海の家を離れ、サオリ達と合流する前に。ふと気になって、ミサキ達……妹との情報の共有に回ったミサキ、アツコ、アズサ、コハルの方へと足を向けてみる。ヒフミと先生は、先へサオリたちの元へ向かわせて。
なぜ気になるのかと言えば、それは……妹たちに情報を共有するってことは、分隊長の子達……シオもそこに含まれるわけで。
「じゃああんた達、ずっとお姉ちゃんと一緒に行動してたの……!?何よそれ、ずるい……!!ずるい、ずるいずるいずるい……!!」
「ごめ、ごめんなさい……!?」
こういう情景が、ありありと目に浮かんだから。うん、予想通りだったかな。
「ごめんなさいじゃないわよ……!過ぎ去った時間は戻らないの……!私の言いたいことはそうじゃない、そんなこともわからないの……!?」
「え、えっと……それは、その……」
「ていっ」
「あぅっ!?」
シオ、最近は落ち着いてきたと思ってたけど……やっぱり、アリウスの関係者以外だとまだ難しいのかな。チョップ越しの感触が震えてる。
ただ、それはそれとして。
「シオ、知らない子を怖がらせちゃダメでしょ?」
「お、お姉ちゃん!!」
「私がいなかったから、この子に嫉妬したんですか?」
「……」
何も言わずに少し間をおいて、そしたらシオはこくりと頷いた。まあ、怖がらせる云々は俺も人のことを言えないかもしれない、けど。
「……確かに、せっかくの海なのに一緒にいれないのは、嫌ですよね。ごめんなさい。でも、人にあたるのがよくないのは、わかりますね?」
「……はい……ごめんなさい、そこのピンク髪……」
「えっ……う、うん……」
大人しくなったシオを不思議に思ったのか目を丸くしながら、心ここに在らずといった感じでコハルは謝罪を受け入れた。
まあそれはそれとして、シオを放置してたのは俺の責任だし。
「するべきことが終わったら、一番最初に私と遊びましょう!それで、いいです」
「いい!!もちろんよ!!」
まだ言い切ってないんだけどなぁ……納得してくれたようで何より。
「シオは一人でここに?」
「いえ、さっきまでそこにトウと、ついでにその仲間が……」
「おぉい!シオ!」
などと話していると、噂をすれば、と言うべきか。飲み物や屋台の食べ物を抱えたトウ、手を振りながらこちらへ走ってきていた。その後ろには、第三分隊の妹も。
海の家……に行った割には、すれ違わなかったし。多分、別のお店に行ったのかな。
「一人でお留守番してたんですか?」
「ううん、私が……日差しで、調子を悪くしちゃって……そしたら、頼んでもないのに、あの子が……」
よく見れば、シオがいるのはパラソルの下。首元には濡らしたタオルを巻いている。気付けなかった。
「……私なんて置いて、みんなと遊べばいいのに……その方が……もっと、楽しめるのに……」
「シオ」
相変わらずやわらかいほっぺ。すべすべしてる。
「トウ達は、あなたと遊びたいんですよ」
「……うん」
「待たせたね、シオ!体調は大丈夫かい!?他の人に迷惑をかけていないだろうな!」
「うるさいわね……体調は平気よ、このくらい……」
うん、体調はね。迷惑は思いっきりかけてたけどね。
「おや小隊長、ここで会うとは奇遇だね。さっきアズサを向こうで見かけたよ。事情も聞いた。相変わらず、誰彼構わないで首を突っ込む奇特な趣味をしているんだね」
「はははっ、そんなんじゃないですよ」
シオにペットボトルを開けて手渡しながら、器用にこちらに話しかけ続けるトウ。シオにはかなり世話を焼いてるみたいだな。
「途中、ミサキとアツコも見かけた。そこの小さい子がトリニティの仲間かい?」
「そうですよ、下江コハルさんです!かわいいでしょ!」
……ん、待てよ、小さい子……コハルって、ちょっとだけ俺より身長……止めよう。
「うん、なかなかに珍しい翼を持っているんだね。アズサと仲良くしてやっておくれ」
「は、はい……」
コハル、完全に拾われてきた猫状態だ。こうなるのを見越してたから、アズサをつけて一緒に行動してもらってたんだけど……まあいいや。その辺は追々。
「それじゃ、私達は一旦離れますね!」
