ちょっとだけ羨ましいなぁ、なんて憧れていた、ジャンプして撮るような集合写真。夢が一つだけ叶った。
と、まあそんなふうに意気揚々と浜辺に飛び出したところまではよかったのだけれど。
「とっ、とと……」
慣れない砂の、足を取られるような感触。みんな訓練を受けてるだけあって、流石に転んだりは───
「わ、わぁあぁっ!?」
「───へ?」
ヒヨリ、一体何を叫んで、って!?
「わっ」
「ちょっ!?」
転んだヒヨリにアツコが引っ張られて、さらに俺まで引っ張られて。真ん中が崩れたのだから、全員仲良く浜辺にダイブ。顔まで砂まみれだ。
「ちょっと、ヒヨリ……」
「す、すみません……!で、でも何か、何かが足元を蠢いてて……!!」
「足元?」
ミサキが視線を走らせた先には、小さな赤黒い生き物が一匹。
「……なにこれ。気持ち悪い」
「スナガニですね。穴の中から、たまたま出てきてたみたいです」
ヒョイっと拾い上げると、ワタワタ抵抗しながら逃げ出そうとしている。腹の部分はグロテスクな感じもするけど、ちょっと可愛い。
「カニ……カニって、あの高い…… ?」
「そうですよ」
「もっと大きいと思ってた」
「この子は小さい種類みたいで……あ、でもこのくらいでも、お味噌汁に入れるとおいしかったり、っと」
若干抵抗が強まった気がする。大丈夫だよ、別に取って食ったりしないっての。
「怪我は……ヒヨリもカニも、見たところなさそうですね」
流石キヴォトス、カニも人の体重程度じゃ潰れないらしい。頑丈だなぁ、そんなことを考えながら元の穴の位置にカニを逃した。びっくりさせてごめんな。
「……わぁ」
軽く砂を払って、前を見て。青い広大なキャンバスに、散りばめられた白銀のビーズ。流れる音は、視界に入ることによって現実味を帯びてきて。
「……きれい……」
誰かがそう呟いた。俺かもしれないし、全員かもしれない。けれど、気持ちはみんな一緒だったと思う。
「……広いな……本当に、先が見えない」
「うん……これ、本当に全部塩水なの……?」
「らしいね。正直、真偽は定かじゃないけど」
「嘘なんて言いませんよぉ」
「……空よりも、ずっと青い。こんな景色があっただなんて」
「なんだか……自分たちがちっぽけに思えちゃいますね」
風が途端に強くなって、生暖かい空気と、今まで嗅いだことのない不思議な香りを運んでくる。
誰も何も言わないまま、しばらくその景色をぼーっと見ていた。
「……しかし、全員砂まみれだな」
静寂を破ったのは、サオリの言葉。
「ええ……って、サオリ……ふふっ……」
「……?どうかしたか?」
砂が顔の下半分だけについて、ヒゲみたいになってる……本人気づいてないみたいだけど、せっかくだから一枚。
「と、カメラ……」
「スオウの分も持ってきたよ。はいこれ」
「あ、ありがとうございます」
うん、動画もよく撮れてる。とまぁ、さておき。
「それじゃあ全員砂まみれ記念ってことで。はい、チーズ!」
「記念するべきことなのか……?」
「言葉の綾ですよ」
しかし海に来て早速こんなに汚れるとは。覚悟はしてたけど、ここまで……でも、良い訳……言い訳ができた。
「とりあえずパラソルを立てて、荷物置き場を作りましょう。……と、行きたいところですが!みんなこんな状態じゃ、やるべきこともできないでしょう。ってことで……!」
……勢いで行けるかと思ったけど、流石にまだラッシュガードを脱ぐのは恥ずかしいかな。このままでいいや。
「先に海に入りますよ!そうすれば、砂だって簡単に落ちるはずです!」
「……スオウが入りたいだけじゃないの?」
「うっ……!」
なんたる図星。正直、久しぶりに……というか、この世界に来てから初めて見た、本物の海だ。相当に浮き足立っている気持ちはある。
それにせっかく恥を忍んで水着を着ているのに、すぐに入れないなんてあんまりじゃんか……!
