マユミにより企画された、アリウス分校とゲーム開発部の親善試合。予想以上の強さを見せるアリウス分校に対し、それでも尚届かない、届かせないゲーム開発部。現在二連勝中。
勝ち目を見出すのであれば、次の試合は確実に勝利したいところ。そんな第三試合、アリウス分校から選ばれたのは。
「よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いしますぅ……!」
槌永ヒヨリ。少し顔を青ざめさせながらも、なんとか試合の座についた。
「へぇ……ヒヨリが出るんだ」
アリスを横に引き連れながら、幾分か体調の良くなったミサキが戻ってくる。
「アリス、お疲れ!今ミドリが戦い始めるところだよ」
「はい!アリス、応援でバフをかけます!」
どこから取り出したのやら、アリスはモモイから応援用のメガホンを受け取っていた。
「そっちの人たちも要る?」
「……何に使うんだ?それは」
「これはね……こうやって、掌で叩いて応援するためだよ」
───間違っちゃないけど、それがメインじゃなくね?
アズサの疑問への回答に、薄れた前世の記憶からそんな感想を抱きながら、スオウはヒヨリの方を見据えていた。緊張しているのか、手が震えてジャンケンに手間取っている。
「しかしスオ……シオナ、なぜヒヨリだったんだ?」
「何故って、そりゃあ……」
「確かにあいつも得意なゲームはある。だが、それは残る全員も同じことだ。何か、特別な理由があるんじゃないのか?」
特別な理由。つまるところ、スオウには何か特別な策があるのではないか。だが、サオリには考えてもそれが何かまではわからなかった。
「うーん……ヒヨリ、意外と運がいいから……ジャンケンに勝てるとか?」
「はははっ……まあ、そうかもしれませんね?」
いつも通り曖昧な笑顔を浮かべながら、ニヨニヨと勿体ぶるスオウ。彼女にしては珍しく勿体ぶっている。
「じゃ、ジャン、ケン……ポンです!」
「……私の勝ちです」
「う、うぅ……もうダメかも知れません」
「は、早くないですか……?」
そんなスオウ達を他所に、ジャンケンの決着をつける二人。どうやら、ミドリの勝利らしい。
「……ま、そのくらいなら予想の範疇です」
「あれ……違うんだ。じゃあ……ダメ、わからない」
「まあ、直ぐにわかりますよ」
ジャンケンに勝利したミドリ。どのゲームにしようかと、少し思考を巡らせる。
「うーん……」
ここで選ぶべきは、断じて自身が得意なゲームではない。試合といえど、あくまで親善試合。できることなら、双方が楽しめるような調整が望ましい。モモイはその辺りを考えないだろうし。
だが、下手にプレイして勝ちを譲るような真似はできない。そんなことをすればバレてしまうし、何より相手に対して失礼だ。
加えて……彼女にとってレイオス分校が、予想以上に強かったということもある。
「やっぱり、これかな」
であれば、ある程度決められた実力だけを発揮する。全力で挑まないまでも、ある程度いい勝負ができる。そんな調整ができる、自分が慣れているゲーム。
「『ポヨポヨ・フルゼリー大戦!』で」
「……!」
ポヨポヨ・フルゼリー大戦。空から舞い降りる五色、同種類のポヨを四つ連ねることにより、ポヨが消える。そうすると上に配置されたポヨが下に落ち、それがまた四つ連なれば消える。それを繰り返すことにより、大量の連鎖を狙うパズルゲームである。ただし、盤面に余裕がなくなれば敗北。
自らの姉、モモイと何度も勝負し……ついでに先生にクレーンゲームに挑んだ、そのゲーム。それを選択した。
「ふっふっふ……」
ここまでの思考、その全てが。
「予想通りです!」
スオウが想定したミドリの思考と、完全に一致していた。
「なるほど、確かにヒヨリは……だが、どうしてわかったんだ?」
「……あー、っと。単純に言えば、未来の記憶ですね」
未来の記憶。スオウが生まれながらに持っていたという、この先の出来事の知識。そのことだろうとサオリは察し、しかし少々怪訝な心持ちになった。
「……お前、珍しくくだらないことに使ったな。いいのか?それは」
「い、いいもん!別にズルくなんてないですし!実力のうちですよ、きっと!」
スオウとて少し卑怯な気がしていたのか、少々焦りながら疑いの言葉を否定する。
未来の記憶と、そう言い換えてはいるが、スオウにとっては『ブルーアーカイブ』の記憶である。
才羽ミドリは、どちらかと言えば姉、モモイに比べて大人びている……と、言うよりも、そうあろうとしている。それならば、ここで双方が楽しめるように調整することは予想できた。
ならば、どのゲームを選ぶのか?スオウは『ノート』を見返していた。二度と『テイルズ・サガ・クロニクル』のような悲劇を繰り返さないためにも。
