ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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【後日談】姉妹は遊戯(ゲーム)の夢を見る!

 エデン条約のせわしない日々からはや一ヶ月。アルバイトも見つけて、生活にも慣れてきて。問題も起こることなく、特にこれといった変化のない、平々凡々な日々が続く。

 

 朝起きたら、妹達がいて。いつも通り、他愛のないことを話しながら食事をとって。バイトに勤しんだり、勉強をしたり……一応、立場上は今でもアリウス分校の小隊長。みんなの生活での困りごとを探したり、解決するために予算を組んでみたり。

 

 ともあれ、みんなと協力しながら、少しずつ。前世以来失われた日常を、取り戻しつつあった。

 生活の水準は、かなり前世のあの頃に近い……いや、むしろあの頃よりものんびりとした日々だ。だからって、まだ全部が元通り、なんてわけにはいかないけど。満たされた生活を送っている。

 

 ……そのはず、なんだけど。

 

「なにか、忘れているような……?」

 

 そう、何かが欠けている。満ち足りていないと、そのことだけを確かに感じる。

 満たされてない人はいる。確かに在る。でも、そうじゃなくって。それ以外の何かだ、なんて、漠然とした確信があるんだ。

 バイトのシフト……は、問題ないはず。ミカからのモモトークにも返信したし……『シャーレ』から、いまだに当番の依頼が来ないこと?いや、確かにそれは不満だけど……違うよな。

 

「んー?」

「スオウ、どうかしたの?」

 

 頭を捻りながらソファで寛いでいると、アツコが横に座って話しかけてくる。

 

「アツコ……いえ、特にこれといって何かがあるわけではないですよ。ただ、なにか……」

「これ、食べる?」

「あ、ありがとうございます」

 

 スティック状のチョコ菓子を口の中に放り込んで、甘さを噛み締めて。脳に染み渡る感触がして、それでもやっぱり思い出せない。

 

「スオウが物忘れなんて、珍しいね……いつも、記憶力はいい方なのに」

「そりゃ妹のことならなんだって……む、なるほど」

 

 ってことはやっぱり、思い出せないのは妹関連ではない……そうなってくると、かなり選択肢は絞れたな。

 

「なんて、まあそのうち思い出しますね。アツコは何をしてたんですか?」

「私は、アズサに教えてもらったゲームをやってみてた。意外と難しくって……」

「……げー、む?」

 

 なんだろう、今……今何か、思い出しそうな。

 

「うん、ゲーム。モモフレ・むにむにっていうパズルゲームで……さっきダークペロロを当てたんだけど、すごく強いんだ」

「そ、そうですか……」

 

 妹が段々良くない方向に染められてるような気がしてお姉ちゃん心配……しかし……ふむ、ゲーム、か。

 シアンとアンナと、昔やったっけな。確か、かなり一方的に勝った記憶があるけど……ってことは俺、前世でもゲームはやってた、よな?

 

「……うーん。後ちょっとで思い出せそうな……!」

「頑張れ……飲み物いる?」

「あ、ありがとうございます」

 

 いちごオレか。砂糖の強い甘みが主張してきて、お前は本当にイチゴかと問いたくなるけど……まあおいしいし、いっか。

 

「おかわりもあるよ」

「そ、そんなに飲みませんからね?」

「そっか」

 

 なんか餌付けされてるような……いや、余計な思考は捨ておけ、後少しで。

 

「わっ、と」

 

 と、そこでポケットの中身が震える。ここ一ヶ月のバイト代を叩いて買った、中古のスマートフォン。マユミ、ミカ、妹のみんな、その他にも……ともかく、いろんな人と連絡先を交換した。

 誰からだろうと、ロックを解除して。

 

『スオウさん!ミレニアムで小規模な予行交流会を考えているのだけど、どうかしら?』

「……交流会?」

 

 やけにギラギラと主張するロボットのアイコンを尻目に、画面に映る文字を読み上げた。

 

 

 

 