「……まあ、いいよ。たまには、こういうのも……悪くないし」
「やったぁ!それじゃあ早速入り行きましょう!ほら、急いで急いで!」
「スオウ、そんなに急いでも海は逃げないぞ」
「逃げますよ!ほら今!!向こう行った!」
「ただ波が引いただけだ」
仕方なく。そんな雰囲気を醸し出しながらも、サオリも興味はあるらしい。眩しさで少し細めたその目に、普段の藍色よりもさらに青い色が、キラキラと輝いていた。
ミサキとサオリ。二人の手を引いて駆け出すと、アツコは迷いなく。追従して、アズサがヒヨリのことを引っ張りながら、海と砂浜の間。ギリギリのところまで、一気に迫って……あ、まって、思ったより怖い。
「……最初に入る人ー?」
「ここまで来て何を恐れてるんだ!さっさと行け!」
「わっ!?」
サオリに軽く……いや結構勢いよく押されて、海へと飛びこんだ。
「……ど、どうですか……?」
「……あ、思ったよりあったかい」
もっと冷たいもんかと思ってたけど、これなら意外と快適かも。あとあれだ、波に砂と一緒に足を取られる感触が気持ち悪い。快適とは言い難い。
「どれ……」
一番気になってたのは、海水の味。本当に塩味なのかと。
『あ』
揃って、「やりやがったこいつ」とでも言いたげにそう呟いて。
「……あ、うん。しょっぱい。塩味です、おいしいおいしい」
「……本当に?」
「本当ですよ。アズサもどうですか?」
「いや、私は……遠慮しておく……」
む……じゃあ。
「ヒヨリ、どうですか?」
「え……じゃ、じゃあせっかくですので……」
ヒヨリが手で作った器に海水を注いで、そしたらヒヨリがそれをぐいっと飲んで。
「っ……!?しょ、しょっぱい!!しょっぱいですこれ!!おいしくないですぅ……!え、えぇぇああああああ……!!」
「ふふっ……」
本当は叫び出したいくらいしょっぱかった、というか塩っからかったけど、頑張って耐えれた甲斐があった……!
お姉ちゃん、こういう体験は妹と共有していくべきだと思う。
「だ、騙しましたね!!酷いです!もう誰も信用できません!うわぁああああん!」
「ごめんごめん。後でラムネ買ってあげますから、許してください。ねっ?」
「……うぅ……アイスもつけるなら許します」
……さらに焼きそばもつけてやるとしよう。そっと決意を固めながらも、ヒヨリの手を引いて海へと引き摺り込む。
「いいですかヒヨリ、意外とあったかいですが心臓から遠い位置からゆっくり……」
「ゆ、ゆっくり……ゆっくり……」
そうして、徐々にヒヨリが海の中に入ってきたところで俺の身長が足りなくなり、頭ごと入ってしまった。
「わ、わぁー!?スオウさんが溺れましたぁ!?」
「いや、多分大丈夫だよ……その変態なら。というか、あんまり大きい声でスオウさんとか言わない方がいいんじゃ……」
「ぶはっ!意外と慣れれば気持ちいですね、これ!」
ヒヨリを海へと取り残したまま砂浜に上がって、四人の背後へ回って。
「さて……次は誰が入りますかぁ……!?」
さっきはよくも押してくれたなと、若干の圧をかけて見せた。
「私が行こう」
「む、アズサ……大丈夫ですか?羽が傷むんじゃ……」
「普段からきちんとケアをしているから、大丈夫だ。それに、私が先に入れば寒さとはおさらばできる」
あ、確かにアズサの翼はいい感じにあったかくて……翼が生えてる子って、みんなああなんだろうか。今度ミカに聞いてみよう。
「とにかく、行ってくる」
そう言うとアズサはジャンプして、大きな水柱を一つ立てながら海へと飛び込んだ。
「ぺぷっ!?」
ヒヨリが可哀想に、それに巻き込まれたりしたけど、徐々にアズサがその姿をあらわにして。
「……不思議な感じだ。体が浮くような……いつもよりも、体重が軽い印象を受ける」
ああ、浮力が高いんだっけ……水の密度がどうこう、みたいな理屈があった気もするけど、あんまり覚えてないかな。
「……でも、悪くない感触だ。飛んでるみたい」
「翼で泳ぐとは器用な……」
「私たち、無いもんね」
……一応、変装くん以下略は持ってきてるけど、流石に水に濡らすわけにも行くまいて。あれ、寒い日はいい具合に湯たんぽになるからいいんだよなぁ。
「……どれ、次は私が行ってみようか」
そう言って何の気なく、波を荒立てないようサオリはゆっくり海に入り……それから、ある程度の深さのところまで行って。
「……ふむ……確かに、思ったよりは冷たさも」
「どぼーん!!」
「なぁっ!?」
そんなことをしているので、思いっきり海に入って海水を撒き散らしてみせた。
「な、何をす」
「えいっ!」
「ぷっ!?」
まあ確かに、あんまり顔は濡らしたくないかもだけど……。
「せっかく入るなら、全身で味わった方がいいですよ!そぉらそぉら!!」
「く、ちょっ……こ、このっ!!」
「ゔぁあ!?」
流石サオリ、初めて入る海なのに結構良い動きをしやがる……!だが俺はお姉ちゃん!妹に負けるわけにはいかないのだよ!!