「……まあ、なんです」
姉であるモモイと、意見が対立した際にポヨポヨで対決していた点。先生と訪れたクレーンゲームで、それらしきぬいぐるみを取ろうとしていた点。
後者に不可思議な感情を抱きつつも、予想はついた。恐らくミドリの選ぶゲームは……ポヨポヨであると。
「ヒヨリ、頑張ってください!」
舞台は整えた。あとはヒヨリの頑張り次第。そんな期待を寄せられたヒヨリは。
「ポヨポヨなら、普通の対戦で良いですか?」
「は、はいぃ……!」
慣れない初対面の人間との会話に苦労していた。高鳴る心臓を押さえつけながら、震える手でなんとかコントローラーを持ち上げる。
ヒヨリはあまりプレッシャーに強いわけではない。ある程度吹っ切れればあとは走り切るだけだが、人命もかかっていないこの状況ではそれも難しい。
その緊張をミドリも感じ取り、自分がしっかりしなくては、と気合を入れ直していた。
「ハンデはどうしますか?」
「えっ……え、えっと、じゃあ右手は使わないでください……」
「……えっと、それは流石に……」
「そ、そうですよね……すみません……」
あまりに無遠慮なヒヨリの要望に困惑しつつ、納得してもらえたかと深く息を吐く。
「ヒヨリ……」
後ろの方から呆れた声が聞こえてくるあたり、この子はいつもこんな感じなのだろうか。対戦の準備を始めながら、ミドリはふとそんなことを考えた。
「……で、では、最初の5秒間操作禁止というのは」
「そのくらいなら、まあ……」
五秒間の操作禁止。初心者が相手であればさして痛手でもない。そうでなかったとしても、この勝負を確実に左右するものではない。ちょうど良いハンデだ。
ヒヨリとしてはいつぞやスオウから教わったドア・イン・ザ・フェイスを実行しているつもりだったが、その必要はなかったと言わざるを得ない。もう少し吹っ掛けることはできたものの、それをヒヨリが知ることはなかった。
「準備はいいですか?」
「は、はい!」
「それじゃあ、スタート!」
掛け声と共に対戦開始のボタンを押し、三のカウント。その後、すぐさま戦いが始められる。
最初の五秒、ミドリはただ落下するポヨを見つめることしかできない。それゆえに、ヒヨリの盤面に目線を向けて見れば。
「っ、早い……!?」
恐ろしいほどの早さで落下するポヨを重ねていた。それも初心者特有の、一度の連鎖を繰り返すような動きではない。確実に一度の連鎖で『次』を誘発するための、お手本のような配置。
恐るべきは、その処理速度だ。本来次に落下するポヨは、2手先までしかわからない。それを脳内で処理し、連鎖へ繋げるための最適解を導き出す。
それだけの行為を、あの僅かな時間でしているのだ。
「これはちょっと、油断できなそう……!」
舐めていた。わけではないが、見誤っていた。所詮初心者であると、自分に追いつくことはないであろうと。だからこそ、五秒程度のハンデも問題ないだろうと。
「五秒経ちました!行きます!」
「ひ、ひいぃぃいぃ……!」
否。断じて、否である。
横で訳の分からない悲鳴こそ上げているが、まず間違いなく。
「本気で行きます……!」
槌永ヒヨリは、自分の対戦相手。実力が拮抗した、
「手加減できませんよ!」
「し、してくださぁい!!」
何やらほざいているがそれを無視し、遅れを取り戻すべく急いでポヨを積み重ねる。自らにできる最高速度で、最高の一手を。
「っ……!」
それでも、追いつかない。追いつけない。当然だ。ヒヨリとて、同じ速度で戦っているのだから。加えて。
「や、やめて……!お邪魔ポヨはやめてください……!」
お邪魔ポヨ。相手がポヨを消したとき自らの盤面に現れる、無色のポヨ。他のポヨの消滅に巻き込んで消す他ない。
こんなことを言っているが、自らの盤面に現れたお邪魔ポヨを冷静に、確実に、連鎖を誘発しないように消滅させている。それどころか、盤面の展開に利用される始末だ。
「くっ……!!」
さらには極めて厭らしいタイミングでこちらにお邪魔ポヨを寄越すのだから、モモイなら台パンをしているところだ。
「ふっ……!ふっ……!」
散漫な思考の中で、ヒヨリは思い出していた。試合前、スオウの助言を。多分ミドリは、ポヨポヨを選ぶから、と。
チラリとスオウを振り向けば、小さくサムズアップをしている。
「わ、わかってます……!スオウさん……!」
元来、ネガティブ思考なヒヨリ。言い換えるなら思考が早く、想像力が豊か。それが良い方向へ働くわけではない、というのは別として。
つまりヒヨリは、これをされたらどうしよう。そんな思考に陥りやすいのだ。緊張も焦燥も、それらに由来する副産物でしかない。
そんなヒヨリに、スオウは一言。
───いいですか、ヒヨリ。ゲームっていうのはね?