「ああ、のんびりと待たせてもらおうじゃないか。なあ、シオ」
「お、お姉ちゃん!約束っ!約束だからねっ!!」
「はい、もちろん!」
若干放心状態なコハルの手を引いて、アズサを見かけたらしいという店の方向に向かってみる。すると、ふとコハルが我に返って。
「ちょ、ちょっと!もう一人で歩けるから!」
「そうですか?」
子供のような扱われ方が嫌だったのか、コハルは少し涙目でこちらを睨みつけてきた。
「アズサ達は?」
「……別々。今頃、情報も共有し終えてると思う」
「手分けしたんですね」
「……私が言い出したの」
コハルが……なるほどなるほど。人見知りの傾向がある、コハルがねぇ。
この子が少し辛辣ともいえる態度をとるのは、緊張や不安の裏返し。アズサから聞いた話から察するに、そういうことだと考えていた。
「一人でできると思ってた……気を遣われる覚えなんてない、って……実際、できることにはできた……できた、けど……!」
多分、コハルなりに自力で頑張ってみたかったのだろう。しかしながら。
「シオに詰められてしまったと」
「そうよっ!!なんなのよあいつ、怖すぎる!!」
「あの子はちょっと、私への気持ちが大きいところがあるので……そういうところも可愛いんですけどね」
よりによってシオに、かぁ……分隊長の中でも、特に初対面でのコミュニケーションが難しいシオに……不憫な。おなじ分隊長でも、ヤコやヨセ……せめて、フィリあたりなら、と。
「フィリ!何してるんですか?」
噂をすればというやつか、フィリは浜辺で何かをせっせか作っていた。これは……お城……いや、アリウスの校舎か。
「あ……小隊、長……えっと……レイと……砂遊び、対決……けど……うまく、できない……」
「んー……水の量が足りてないかもしれないですね。こんな風に、海水をもう少し混ぜると……」
「おお……固まる……すごい……」
……それにしてもフィリの手、おぼつかないな。少し震えてる。
「フィリ、いつからこれを?」
「ん……?一時間……くらい、前……?」
よく見てみれば、作ってあるのはこれだけじゃない。奥の方にいくつか、家を模したような砂の像と……その奥にある、明らかに俺よりもでかいあの塔は、多分レイのだな。あの粗雑さがそれらしい。
「少し日に当たりすぎましたね。帽子をかぶって日陰に行って、水分をとる。それから、しっかり休みましょうね」
「……でも……レイ、まだ元気……」
「あははははっ!どーどー!?フィリ!!まだまだおっきくなるよー!」
「あの子は……特殊な訓練を受けているので……」
具体的には、シアン謹製の地獄……を、少し緩めたものを。
「……わかった……休む……」
ゆっくりとした足取りでフィリは木陰に向かい、水を飲み始める。少し待っていると、幾らか顔色も良くなったようだ。
「……うん……もう、大丈夫……元気……行って、いいよ……?ありがとう……」
額に手を当ててみると、おおよそ平熱。脈におかしなところもないし、呼吸も安定している。うん、これなら大丈夫そうかな。
「わかりました……レイーっ!!フィリの調子、余り良くないみたいなので!!見てあげてくださいね!!」
遠くから「りょーかーい!!」と、はっきりとそう聞こえたのを確認して、フィリの頭を軽く撫でてから、改めてアズサ達の方へ向かい始める。
「……」
すると、後ろから何やら視線を感じて。振り向くと、コハルが不思議そうな目でこちらを見ていた。
「どうかしましたか?」
「え、いや、その……なんでも、ない……」
「本当に……?」
コハルの周りを回りながら歩き、しげしげと視線を向けていると、観念したとばかりに目を瞑って。
「わかった、言う!!言うから!!言うからその変な動きやめなさいよ!!」
「はい、やめます」
両手を挙げて、降参のポーズ。手をひらひらさせていると、自分が狙い通りの動きをさせられていたことに気づいたのか、コハルが白い目で見てきた。
数拍おいて、ため息を吐いて。
「別に……ただ、意外だっただけよ……」
「意外?」
意外だと思われるような行動……何かしたっけな……?
