時々、夢を見るんだ。昔みたいな、悪夢とは違う。幸せな夢なんだ。
俺がいて。シアンがいて。アンナがいて。サオリも、ミサキも、みんな、みんながいて。追憶するみたいに、出来事はぐんぐん巡っていく。覚えてるんだ。二人が死んじゃったことは。俺のせいで死なせてしまったことは。
でも、夢での俺は……なんでかな。二人は生き返ったんだって。だからまた、ゲームをしたり。漫画を読んだり。くだらない会話をしたり。そんなことをして、ああよかったって、笑ってるんだ。
都合のいい
「……っ、ぁ」
目が覚めると。少しの間は、幸福感に浸れる。二人はまだ生きてる。いつの間にか寝ちゃってけど、また今日も会いに行こう。って。
でも、ちょっと時間をおいて。眠気も覚めてきて。布団を出ようとする頃には、気づくんだ。
「……あ……あ……!!」
あれは夢だったんだって。二人はもう、死んだんだったって。打ち付けられた波が引いていくみたいに、現実は帰ってくる。
「……ぅ……うぅ……!」
夢が溢れていくみたいに、頬筋を何かが流れて。
「“……スオウ?”」
それで。聞き覚えのない声が……ううん。この世界では、聞き覚えのある声が聞こえた。
「せんせい……?」
どこだっけ、ここ。知らない天井……でもないか。見覚えはある。ってことはここは、マユミが用意してくれたアリウス居住区か。いつの間に寝たんだったか。
……というか、じゃあなんでここに先生がいるんだ?
「んぅっ……!?」
いや待て、はやとちりは良くない。その件については誤解だってこの前先生とちゃんと話して……いやでも、結局怪しい結果になった覚えがあるなぁ……!?
「……」
試しに体を弄ってみると、上半身は下着を着けていなかった。やけに体が火照っていて、これはまるで……運動後みたいな……。
いや、ない。絶対にない。先生がそんなことする人なはずがないし、仮にそうだったとして俺が受け入れるはずもない。……でも、じゃあなんでちょっと服がはだけてるんだろう。
「せ、先生……?」
「“……どうしたの?”」
先生の名前を呼んだ。すぐに、彼の表情が強張るのがわかった。それがむしろ、疑念を深めていって。
「わ、私に何かしましたか……?」
「“……え?”」
そんなことを聞いてみれば、すぐさまにいつも通りの、どこか気の抜けた表情に戻ってしまった。
「“いや、なにも……”」
「そ、そうですよね……すみません……その、あまりに状況が状況だったもので……」
けれども、その声色からは緊張が拭いきれていなくて。なんでかな、なんて、少し考えたらすぐにわかった。
隠すように、急いで毛布で目の下を拭った。顔を覆った。もう手遅れだなんてことは理解しながら、証拠の隠滅を図った。
「先生、どうしてここに……?」
「“スオウが風邪を引いたって連絡が来て”」
「……あ」
先生の言葉で、やっと思い出した。そうだ、今日は風邪を引いて……それで、シャーレの当番を休んだのだったか。
「“近くで仕事があったから、ここに寄ったんだ”」
「な、なるほど」
うーん……本当かなぁ。いつの間にやら、寝てたみたいだけど……先生の服、相当温まってる。外はまだ寒いから、ある程度長時間ここにいない、と……あれ。なんで先生の服の温度がわかるんだろう。
「……っ!?」
ふと左手を見れば、その手はしっかりと先生のコートの裾を握りしめていた。それはもう、ギューっと。シワがはっきりとついてしまうくらいの力で。
「し、失礼しました……」
「“大丈夫。気にしないで”」
ふと机の方を見やれば、見舞いの品と思しきものがたくさん置いてあった。きっと寝ている間に、たくさんの妹が来てくれたんだろう。シオのやつは、包装が豪勢だからわかりやすかった。
「……その、ありがとうございます……お見舞い、来てくれて……」
その中に、先生のものが混ざっているのも想像に難くなくて。お礼を言ったら、先生は小さく微笑んで。
「“スオウが心配だったから”」
大したことでもないかのように言ってのけるのだ。
シャーレからここへの距離は、そう近くない。それに、シャーレの仕事量も……当番で何度か手伝いをしたから、なんとなくわかってる。なのに、当たり前みたいに。
「……そう、ですか」
その顔を見るのが、なぜだか胸の奥を苦しくして。風邪が悪化しただろうかと、額に手を当ててみる。熱は、かなり下がったみたいだ。少し怠さを感じるから、まだ治ったわけじゃないんだろうけど。
「“調子はどう?”」
そうして確認をとっていると、何をしているのか察した先生が見かねて話しかけてくる。少し距離感が近くなって、驚いた。
