ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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【後日談】忍び寄る影

 ミカの言うところの、ミッションとやら。初めは交流のみに軸を置いたものかと考えていたが、初めに提示されたのはまさかのビーチフラッグ。

 

「……とは、なんだ?スオウ」

「えぇっと、そうですね……」

 

 近くから適当な棒を引っさらってきて、ヒフミ達の近くの地面に突き刺す。

 

「こんなふうに打ち立てられた小さな旗を、離れたところから取りに行く。ただし、最初は伏せた状態から、合図で同時に。……でしたよね?」

「……!」

 

 確認を込めてヒフミに視線を送ると、緊張気味に何度かコクコクと頷いてくれた。

 ……ちょっとわざとらしかったかな。いやでも、このくらいしないと完全にコミュニケーションが絶たれちゃうし……その辺は追い追い。

 

「だから基本的には一対一か、複数人をひとまとめにした対抗戦、ってことになると思うんですが……」

 

 これ、アリウス組がかなり有利だ。というのも、純粋な瞬発力と筋力、走力に左右されるものだから。かと言って、ハンデをつけると言うのも……どうしたものか。

 

「“まだ続きがあるみたい”」

「へ?」

 

 頭を捻っていると、先生がそう言って折り曲げられていた紙の下半分を読み上げ始めた。

 

「“えっと……”」

『でも、それだけじゃかなり差がついちゃうよね?だから、ちょっとした特殊ルールを設けようと思うの』

「特殊ルール?」

 

 なんだろう、ミカの言うところの特殊ルールとやら……ビーチフラッグとしての体をなさなくなってしまったら、意味がないと思うのだけど。

 

『トリニティの子とアリウスの子で、二人一組を組んで。ビーチフラッグに触れるのは、必ずチームで同時にじゃないとダメ。どちらか片方だけで触った時点で、失格とみなすよ』

「……なるほど」

 

 考えたな、ミカ。これなら身体能力による差も大幅に縮まる……というよりも、そもそも意味を為さなくなる。アリウス生は、フラッグまでトリニティ生を無事に連れていく。トリニティ生は、アリウス生について行きつつ、旗に触れる機会を窺う。

 協力を促せるのはもちろんのこと、肉体の性能差も無視……理にかなってる。ようで、実は結構危うい気もするのだ。

 指示通りに動けなかったら人によってはヘイトを貯めるだろうし、厳しい指示をされたら苛つくのが人情ってものだろう。相当、俺たちの善性に依った提案。ミカらしいといえば、ミカらしいけどさ。

 

『それと最後に、もう一つ』

「まだ?」

 

 これ以上何かルールが?

 

『過度な暴力……銃とか、爆弾以外はなんでもアリ』

「……」

 

 ミカ?それ過度じゃないなら暗に暴力もありって言ってるように聞こえるんだけど?

 

「あら……」

 

 冷や汗を垂らしていると、わざとらしく高い声をさせたハナコが呟く。

 

「過度な暴力だなんて……多少荒々しいのも嫌いではありませんが、そんな怖いことをする方はいませんよね?」

「……えっ、と」

「多少荒々しいのもって何!?」

「そうだよぉ!!不純!!もっとぷらとにっくな、こう……!!ねぇ!?」

「あら、私はただ暴力は良くないと……」

 

 ……まあ指摘するべき点はコハルとアシリがやってくれたからいいとして。なるほど、それが狙いか。

 暴力が公に、とまでは言わずとも、暗に許された状態で、トリニティ生が怪我を負わされることなく、無事に帰ってきた。確かにうまくいけば、立派な成果の一つとなるだろう。傷一つない姿を写真に収めれば、多少の信憑性も増す。

 ただ、ただなぁ。

 

「……」

「な、なんだその目線は」

「わ、私がフナムシみたいに低俗な存在だって言いたいんですか……!?」

「いえ、全くそんなことは」

 

 こっちにはそういう手加減が苦手そうなぶきっちょさんが、若干二名……それに、アツコも割と自分の強さを理解してない面があるし……アズサはまあ、大丈夫……か……?一回アシリをグーで殴ったらしいけど。

