな予感がするなぁ。当たらない方が良さそう」
「っ、怯むなぁ!!!」
「…ん?」
おかしいな。爆発された場所、焦げ跡が一切ない。
まるで、爆発の効果を受けつけてないみたいな…。
「クソッ、当たらない…!!」
「あと何発だ!!?」
「三発です!!」
「うーん、しつこいなぁ…どんなものでも、当たんなきゃ意味ないでしょ?」
そんな思考をよそに、シアンは五人、十人と敵の数を減らし…。
「君で、最後だね」
そして、とうとう敵はいなくなった。
「シアン、お疲れ」
怪我人を抱え、皆と共にシアンの元へ向かう。
「うん。思ったより苦労しなかったね」
「あ、あの…生徒会長、ですよね!?」
「え?あ、うん」
「さ、サインください!!!」
「えぇ…?」
…シアン、やっぱ人気あるんだなぁ…。
威厳のある口調も忘れちゃってるけど、大丈夫なんだろうか?
「ところで生徒会長、そんな喋り方でしたっけ?」
「…ん?あ゛っ」
…やっぱダメじゃねぇか!?
やべー、帰ったらアンナにドヤされる…!
いや、誤魔化せばいける!!!
「と、とりあえず、増援が来る前に急いで戻らないと───」
と、そこで、目に映るのは。
満身の敵が震える指で、先程の爆発物を投げる様子。
「…えっ?」
視界がスローモーションになり、ゆっくりと、ゆっくりと、爆発物が迫ってくる。
「っ、危ないっ!!!」
あまりにも予想外なその動きに、俺の体は反応する事ができず。
されるがままに、シアンに突き飛ばされ。
轟音と爆炎が、俺の目の前に広がった。