「天地返しっ!!」
「おま、えっ!?」
「……あ、やばっ」
流石にあれはやばい。ほとんど津波みたいになってる。
「よい、しょっと!!」
拳で波を撃ち抜いて、あたりに雨のように水滴を散らせた。
「……」
「だ、大丈夫でしたかサオリ!?ごめんなさい、ちょっと調子に乗り過ぎて……」
「ふっ……は、ははっ……ははははっ!」
「さ、サオリ!?」
ひょっとして怒りのあまり笑い始めるとかいうアレだったり……!?
「ふふ……相変わらず、お前は規格外だ……ああ、楽しいな。これは」
「……!」
サオリには珍しい笑顔。声を大きくして笑うところなんて、初めて見た気がする。
「……サオリのあんな笑い方、初めて見た」
「……ミサキも行ってみる?」
それは他のみんなも例外じゃなかったみたいで。知らぬは本人だけ。どこか不思議そうな顔をしながら、サオリは他の二人を待っていて。
「うわっ……!?」
そうこうしているうちに潮が満ち始めたのか、ミサキのいるところまで波が伸びていた。
「ふふっ……」
「……笑わないで。何この感触、気持ち悪い……」
「ごめんね。可愛くって、つい」
足を取られるのが嫌だったのか、渋々ながら歩み始めるミサキ。よく似合う白いハットを置いてから、アツコはミサキの背中を押して、段々と、されど確実に、二人は一歩、また一歩と、深く沈み始める。
「……意外と足元がざらざらする。結構危なくない?」
「だからサンダルが大事なんですよ。……まあ、私たちの体に刺さるようなものがあるかは知りませんが」
中には危険な海洋生物とかだっているし。
「……でも、まあ……そんなに悪い感じはしないね」
「うん。水中訓練とは、全然違う……いるだけで、疲れが取れていくみたい」
いつの間に用意していたのか浮き輪にしがみつきながら、ゆらゆらとアツコが流されてきた。倣うように俺も体を浮かべて、そしたらそのうち浜に打ち上げられて。
「あ……」
視界の端に、アツコの帽子が飛ばされるのが見えた。
「ちょっと取ってきますね」
「ありがとう」
風に揺られるアツコの帽子を駆け足で追いかける。意外と高く飛ばされるな。
……面倒だ、神秘を使って早いとこ取りに行、って……?