「あんたの言うところの、その、妹……との、話……」
「……あー」
なるほど、そっか……コハルは、俺のあの放送を見てたし。正義実現委員会として話を聞いてただろうし。だから怖がられてるかも、って話だったもんな。
『アリウスの白い悪魔』が、妹に対しては普通だ、なんて知ったら、意外だと思われるのも仕方ないだろう。
「その、あの放送については演技でしてですね……」
「放送?」
「ん?」
「え?」
と、いうことかと思ったけど、どうにも違うらしい。
「私が……その、アリウスの白い悪魔だから、妹にあんな風に接していたのが意外だったのかと」
「そうじゃない……それもあるけど、そうじゃないわよ」
「じゃあ、どうして……」
「……よ」
「なんて?」
コハルは呆れたように、すうっと息を吸って。
「あんたが姉を名乗る異常者だって、アズサから聞いてたからよ!!」
「っ!?」
大気が裂けるほどの大声で、わっとそんなことを叫んだ。
「あ、姉を名乗る異常者?」
「そうよ!出会ってすぐにアズサのことを妹扱いして、他の子達に対しても節操なし!控えめに言って頭がおかしい!!」
「ひ、控えめに言って頭がおかしいっ!?」
なんて酷い言い草だ。いや、言われ慣れてるけどさ……妹に言われるのと、そうじゃない人に言われるってのはかなり違うことであってだね。
「ひょ、ひょっとして私を怖がってたのって」
「妹にされると思ってたからよ!!誰彼構わず出会えばすぐに妹にするって話だったし!隙あらば抱きついてきたり撫でてきたり、一緒にシャワーに入ったり!!かと思えば、ハナコのえ、えっちな話には抵抗するし!」
「ひょ、ひょっとして私、死刑判決されてましたか!?」
「そうよ!!えっちなのはダメ!!死刑!!」
い、いや、俺は別に……お姉ちゃんが妹を撫でたり抱きついたりするのは普通だし、一緒にシャワーだってアリウスじゃみんなそうだし……別にえっちなことじゃない、よな……?
……あれ、でも。俺の性別、というか、前世の性別って、男で……一応その、異性と一緒にシャワーに入ってる、ってことになるのか……?いやでも、別に性的な目で見てるわけじゃないし……いや、よく考えたらまずいのか……!?
「え、えっち……私って、えっちなんでしょうか……」
「そうよ!!」
「お縄についてきます……」
「ちょっと!?」
シアン、アンナ。俺、暫く獄中で生活することになりそうだから、できれば俺じゃなくて妹の方を見守っててあげてほしいなぁ。
「わ、悪かったわよ、言い過ぎた!死刑はその、言葉の綾というか……そっ、それに!!それが間違ってたって話を今しようとしてたのに!!」
「……?」
冗談めかして少しからかっていると、コハルが改まってそんなこと言い出す。そういえば、意外だった。って、話だったか。
「……その……別に、嫌われてるわけでもないみたいだし。アズサの話も、よく考えたら悪いことばっかりじゃなくて……叱ったり、心配したり……別に私は、お姉ちゃんとかいないけど……先輩みたいで……」
「コハルさん……」
「とっ、とにかくっ、私はっ!……あんたのこと、誤解してた……怖がって、ごめん……」
いやまあ、えっちなやつは中々酷い誤解だとして。別に姉を名乗ってるのは間違いじゃないし、その辺は誤解ってわけでもないんだけどなぁ。コハル、ちょっとチョロくて心配になってくる。
……でもまあ、そんなコハルだから、アズサを助けにきてくれたのかな。裏切られたって、そう思ったっておかしくなかったのに。
「……な、なによ」
それでもコハルは、アズサを信じて、助けに来てくれた。
俺のことも、もう既に怖がってはいないのだろう。目の前にいるのが『アリウスの白い悪魔』だと、そう知りながら。
「いーえ、なんでも!ありがとうございます、コハルさん!」
「何が……?」
「これからもずっと、アズサのお友達でいてあげてくださいね!」
にこやかに笑いかけると、コハルはその顔をかぁっと赤くして、俯いて。
「……ま、まあ……別に、そのくらい……当たり前、だし……」
……こうしてると、少し妹っぽいかな。
「いきましょうか」
「撫でんなっ!!」
「はははっ」
ちょっとだけだけど、コハルとは仲良くなれたみたいだ。
◇
アズサ達とも合流した後、ハナコ達との集合場所である林の奥……林に面した道路の脇まで歩き。
「“おかえり。遅かったけど、大丈夫だった?”」