「相手が嫌がることをした方の勝ち、です……!」
スオウが持つ、ゲーマーとしての負の側面からアドバイスをした。
相手にとって、今最もされたくないことは何か?それはヒヨリにとって、相手の立場に立って考えれば即座に思いつくことだ。
「せ、性格悪い!?」
「し、知ったことじゃないです!勝てば官軍です!!」
それをするためには、自分の盤面と同時に相手の盤面を気に掛けなくてはならない。本来であれば、初心者であるヒヨリにそんな余裕はないはずだった。
だが、慣れっこなのだ。後方支援であるヒヨリにとって、限られた時間での思考。幅広い視野での管理。最適なタイミングの見極め。それらは、スナイパーとして確実に必要になってくる。
「ま、負けるなーミドリー!!」
「フレー!フレー!」
ようやく正しいメガホンの使い方をし始めた声援を受けても、戦況は変わらず。
『やったー!』
『ばたんきゅー!』
「……やっ!やりましたぁ!!」
数分の攻防の末、最初の遅れを取り戻すことができないままに、ミドリは敗北してしまった。
「くっ……負け、ました……!」
第三試合。ポヨポヨ・フルゼリー大戦。アリウス分校の勝ち、初の白星。現在二対一。
◇
「ヒヨリぃ!!よくやりました!お姉ちゃんは信じてましたよ!」
「へ、へへへ……!か、仇は取りましたぁ……!」
緊張からの解放で戻ってきた側からへたり込んでしまったが、それでも勝利の喜びが勝るのか、少し紅潮した口角をあげていた。
「……わかったから。ありがとね」
「ヒヨリ……すごかった。あそこまで上手いなんて……」
「わ、私もあそこまでできたのは初めてです……!」
手渡された水に口をつけ、服の袖で汗を拭い、なんとか腰を落ち着けた。
「ヒヨリ、よくやった。あとは私たちが勝てば……」
だが、未だ一勝。ゲーム開発部の優位性は変わらない。ここは流れに乗るべく確実な勝利を得たいところ。であれば。
「スオウ、か……?」
スオウであれば、まず間違い無く勝利する。たとえ相手が、どんなゲームであろうと。この一週間の練習で、その片鱗が見えた。だが。
「ん、あ、次は私が行きますか?」
「……お前、何か考えているな?」
明らかに乗り気でない。遠慮している、というわけではなく。何か別の目的を見据えているような。
「え、えーっと……わ、ワタシナンノコトワカラナイナー」
「なんだそのわかりやすい嘘は……久しぶりに聞いたぞ」
昔、ミカと話している時にもこんなことを言っていたろうかと、ふと懐かしんだ。
「……どうするつもり?」
残るメンバーの一人であるアズサが入り、いよいよ本格的な相談。本来であれば、スオウに出て欲しいところなのだが。
「……はぁ……わかった。アズサ、行ってくれるか?」
「もちろん」
「うっ……すみません、私の我儘で……」
「構わない。スオウは切り札、できる限り持っておきたいのも事実だ。それに……」
指名されたアズサは上着を脱ぎ、戦いの準備を始める。その最中、スオウと目線を合わせ。
「……スオウも少しくらい、我儘になったほうがいい」
「……敵いませんねぇ。ありがとう、お願いします」
いつぞや自分が言われた言葉を、そっくりそのまま返してやった。
「ミドリだっけ?次の対戦相手は私」
「あ、はい、よろしくお願いします……」
先程予想外に負けた影響か、少し落ち込み気味なミドリの横へ座る。ミドリとて、敗北は敗北。できれば次は勝ちたいと、少し気合いを入れ直した。
一方、アズサ。さして身長も変わりないが、少し自分の方が高いことに若干の優位性を感じつつ、まずはじゃんけんを行う。
「……ぽん。私の勝ちだ」
「じゃあ、この中から」
「必要ない。私が選ぶゲームは、もう決まってる。対戦方法も」
来る第四試合。折り返し地点。白洲アズサが選んだのは。
「モモフレマスターズ……モモマス。最初から始める。二十分間で、より多くのモモフレを集めた方が勝ちだ」
「……なるほど」
モモフレマスターズ。モモフレンズ、通称モモフレ。そんな不思議な生き物が存在する世界で、主人公はモモフレマスターズを目指していく。
モモフレ同士をバトルさせ、弱ったところをフレンズボールで捕獲。対戦モードもあるが、今回は対戦ではないようだ。
「対戦モードだと、努力値の振り方や技構成がすぐにはできないし……これがベストだと思う」
「はい、私もそう思います」
アズサの発言の端々に見える、ある程度の知識。ミドリにとってこの手合いは、大まかに二パターンに分けられる。
「……ハンデは?」
一つ。モモフレマスターズの、いわゆる対戦勢。こちらは当然ながら、『対戦であれば』圧倒的な実力を持つ。
「そうだな……」
二つ。
「……じゃあ、ハイパーフレンズボールとスーパーフレンズボールを禁止しよう。序盤の町なら、ハイパーも二つ手に入るはずだし」
「っ……!」
モモフレンズが誇る、カルト的狂信者……もとい、熱狂的ファンである。
彼ら、もしくは彼女らは、対戦こそあまり行わないが……ストーリーの考察、隠し要素の発見。極め付けは、ゲーム内データの解読など、その活躍は多岐に渡る。
「よ、よろしくお願いします……!」
ミドリは確信していた。先程感じた、悪寒のようなゾワっとした感触、極め付けはその知識。まず間違いない。
「よろしく」
横に座るこいつは、
先程の敗北により、最大限に高まった警戒心。一抹の不安。それらを抱え込んで。
「あ、二人とも準備良い?最初の画面から始まるだろうし、私が合図するね!」
第四試合。ミドリ対アズサ、ゲーマー対熱狂的ファン。
「それじゃあ、対戦……開始!」
因縁の戦いが、今始まる。
「……」
序盤の展開は極めて一般的、三匹のモモフレの中から一匹のモモフレを選び、ライバルと集めたモモフレの数を競いながら次の街を目指す。
ミドリはアングリーアデリー、アズサはビッグブラザーをそれぞれ選択。ほとんど同じ速度、展開。だが、アズサにとって疑問なのは。
「アングリーアデリー……?」
最初に選ぶモモフレがアングリーアデリーであるという点。Mr.ニコライを選ぶのならわかる。それが最適解だからだ。だが、序盤ではあまり変わりないだろうと、アズサはキャラクターへの愛からビッグブラザーを選んだ。
ビッグブラザーはペロロに次ぐ、スカルマンの数少ない友人。スカルマン推しのアズサとしては、箱推ししていないアイドルのメンバーと言った具合の好感度である。
「……」
一方、ミドリ。確信する。この戦いの勝利と、勝利への算段を。
「……嫌な予感がする」
幾千もの戦いの中でアズサが身につけた、経験に伴う勘。その勘が、全力で警鐘を鳴らしている。急げ、と。
逆らうべくもなく、従ってすぐさまにチュートリアルをスキップ。心苦しいが、勝利のためには仕方がないと言い聞かせる。
「よしっ……!」
すぐさまに、ハイパーフレンズボールを一つ回収。もう一つは取りにくい位置にあるため諦め、近くにいる年老いた獣人に話しかける。
『これはおじさんのぎんのたまだよ』
少々危うい発言。開発陣わざとだろ、と散々ネタにされたそれを無視し、換金アイテムを手に入れる。
ハイパーフレンズボールはショップで解放された。残る十五分、換金したお金でハイパーフレンズボールを買い、それを使って最速でモモフレを手に入れる。
計算と経験により裏付けされた最適解に、誤りも想定外も存在しない。だからこそ、ミドリへのハンデはあれを選択したのだから。
ショップの前に辿り着き、勝利を確信。瞬間。
「……いえ。私の勝ちです」
才羽ミドリが動き始める。
「……どういうこと?」
私の勝ち。制限時間内で自由に行動できるゲームにおいて、ともすればあり得ない発言。何を言っているのかと、ミドリの画面を見てみれば。
「え……」
ミドリは次の街に辿り着いていた。ライバルが一匹も捕まえなかったのか、と、呆れ果てている。
───なぜ?