「“ひょっとして、探し物はこれ?”」
「せ、先生!?と、補習授業部のみなさん!それにアシリまで!」
「わ、私ってやっぱりおまけ扱いなのかな……」
卑屈になっているアシリを傍目に、先生から帽子を受け取る。ありがたいのだけれど、一つ疑問がある。
先生たちが立っていたこの場所は、ちょうど浜に少し入ったあたりの場所。そこには当然足跡があるはずだけど、なぜだかそれらは見当たらなくて。
「……あ、あの……」
つまり、風で足跡が散らされる。それだけの時間、この場所に止まってたというわけで。
「い、いつから見てました……!?」
「“……スオウがヒヨリを、騙したあたりから”」
「うぅ……!!」
はしゃいでいるところを、思いっきり先生に見られていた。
◇
俺が思いっきり恥をかいたことはさておき。補習授業部の面々も、思ったより早く合流できた。
ひとまずみんなから海に上がってもらって、それから改めて顔を合わせて。少しの間流れる、気まずい沈黙。
「え、えぇっと……そ、その、はじめまして!私、アズサちゃんのお友達をやらせてもらっています、阿慈谷ヒフミと言います、どうかお見知りおきを……!」
「落ち着いて、ヒフミ。ここにいる人たちはみんな一度顔を合わせている、そこまで畏まる必要はない」
「そうですよ。妹がいつもお世話になっております、お姉ちゃんです。よろしくお願いしますね、ヒフミさん」
「スオウはもう少し礼節を弁えて」
しっかし、みんな緊張してるなぁ。俺からすれば妹の友達、友達のお姉ちゃんくらいの感覚だけど、みんなからすれば友達の友達だし。ここは、俺とアズサ、あとアシリがしっかりしないと……!
「とりあえず、自己紹介から入りましょうか!改めて、お姉ちゃんこと……アリウスの白い悪魔です!」
「馬鹿か貴様!」
サオリに後ろから思いっきり引っ叩かれつつ、そのままサオリを前へ出して。
「バカが失礼した。あいつは桐花スオウ、アホだが、あれでも小隊長をやっている。そして私は錠前サオリ。アズサの上官であり、癪だがスオウの部下でもある。よろしく頼む」
「……なんか、思ったよりふざけたヤツらね」
よし、ひとまず緊張をほぐすことには成功したかな……奥の手中の奥の手、一発芸アリウスの白い悪魔のモノマネも用意してたけど、必要なかったらしい。
「コハルちゃん、失礼ですよ」
「知らない、感想言っただけだし……」
「いくらみなさんの水着に興奮してるとはいえ……」
「変なこと言うなっ!!」
しかし結局状況としては二分されているまま。その辺は追い追いかな。
「これで私とハナコさんは頭を引っ叩かれ同盟ですね」
「え、えっと……?」
「ということで、次はハナコさんから自己紹介をお願いします」
ハナコに強い困惑を与えつつ、なんとか押し切って自己紹介を促す。意図を察したのか、少し柔らかに微笑んで。
「初めまして。トリニティ総合学園の浦和ハナコと言います。みなさんの話は、よくアズサちゃんから聞いていますよ。アズサちゃん、本当にみなさんのことが大好きみたいで……うふふ。アズサちゃん、痛いです。興奮してしまいますよ?」
アズサが居た堪れなくなったのかポカポカとハナコのことを殴り始めたところで、ハナコは自己紹介をやめにした。あと最後の言葉でミサキは一歩距離をとった。事故紹介だったかもしれない。
「あ、え、えとっ、私は!」
「アシリのことはみんな知ってるから大丈夫だ。次に行こう」
「そんなぁ!?せっかく勇気出したのにぃ……!!う、うぅ……!スオウちゃぁあああん……!!」
「よしよし」
アシリを宥めながらも、次の自己紹介へ。ハナコの発言がトリガーとなってコハルが現れるかと思ったが、そんなことはないらしい。
「あのね、あのね……コハルちゃん、人見知りみたいだから……ちょ、ちょっと、緊張してるかも……」
「……なるほど」
抱きついているアシリが、耳元で助言を囁いた。そのあとついでとばかりに耳たぶを食んできたので、頭を横に倒して頭突きしてやった。くすぐったいからやめてほしい。特に耳は。
しかしそうくれば、次はうちの妹たちから誰か一人……よし。