「ただいま戻りました!問題なかったです!」
と、アシリがピーちゃんを持っていない上、何かのタブレット端末を覗き込んでいる……ってことは、今なお索敵中なんだろうか。
「それで、誘拐犯達の拠点は?」
「それについては、私から説明させてもらおう」
サオリが代表して、何かの写真を見せてくる。砂に描かれた図と、たくさんの文字。
砂浜に書いて意見を出し合っていたのか。楽しそうでなにより。
「まず車に乗ってどこかへ逃げたという過程だったが、これはまず間違いないと見ていい。森から道路に向かって、足跡などの痕跡が発見された」
「ふむ……」
中々杜撰な連中だ。だが、だからこそより確信を持てる。誘拐犯が、ヘルメット団と敵対した不良集団だと。
「そして向かった方向だが……私たちは、向こう側……旅行者向けの商店街、とは逆の方向に向かったと推測した」
そりゃまあ……そうか。木を隠すなら森、なんて言葉もあるが、今回は一定期間の滞在が目的じゃない。ヘルメット団への報復だ。もちろん、これも仮定だけど……痕跡を残していったり、わざわざB.o.Bをこのタイミングで誘拐したり。ほとんど間違いないと見ていいだろう。
……しかしそうなると、作戦の綿密さが気になるな。やり慣れていない感じがするのに、誘拐の手段だけは一人前。ちょっとチグハグな印象を受ける。
「そしてあちらに向かえば、徐々に廃れていき……その奥には、今では使われなくなったリゾート地がある。こちらの様子を見つつ身を潜めるなら、おそらくここが最適解。故に我々は、その建物のどこかに身を潜めていると考察し……裏付けるべく、アシリが『ピーちゃん』を使って偵察しているのが現状だ」
サオリ、多分正式名称はピーちゃんじゃないからその呼び方をする必要はないんだけど……まあ真面目な顔で言ってるギャップが可愛いからよしとするか。
「この短時間でそこまで……四人とも、よくやってくれましたね」
「え、えへへ……私も少しだけですが、お役に立てたんでしょうか……」
「もちろんですよ、ヒヨリ!よしよし」
「や、やりましたぁ……」
ヒヨリ、髪が少しベタついてるな。海に入った時か……俺も似たようなものだし、今日の風呂は大変そう───
「いたぁっ!!」
───とか考えてたら、見つかったみたいだ。
思考を追いやって、すぐさまアシリのタブレットを確認。恐らくはかつての海の家、その奥で身を潜め、恐らくは見張りをしているスケバンが二人。
「ってことは、そこまで大所帯じゃなんでしょうか……?」
「さあ、どうだか……最低限、ヘルメット団を相手取れるくらいの戦力は整えてきてるはずだけど……」
「と、とにかくっ!居場所がわかったなら、さっさと助けに」
「いけません、コハルちゃん」
いそいそと準備を始めるコハルを、ハナコが手を引いて静止する。そう、こと今回において、直接戦闘は非常にまずいのだ。なぜなら。
「なんでよっ!?」
「B.o.Bさんを人質に取られる可能性があります。そうなればスオウさん達の力で勝てこそすれど、本来の目的は果たせなくなってしまいますから」
「あ……」
B.o.Bのステージは、明日の夜。いくら耐久力や回復力においてキヴォトスの外の人間……先生よりも優れる獣人であろうと、果たして間に合うか否か。それに、相手の戦力も知っておきたい。
「アシリ、中に潜入できますか?」
「うん、試してみるね」
アシリがタブレットを操作すると、画面に透過状態の文字。俺と初めて出会った時に使っていた、光学迷彩だろう。改めて凄まじいな……マユミは。
「足音でバレないように、慎重に……あっ」
『……今なんか、音しなかったか?』
『そうか?気のせいだろ』
「……慎重にって言ったよね?」
「ご、ごめん……!」
若干ヒヤッとさせられながらも、順調に奥へ、奥へ。するとそこには、数名のスケバンが。
「意外と、人が少ないんですね……」
「何か用事があって出てるか、もしくは……一箇所に纏まっているわけじゃないか。どちらにせよ、ここにB.o.Bがいないならむしろ好都合。私たちには関係のない話だ」
「まあ、それもそうだねぇ……」
やはりというべきかそこにはB.o.Bはおらず、ただ仮の住まいとしているだけ、と言った具合。
「他にも探してみましょうか」
「うん」
それからスケバンを確認できた建物を二件目、三件目。さらに探して、四件目で。