「……よしっ、と。これで、全部ですかね?」

 

 生活支援部の車から荷物を運び出し、閑散とした空き部屋に並び立てて、ケーブルを繋げていく。

 

「相変わらず、とんでもない腕力だね……」

「う、ん……?今の褒めてます?」

「半々」

「そっかぁ」

 

 軽口を交わしつつ、テレビのリモコンを手に取ってみる。久しぶりだな、この感触も。ゴムの温かさが、指先に触れてこそばゆい。

 ぴっ、と電源を点けてみると、一瞬のノイズの後に画面が光って、完全に映し出された。

 

「おぉ……」

 

 くるくると、画面の真ん中に、箱が走ってアルファベットが刻まれる。

 ピアノの高い音階を、片手だけで弾いたような起動音。

 

「つ、ついに私たちの住処にもゲームが……!」

「でも、マユミ。本当に良かったんですか?こんなに色々、もらっちゃって」

 

 先日、服を買いに出かけた時よりも幾分か顔色が良くなったマユミが、数刻の沈黙の後に笑いかけて。

 

「大丈夫よ。これは修理の依頼と廃品回収で受け取ったものを組み合わせただけ。テレビだけは中古品そのままだけど。要するにジャンクパーツと中古品の寄せ集めだから、元手はないに等しいわ。それに、ちゃんとお金を受け取ってるもの!」

「はははっ……ちょっと、少ないんですけどね」

「中古品ならこんなものよ。適正価格だと思ってちょうだい」

 

 いくら中古品とはいえ、テレビをはじめとしたゲーム機、配線、その他ソフト群に攻略本……を、掛けることの三つ分。三万飛んで六千円と少し。前世での金銭感覚なんて忘れてしまったから、これが正しいのかはわからない。

 相当なレトロゲームだから、むしろ貰いすぎなくらい、とマユミは言ってたけど……果たして真相は。

 

「というか、かなり出資者は集まったのね。今度はもう少し新しいゲームを買ってもいいんじゃないかしら?今時、新品の据え置きでも三万円くらいだし……」

「それはまた、今度で。みんなの大切なバイト代ですから」

 

 そう、今回のこの品、みんなでお金を出し合い協力して購入したもの。一人当たりに換算してみれば、五百円もしなかった。今後何か大きい買い物をするときは参考にするのもいいかもしれない。

 

 その代わりに、これは個人の所有物ではなくアリウスの共有財産。各々で使用希望を出し、時間帯を決めて使用することになっている。

 喧嘩にならないように気を配らないとな。だからこそ、三台分の機材を買ったのだけれど。

 

「それに、今回は相手も相手です」

「ああ、まあそれもそうね……あの子達が好きなのはレトロゲーだもの」

 

 まあおかげでお金もそこまでかからなかったし、むしろありがたい限りなんだけど。

 

「せっかくミレニアムにいるのよ?他の機械も……私がいくらロボットの良さを教え込もうとしても、いつの間にかゲームの修理をさせられてるの……」

「それはマユミがチョロ……いえ、なんでもないです」

「お前が甘いだけじゃないのか……?」

「そ、そんなことは……ないわよ……多分……」

 

 サオリ?お姉ちゃんそれ思ったけど言わなかったことだからね?

 とはいえ正直言って、半分くらいマユミがチョロいのが原因だと思う。俺に対しても割とそうだし……アレか、ミレニアムの権威ある人間はみんなロリコンなのか?いや、誰がロリだ。

 

「スオウさん?今何か失礼なことを考えなかったかしら?」

「いえ、なにも」

 

 冗談を交わしながら、残る二台の設置も進める。途中マユミに色々と質問をしながら。

 アズサがうまく接続できなかったらどうすればいいのか、と聞いたら、マユミは配線を抜いてフー、と息を吹き込む動作をした。

 ぼんやりとした記憶でも、確かやっちゃダメなやつだった覚えがあるなぁ。くだらない事を考えていたら、いつの間にやら設置は全て終わっていた。

 