 ……いや、こんなんじゃダメだ!お姉ちゃんとして、こういう場面では妹のことを信じて見送る。そして何かあったなら、一緒になんとかしてあげる。それこそがお姉ちゃんに課せられた責務。

 

「……とりあえず、チーム編成でもしてみますか?」

「私はアリウスとトリニティ、どっちの枠に入ればいい?」

「アズサは人数の兼ね合いもあるので、今回はトリニティ枠で」

「……これさ。アズサと組んだチームが強すぎない?」

 

 む、確かに……二人もアリウス生がまとまることになってしまうな。

 

「仕方ない。先生……先生(デバフ)を入れてバランスを保とう」

「アズサ?ダメですよ、そんなこと言ったら。めっ。デバフめっ」

 

 ……アリスあたりからの悪影響かな。妹が純粋すぎてお姉ちゃん心配……いやまあ、確かに全員が同時にフラッグを触らなきゃいけないってこの状況なら、人数が増えることはデバフとも取れるかもしれないけどさ。

 

「ごめんなさい先生、妹が失礼なことを……」

「“大丈夫。それに、強くないのは事実だからね”」

 

 どこか遠い目をしながら、先生は小さくぼやいた。やれマスコットだやれデバフだ、酷い言われよう……というか、それより。

 

「撮影係はどうしましょうか」

「あ、それなら私に……ピーちゃん!おいで!」

『ピィ!』

 

 あ、いつぞやの鳥……なんか若干海仕様というか、機械にサングラスっているのかな。

 

「これ、お願いしてもいい?」

『ピー!』

 

 機械に対しても優しげな口調で、労わるように優しく触れて、アシリは黄色い鳥にカメラを取り付ける。鳥にカメラの操作ができるのかと思わないでもないけど、そこはマユミの発明品。なんとかなるのだろう。

 ……というか、ピーちゃんとやらがアシリに懐いて、マユミをつつく理由がわかった気がする。

 

「よし、と……これで問題なしだよぉ!」

「ありがとうございます、アシリ」

「大丈夫!可愛い妹のためだからわぷっ!?やめ、やめてぇ……!?顔に水鉄砲をかけないでぇ……!?」

「はぁ……」

 

 全く、油断も隙もない……少し目を離したら姉を名乗り始めるんだから。全く、どうかしてるぜ。

 

 

 

 

 かくして始まった、アリウス分校とトリニティ総合学園のチームわけ。ルールはシンプルに勝ち抜けのジャンケンとなり、その結果。

 

「そ、その、よろしくお願いします……!ど、どうぞ盾にするなり、肉壁にするなり、踏み台にするなり、お好きにお使いください……えへへ……」

「……あんた、共闘の意味わかってる?」

 

 一組目。コハル、ヒヨリペア。ピンクと水色、二色の織りなすコントラストは割とどうでもいいとして。体格が大幅に離れているわけでもなく、相性は悪くないと言えよう。

 

「足引っ張るんじゃないわよ」

「へ、へへ……少し自信はありません……人の重荷になるのは得意なんです、体重も全然減りませんし、そのせいで」

「ちょ、ま、ごめん!私が悪かったから、その……そんなに、卑下しないで……」

 

 あくまで体格は。性格上卑屈になりやすいヒヨリと、言葉がキツいコハル。互いにコミュニケーションには苦労しそうである。

 

「……また会ったな、阿慈谷ヒフミ。その節は世話になった、それに……アズサとも、交流を続けていてもらえて……」

「わ、え、えっと!そ、その、私は好きでアズサちゃんとお友達をしていますので、頭を上げてもらえると……」

 

 二組目。ヒフミ、サオリペア。補習授業部、スクワッド、両者のリーダーが一つのペアになった。

 

「……そうか、そんなにも……そうか。アリウスとトリニティの、架け橋……ふふ……あいつが言った通りになったな……」

「さ、サオリさん……?」

「この戦い、私に任せろ。アズサの友達であるお前に、傷一つつけさせはしない」

「は、はいっ!私にできることがあれば、なんでもおっしゃってください!」

 