アズサの思考は、一瞬で疑問に染め上げられた。なぜ次の街へ行ったのか。その時間で、モモフレを集めることができたのではないか。
「……この街には……気合いのハラマキが落ちてます」
答え合わせをするように、たった一言。ミドリの発言。
「っ、まさか!!」
それだけで、アズサは結論を得た。今からミドリが何をしようとしているのか。
「一瞬で気付くなんて……本当に、モモフレンズが好きなんですね。けど……」
道中手に入れた、わざマテリアル……モモフレにわざを覚えさせるアイテムを使い。
「だからこそ、あなたにこれはできない」
街の外。草原を走り抜ける。当然、モモフレとエンカウントし……未だレベル1のアングリーアデリーは、先手を取られてしまう。
受ける攻撃。相性、加えてレベル差により、アングリーアデリーの体力は削れ……気合いのハラマキの効果で、なんとか耐えた。そして。
「いかりのてっつい……!」
いかりのてっつい。先程わざマテリアルで覚えさせた技。その効果は。
「これで、もう捕まえれる」
自らが受けたダメージと、同量のダメージ。相手の体力もまた、ほとんど削られた。そしてそうなれば、フレンズボールの種類も関係なく……ほとんど確実に、仲間にすることができる。
戦闘はそれで終了、直後回復アイテムを使用。アングリーアデリーの体力が、完全に元に戻る。
「……あとは、この繰り返し。これが最速です」
つまり。
「……でも、できないでしょ?モモフレファンのあなたに、モモフレを傷つけ続けることなんて」
アングリーアデリーが何度も瀕死になり続ける、非道なモモフレ集め。悪魔の所業である。
「や、やめて!!アデリーが傷ついている!!」
今のアズサにとって、勝敗は関係ない。ただひたすらに、アデリーを助けることしか頭になかった。
「これは戦い。やめる理由はありません」
「み、ミドリ……ひどすぎるよ……」
裏でモモイの呆れた声が聞こえてくるが、もはやミドリの耳には届くこともなく。
「お願いだ、やめてくれ……やめて、ください……!」
悲痛な声が、残り時間の間木霊し続けた。
第四試合。ゲーム開発部の勝利。倫理的な敗北。現在三対一、ゲーム開発部が勝利に王手をかける。
◇
「スオウ、アデリーが……アデリーが……!」
「よしよし……辛かったですね。もう大丈夫。大丈夫ですよ、アズサ」
あまりの残酷な風景に強いショックを受けたアズサが、もはや偽名も忘れスオウに泣きついていた。十五分間響き続ける苦しげなアデリーの声は、あまりに鮮烈なものだったのだろう。
「流石に大人げないんじゃ……」
「わ、私だって勝ちたかったんだもん!次お姉ちゃんだよ!早く行ってきたら!」
「ミドリ、今何か誤魔化しました……」
「アリスちゃんまでそんなこと言う」
やいのやいのと責め立てられるミドリ。とはいえ、彼女も流石に負けっぱなしは嫌だったのだ。何せ、三試合目は想定外の惨敗。四試合目も手加減する余裕などなかった。
「あれ絶対トラウマになるよ……」
「いいから早く行きなって!」
そんなミドリに送り出されて、モモイはアリウス分校の前に立ち塞がる。両手を腰に当て、自信満々に。ふんぞり返るという表現が似つかわしい様子。
「次でこっちの勝ちだよ!さあ、次は誰がくるの!?シオナ?それともサオリ?」
もちろん彼女とて大人げないことをするつもりはないが、それでも勝負は勝負。手加減なんて必要ないし、そうであれば確実に勝てる。ほとんど勝利を確信しながら、栗のような口で笑っていた。
「えっと、うちのアズサがこの調子なので……」
「うっ……ご、ごめんね!」
申し訳なさげに苦笑いするシオナ……もとい、スオウの言葉に罪悪感を抱きつつ、次は誰が来るのかと聞こうとして。
「私が出よう」
サオリが前に出る。
「っ……オーケー、来て」
その圧倒的な身長差に少々威圧されながらも、自信満々な態度を崩さずにゲーム機の前に連れていく。
「それじゃあ、まずはじゃんけんから」
「ああ、それと……最初に一つ言っておく」
そのままじゃんけんをしようとして、それはサオリによって制止された。
「……この勝負。お前に勝ち目はない」
「っ、へぇ……盛り上げ方わかってるじゃん」
勝ち目はない。まごうことなき、勝利宣言。対戦ゲームが決まる前からこの強気さ、もしや相当ゲームが得意なのだろうか。
「あの人そんなにゲーム強いんですか?」
「いえ、普通ですよ。私たちの中でもそんなに強いわけじゃないですし」
違ったらしい。であれば、なぜこんな強気さで。
「まあでも、サオリが勝ちますかね」
ふと、スオウがアズサを撫でながらそんなことを言った。なぜ、あれほどまでに自信があるのか。
「それでは、じゃんけんからだったな……悪いが、加減する理由は無くなった」
───ちょっと根に持たれてる!?やっぱやりすぎだってミドリ!