「それじゃあ、スオウさん。もう大丈夫かしら?」

「はい、ありがとうございます!」

「そ。じゃあ私は行くわ。本当は一緒に遊びたいけど……納期と依頼が滞ってるのよ……」

 

 最近好き勝手やりすぎてたわね、とぼやきながら、マユミは冷や汗をかいて目を横に逸らす。

 ……なんというか、後で日頃のお礼も兼ねて労おう。部屋の掃除とか、雑務くらいなら俺だってできるし。

 

「マユミ、お前は……いや、私たちのためか。今度礼をさせてくれ」

「この前食事を奢ってくれたじゃない、十分なのに……まあ、一応期待しておくわ。それじゃあまたね、みんな!」

 

 軽く欠伸をして、るんるんと軽い足取りでマユミは去っていった。あれだな、あれは……多分社交辞令とかじゃなくて、本当に期待してるな。ちょっと色々考えておこう。

 

「さて……」

 

 マユミに手を振って見送り、みんなの方に向き直る。

 サオリ、ミサキ、アズサ、ヒヨリ、アツコ。いつもの、スクワッドの面々。全員、揃ってるな。

 

「それじゃあ、改めて……ゲーム開発部との交流会まで、あと一週間です!みんな張り切って」

「待って。私、あんまり詳しい話聞いてないんだけど……」

 

 笑いかけて士気を高めようとして、ふとミサキが手を挙げた。

 

「む」

 

 そういえば、ミサキはここ数日夜勤だったか。どれ、お姉ちゃんが労って……。

 

「……なんで後退るんですか?」

「スオウの行動くらい読めるよ。もう何年一緒にいると思ってるの?」

「ぐ……!」

 

 なんてことだ、ミサキのほっぺをむにむにしようとしてたのに……まあいい。気を取り直して。

 

「トリニティとの和解……へ向けた話し合いから、もう直ぐ一ヶ月です」

「……うん。そしてスオウが無茶苦茶をやってから一ヶ月と一週間」

「あ、アツコ?まだ怒ってますか……?」

「……?そんなことないよ。無事でいてくれたから」

 

 キョトン、と、本当にそんなつもりがなかったという具合に首を傾げられた。かわいいけど、それは今関係なくて。

 

「さておき、その際にミカが提案したトリニティとの交流会。その予行として、小規模な交流会をマユミが企画してくれたんです」

「へぇ……それで、コレと何が関係あるの?」

 

 指先を回して設置した機材を指し示し、こちらに目線を戻すミサキ。そっか、実物を見るのは初めてだもんな。

 

「今回交流会を行うのは、事情を知る生徒生活支援部の生徒じゃないんです。私やみんなの正体がバレるか、という検証も兼ねているので」

「なるほど、ね……」

「かつ、万が一バレても大して問題にはならない……そんな部活が望ましいです」

「……ミレニアムは大規模な部活も多いし、起業して発言への注目度が高い生徒もいる。下手をすれば、私たちはこの地を去らなくてはいけない」

 

 横からサオリが補足するように、ミレニアムでの交流会の危険性を語る。

 そう、この予行交流会、かなり危ない橋を渡ることになってしまう……はずだった。本来なら。

 

「……そこまでのリスクを背負ってまでやることないんじゃ」

「いえ、あるんです!今回は!!都合の良い、全くと言って良いほど危険性のない部活が!!」

 

 そう、それが、それこそが。

 

「ゲーム開発部!ミレニアムサイエンススクールの最小単位である四人から構成される部活です!」

 

 ゲーム開発部だ。たった四人の部員から構成され、得体の知れない存在であったアリスを実益と善性により匿った実績も存在する。要するに、気の良い子達なのだ。

 

「マユミ曰く彼女達は信頼できる、とのことですし、人数もあまり多くありません。警戒はそこまで必要ないです」

 

 横から今回の概要、ついでにゲーム開発部の似顔絵が描かれたホワイトボードを持ってきて、みんなの前に出す。するとサオリ達は一瞬目を見開いたあと、直ぐに細めて。

 