 面識が全くないというわけでもなく、そこまで遠い関係というわけでもない。また、アズサと根気強く付き合った経験が活きたのか、多くを語らない、少々無愛想とも取れるサオリの言動の真意をうまく深掘りすることができる。

 精神的な相性は最高峰。最も安定したペアといえよう。

 

「……アシリか。まあ、知り合いだっただけマシだね」

「み、ミサキちゃん……よ、よろしくねぇ……」

 

 三組目。アシリ、ミサキペア。ヒヨリの扱いに多少の覚えがあるミサキであれば、アシリに対するフォローもさして難しくもないかもしれない。

 

「……まあ、ほどほどにやろっか」

「や、ヤダっ!やるなら全力!勝ちに行くよ!」

「わかった。わかったからそれ、しまって」

 

 一方で、こういった場面では緊張により暴走しがちなアシリを、ミサキがどれだけ止められるか、という勝負でもある。深くため息を吐きながら、ミサキはアシリから変身ベルトを取り上げた。

 

「……むぅ。せっかくなら、私もトリニティの人たちと組んでみたかった」

「いずれにせよ、戦いの中で交流することになる。現状一番勝ちに近いのは、きっと私たちだ。先生、指揮をお願い」

「“任せて。近接戦闘が主になるから、怪我には気をつけてね”」

 

 四組目。アズサ、アツコ、そして先生のスリーマンセル。アツコとて、アズサと協力して戦ったことがないわけではない。互いに中距離でのサポートを行う立場であるゆえ、むしろそういった戦いには慣れていると言えるだろう。

 だが一方で、先生。彼もデバフだなんだと言われていたものの、全くの無力、とも言い難い。作戦の立案、指揮。人数が一人多いということは、それだけ役割分担も楽になるということ。しかしこの戦いの勝利条件を考えれば、一長一短といったところ。

 

「……ってことは、余った私たちが……」

「ペアということになりますね。よろしくお願いします、桐花さん」

「あ、はい」

 

 残る一組はハナコ、スオウペア。補習授業部の中でも顔を合わせたことがない、数少ない人物。着ぐるみ越しでの対面を含めれば、唯一ハナコのみがスオウと話したことのない人物だ。

 

「あまりこういった戦略は得意ではありませんが、可能な限り尽力いたしますね」

「あ、はい」

 

 とはいえ、だからと言って特に何があるわけでもない。当たり障りのない自己紹介をして終わるだけ。

 

「少し耳を」

「……はい?」

 

 かと、思われた。しかしスオウは、ハナコを呼び寄せる。ゴニョゴニョと耳打ちをして、囁かれた内容は。

 

「……え、えぇっと……?」

 

 ハナコさえも、大いに困惑させるものであった。

 

「そ、それじゃあみんな、準備いいね……!?」

 

 かくして、チームは出揃い、アシリが合図をさせるべく、黄色い鳥に右手を挙げて合図を送る。アシリがうつ伏せになったのを見て、大きく一声。

 

『ピィイイイイッ!!』

 

 戦いの幕が、切って落とされた。

 

「わ、わっ……!」

「悪くないペースだ。焦るな、足から力を抜け。無駄に力を入れれば負傷し、結果出遅れることになる。焦燥と意思は隔絶しろ」

「は、はいっ!」

 

 真っ先に動いたのは、サオリとヒフミのペア。あらかじめコツでも教えていたのだろうか、その身体能力において特段秀でることのないヒフミも、他の補習授業部の生徒よりもかなり早く動き出していた。

 しかし一方で、サオリにとっては枷も同然。足並みを揃えて走り出すのは、堅実で愚直な彼女らしいと言うべきか。

 

「お、お先に失礼します、サオリさん……!」

「なっ……ひ、ヒヨリ!?」

「コハルちゃん!?」

「……意外と乗り心地いいわね」

 