心の中では半泣きになりつつ、手を前に構える。
「さい、しょは、グー……!」
「じゃん、けん!」
突き出される手。開かれる。直後。
「……」
もはや人間の認識の外側にある、ほんの刹那。サオリはただ、モモイの指『だけ』を見ていた。
筋肉の緊張、弛緩、振動、躍動、骨格、その全て。神秘で強化した視覚には、余すことなく見えている。
「……ぽん!」
そしてそれに対して反応できるだけの、反射力。それらを駆使して、ようやく手を出す。
「……私の勝ちだな」
確実に勝利できる手を。かつてスオウが、「じゃんけんに勝ったら追い出さないでください」と宣った時に使ってきた、先読みじゃんけん。その模倣である。
「う、うん……どのゲームにする?」
「一対一のFPSが望ましい。できれば、ライフは一つきりで」
「んー……じゃあBOOM3とか?」
「それにさせてもらう」
モモイにとっては、ここからが勝負。しかしサオリにとっては、すでに勝負は決している。
「ハンデは?」
「む、そうだな……開始時に、お互いの位置がわかるというのはどうだろうか」
「……なにそれ、ハンデになるの?」
自分の位置が、ではなく、お互いの位置が。つまり相手の居場所を把握できるが、同時に自分の居場所も把握されてしまうということ。
もちろん意味がないとまでは言わないが、わざわざ自分側もリスクを背負う提案をするとは思っていなかった。
「まずいか?」
「いや、そっちが良いならいいんだけど……」
もしやこれも何かの策であろうか。ゲームの強さは普通、先ほどはそう言っていた。何か他の部分で仕掛けてくるに違いない。モモイはそう結論付け。
「わかった、それでやるよ!」
「では、始めよう」
敢えてその策に乗ってやることにした。これがブラフである可能性も捨てきれない。しかし全ての策を打ち破ってこそのゲーマーだと、モモイはそう考える。
だからこそ、慢心はない。ゲームの実力を全て発揮し、必ずや勝ってみせる。そう決意し、コントローラーを持つ。
「ステンバーイ……ゴッ!!」
「待て、なんだその掛け声……まあいい」
第五試合。才羽モモイ対錠前サオリ。BOOMによる1V1。開始。
「さて、初期位置は?」
「北のデカい家。そっちは?」
「東にある倉庫だ」
それぞれの配置はマップの四分の一程度。さして大きいステージでもないため、そう離れてはいない。
「……」
相手の実力は並。であれば、ここは策を弄する暇さえも与えず、東の倉庫に距離を詰める。無論罠を張っている可能性も捨てきれないが、手榴弾で台無しにしてやればいい。
今回は死亡後のリスポーンなし、正真正銘一回っきりの勝負。だからこそ慎重になるのではなく、大胆に動いて流れを奪う。定石と言えば定石であろう。
「……今どの辺にいるの?」
「さあな」
だが、無論相手も人間。動かないはずがないだろう。だからこそ、直接東の倉庫に行くのではなく、中心街との中間地点を通ることによってプレッシャーをかける。
これにより、サオリは仮に移動するとしても南に逃げ込む他ない。そうすれば、東の家から真っ直ぐ西、その後南へ。再び東、というふうに、罠を仕掛ける暇を与えない。自分が動くことによって、相手も動かざるを得ない状況を作り出す。
「……よし」
そうなれば、いずれは正面からぶつかり合うはず。短期決戦を仕掛け、そこで勝負を決めてみせる。
その判断は、間違いではなかったのだろう。
「……っ、手榴弾!?」
相手が、ただの初心者であれば。
「なんでこんなところに」
言い切るよりも先に手榴弾が銃弾により起爆され、同時にモモイへのダメージ。
「遅い」
罠にかかったモモイを責め立てるように追撃するサオリ。一瞬反応が遅れたとは言え、すぐさまに壁の後ろへ隠れ回復を図る。
「くっ……!なんで……!」
トラップが仕掛けられているならばいい。見抜けなかったモモイの落ち度だ。
だが、今回仕掛けられていたのは近距離での起爆を必要とする手榴弾。大ダメージによる、短期決戦。つまり。
「しょ、正面からの撃ち合いなら!」
モモイが間違いなくそこを通るというだけの確証と。
「勝てるとでも?」
撃ち合いで確実に勝てるだけの、実力が必要になる。
「はっ、エイムやばっ、アシストついてるんじゃないの!?」
「外しているさ」
ほんの僅か、壁の隙間から出しただけの体の一部を狙い撃たれるという信じ難い出来事に不正を疑うも、当人によってそれは否定された。
どうあれ、モモイの体力ももう余裕がない。このまま撃ち合えば、確実に敗北する。その考えから、壁に隠れたまま逃げ出そうとして。
「っ、撤退」
「戦場で」
後ろから、引き金に手をかける音。
「敵に背を、向けないことだな」
直後、降り注ぐ銃弾の嵐。わけもわからないまま、モモイは敗北した。
「なっ、あっ……!ど、どーなってるの!?」
「……まあ、互いの位置がわかっていたからな。あのくらいの思考なら、予想は容易い」
第五試合。BOOM3。試合時間、僅か三分。
「慣れているんだ。そういった読み合いには」
「くぅー……!あーもー!!なんか悔しい!!」
モモイ、ダウン。一切のダメージを負うことなく、錠前サオリの圧勝。現在三対二。次の試合で勝敗は決する。
◇
「サオリ、えげつないですね……」
「……つい、身が入ってしまったな。訓練を……昔を思い出した」
昔といえば、自分が知らないサオリだろうか。どこかむず痒い、端的に言えば嫉妬心を抱きながら、スオウはサオリを迎え入れる。