「……す、スオウさん、その、人……?みたいなのって……」

 

 恐る恐ると、ヒヨリが切り出した。

 

「ゲーム開発部の方々です!私の記憶にある限りで!」

 

 うん、我ながら十七年前の記憶を頼りにした割に、結構良く描けたな。

 

「人間なの?」

「っ!?失礼な!!ほら、ここに目があって、口があるでしょう!」

「シミュラクラ現象じゃない?ハナコがこの前教えてくれた」

「んなぁっ!?」

 

 シミュラクラ現象。点が三つあると顔に見える現象。そんなはずがない。

 

「さ、サオリ?サオリならわかってくれますよね?」

「……ん?あ、ああ……よく描けているぞ。瞳孔が開いた目だとか……あとは特にこの、前に突き出された腕が……」

「そこ胴体です」

「……す、すまない」

 

 うーん……まあみんなはゲーム開発部の子達を見たことがないし、しょうがないか。「スオウに意外な弱点が」とか「夢に出てきそう」とか全部聞こえない。聞こえないったら聞こえない。

 

「まあそんな話は置いといて。今回はこの四人のうち三人。彼女達とゲームによる親善試合を行い、これをもって交流会とします!」

「三人……そのジャガイモのような輪郭をした生徒は出ないの?」

「じゃ、ジャガイモ……?お、おでこが広い子ですね!彼女は諸事情あって欠席です!」

 

 具体的には、「知らない人間が六人もいる空間が耐えられない」とのことだ。まあ、仕方がない。

 それに、そもそもあの子は強すぎるし……いやでも、できることなら。

 

「ふふ……」

「……スオウ?」

「あ、いえ、なんでも。そしてこちらからは、スクワッドに私を入れた合計六人。つまりは向こうの人数の二倍ですね」

「六人……向こうより、かなりこっちの人数が多いね。親善試合……なるほど」

 

 何かを察したミサキが相槌を返してきた。

 

「そう、ハンディキャップです。私たち、ほとんどゲームやったことないですからね……私たちの勝利条件は三勝。さらに一つ一つの試合につき、相手にハンデをかけた状態で始まるそうですので……」

 

 かなりこちら側に、配慮と譲歩をしてくれている。確かにゲームなんてサオリ達はほとんどやったことないし、ありがたいことだ。……うん、ありがたい。

 

「……舐められてるよなぁ……?」

「……ん?」

 

 疑問の声を、誰かがつぶやいた。どこか遠くから聞こえてくるような感覚がした。

 

「……す、スオウ?今何か言わなかったか?」

「いえ?」

 

 なんだろう、幻聴かな。ちょっと心配だし、続くようだったら医者にかかってもらおう。

 

「実際に対戦するゲーム、勝利条件はその場で決めるそうです。いくらハンデあり、親善試合と言っても試合は試合!やるからには、勝ちますよ!!」

 

 おーっ、と拳を上げると、アツコととアズサはいつも通りに、ヒヨリは若干辿々しく応じてくれた。

 

「ほら、ミサキ。サオリも」

「はいはい」

「あ、ああ。確かに、どうせ戦うのだから勝敗には拘るべきだ」

 

 ミサキを腕を余った手で上に持って行き、残る片腕でサオリに促して、全員で結束して。

 

「ってことで、このゲーム機はその練習のために買いました」

「あ、そこで繋がるんだ」

 

 ようやく最初の話題に帰結した。

 

 

 

 

 テレビとゲーム機を寄せ集めて、一台につき二人、それぞれ配置につく。俺とアズサ、サオリとアツコ、ミサキとヒヨリだ。

 構えるのは銃でも、ナイフでもなく、ゲームのコントローラー。常識として、銃は持ってるけど。キヴォトスじゃ相も変わらず、非日常だけが日常だ。

 

「みんな、こっち見てください!」

「ん?」

「はいパシャっと」

 