「は、はい。大丈夫です……もうほとんど、熱も下がったみたいで。ほら、この通り」
それがなんとなく嫌で。嫌なわけじゃないけど、その状態が続いて欲しくもなかったから、離れて。どうともないぞと、体を動かして証明する。
「“もう少し寝てないとダメだよ。まだ治りきってない可能性もあるし”」
「……それもそうですね」
けれども先生の指示に従って、横になった。そうすると体も楽になって。再び目を閉じさえすれば、すぐにでも眠れてしまいそうな気がした。
思ったよりも、自分の体が弱っているらしい。どこか遠くで、そんなことを思った。
「“眠いなら、無理はしないで。私のことは気にしなくて大丈夫だから”」
そう言って、先生の低い声と共に、大きな手のひらが優しく頭に触れた。
─── “スオウの……みんなの、先生だからね”
「……はい」
あの時みたいだな。思い返すと、熱が上がった。
そんな感情を誤魔化して、天井を見つめる。視界は無為に帰して、音だけを拾い続ける。匂いを嗅いでも、そこに届くのはいつもの、シャーレの執務室の匂い。紙の匂いやコーヒーの香り、ちょっとカビ臭いような雰囲気まで。それだけが、ただただ届いていた。
改めて耳に意識を向けると、真っ先に聞こえるのはキーボードを叩く音。ほんの小さく、俺が眠れるように配慮して、優しく触れるようなタイピング音。それでも、静かな空間にははっきりと響いていた。
そしてその先には、時計の針が刻まれる音。カチ、カチと、やけに耳障りな駆動音が、休む間もなく動き続けている。その音が鳴るたびに、時間は過ぎ去っていく。
「“……”」
お互いに、会話はなかった。先生は、きっと俺がこのまま寝ると思ってるから。無理に起こしてしまわないようにだとか、そんな彼らしい気遣いでそうしているんだろう。
でも、俺は違った。
「……」
ずっとずっと、胸に引っかかっていた。気づいていないはずがない。気づかない、はずがない。あの距離で、あのタイミングで。
なのにきっと、先生は……。
「あの」
「“……?”」
勝手に動いた。そんなんじゃなくて。はっきりと、自分の意思で。俺は、先生に話しかけていた。
「聞かないんですか?さっきのこと」
さっきのこと。主語のない、解釈を相手に委ねた言葉。それでも、先生には伝わったみたいで。
「“……本当は、聞くべきなのかもしれない”」
ゆっくりと。一つ一つ、言葉を選びながら口を開く。
「“でも……”」
言葉を詰まらせて。先生と目を合わせた。交錯するように、はっきりとその目を見据えた。観察するような、見極めるような目つきだった。
「“きっと、今は違う。スオウが話したくないなら……それは、今じゃないよ”」
……「今は」。そのうち、先生にとって知っておきたい事柄ではあるんだろう。知らなければいけない、なんて、ある種の義務感みたいな感じで。
でも、それが俺を傷つけることだってわかってて。俺の過去に触れることだってわかってて。だから先生は、何も聞かないし。ここで俺が「そうですか」と、いつも通りに返したら、先生はこの会話を打ち切るんだと思う。
すぐに普段の調子に戻って、またPCを叩く。その音で俺は安心して、そのうちに眠りにつく。それで、気づいた頃には先生は帰ってる。
「……先生?」
それがきっと、互いにとっての最適解で。でも、なんでかそうするつもりにはなれなかった。
話しておきたかった。その誠意に応えなきゃいけないとか、そんな気持ちもあったのかもしれない。それでも、俺は自分の意思で選んだ。
「ちょっと、屋上に出ませんか?寒いかもしれないですけど……この時間なら、きっと夕陽が綺麗ですから」
「“……うん。もちろん”」
そう言って、先生はパタ、とPCを閉じた。それから椅子に深く座り直して、少し待つような姿勢になって。
「……そ、その……普段着に着替えるので、少し出てもらえると嬉しいなぁって……」
「“あ……ごめんね”」
どこか緊張感が抜けてしまうような会話をして、それから準備を整えた。
◇
コツン、コツンと。音を鳴らしながら、一段ずつ階段を上がる。住む人数の割には、どこか狭いとさえ思えてしまうほどの広さ。手すりを頼りに登っていると、体調が悪化の兆しを見せる。
「“大丈夫?”」
「はい……」
この程度なら、全くと言っていいほど問題ない。どうせ、昔からこんなものだ。
どちらかというと問題なのは、この服だ。よくよく考えてもみれば、この服はさっきの部屋にあった。つまり、俺が寝る前に着ていたそれと同じものをと見て相違ないだろう。あの時は相当に汗をかいていたし、少し臭いが気になった。
───……むしろいい匂いがするって?