「みんな、よくぞここまで繋いでくれました。あとはおねーちゃんに任せて!」
ボロボロのコントローラーを。経年劣化で汚れたコントローラーを握りしめて、スオウは試合の席に向かう。正義実現委員会に捜索願いを出し、マユミに直してもらったコントローラー。
「……行くぜ、シアン。アンナ」
十年前。くだらない争いを繰り返した、僅かな青春の証を握りしめて。その思い出を握りしめて。浸るように。決して、忘れてしまわないように。
「次の対戦相手はシオナだね!それじゃあ、その席に」
「あーっと、その前に」
モモイの歓迎に、スオウは待ったをかける。お前ではないと、静止する。
「次の試合が最後ですよね?」
「……そうだよ。お互い、悔いがないようにしよう」
悔いがないように。そう、悔いなど残してはならない。もう一度、こうして遊べるのかもわからないのだから。
「……そちらから、まだ出ていない生徒がいるように思えるのですが」
再び『彼女』に相見える機会がいつ訪れるかなど、誰にもわからないのだから。
「え?私もミドリもアリスも出てるし、もういないけど」
「いるんでしょう?そこに?」
スオウが見ているのは、もうモモイではない。その奥に存在する、小さなロッカー。その中身。
「花岡ユズさん……いや」
ギィ。小さな音が、その場の全員に聞こえた。閉ざされたロッカーが、開く音が。
「
中から出てきたのは、スオウよりも少し背の高い、赤毛の少女。
「あ、あの……い、いつから気づいてました……?」
ゲーム開発部部長。人前が苦手であるが故に欠席したはずの花岡ユズ、その人である。
「最初から。ロッカーに誰かいるのはわかってましたし……着ぐるみと同じ匂いがしました」
「え、えっと……?」
「いえ、こちらの話です」
ユズは気づいていないが、スオウとユズのバイト先は同じ場所、件のモモ系列の遊園地である。スオウは『ブルーアーカイブ』の記憶から、そのことに気づいていた。
だからこそ、ロッカーの中身がユズだと気づくことができたのだ。
「さて、そんな話はさておき……戦りましょうよ、ユズさん」
「え、あ、でも、その……私、こういう」
「洒落臭ぇです」
途端に語気を強めたスオウ。その言葉に呼応するように、ユズは少し目を細める。見定めるように。
「……その闘気……やりたいんでしょ?本当は。思った以上に、私たちが強いから」
その通りだった。ロッカーの中から、スオウ達の戦いをずっと見ていて。ユズは久しく、心が躍ったものだ。
ミレニアムといえど、モモイ達と勝負をできるような生徒は少ない。伊達にゲームを生業としていないのだから。
「……」
そのモモイ達に、あらゆる手段を用いて、ハンデさえも策に入れて『勝負』を成り立たせた。最初の頃こそ負けていたが、もはや勝敗はわからない。ここまで辿り着かせた。ただの親善試合で、ここまで。
勝とうとすれば、勝てる場面はあっただろう。すでに2勝している、先鋒にスオウを出せばよかっただけの話。ヒヨリとサオリは、どんな相手だろうと確実に勝利できたのだから。そうしなかったのは何故か。
「……ちなみに。私はこの中で、一番強いですよ?」
「っ……!」
お膳立て。そう言い換えて相違ない。つまり。
「あなたを退屈なんてさせない」
自分を引っ張り出して、本気を出させるための戦い。
「ちょっとユズ、無理しなくても」
「その言葉」
「……ユズ?」
───
「嘘はないですね?」
第六試合。ゲーム開発部対アリウス分校、最終試合。花岡ユズ対桐花スオウ。
「ええ。もちろん」
最強への挑戦が、今始まる。
◇
ロッカーから出てきたユズは、配置につく。知らない人間が六人もいるというのに、一切の動揺もなく。
「あ、あの目だ……!」
最後に試合ということもあって、ゲーム開発部とアリウス分校も同じ場所で試合を観戦していた。
「……あの目がどうかしたの?」
「……UZQueen。姿も顔も誰も知らない、伝説のゲーマー。ユズちゃんは、その本人なんです」
「モモイが言ってました。UZQueenモードです!」
UZQueenモード。曰く、頭の回転が1.5倍、動体視力は2.8倍。微妙な倍率に思えるが、本人が元来持つそれらがさらに強化される。
平常時でも『テイルズ・サガ・クロニクル』を多少苦しむ程度でクリアできてしまうユズが、と枕詞がつくのだ。その強さは計り知れない。
「そんなやつが相手なのか……スオウは、大丈夫なの?」
「さあな……あいつは確かに強い。強いが、モモイやミドリに比べ圧倒的かと言われると……」
一見すると勝ち目は薄い。しかしだからこそ戦う理由があると、スオウは片隅で考えていた。
「ゲームは?」
「スチューデントファイター」
「ハンデは?」
「要らない」
「なっ……!む、無謀だってぇ!!」
ユズの強さは、モモイもよく知っている。チーターを相手に、容易に勝利してしまう程度の実力。ゲームそのものの技量は言うまでもなく、システムや内部データの理解までもが圧倒的。
「やめときな。あの馬鹿、一度言い出したら聞かないから」
「それは見ててそうなんだろうなって思ったけど!」
「お姉ちゃん、すごい失礼」
それでも、スオウは一歩も引かない。否、引いてはいけない。そうでなければ、戦う意味がない。
「Su-O……」
スオウが入力した名前は、Su-O。ほとんど本名だが、問題はそこではない。
「……かかってきやがれ、です」
「っ……!」
「な、なんか……すごい煽るね……!?」
「わ、私たちを妹って呼ぶ時以外であんなに生き生きしてるスオウさん、珍しいですね……!」