「ハナコさん、誰の話が印象に残ってますか?」
「す、スオウ!?」
「そうですね……確か一番強い印象を持っているのは、姉を名乗る桐花さんですが……それを除くのなら、そちらの戒野さんでしょうか?」
「……私?」
まさかの白羽の矢。とはいえ、これで次の自己紹介は決まったようなもの。次はミサキだ。
「……どんな話聞いてたの?」
「わ、わー!!わー!!ハナコ、この話はここでおしまいにして!お願い!」
「そうですねぇ……」
「ハナコ、むぐっ!?」
ミサキも少し気になるのか、アズサの口を押さえつけて言葉を封じた。……ミサキ、少し鍛えたのかな?以前より動きがいい。
「そうですね……確か、初対面でアズサちゃんは怪我をしていたそうで……」
「……ああ、そうだね。確か、そうだった」
「それで……ぶつくさと文句を言いながらも、真っ先に怪我の確認をしてくれたのは戒野さんだったと」
「……」
「むーっ!」
……うん、うん。ミサキはなぁ……冷静に見えて、意外と感情的と言うか。冷静であろうとしてるだけというか、そこが妹で可愛いからな。アズサもよく見てる。
「それがなんだか、アズサちゃんに似ているように見えてしまって。それに、意外と趣味も可愛いんだとか。ワンポイントのクマさんが印字されたパーカーを前に頭を捻らせたり、アズサちゃんがもらったぬいぐるみに真っ先に興味をしめしたり」
「もういい……」
「……え?」
「もう、それ以上はいい……!戒野ミサキ、アズサの同僚……!次、誰か……!!」
ミサキの顔が真っ赤になっているのは、断じて日差しのせいだけでは無い。むしろ、それが占める割合なんてほんの少しだ。
それはそれとして、腕の中にいるアズサが窒息しそうだからそろそろやめてあげてほしいかな。
「ミサキ。アズサ、アズサ」
「……あ。ごめん」
「ぷはっ……!……うぅ……スオウ……!」
あ、アズサまで泣きついてきた……流石に恥ずかしさと理不尽に耐えきれなかったらしい。アシリを含めて二人に増えた、身動きが取れない。
困っちゃうなぁ。妹達が俺のこと好き過ぎてお姉ちゃん困っちゃうなぁ。
「……流れ的に、次はそっちじゃないの?」
「こちら側で、まだ自己紹介をしていないのは……」
「……なによ」
話しかけたハナコに、射殺すような視線を向けるコハル。「あれ?関係値リセットされた?」と、そう思わせるほどの態度。ハナコを傷つけるには充分だったらしく、少し震えていた。
「ちょ、ち、違くて!ああもうわかったわよ!自己紹介ね!すればいいんでしょすれば!!」
そんなハナコの様子を見て、焦り自己紹介を始めるコハル。その平らな胸をグイーッと引き伸ばして、胸を張って。
「下江コハル!正義実現委員会のエリートよ!」
堂々と、そんなこと言い放って見せた。
「……エリート?こんなやついたっけ?」
「いや……ハスミやマシロは厄介だったが、コハルという名は……」
「せ、先輩達と比べられたら、それは……それに、私はまだまだこれからだし……!」
懐疑的な視線にボソボソと言い訳をしながら、徐々に縮こまっていく。正義実現委員会ということでみんなに警戒されるかと思ったけど、杞憂だったらしい。
「……まあ、監視役ってとこか。すごいね」
「そ、そうよっ!私は優秀なんだから!押収物の管理だって任せられてるしっ!」
しかしやけに食い下がるなぁ、コハル。そんなことをしなくても、コハルがすごいんだってことはちゃんと知ってるのに。
「それじゃあよろしくお願いしますね、コハルさん」
「……う、うん」
……ん?なんか、反応が妙なような……いや、待てよ……?
「……コハルさん。私たちひょっとして、どこかで?」
「そ、そんなこと!……な、ない……ないもん……関係ない……妹じゃない……」
……心当たりがあるとすれば、最初のトリニティの襲撃。正義実現委員会の生徒達を薙ぎ払ったり、ツルギと死闘を繰り広げたり、ともかく色々と悪い意味で顔を売っていた、あの頃。
もしくは、全キヴォトスを敵に回したあの演説か。ともかく。
「……つ、次に行きましょうか!」
コハルには、だいぶビビられてるみたいだ……お姉ちゃんショック……!