 とはいえ、それでもこれが、今ここに在る風景こそが、俺に残ってるもので。みんなが守ったもので。だからなんとなく、こんな些細なワンシーンも切り取っておきたいと思った。

 

「ちょっと、いきなり……最近、よく撮ってるよね。その二つで」

「はい!」

 

 流石にスマホの写真を一回一回印刷するのはお金がもったいないからな……保存用にスマホ、焚き上げ用にチェキだ。

 

「してスオウ、これはどうすればいいんだ?」

 

 サオリに声をかけられてそちらの画面を見てみると、真ん中で文字が書かれた箱が揺れ動いていた。時代を感じさせる画質だけど、多分前世やったことがないわけではない……はず。

 

「ひとまずソフトが入っていないと思うので、それを選ぶところからですね。どれかやってみたいものはありますか?」

「……ふむ……タイトルだけ聞いてみてもよくわからないな。アツコ、どうだ?」

「……じゃあ、これで」

 

 アツコが一つ取り出したのは、青色の球のようなキャラがヒトデに乗って走るようなポーズをとっている。これは。

 

「ケーシィのシーダイブ……?」

「ああ……所謂、レースゲームですね。四人でできるので、二人余ってしまいますし……三人ずつに別れてやりましょうか」

 

 グー、パーだけを出せるじゃんけん、呼び名に地域差が生まれるアレを使い分かれた結果、俺、アツコ、サオリが同じグループになった。軽く攻略本を読んで、おおよそのルールや固有名詞を頭に入れる。

 

「それじゃあ、私はこっちで。アツコ、ディスクを取り出してください」

「わかった」

 

 パキッと、懐かしい音が鳴り響く。

 そういえば、馬鹿姉貴ともこうやってゲームをしたっけな。俺がディスクを自力で取り出せないくらい小さかった頃。シアン達とは……そもそも、ディスプレイが必要になるようなゲームをしなかったし……この音も、本当に久しく聞く。

 

「そしたら、それをこの溝に。そっちも大丈夫ですか?」

「は、はい!問題ないです!」

「そしたらボタンを押して、ゲームを起動してください」

「……これ、どのくらい待つの?」

「日によってまちまちです」

 

 十秒もしないうちにゲームが起動しモード選択画面に移る。いくらかの対戦モードが表示され、どれにすればいいのか、とアツコに視線を向けられる。

 ふむ、ケーシィのシーダイブ……シアンが昔言ってた、あれか。だとしたら、このゲームならではのあのモードで。

 

「シティトライアルにしましょう。多分、それが一番楽しいです」

「どういうモードなんだ、それは?」

「追って説明しますね。とりあえず、Aボタンを押して準備を完了してください」

 

 全員が準備の完了を示したのち、暗転。と、同時に、画面が四つに区切られる。それぞれの真ん中下には、ヒトデに乗ったまん丸い生き物。カウントダウンがされ、戦いが始まる。

 

「お、おい!何か始まったぞ!いいのか、これは!?」

「大丈夫です、今回はコンピューターもいませんし……基本的な操作だけ教えますね」

 

 実力を身につけるなら色々な技術があるけど、今日は必要ない。何より、みんなに楽しんでもらうことが大事だ。それに、俺も妹と楽しくゲームをやりたいしね。

 

「まずスティック……左のスティックを倒してみて」

「こう……?あ、変な方向に進んだ」

「これで方向転換ができます。で、次にAボタンを長押しです」

「止まって……加速したね」

「これがチャージダッシュ。これを使って、その辺の箱みたいなやつを壊すことができます」

 

 実演してみたほうが早いかな。俺も実際やるのは初めてだけど……意外にも動かし方がわかる。前世の記憶が関係してるのかな。

 

「こう、こんな感じで……チャージした量によって、威力は変わります。で、壊し切ったらこのステッカーみたいなのが出てくるんです」

「ステッカー……これは何に使うの?実際にはステッカーじゃないんでしょ?」

「その通りです、アズサ。これは自分の機体を強化したり、あとは相手を攻撃するための能力を手に入れたりできます。これを一定時間各々が集めて、強化した機体を使いレースをするんです。箱だけじゃなくて、適当な場所にも散らばってますよ」