「確かにね」
スオウは笑っていた。歯を剥き出しにしているかと幻視する、凶暴な笑みで。最高の笑顔で。
『ROUND1……FIGHT!!』
選ばれた試合形式は、三本先取。その一試合目。
「はっ!」
前へと果敢に攻め立てるスオウに対して、それらを防御するユズ。その隙間にユズも小技を出しているがそれらも防がれ、まずは小手調べといったところ。
防御したとはいえ、攻撃は攻撃。後ろへのノックバックにより距離が空く。これでは埒が明かないと、前へ詰めようとして。
「っ……!」
予想外の足払い。先にダメージを受けたのは、スオウだ。
「っ、やば」
その隙を狙い、ユズはさらに追撃を仕掛ける。無論スオウもやられっぱなしではない、その隙を解消するべく、小さなエネルギー弾を放った。
「……」
撹乱。本来であれば、正解である。しかしユズはそのタイミングに合わせて……近距離技を放った。
「な」
相殺、否。打ち負ける。スオウは僅かに裏へ下げられ、そのタイミングを狙ってタックル。現時点でユズには被弾なし、スオウの体力は残り三分の二。
「く、そ」
被弾、防御、攻撃の際に溜まる特殊なゲージを消費し、体勢を立て直したスオウは強化した技を放つも、それらも防御。だが体力は削れた上、距離も離すことができた。
「ふ、ぅっ!?」
このままタイミングを測り攻撃の手段を探ろうと観察するスオウ。対し、ユズ。
「なっ……!ふざけ、やがって……!」
無防備な凱旋。王たる風貌。隙だらけのその姿。
「このっ」
それを乱す無作法な攻撃は、決して許されない。
「っ、やば」
ゲージを消費したカウンター。受付時間が僅かな、その技。スオウとて、予想はついていた。だからこそタイミングをズラしたというのに、それすら読まれて。
「く、っそ!!」
壁際でのアッパー。タックル。足払い。小技。コンボにより残りの体力を削られ、敗北した。
「や、やっぱ無理だって!ユズに勝つなんて!」
モモイの言葉も虚しく、第二ラウンドが始まる。
「……まだ退屈」
「言ってくれる……!」
先程と違い、少々慎重に動くスオウ。ユズが放ったエネルギー弾を空中に回避、そのまま攻撃に転じようと技を発動。しかけて。
「っ……!」
それを見越したユズの追撃。技の発動は、ほぼ同タイミング。そのまま地上に落下し、近距離での戦闘を余儀なくされる。
荒々しく攻めるスオウ、防御によりタイミングを測るユズ。奇しくも先程と同じ構図に陥っている。
「ああ、もう……あれじゃまたダメじゃん!」
「お前、どっちの味方なんだ……?」
「そりゃユズだけどさぁ!ワクワクするでしょ、ああいうの!」
モモイとて、少し楽しみにしていたのだ。UZQueenの戦いを、そしてそれに喧嘩を売る大馬鹿の戦いを。だと言うのに、現時点ではネットの雑兵とさして変わりない。
「お姉ちゃんになら……悔しいけど、勝てたと思います。それも、少し余裕を持って。でも、ユズちゃんは……」
スオウとて、決して下手ではない。少なくとも求めていたのはモモイではないと、大口を叩くだけの実力はある。
それでも……先程よりも長続きしているが、今なお終始ユズのペース。圧倒的だ。
「……ユズ、あの状態だと手加減とかしないし」
「というか、できないよね……」
攻撃を放てば確実に防がれ。回避の目は摘まれ。カウンターは確実に成功し。着実にペースを乱す。あの追い立てるような戦い方こそ、ユズの恐ろしさだ。
もはやスオウに勝ち目など。誰もがそう思った、次の瞬間。
『ウゥッ!』
「……え?」
ユズのキャラクターが、被弾する音が聞こえた。
「い、今のって……」
「……ああ。スオウが一撃、当てた」
「ぐ、偶然じゃ」
「偶然じゃないよ、お姉ちゃん……あの状態のユズに、偶然はない」
モモイの言葉に、ハッとさせられる。確かにそうだ。UZQueenモードになったユズに、ミスはない。あったとすれば、それは天変地異の前触れなのだから。
つまりスオウは、ユズが読み切れないだけのナニカを発揮したということ。
『ウゥッ、ガァッ……!』
二回。三回。ユズの被弾回数は、だんだんと増え。
『ROUND3……FIGHT!!!』
それでもスオウの体力が削られ、二度目の敗北。このラウンドで敗北すれば、スオウは勝負に負ける。
「やっぱり……さっきより、動きが良くなって……ううん。実力が拮抗、してる?」
「アリス、知ってます!シオナは覚醒しているんです!」
「……違う。違うよ、アリス」
覚醒。土壇場での成長。火事場の馬鹿力。どれも違う。あの動きは、一朝一夕で身につくようなものではない。
経験と知識に裏付けされた、戦いの記憶。
あれは。
「……思い出してきた」
静かな部屋に、低い声が響いた。
◇
ゲームが好きだった。なんでかは忘れた。姉貴とよく一緒にやってたっけ。
「な、今の防ぐの!?」
「私にはもうよくわからん……」
こんな風に、わいわいと。友達をよくボッコボコにして、お前強すぎるから片手な、とか言われた気がする。
「で、でも体力は削れてる……やっぱり、三試合目も」
なんだろ。知らない誰かの記憶みたいだけど、多分……俺の、なのかな。不思議な気分だ、これは。
まあなんであれ、俺はゲームが好きなんだ。やっぱりさ。
「……ねぇ。あいつの体、光ってない?」
「……本当だ」
神経の過剰な強化。やるのは初めてだけど、すごくキツいな。でも、こうでもしないと勝てなさそうだ。
「ま、巻き返してきた!?あそこまでユズちゃんと戦えるなんて……!」
