過激派による奇襲が発生する、二日前の夜。
古ぼけた大聖堂にて。
生徒会副会長は、再び異形…否、ベアトリーチェと邂逅していた。
「穏健派に対抗するための、特殊武装が完成しました」
「…っ、何と!」
事情を説明してから、まだあまり日は経っていないというのに。
やはりこの人を信頼してよかったと、サリアはそう考える。
サリアは、最初こそ得体の知れない存在であるベアトリーチェを警戒していた。
しかし、元来自身に特に不足していた戦術力や統率力、指揮力を補ってくれた。サリアがベアトリーチェを信頼するのに、あまり時間はかからなかった。
「これです」
「これは…爆弾、でしょうか?」
起爆装置の取り付けられた、見た目だけなら普通の爆弾とは相違ないもの。
「ええ。ただし、ただの爆弾ではありません。そうですね…生徒の意識を失わせることに特化した爆弾、とでもいいましょうか。一度当たれば、三日は動けません。たとえそれが、生徒会長でも」
嘘である。
ベアトリーチェが提示したのは、彼女の同僚であるゴルコンダが『テクスチャ』の能力により創り出した『ヘイローを破壊する爆弾』、その試作品。
本来は触れる事さえできない、生徒の持つ神秘を破壊し、死に至らしめる凶悪な爆弾。ただひたすらに、生徒を殺すことだけに特化したもの。
それ故、逆に本来の爆弾のように物理的な威力を伴わない。
触れられないものに触れるがため、触れられるものに触れることはできない。
まだ調整中ではある上、効果を十全に発揮するためには時間がかかり、さらにはその効果範囲も狭いものの、生徒一人を殺す程度の威力は持つ。
また、性能が低いからこそある程度数を揃えることも可能とさせていた。
「っ、素晴らしい…!これがあれば…!」
「ええ、一方的に勝利することさえ可能でしょう。十発用意しました。使い所は、貴女に任せます」
そんなことは露知らず、サリアはその爆弾をどう使ったものかと、様々な考えを巡らせる。
「ですが、注意してください。その爆弾は威力を伴わない…普通の爆弾のように、何かを盾にして爆風を防ぐことなどはできません。逆に、何かを破壊することもできない。使い方を間違えれば、手酷い傷を追わされるのはこちらです」
「はい。心に留めておきます」
───…ああ、最初から人を殺せるよう育てておけば、こんな誤魔化しはしなくて済むものを。
ベアトリーチェは無表情を装いつつも、内心そう悪態をつく。
人殺しを躊躇ってもいい。精神を壊してもいい。
ただひたすらに、従順な駒が欲しい。
しかし、それを手に入れるために態々サリアに協力しているのだ。
この戦いが終われば、サリアもまた邪魔な存在。殺してしまって構わない。
御し易いのはいいが、自身の存在を知らしめ、アリウスを恐怖により支配するためには障害にしかなりえない。
どこまでも自己本位的なその思考を決して外面には出さず、さらに思考を深める。
今回の穏健派の急激な戦力の増加。はっきりいって自身も予想外だったことだ。
今まで、穏健派にはいなかった何者かがいると、そう感じざるをえないほどに。
ほんの少し覚えた違和感。その違和感に、ベアトリーチェは警戒心を抱かずにいられなかった。
◇
シアンに庇われ、目の前で爆弾が炸裂する。
「くぅっ…!」
「シアンッ!!!」
まずい、まずいまずいまずいまずい!!!
シアンはあの爆弾を警戒していた、そうさせるだけの何かがあった!!
それを俺を庇ったせいで…!
「…ぅ」
「っ、意識はあるかッ!!!」
ひとまずは大丈夫、か…?
爆弾を投げた敵を見れば、もうすでに意識は失っているようだった。
追撃の心配はない。
が、しかし。
「あの!ぞ、増援が…!」
「っ…!!!撤退だッ!!動けるものは怪我人を背負ってくれ!!全員散らばって、大聖堂へ向かえ!!」
過激派の増援。先程倒れたフリをしていた相手によってもたらされたもの。
ざっと見ただけでも二十人はいる。
かなり危険な状態だ。
だが、あの大聖堂まで逃げることができれば話は別。道中いくらか爆弾を仕込んでおいた。
それを利用すれば、撒くことにそんなに苦労しないはず…!
「シアン!!掴まれるか!?」
「…っ、ぁ…」
「っ…!!」
意識が低迷している、のか?
体が痛むのか、顔を顰めている。
それに、相当力も弱っているように思えた。
「クッソ…!!悪い、緊急事態だ!!」
シアンを背負い、全員が撤退する準備を終えたことを確認する。
「いたぞっ!!!追え!!!絶対に逃すな!!!」
後ろから銃弾で撃たれ、痛みが走る。
逃げようとしても吹き荒れる銃弾の嵐。岩陰に身を隠しながら、何とか大聖堂へと進む。
一度建物の裏へ行き、シアンを下ろして壁にもたれかからせる。
クソッ、どうする、どうする…!!