 だからこそ、ヒヨリに追い抜かされる。正確には、コハルを背負ったヒヨリに。

 ヒヨリは最初から、二人で走って旗を目指すつもりなど毛頭ない。最初から勝負を投げ出しているかのようで、だからこそ思考を巡らせた、その結果の選択。

 

「……理にはかなっているな」

 

 内心ヒヨリの成長を噛み締めながら、ならばこちらもとヒフミの膝裏へ手を伸ばしたところで。

 

「ぎゃあぁあああああっ!!!」

「っ!!」

 

 全員の耳を、甲高い声が劈いた。聞き覚えのある叫び、これは。

 

「い、いたぁい……!いたいよぉ……!足攣った……!攣っちゃったぁ……!」

「……何やってるの?」

 

 アシリの悲鳴。誰一人振り向くことなく、何が起こったのかは察していた。要するに、力みすぎたのだ。

 

「足借りるよ。ゆっくり伸ばしてくから、痛かったら言ってね」

「い、痛いっ!!痛いよミサキちゃん!!全然痛い!」

「そ……まあ、止めるなんて誰も言ってないんだけどね」

「そんなぁ!?」

 

 長い足を抱えて、ミサキはアシリの奥へと歩みを進める。あのペアは脱落だろうと、誰しもが後ろからの警戒を解いた。

 

「わばぁっ!?」

 

 それが悪かった。気付けなかったのだ。

 

「い、今の声……は……!?」

 

 後ろから巻き上がる砂塵。大きな波の音に。

 

「わ、た」

「掴まれ!」

 

 急いでヒフミを抱きかかえ、翻された砂から守ろうとするサオリ。しかしその必要はなかったようで、予想したような威力がその砂には込められていなかった。

 

「ちょ、後ろっ!」

「へっ……う、うわぁああっ!?」

 

 せいぜいが顔面を砂まみれにするか、もしくは足場をなくしたことにより、体のバランスを崩すか。前方で大きな被害を被るヒヨリ達を見つめ、そして確信する。こんな不気味な現象を起こすことができるのは、この場においてたった一人。

 

「やってくれたな、スオウ……!」

「んー、ちょっと威力が弱かったですかね……?」

 

 スオウがやったことは単純だ。始まってすぐに、うつ伏せの状態のまま地面に下半身を埋める。そのまま前転の要領で足を反対側に倒し、そして地面を大きく持ち上げたのだ。

 

「……末恐ろしいですね」

 

 ハナコがスオウにされた指示は、たった一つ。始まったらすぐに、前方へ走れ。それだけだ。

 

「お、なんとか」

 

 前へ、また前へ。徐々に巻き添えにする砂の量を増やしながら、波はそれでもなお勢いを緩めない。そのまま旗へと到達し、大きく上方へと巻き上げられ、高く天に舞う。

 それを見逃さず、髪の毛ロープで掴もうとして。

 

「させない」

「……貝殻?」

 

 それは投擲された貝殻によって、最も容易く弾かれた。

 先程の行動でサオリはヒフミを庇い硬直。ヒヨリとコハルは転倒した。アシリに関しては未だ戦いの舞台にすら上がれていない。であれば、この妨害は。

 

「アツコ……どうやって」

「スオウの考えそうなことくらい、簡単に想像がつく。それより、油断してていいの?」

「……?」

「こっちにはアズサもいる」

 

 直後、旗の方向から敵意、視線。旗よりもさらに高く跳躍したアズサが、何かを投げつけた後のような動き。爆弾、閃光弾?否、砂だ。

 

「なっ」

 

 砂により横方向への加速を得た旗は、スオウを目掛けて迷いなく飛んでくる。

 

───どちらか片方だけで触った時点で、失格と見做すよ。

 

 つまりは、特殊ルールを利用した自らの排除。だが、種明かしが早すぎる。この程度なら問題なく避けることができると、即刻横方向へ強く、強く移動しようとして。

 

「“わっ”」

 

 その先には、先生。

 

「っ……!!」

 