「いた……!B.o.Bだよ……!」
ようやくB.o.Bを発見した。意識は戻っているようで、鎖に繋がれて虚空を見据えている。
「バレないように、話しかけれますか?」
「う、うぅん……頑張ってみる……!」
徐々に近づいてくるB.o.Bの姿。見張りのスケバンを素通りしながら、慎重に、かつ確実に声が届く距離まで詰めて。
「喋るな」
『っ……!?』
「動揺するな、動くな。静かに声だけに耳を傾けろ」
『……』
……アシリ。それ、話しかけるんじゃなくて脅迫って言うんじゃないかな。まあ、下手に騒がれるよりはマシ……ここは一旦、アシリに任せてみるとしよう。
「よし……突然驚かせてすみません。B.o.Bさんですね。ヘルメット団です。貴方を助けにきました」
『……!』
驚きで僅かに体が跳ねるのが、画面の振動で伝わってきた。
「その建物の中に、スケバンは何人いますか……?わかる範囲で構いません。答えられそうなら、答えて」
『み、見張りの人!何か飲み物とかくれやしませんか?もう
『ああ?何言ってんだテメェ、せいぜい一時間半くらいだろ!我慢しろ!』
「……二十人以上、ですね?肯定なら右目で、否定なら左目でウィンクを」
B.o.Bは静かに右目でウィンクをし、それから何事もなかったかのように『すみません』とだけ言って元の状態に戻った。
……意外と度胸あるな、この人。伊達に裏社会で生きてきたわけじゃないってことか。これなら、あるいは。
「どう……?スオウちゃん達なら、人質に取られるより先に勝てる……?」
「個人の実力がわからない限り、なんとも……できる限り、リスクを負うような行為は避けたいです」
流石に分隊長を超える実力者はいないと思うけど、それでも人質に取られてしまえばそれまで。直接戦闘は避けたい。だから。
「なんとか、外まで……そうですね、便意を偽って、外へ連れ出してもらう、とか……」
「べ、便意って……流石に、仮説トイレくらいは用意してるんじゃ……どうですか?」
『……それにしたって、この中で用を足すのだけは勘弁してくれませんかね。私の鼻じゃ、臭くて敵わないんですが……』
『うるさいんだよさっきからお前!!しまいにゃセクハラか!?見張りの私の身にもなってみろ!!』
……どうにも、B.o.Bは頻繁に見張りに話しかけていたらしい。情報収集が目的かな。やり易くなって助かる。
「……中でするのを強要されてるっぽい。どうしよう……」
「ふむ……そうですね」
ちょっとリスクはあるけど、方法がないわけじゃない。よりによって、潜伏場所に海の家を選んだのが仇になったな。もう少し大きな建物や、広い建物だったならまた話は別だったろうけど……幸いにして、今回はそういうわけじゃない。
アシリの鳥によってB.o.Bの居場所はわかってる。だったら。
「アシリ、今から言うことをB.o.Bに伝えてください。いいですか───」
◇
数分後、スケバンの潜伏場所にて。B.o.Bは変わらず鎖に繋がれ、見張りによって監視されている。
B.o.Bの見える範囲では一人だけだが、実際には死角にも数人。そうでない人間は表で見張りがてら休憩をとっており、外にも数名が巡回している。まさに盤石な状況。
そんな状況を打ち破るべく、B.o.Bは。
「み、見張りの方……すみません、少し腹の調子が……!て、手洗いを……!」
「あぁ!?んな服装してるからだろ、ったく……」
もちろん、虚偽だ。これはただ単に、助かるための策。それ以外の何ものでもない。
「さっさとしろよ。私だっていやなんだからな!!」
見張りが後ろを向いて、さっさと用を足すように指示する。この一瞬の隙。
相手は不良、スケバンといえど、多感な年齢の女子高生だ。いくら獣人のものとはいえ、下半身を露出するところなど見たいはずもない。故に、少し。ほんの僅かな間、B.o.Bから視線は外れ、次の瞬間。
「っ、なんだぁ!?放屁か!!?」
即座に振り返るスケバン。
建物そのものが崩れるかのような轟音の放屁かと思った。そのスケバンは、後に仲間に対してそう語ったという。
「なっ……!」
「ふっふっふーん……簡単な話です。見張り?人質?道がないなら……!」
無論そんなはずもない、この音は。
「ぶち抜けばいい!!!」
その通り、建物そのものが崩れる音。桐花スオウが、海の家の壁をぶち抜いた音であった。