久しく忘れていた気がする。命のかかってない戦いって。誰かを傷つけない戦いって。こんなにも、楽しいものなんだな。
「サオリ、目で追える?」
「……辛うじて」
そうだ、思い出した。どんどん蘇ってくる。俺がゲームを好きだったのは。勝てなかったからだ。
「……ユズさん」
逆境こそ面白い。そんな状況だからこそ心躍る。勝てない?強い?だからなんだ?こんな強大な敵、むしろ本望だろうが。
「退屈させました」
それをハンデだとか。強すぎるから辞退だとか。馬鹿にするのも大概にしろ。
全力の相手だからこそ、全力で挑む価値がある。全力を出せる相手だからこそ、全力を出してほしい。
「ここからが、本当の勝負です!!」
ユズは強い、圧倒的に強い。多分、ゲームで勝てる奴はいない。
「本当の本気。全部賭けてきてください!!」
「……!」
だからこそ……楽しみたい。楽しませてやりたい。好敵手と戦う、その燃え上がるような悦びを。
「……いいの?」
『ROUND4……』
俺のできる、最大限で。
「もちろん」
『……FIGHT!!!』
目の端に、喜色が見えた。
「……ありがとう」
うちで遊ぼうよ。帰りがけ、親友にそう言われたような。子供じみた感情が。
「っ……!!」
ユズの攻撃が、勢いを増す。止まるところを知らずに、ぐんぐん加速する。
「ふ、ぅっ……!」
神秘で強化。強化。強化して。それでも追いつかない。追いつけない。ああ、きっとユズは。ユズも。
「負けない……!」
この戦いの中で、さらに強くなっているんだな。
「ぐ、ぅ……!私だって、まけ、ません!!」
ああ……悔しいなぁ。楽しいなぁ。
「……ふ、ふふ……へへ……楽しかったぁ」
この時間が、永遠に思えるようで。
「また遊ぼうね……Su-Oさん」
「……うん!」
ずっとずっと、このままでいいのに。
◇
「負けましたぁ……」
「まだ引きずっているのか……十分だ。近年の大会など比にならないとモモイが言っていたぞ」
「そうかもしれないですけどぉ……!」
最後までめちゃくちゃ頑張って、やっと一ラウンドだもんなぁ……でも、楽しかった。あれが最強。ユズクイーン、か。
「そうですよ……ユズちゃんとあそこまで戦える人、ネット対戦でもほとんどいませんし」
「……でも、そのユズさんは結局ロッカーに引き篭っちゃいましたし」
あ、今ロッカーにぶつかる音が聞こえた。多分名前呼ばれて動揺したんだろうな。
「ユズ、大丈夫だって。みんな気にしてないから」
戦いが終わった後、ユズはすぐさまいつもの調子に戻ってしまい、ロッカーに引き篭もった。多分今更になって恥ずかしくなったんだろう。俺もちょっと恥ずかしい。
「……でも」
ふと、走り書きしたメモ帳を見つめる。書かれているのは、今まで忘れていた前世の記憶。ゲームの名前とか、基本的にはくだらないものばっかりだけど。
「……」
友達の名前。一人、思い出せた。
正直、何が理由かはわからない。神秘で神経やら脳細胞やら、普段過剰に強化しないところを強化したのがよかったのか。それとも、記憶を呼び起こすような経験か。
サオリ達とゲームをしてる時もゲームの知識は思い出してたし、後者が大きいかも。
「……経験、か」
思えば、この世界に来て。戦い以外のこと、ほとんどしてなかった。だから忘れちゃったのかな。
多分、全部が思い出せるわけじゃないと思う。『ブルーアーカイブ』の知識だって、全部は覚えてないし。でも、ちょっとだけなら……そのうち、もしかしたら。
とりあえず、今までやったことのないことをしてみたいな。そうだな、次は……海に行ってみたり。サイクリングをしてみたり。ゲームセンターでゲームをするのもいいかもしれない。
「アリス、対戦相手を募集します!ミサキ、どうですか?」
「ミサキ、呼ばれてるよ」
「はいはい……いいよ。やろうか」
「あ、それなら私シオナとやりたい!本当は戦う予定だったし!試合が終わったらノーサイドだよ!」
……でもまあ、せっかく思い出したんだ。ゲームの熱さ。楽しさ。戦いへの渇望、なんてものが、自分にあったのは驚いたけど。
「手加減しませんよー?」
「あったり前じゃん!したら怒るからね!」
今はそれに従って、ゲームを遊ぶ。それだけでいいか、なんて気がしちゃうな。
みょん(https://x.com/myonmyon_6505)さんからファンアートをいただきました!
【挿絵表示】
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めりーばっどえんど/えんどろーる、のスチルです!!つらい、つらい……でも好き……!
諂ったような、致命的なナニカが壊れてしまったような笑顔と、その奥に浮かぶ涙が……とてもスオウちゃんを表していると思います。
細部の手袋や、サオリが来ていたものと同じジャケットなど、服装もこだわってくださっていて……とても嬉しいです!ありがとうございます!
さらに!はるか(https://x.com/Halca_youme)さんからファンアートをいただきました!
【挿絵表示】
水着のスオウちゃんです!
青い水着がよく似合う……ミカに教わったのか、少しおしゃれしているように見えるのが可愛らしいですね
ブカブカのラッシュガードが彼女の本質を表しているようで……
私はあまり絵は詳しくないのですが、透き通るような、起伏の小さい陰影のつけ方がとても好きです。この表現で合ってるんでしょうか……ともかく、ありがとうございます!