「なるほど……」

 

 ただ、なぜか箱は壊しておけと、俺の中で誰かがそう言っている。他にも何かあったんだっけか。まあいいや。

 

「乗り物が落ちてることもあるので、壊れた時はそれに乗ってくださいね。……と、まあ説明はこんなもので始めましょうかよーいどんっ!!」

「なっ!?」

 

 サオリ達が説明に聞き入っている間に機体を発進させ、目に着く限りの強化アイテムを集めていく。途中箱を壊したりもしながら。

 

「ひ、卑怯だぞスオウ!!」

「はははっ、姉とはズルいものですよ!これで全てのアイテムは私のものです!」

 

 ぶっちゃけ開始位置は離れてるし、そんなに関係ないけどね。しばらくは接近することもないはずだし、まずは能力を探して……。

 

「あ、スオウだ」

「っ!?」

 

 横からふと聞こえた、呟き。獲物を見つけた、狩人のような。

 

「えいっ」

「な、あっ!?」

 

 直後、飛来する巨大な鉄球。避ける間もなく直撃し、それだけで耐久のほとんどを持っていかれる。

 

「あ、アツコ!?いつのまにそんなものを!?」

「説明してる時、スオウが悪そうな顔してたから。こっそり集めてた」

「むぐぐ……!」

「……こっちは平和にやろっか」

「は、はい……」

 

 機体の耐久力を示す残りゲージが赤く光り、警鐘を鳴らしている。これ以上のダメージには耐えられないという証拠。だが、アツコとて攻撃手段は……!

 

「ごめんね、スオウ」

 

 申し訳なさそうに、可愛らしく両手を前で合わせて。すぐさま、水中を電撃が迸った。

 

「ええーっ!?な、なんでぇ!?なんで能力まで持ってるんですか!?」

「ちょうど近くにあった……あ、もうおしまいか」

「な、な……!」

 

 つまりアツコは始まってから俺が説明を終えるまでの間、わずかそれだけの時間で鉄球と電気の能力……たしかスパークとかいうそれを見つけてきたということ。

 なんたる豪運、これがロイヤルブラッド……!アツコ、恐ろしい妹……!

 

「スオウには悪いけど、暫く休んでてもらうね」

「……ふふ、はははっ!甘い!甘いですよ、アツコ!」

 

 だが、ロイヤルブラッドなのは俺とて同じこと。故に、引ける。見つける。今の俺にとって、最も適した能力を。

 

「こんな能力もあるんですよ!アクアジェット!」

 

 さっき攻略本を読んでる時に見つけた。何も、攻撃するだけが能力じゃない。移動するための能力だってあるんだ。

 

「アクアジェットさえあれば、あらゆる場所を立体的に移動することができます!詰めが甘かったですね!」

「……でも、時間はそんなに長くないんじゃ」

「ふふ、サオリィ!!」

「っ!?わ、私か!?」

 

 先程から流れについて来れず、黙々とアイテムを集めていたサオリの元へ障害物を無視して移動する。

 

「くっ……操作に慣れていない今戦うわけには……!」

「あ、そうじゃなくて。そこの機体ください」

「……ん?あ、ああ、これか……私は使わないし、別に構わないぞ」

 

 ……なんか騙してるみたいで申し訳なくなってくるな。別に乗り換えもできるし。

 

「サオリ、機体の乗り換えもできますよ?余った方でいいです」

「そ、そうか……一応、もらっておこう」

 

 サオリ、素直すぎてお姉ちゃん心配……いや、良いことなんだけどね。

 

「サオリ、私と戦いますか?」

「……いや、やめておく。今回は見逃してくれ」

「懸命な判断です」

 

 能力がない状態で戦う理由もない。下手に刺激すれば、手痛い反撃を喰らう可能性だってある。

 