他の人たちは無事なのか?ここからどうやって逃げる!?
俺は、強くない。今すぐアイツら全員を相手取るのは不可能だ。
どうする、どうする、どうするどうするどうする
「い、い…もう、十分だよ…スオウちゃん…」
「…!シアン!!意識が戻ったのか!?」
よかった…まだ戦えないかも知れねぇが、それでも無事が安心、でき、て…?
「う、ん…」
待て。なんだ、この傷。
どうしてシアンが、あの程度の銃弾に穴を開けられている?
言われてみれば、おかしかったんだ。
どうして俺はシアンを背負っているのに、背中に銃弾が当たった?
…シアンの体を、銃弾が貫通していたからだ。
「いい、から…わたしのこと、は、おいてって…」
「なにを、言っているんだ…!?できるわけねぇだろ!?どんな目に合わされるかわかんねぇんだぞ!!!」
「…いい、よ…もう、無理だから…わかるでしょ…銃弾も、防げない…わたし、もう…死ぬんだよ」
「っ、うるせぇ!!ふざけたこと言ってんじゃねぇ!!」
クソッ、傷跡が塞がらねぇ!!!肌が異常なまでに傷つきやすい!!力、神秘が通っていないのか!?
クソ、クソクソクソクソ!!!
ヘイローが、崩れていっている…!?まさか、さっきの爆弾は…!!
「ほら…敵が、きちゃうから…」
「だからって置いていけるわけねぇだろ!!」
「…」
どうする、どうすりゃいい!?
俺の神秘を分け与えれねぇのか、だとしてどうすれば!?
「…ね、スオウちゃん…聞いて…」
「…っ、最後みてぇなこと言うんじゃねぇ!!絶対置いていかねぇからな!!止まれ!!なんで、崩れんなよ…!!血も止まれよ…!!」
「………わたしね……ほんとうは、強いの…いやだったんだ……」
っ…!!
…………。
「わたしは……力なんて、いらなかった……だって、がんばんなきゃいけないし……ゲームやる時間減るし…ゴリラあつかいは、まあいいけど……」
「……」
「………あーあ…もっと、普通に生きたかったなあ……なんでこんなんなっちゃったんだろうね……わたしたち…」
「…あきら、めんなよ…まだ、できるだろ…?この戦いが、終われば、さあ…?」
ヘイローが、崩れていく。
いつまで経っても、止まらない。
「むりだよ…もう、死ぬ……あ……でもね……ああやって、アンナちゃんと……最近は、スオウちゃんもいて……そうして、ゲームやったり……漫画の好きなとこいったり……そういう時間が…いち、ばん…幸せ、だったんだ……それは、悪くなかったなあ………」
「………!」
「だから、ね?スオウ、ちゃん……じぶんのこと、責めないで…?……スオウちゃんは、おとなのつもりかもしれないけど…いがいと子供っぽいから…すこしは、ひとをたよってね……それと、ね……アンナちゃんと、スオウちゃんには………ふつうに……しあわせに、なってほしいなあ……」
シアンの手のひらが、頬に触れる。
大きくて、でも、冷たい手だった。
「そこにっ…!!そこに、シアンもいなきゃ、意味ねえだろ!!!」
「…わたし、は……もう……むり、だからさ……だから、やくそく………ぜったい、しあわせになって……?………おね、がい、ね……」
「………シアン?おいッ!!!シアンッ!!!返事しろよ!!!おい!!」
シアンの目から。光が消えた。
鼓動はなくて。
体から、ダランと力が抜けている。
ヘイローはもう、ない。
………俺を、庇ったせいで。
いや、それより前から、俺が判断を間違えていなければ。
「ぁ………ああ………」
俺が、殺した。大人のくせに。子供を、守らないといけないのに。
みんなを、守りたかったのに。
「ぁあぁあああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
俺が…殺した…。
ヘイローを破壊する爆弾
・原作で使われた、生徒のヘイローを破壊する(殺す)悪辣な武器。
・原作では効力を発揮していないが、4thPVではその影響で死んでしまったと思われる生徒が映るスチルが存在する。
・後述するゲマトリアの一員、ゴルコンダ曰く失敗作らしいが…。
・なお、ヘイローを持たないシャーレの先生には効力がなく、食らっても死なないらしい。
ゴルコンダ
・写真を持った、コートを纏い首のない男性…の、写真の方。
・『テクスチャ』と呼ばれる能力を持つらしいが、詳細は不明。
・恐らく写真を持っている方、デカルコマニーが本体であり、不死身。
・ゲマトリアの一員である。