 瞬間、数多の思考がスオウの頭を駆け巡る。先生がなぜここに、否、それはいい。果たして自身の加速により発生する衝撃波に、先生は耐え切れるのか。手加減、どの程度?アロナの防御が銃弾や爆発物以外にも反応するとは限らない、例えばゲーム機だとか、それを思えば。

 

「わっ、とっ、とっ、と!?」

 

 急ブレーキに伴って大きく態勢を崩し、かと言って体を立て直そうとすれば、またしても先生へのダメージという懸念が。いた仕方なく、そのまま転ぼうとして。

 

「“大丈夫?”」

「わっ……あ、は、はい……」

 

 先生に体を支えられ、なんとか転ばずに済んだ。が、相も変わらずスオウへと迫る旗。アズサの立案であるこの作戦は、先生によるスオウの拘束の意味合いもかねている。

 しかしそんなことを考えるまでもなく思考がフリーズしたスオウは、そのまま旗を受けかけて。

 

「えいっ!」

「っ!?」

 

 ハナコが旗へと浴びせたバケツいっぱいの海水により、それは防がれた。

 

「なっ……!いつから……!」

「ふふふっ……せっかくですし、アズサちゃんも水遊びをしていきますか?そぉ、れっ!」

「わぷっ……!」

 

 続く二杯目の海水。次はアズサの着地地点を狙い、地面をぬかるませ、さらに三杯目をアズサへ。いつからか。いつバケツを取りに向かったのか、アズサはハナコにそう問いかけた。

 いつからかと言われれば、アツコが貝殻を投げた時点から。スオウの作戦の失敗、そしてそれを利用した強制退場。そこまで予測し、最大の武器(バケツいっぱいの海水)を携えて戻ってきたのだ。

 

「桐花さん、しっかり。勝利は目前ですよ」

「きゃぁっ!?って、ハナコさん!?」

「……うふふ……そういうところは、アズサちゃんにそっくりですね」

「へ、な、何が!?」

 

 先生による妨害もそうだが、冷静なようでいて、存外可愛らしい反応をしてくれる。ともあれ勝利は勝利だと、落ちた旗を取りに向かおうとして。

 

「あ、まずい」

「え……な、なにがぁ……?って、あれ……」

 

 唯一ハナコが、計算に入れ忘れていた。否、入れることができなかった要素。

 

「いつっ……!いたぁい、ささったぁ……!!何これ……旗……?」

「あぶな……なんとか間に合った……」

 

 アシリの不運体質。敗因を挙げるのであれば、そのくらいのものだ。

 アシリの額に突き刺さり、ついでにミサキに掴まれたフラッグを見ながら、ハナコは諦めのため息をついた。

 

 

 

 

「んー……まさか、あんな負け方をするとは……」

 

 久々にやったもんで、ちょっと肩が疲れたな。確実にあれで全員捕れると思ったんだけど、アズサ達が予想して立ち回ってきたのは予想外だった。

 

「つ、疲れました……!」

「悪くない動きだった。運動部などには属していないのか?」

「い、いえ、特には……」

「そうか……捨て置くには惜しい才な気もするんだが……」

 

 みんなも、ちょっとぐらいなら打ち解けれたみたいでよかった。サオリの打ち解け方はなんというか、ちょっと視点が違う気もするけども。

 

「ハナコさん、助かりました……危うく、失格にさせられるところで……」

「いえ、結局は負けてしまいましたからね……ここはやはり、一枚脱ぐことによってお詫びして……」

「何言ってるんですか!?」

 

 何言ってるのこの子!アシリとは別ベクトルで何言ってるのかわかんなくて怖いんだけど!