「それじゃあ、またどこかで!」

「ああ……ん?なんだ、このマークは……」

 

 さて、アツコは……着々と強化アイテムを集めているな。暫く戦う理由もないし、こっちも強化アイテムを集めて……マップを把握しきれていないから、色んな場所を探索しないとな。

 

「お、変なところみっけ」

 

 海底火山のような場所を登っていくと、頂上で一本の線を見つける。それに乗ると勢いのままに加速し、地下の神殿のような場所に辿り着いた。画質は昔のゲーム程度だが、中々に神秘的な演出がされていて……端的に言い表すなら、綺麗な場所だった。

 

「アリウスにあったよね。こういうところ」

「……確かに」

 

 気候的に曇り空が多いアリウスだけど、よく晴れた満月の日だけはこういう景色も見ることができたっけ。別にだからって戻りたいとは思わないけど。

 

「お、能力見っけ……これは……魚雷ですか」

 

 神殿を抜け、地上に戻った先で見つけたその能力は魚雷。前方に爆弾を発射する能力。威力はそこそこと言ったところ。今は周りに人もいないし、正直タイミングとしちゃ微妙……。

 

「っ!?な、なんだこの警告音は!」

 

 前言撤回。ベストタイミングだ。

 

「巨岩が出現、だって……何が起きるの?」

「沢山アイテムが入ってる岩です!壊しに行きますよ!」

 

 このケーシィのシーダイブ、こういうちょっとしたイベントが不定期に起こる。やかましさから煩わしいけど、これがまたとない大チャンスなのだ。

 

「ふっふっふ……このタイミングで魚雷とは、なんたる僥倖!」

 

 加えて、巨岩の距離も俺が最も近い。この感じなら、アツコ達が着くよりも先に破壊できる。

 

「よし、もらいっ!!」

 

 巨岩を破壊したことにより現れたのは、虹色に輝く丸い強化アイテム。

 

「なにそれ?」

「これ取ると全部の能力値強化されます」

 

 アツコの疑問に答えながら強化アイテムを取り、『オール!』という表示とともに強化を告げるサウンドエフェクトが鳴り響く。加えて。

 

「凄まじい数のアイテムだな……」

 

 溢れ出す沢山の能力、強化アイテム。能力については一つしか取れない、けど。

 

「アツコっ!こっちに向かったのは失敗でしたね!」

「っ……!」

 

 向こうから来てくれるなら問題ない。このアイテム群は、釣り餌のようなものなのだ。

 

「ごめんなさいアツコっ!後でいっぱい撫でるから許してっ!」

「それはいらない」

 

 謝罪を口にしながら鉄球を投げ、アツコが乗っていた機体を破壊する。これで先程取られたアドバンテージは巻き返し、むしろ超えたと見て良い。

 であれば、残り時間の三分。サオリを妨害し、そのついでに強化アイテムを集め、残るレースは技術力でカバーする。勝機は見えた、あとは実行するだけ……!

 

「何かが揃った」

 

 そんな思考を遮って、サオリが言った。言葉の意味が、最初は理解できなかった。

 揃った。一体、何が?疑問を口にするよりも先に、左下だけだったサオリの画面が全体に広がる。

 

「っ!?な、なんですこれ!?」

「わからない……ただ、似たような藍色のアイテムを集めてたらこうなったんだ」

 

 困惑をよそに、画面では完成を祝福するような演出が進んでいく。プラズマを散らし、その一つ一つが繋がれ、完全に一つになり。

 

「……ドラゴン?」

 

 ドラゴンを模したような機体が完成した。

 

「ちょっ、タイム!攻略本タイムです!!」

「私はアイテム集めてるね」

「それはもちろん!えーっと、アイテム一覧……あった!」

 

 攻略本の情報を簡潔にまとめると、こうだ。三つのパーツを揃えることで完成する、伝説の機体。その一つである、リヴァイアサン。

 遊泳性能を持ち、圧倒的なスピードを誇る……遊泳性能を持ち?