……今しがた思い出した、というか思い出してしまったこの記憶は、頼むから忘却の彼方に舞い戻ってほしい。先生はそんなことしない。
汗の臭いがいい匂いって、そんなわけないだろう。妹達のならまあ、わかるけど……あれ?ひょっとして俺も同レベル……?
「“スオウ”」
「っ……すみません。ちょっとボーッと……」
余計な気づきを得ると同時に、先生に手を引かれた。目の前には屋上に続く扉があって、いつの間にやら目的地についていたらしい。
少し油断し過ぎだと自戒しつつ、ドアノブを捻って奥に開く。その先には外との隔たりはなく、秋も暮れようかという冷たい風が、体の中に入り込んできた。
「うひ……流石にちょっと冷えますね……」
念の為、コートも持ってきておいてよかった。腕は通さずに羽織って、屋上の石を踏み締める。
「“本当だ……かなり風が強いみたい”」
倣う様に先生がそうするのを傍目に、軽く地面を蹴って、扉の上……屋上の中でもさらに高い場所まで移る。
「“あれ?”」
「こっちですよ。こっち」
ちょうど見逃していたのか、先生は不思議がって周りをキョロキョロと見回していた。手を伸ばしたらそれを掴んで登ろうとしていたけど、結局できなかったのか諦めて梯子から登ってきた。少し可愛いと思ったのは、おかしなことではないと思う。
「気をつけてくださいね。こっちには、柵がないので。先生が落ちたら、私も落ちなきゃいけなくなります」
「“はは……じゃあ、何があっても落ちれないかな”」
歩きながら先生を誘導して。屋上の中でも、端の端。唯一、柵がなくて。一番高くって。一番、いい景色の場所だ。
「よい、しょっと……よかったら、先生も座ってください。ここ、ここに!」
「“それじゃあ、お言葉に甘えて。スオウの隣なら、特等席だね”」
「……な、何言ってるんですか!」
宙に足を出して、右手で横をバンバン叩くと、先生は迷いなく横へ座った。少し足がすくんでいて。
「……高いところ、ニガテですか?」
「“うーん……実は、ちょっとだけ”」
そういえば、『ノート』にもそんなことが書いてあったような。そうでもなかったような。最近では見返す機会も減り始めてるから、うろ覚えなのはしょうがないと思う。
「ごめんなさい、知らなくて……」
「“ううん、平気だよ。だって……いい景色だ”」
足元は見ないように、先生は奥の景色に目線を向けていた。ミレニアムの中でもあまり開発が進んでいるわけではない、少し田舎なこの地域では、ビルや建物ばかりではなく、幾らかの自然も見られた。
人工物と天然、それらが入り混じった林が夕焼けに溶けて、その色を滲ませて。凪いだはずの風が時折吹いて、寂寥感を感じさせる。アリウスでは見られなかった光景だ。
「……明るい、ですよね。ここは。風が気持ちよくて……目を閉じれば、このまま寝ちゃえそうで……ちょっとだけ、夕日はあったかくて」
外だ。当たり前だけど、ここは紛れもなくシャッターの外だ。光の当たる、俺の居場所なんだ。
けど、時折。こんな明るすぎる場所は、俺にとって目が痛くなってしまうようで。そんな時は夜を待って、ここに来る。建物は光を消して、暗闇が世界に落ちる。声も音も、俺のものしか聞こえない。自分を見つめなおせるから。
「“……ここには、よく来るの?”」
「はい。だって、こんなに……見てください。あの畑、妹達と作ったんです。それから、あのお店には一緒にお買い物に行って……あ、そうだ。あの木、早朝だとたまにカブトムシがついてるんですよ?先生、今度いかがですか?」
「“はは、良いね。久しぶりに、やってみようかな”」
「やった」
指差し、指差し。目のつくものは、全て思い出だ。一つ一つ説明して、言葉にして、声にして。
けどその中のたった一つ。どれ一つを取ったって。シアンも、アンナもいなかった。言葉にならなかった。声に出なかった。
「……ここは……ここから見えるのは、全部、全部。私たちが……あの子達が勝ち取った、日常なんです」
「“……スオウもだよ。この景色は、スオウがいたから”」