「じゃあ、次は私が。秤アツコ、一年生。実はそこにいるスオウとは、少しだけ血が繋がってる」
「血が……ひょっとして、お二人は血縁上で姉妹だったり」
「そうです」
「それは違う」
「……ふ、複雑な関係なんですね!」
ふっ……血の繋がりなんて、俺たち姉妹の絆にかかればあるも同然さ。つまり当然、アツコともある。よって俺はお姉ちゃん。血縁上でもお姉ちゃん。間違いなく。
「最近モモフレ・むにむにを始めたから、フレンドを募集してるんだ。よろしくお願いします」
「ほ、ほんとですか!?ぜひ、ぜひ私とも一緒にやりましょう!」
「ミサキもやってるから、後で交換してあげて」
「……余計なこと」
……よし、アツコはうまく馴染めたかな。やっぱり共通の話題、っていうのは強い。それだけで、相手との話を広げる種になる。それに、アズサとアツコ。二人がいれば、ミサキもきっと大丈夫だろう。無理矢理にでも巻き込めば、なんだかんだ付き合ってくれるのがミサキだし。
「……え、っと……」
どちらかというと心配なのは、ヒヨリの方かなぁ……?
「ヒヨリ、落ち着いて。深呼吸、深呼吸」
「さ、三人が合体したへんないきものになってるスオウさんを見てたら落ち着けませぇん!!」
「へ、へんないきもの……?」
絢爛と輝く姉たる姿と言ってほしい。右半身に
「し、仕方ないです……私も取り込まれたくはありませんし、頑張って自己紹介をします……!」
「取り込むってなんですか!?」
人を妖怪や怪物みたいに……!ヒヨリがやる気出してくれたのは嬉しいけどさ!
「つ、槌永ヒヨリです……!趣味は、雑誌集めと……それから、最近だとラーメン屋……い、いえ、これはやめておきます……い、至らぬところは多々あると思いますが、どうぞ末長くよろしくお願いいたします……!」
お見合い通り越してプロポーズへの答えみたいになっちゃってるけど、まあよし。
……しかし、プロポーズ……そっか、ヒヨリもいつか結婚とかするのか。それはちょっと寂しいけど、きっとヒヨリはウェディングドレスが似合う。嬉しそうな姿がくっきりと瞼の裏に浮かんでくるようだ。
ふふ……親族代表の挨拶は俺がやるとして、結婚相手は一体……そうだな、ヒヨリの身近な男性っていうなら……せんせ、い……?
「ヤダーッ!!」
「うわぁ!?い、いきなりなんですか!?」
「ヤダーッ!!二人まとめてお姉ちゃんを置いていかないでぇ……!!やだぁ……!!あげない……!あげないもん……!どっちもあげない……!!」
「え、えぇ……!?う、うぅ……!結局取り込まれました……!」
……いや待て。あくまで妄想は妄想。ちょっとおかしくなってたな。夏に浮かされているかもしれない。
「……さて。とりあえず、これで全員の自己紹介は終わりましたし……今日の予定の確認に移りましょうか」
「……そ、そうですね!」
何か言いたげだったヒフミがごくりと飲み込む動作をして、そしたら予定の確認へ。とは言っても、大したことじゃない。
「このレジャーは、トリニティとの交流会、その演習のような役割を兼ねています。それゆえ、ミカさんからミッションが出されていまして……基本的に海を楽しめばいいので、それを写真に収める形になります!」
「は、はい!聞いていた話と、そこまで差はありません!」
聞いてた話……ああ、ナギサにか。今頃トリニティで血涙を流していそうだ……少しヒフミの写真は多めに撮って置いてやろう。
「明日にはヘルメット団の方々が主催するDJのイベントと、それとは別に花火大会があります!ですので、できるだけ早めに必要な写真は撮れてしまえばと……」
DJ。その言葉に、サオリが少しだけ反応した。……ひょっとして、サオリ……いや、わざわざ聞くのは無粋か。
確か招待されてるのは、B.o.Bとか言ったかな……あんまり詳しくは知らないけど、有名人らしい。ブラックマーケットで。
「それもそうですね。それじゃあ、早速一つ目のミッションは……」
「“それについては、私が預かってるよ”」
おぉう、先生が……会話が偏らないようにする、ミカなりの配慮かな。して、その内容は……?
「“最初のミッションは……ビーチフラッグ。って、書いてあるね”」
「……ビーチフラッグぅ?」
いきなり対抗戦とは、これ如何に。一抹の不安を感じながらも……ついに、トリニティとの交流の第一歩。ミカからのミッションが始まった。