 

「……はぁ……それを言うなら私の策も結局、ただピンチを招いただけですからね」

「そんなことはないですよ。凄まじい動きでした……ちょっと激しすぎて、思わず声を上げてしまいましたが」

「……言い回しが……その……」

 

 止そう。これはあれだ、アシリの突発性姉っ子症候群と似たようなあれだろ。気にしたら負け。

 

「それにしてもスオウさん、随分と力がお強いんですね」

「いえ、それほどでも。ミカには劣りますし」

 

 ……まあ逆に言や、ミカ以外に俺より力が強い奴なんて見たことないんだけどね。ツルギやアリスも強いことには強かったけど、腕力だけならまあなんとかなる程度だったし……ヒナは弱ってたからノーカウント。ホシノやネルに関しては知らない。

 あとは……誰かいるのかな。後で『ノート』でも見返してみようか。

 

「あ、スオウちゃぁん!」

「む、アシリ」

「そうだよ!完全勝利お姉ちゃんのアシリだよっ!」

「はいはい」

 

 最近いっつもこんなのばっかりなんだから。ハナコの方から「ひょっとして伝染するのでしょうか」とか聞こえた気がするけど、多分気のせいだ。気のせいったら気のせい。

 

「それで、敗者を嘲笑いにきたんですか?」

「しないよぉそんな性格の悪いこと!これ、これ!」

 

 そう言ってアシリが手渡してきたのは、先ほどまでピーちゃんに搭載されていたデジタルカメラ。

 

「アリウスの代表者はスオウちゃんってことになってるから、中の写真を精査して欲しいんだ……お願いしていい?」

「ああ、なるほど……そういうことなら、任せてください!」

 

 どれどれ……おお、意外とブレが少ない、というかほとんどない。ひょっとして、マユミがこのために撮影用プログラムでも搭載してくれたり……そいえば、最近シオと何やら忙しそうにしてたな。それ関係だろうか。

 あ、この写真かわいい。ヒヨリがコハルを背負おうとしてるシーンだ。こっちの写真も、サオリのカッコ良さが強調されてて……短い試合だったけど、たくさん写真が撮れたみたいで何よりだ。

 

「ふむふ、む……?」

 

 その中で、ふと目についた写真があった。

 

「これ……誰だ……?」

 

 右側に写っているのは、先生。その先生に両肩に手を乗せられ、惚けるように顔を赤らめて、彼の顔を見据える生徒が一人。

 

「この、髪型……」

 

 結んである、ってことは。

 

「……」

 

 自分の後ろ髪を触ってみると、引かれる感触。そういえば髪を結んでたんだっけ。

 ってことは、この写真に写ってるのは間違いなく俺なわけで。

 

「っ……!」

 

 なんでこんな表情してるんだろ。そう考えるだけで、体の奥底がワーっと熱くなって、込み上げてくる感触。どうしてくれようかこの写真、消すか?いやしかし勿体ない、勿体ないってなんだ、でも何かしかの手段で保存しておきたいし、えぇっと……!

 

「“スオウ?”」

「わひゃあっ!?せ、先生!?」

 

 今の写真、見られてないよな……!?

 

「いきなり後ろから話しかけないでくださいよ……びっくりしちゃいます……」

「“ごめんね。何度か呼びかけては見たんだけど、返事がなかったから”」

 

 先生の声はなんというか、低くて、響いてくる感じがして……後ろから突然やられるとゾクゾクするというか、ゾワゾワするというか……まあ、そんな感じだ。

 

「それは……失礼しました。どうかしましたか?」

「“休憩がてら、ヒフミとみんなの飲み物を買って来ようと思うんだけど、スオウは何か欲しいものはある?”」

「む……」

 

 欲しいもの、か。こういうところって、イマイチ何が売ってるのか分かりにくいんだよなぁ。それに、先生とヒフミの二人だけじゃ流石に十一人分も持って来れないだろうし。

 

「私もついていきます」

「“そっか。じゃあ、少し待ってるね”」

「はい!」

 

 よしよし、そう来れば財布を持って。

 

「す、スオウちゃん、その……出歩くなら、デジカメ返してもらっても……」

「ダーメーでーすー。これは私のですー」

「え、えぇ……?」

 

 ついでにどこかでデータを移すか、プリントするか。どちらにしろ、なんとかしてあの写真を保存しつつ、なき物にしないと。

 

 

 

 

 屋台目指して、ヒフミ達と道を歩いていると、ふと大きなステージが目についた。

 