「はははっ……そう、なのかな……」
投げ出していた足を、両手で抱えた。口元を覆った。作り笑いは、口角が痛くなる。口角だけじゃないか。
どこに目線を向けるわけでもなく。全体を、ぼんやりと見つめた。いくつか動く影は、きっと妹達のものだった。赫い夕日に照らされていた。
主張が強い、派手な青色も。暗がりを落とす、鈍い黄色も。その影の中には、存在しなかった。
「……本当は……この景色を見せたい人が、もっと、もっと……ずっと……たくさん、いた……いました」
今はもう、いないけど。言葉にするまでもなく、先生は何かを察した様だった。
「筋肉ばっかりのあの馬鹿にも……性格悪いあの天才にも……他の子達も……此処に……」
どこにも、いない。此処だけじゃない。あの子達は、どこにもいない。この世界の、どこにもいない。
乾いてる。壊れてる。満たされて欲しいのに、満たされたはずなのに。まだ、まだ、まだ、まだ。ずっと、この空っぽは満たされない。
「“スオウ……”」
「……その、ごめんなさい……やっぱり、部屋に」
「“おいで”」
ちょいちょいと、先生に手招きをされた。やけに乾いた唇は、「なぜ」とか、「どういうことだ」だとか、そんな反論の余地を認めなかった。そうじゃなくても、何も言うつもりはなかった。
「……」
何も言わずに、先生の横に、さらに近づいて座った。距離はほとんどなかった。先生の腕が、背中を通って、遠い方の肩に回された。俺よりもずっとずっと大きなコートが、すっぽりと俺の体を覆ってくれた。
周りから、包み隠すみたいに。此処にいるのは私だけだよと、そう言ってくれるみたいに。
「“辛いね”」
「辛かった」じゃなかった。辛い。辛いんだ。あれだけ頑張って、これ以上とないくらいに、一番欲しかった結末を迎えられたはずなのに。
俺は今も、なんでかずっとずっと、辛いんだよ。
「“……辛いね、スオウ。
「……うん」
先生の手が、少し強く体を圧迫した。抱き寄せられたのだろうか。俺の力があれば、抵抗できるけど。しなかった。したくなかった。
ダメだって、そうも思わなかった。それを肯定してくれるみたいだったから。
「……今でもさ……夢に、見る……夢に、見るんですよ……二人のこと……みんなのこと……」
「“……うん”」
気付けば、俺の手も、先生を抱きしめていた。妹達にするそれとは違って、ただ、ただ、ただひたすらに、それはどこまでも自己本位な、自分のためだけの行動だった。
「……受け入れた、つもりだったんですよ……二人が死んだことも……もうあえないことも……」
「“うん”」
白い、ヨレたシャツが見えた。何か考えるよりも先に、顔を埋めた。顔を見られたくなかった。ぐちゃぐちゃな、こんな顔を。弱い顔を。
「……でも、やっぱりほんとうは……二人に会いたい……!生きてて欲しい……一緒にいたい……!ふとした瞬間に……妹達は、みんないて……幸せな、はずなのに……!なんで二人がそこにいないんだって……そう思っちゃって……そう思うと……!」
隠れる様に、嗚咽を吐き出し続けた。先生は、俺の背中を優しく撫で続けてくれた。
「つらいよ……!せんせい……!」
「“……そうだよね……辛いよね。ずっと、ずっと。本当に、よく頑張ってるよ。いっぱい、泣いていいんだよ。スオウ”」
「う、ううぅぅうう……!うあぁあああああん!ああぁぁあぁああああ!!」
先生は俺が泣き止むまで、長い間。文句も言わずに、ずっとずっと待っていてくれた。何度も何度も、安心させる様に、傷口に触れる様に体を撫でて。気付けば、先生の腕の中で眠っていた。
◇
「そ、その……ご迷惑を、おかけして……」
鼻を啜りながら、先生からなんとか離れる。ほんの十数分とはいえ、あんな状況で寝てしまうとは自分でも思わなかった。穴があったら入りたい……。
「“気にしないで。何も、迷惑なんかじゃないから”」
先生は少し距離を保ったまま、目を細めていた。何もなかったかの様に、というより、何もなかったことにしてくれていた。これ以上は気にしなくていいと、仕方のないことだと、暗にそう伝えてくれていた。