 

「っ、まさか!?」

 

 サオリの画面に視線を戻してみると、サオリは水中を舞っていた。これでもかと自由に、三次元的な動きで。

 

「な、あっ……!」

 

 ああしてずっと高い場所にいられたんじゃ、手出しすることなんてできるはずもなくて。どうしたものかと呆然としていたところ。

 

「油断大敵」

「ちょ、アツコぉ!?」

 

 タイムアップの直前で、アツコに機体を破壊されてしまった。

 

 

 

 

 結局その状態でレースに勝てるはずもなく、順当に負けた。前世でのアドバンテージがあったってのに、完全敗北だ……ちょっと予想外。

 

「あ、そっちも終わったんだね」

「はい。こっちはサオリが一着、アツコが二着、私が三着です」

「そうか……こっちは、ヒヨリが伝説の機体を作るアイテムを三つ揃えたんだけど……それがとても遅くて、三着だった」

「う、うぅ……!運がいいんだか悪いんだかです……!」

 

 ああ……ヒヨリはシーサーペントの方を完成させたのか。攻撃力はものすごいけど、スピードは微妙って書いてあった気がする。

 

「……でもこれ、楽しいね。もっと早くやればよかった」

「そうだな……どれ、他のゲームも試してみよう」

「わ、私はこれをやってみたいです……!この、ももいろメモリアルっていうのを……!」

「それなら私はモモマスをやりたい」

 

 ……でもまあ、みんなゲームを楽しんでくれてよかった。それだけでも、この機材を買ったのは大正解だったかな。

 

「スオウ、生き生きしてるね」

 

 休憩がてら、ソファに体重を預けていると、アツコがそう言って話しかけてきた。

 

「……?そうですか?」

「うん」

 

 うー、ん……自分ではあんまり自覚はないけど……確かに何か、満たされている感じがする。久しぶりに、ゲームをやったからかな。

 

「そうかもしれないです!」

「ならよかった。私は次、これをやってみたいな」

「どれどれー……ん?」

 

 そう言ってアツコが持ち出してきたのは、『テイルズ・サガ・クロニクル』と手書きされたパッケージ。開いてみると、同じように文字が書かれていた。

 

「なんでしょう、これ……やってはいけないものな気が……」

「……ダメ?」

「やりましょうか」

 

 妹にこんな顔させてるようじゃお姉ちゃん失格だ。まずはみんなにゲームを楽しんでもらわなきゃ。

 

「みんな、これやりませんか?」

「全員して好き勝手……まあどうせ三台あるし、全部やってみようか」

「やった」

 

 こうして特に理由も、大義もなく、ただ遊ぶためだけにゲームができる。こういう日常を、みんなに知って欲しいから。

 

「じゃあこれ、入れちゃいますね」

 

 逸る気持ちを抑えて、『テイルズ・サガ・クロニクル』をセットした。

 

 

 ……その後苦悶の声で部屋が満たされたのは、言うまでもない。




テイルズ・サガ・クロニクル
・ゲーム開発部が開発したゲーム。
・チュートリアルの指示に従うとゲームオーバーになる。
・全体を通して上記のような設定、誤植など様々な問題があり、クソゲーオブイヤー一位に輝いた。
・しかし同じくゲーム開発部の生徒、天童アリス曰く「楽しい」とのこと。

ゲーム開発部との対戦は次話になります!

みょん(https://x.com/myonmyon_6505)さんからファンアートをいただきました!

【挿絵表示】

メモロビ風のスオウちゃんです!
真っ直ぐにこちらを見て、心からの笑顔で笑えているのを見て……少しグッと来ました!
加えてノートに書かれているもの、妹たちのメモかな?と思いきや、それに加えて先生に教えてもらっている、分け与えるだけでなく分けて貰う側にもなったことが表現されているとのこと……言葉にできないくらいに、好きで溢れかえってます!
色づかいも透き通ってて、良い……ありがとうございます!
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