「あれは……?」

「明日のイベントのための設営、みたいですね……すでにDJさんが現場入りして、配置も指示しているみたいです」

「へぇ……」

 

 あれがB.o.B……裏の世界のDJか……犬だな。それもヨークシャーテリアだ。かわいい。

 

「おいそこの!チンタラ運んでるんじゃねぇぞ!?つかテメっ、そーじゃねぇだろ!頭空っぽかぁ!?考えろや!それの配置は向こうだろうが!」

「え……で、でもさっきは」

「なんだ?何かあるか?」

「い、いえ……なんでも……」

 

 前言撤回。まるで可愛げがない駄犬だった。なんだあのクソ犬。やっぱり裏の世界にも、碌じゃない大人はいるみたいだ。

 

「うちの者が失礼しました……我々の教育が行き届いておらず……」

「ふん。まァいいさ、一度了承した仕事だ。ギャラも貰ってるしな。だが、こうもイラつかされたんじゃあ手元が狂っても仕方ねぇ。そう思わないか?」

「ど、どうかお許しを……」

「……酷いな」

 

 ……なんかだんだん見てて腹立ってきたな。流石に表立って文句つけるわけにはいかないけど……このくらいならまあ、大丈夫だろ。

 

「えいっ」

 

 指で小石を弾いて、角度を調整してサングラスを吹き飛ばす。そうすると、可愛らしいまんまるくりくりのお目目が現れた。

 

「おぉ!?なんだぁ!?雹か!?」

「ふん。そっちの方が、まだ可愛げありますよ」

 

 ついでにケツのところにも穴開けてやろ。角度調整が難しいけど、俺なら……あ、アロハ柄パンツ。変わってるなぁ。

 

「なっ……ず、ズボンが……!お前ら、ここの設営しとけよ!私は少し席を外す!」

「は、はいっ!」

「ようやくいなくなった……これでやっとまともに作業が進むぜ……」

 

 天に代わって、お姉ちゃんがお仕置きよ。なんて、ね。

 

「“……スオウ、何かした?”」

「わ、ワタシナンノコトカワカラナイナー」

「“気持ちはわかるけど、ほどほどにね”」

「わかってますよ」

「……?」

 

 そんなこんなで、海の家の方へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 少し場所は離れて。ステージから、B.o.Bの楽屋へと向かう道。

 

「チッ……なんだってんだ、一体……」

 

 悪態をつきながらも、着替えを求めて移動するB.o.B。だがその道中にて、おかしなことに気づく。

 

「……あん?んだ、ここ……」

 

 明らかに見覚えのない場所。道を間違えたかとも考えたが、そんなはずもない。ステージから楽屋へは一本道。間違えようがないのだ。

 

「……まさか」

 

 仮にもブラックマーケットに君臨するDJとして、裏社会を生き抜いてきたB.o.Bの勘が告げていた。此処は、まずい。

 

「っ……!やはり……!」

 

 来た道は閉じられており、引き返すことすらできない。そして草むらの中から聞こえてくる、数人の息遣い。獣人のそれとは位置が、高さが違う。生徒のもの。

 戦っても勝ち目は、ない。

 

「ひっ……!」

 

 道とも呼べない横道に逸れ、難を逃れようとした、次の瞬間。

 

「がっ……!」

「ナイスヒットォ!ドンピシャだ!」

「まさか本当にDJ B.o.Bを捕まえれるとはな!」

「はっ、当たり前だろ!?私たちがこの偽の道を作るのにどれだけ苦労したと思ってやがる!」

 

 銃弾が眉間を穿ち、そして完全に意識を失った。動くことさえもできずぐったりとするB.o.Bを持ち上げ、しげしげと見つめて。

 

「いずれにせよ、これでヘルメット団のお祭りもパー、に……なぁ、こいつなんでパンツ丸出しなんだ?」

「さぁ……著名人って変わったやつ多いから、そういうのじゃね?」

 

 そんなどうでもいい疑問を抱いた。




すみません急用につき更新が一日遅れました……完全に配分ミスです。気をつけます。
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