「“……もう少し、ここにいる?”」
「……はい」
また会話はなくなって。横に並んで、ゆっくりと日が沈んでいくのを見つめた。赫かった景色に暗がりが落ちて、赤とも紫ともつかない、不思議な色になった。
「先生」
「“……?”」
ぽつり。ぽつりと。
「辛いのは、本当です」
一言一言、本音を確かめるみたいに。
「でも、でもね……今の私には……それだけじゃ、ないんです」
ゆっくりと、さっきは言えなかった気持ちを。一つ一つ、言葉にしていく。
「今の私には……みんながいる。あの子達が、二人が、みんなが守りたかったものは、今此処にある」
シアンも、アンナも、みんないない。もうみんな、死んでしまったから。それでも、あの子達が生きた証は……あの子達は。いや、俺たちは。生きている。
「私ね。昔より、怖いものが増えたんです。……誰かが……いなくなっちゃうことが」
サオリや、ミサキや、アズサや、アツコや、ヒヨリや……先生。妹のみんな。誰一人だって、欠けてほしくない。死んでほしくない。
「もう二度と、誰にもいなくならないでほしい」
だから、全部俺が守ればいい。それが、昔の俺が出した結論だった。それが正しいのかどうかは、今もわからない。間違ってるかもしれないし、正しいのかもしれない。
もしかしたら、そんなふうに決められるものではないのかもしれない。
「……でも、きっとそれって。みんなにとっての私も、一緒なのかな、なんて……はははっ……傲慢ですかね……」
「“そんなことないよ。私も、スオウに……みんなに、いなくなってほしくない”」
「……うん。そうですよね」
だから、俺は。
「だから、私は生きます。辛くても、苦しくても。みんなが生きたことは無意味じゃないって、証明し続けるために」
だから、俺は生きる。
「妹と一緒に、みんなが生きたことを守っていく」
一人じゃ、自己犠牲で守ることしかできない。でも、みんななら……みんなと一緒に、お互いを守れば。きっとそんな、夢見事の絵空事だって。
「……私は先生にも、その一人でいて欲しい、です。その、上手く言えないですけど……」
だから、みんなと……妹と……先生とも。生きていく。みんなのいない、この世界を。
「だから、その……これからもずぅっと、私たちの隣にいてくださいね?先生」
理由は、うまく言葉にできなかった。でも、一番大切なことだけは伝えておきたかった。結局のところ、俺は……もう誰も。死なせたくないんだ。
「“……もちろんだよ”」
先生の手が、俺の頭を撫でた。ちょっと荒っぽくて、珍しい感じがした。気持ちが良くて、でも恥ずかしくて、どうすればいいのかわかんなくて。目を逸らして、中途半端に笑って見せた。
「……よしっ!」
強く、両頬を叩いた。ジリジリと痛んで、目が覚める様な感触だ。しっかりと、この景色を目に焼き付けるように。
「……」
アリウス居住区の中に、小さな林が見えた。俺がマユミに頼んで作ったものだった。あの奥にあるものは……あの奥にいるのは。
「それじゃあ、そろそろ行きましょっか」
「“うん”」
立ち上がって、首だけ後ろを振り向いた。先生が扉へ向かったのをしっかり確認して、それから一歩前に踏み出して。
「みんなぁっ!!」
大きな、大きな。この空を超えて、どこまでも届いてしまうような声で。
「……またなっ!」
手を振った。いつもより大きく、元気に。返事はなかった。当たり前だった。
「……お待たせしましたっ!」
そうして、先生の背中を追いかける。少し駆け足で、その背中に向かっていく。
その時、ビュウと強い風が吹いて。都合のいい幻聴だったのかもしれない。俺にはわからなかった。
───またね!
───またなッス。
……けど。聞こえた声は、本物だったらよかったな、なんて。そう思って振り返っても、そこにはやっぱり、誰もいなくって。
「……はははっ」
大事な記憶の欠片達が、残響するみたいに。俺の心で、波打っていた。