ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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【後日談】姐様vsお姉ちゃん、開戦

 壁をぶち抜いた右腕をぷらぷらさせて、ついでに砂埃を払っていると、ふと我に帰ったのか先程まで傍観していたスケバンがハッと息を整えて。

 

「し、襲撃ッ!!襲撃だッ!!」

 

 大声を出して、応援を呼び始めた。これでいい。ここに注意を向けさせれば。

 

「っく、ゲホッゴホッ……!お、お前達……!助けてくれたのはありがたいが、あまりに荒々しすぎやしないか……!?」

 

 ちょっと力込めすぎちゃったな。壁を二枚ぶち抜いたところで止めるはずだったのに、思ったより力んじゃったみたいだ。B.o.Bが少し拳圧の影響を受けてる。

 ……はて、腕というものはこんなに力が入りやすかっただろうか。

 

「おっ、お前っ……!お前ぇっ!!なんなんだ!?ヘルメット団の仲間か!?」

「えーっと……んー……」

 

 そうだな、パタパタヘルメット団だとその子達に被害が及んじゃうし、ここは……よし。

 

「アネアネヘルメット団です!」

「な、何言ってるんだこいつ……!?」

「わからん……!だが、B.o.Bだけは逃しちゃいけない……!」

 

 っと、まずいな。ここでB.o.Bを連れてかれたら振り出しだ。

 

「な、なあ、本当に大丈夫なのか!?お前一人で私を守り抜けるのか!?」

「B.o.Bさん」

「はっ!?」

 

 ってことで。

 

「戦闘の邪魔だからッ!!後ろに、できるだけ飛んでってくださーいッ!!」

「な、あぁあぁああああっ!?」

 

 B.o.Bの襟元を掴んで、思いっきり後ろにぶん投げた。

 これで手筈通り、ヒヨリとトリニティのみんなが総出でB.o.Bを安全なところ……アウトロービーチまで運んでくれるはず。

 

「お、お前あいつを助けにきたんじゃないのか!?」

「え?たった今助けましたよね?」

「あの高さは無事じゃないだろ、絶対!!どうなってるんだ……!『あの人』はこんな奴がいるなんて言ってなかったのに……!」

 

 だから俺の役割は、相手をここに止めること。できるだけ注目を集めて……だなんて、チャチなことは言わずに。できることなら、全員を拘束してしまいたい。

 だからまあ、多少『読めないヤツ』を演じつつ、B.o.Bがすでに逃げ出したってことは隠して。

 

「く、クソッ!!こんなところで計画を台無しにされてたまるか!!」

「じゃあ、戦りましょっか!」

 

 敵は事前にB.o.Bから聞いているように、二十一、二十二……二十三人か。なかなか多いな。

 久しぶりの本当の本気。明白に『こちらを倒そう』という意思をもった相手との対峙。気をつけなければならないのは、俺が『アリウスの白い悪魔』だということはできる限り隠さなければいけないということ。

 あの時、温泉開発部と戦った時と同じ、ハンデを背負った戦い。

 

「相手にとって不足なし……って、とこですかね」

 

 とりあえずは、頭数を減らしていくところからかな。

 

「何者かは知らんが、たった一人水着で襲撃とは間抜けな奴め!!せいぜい後悔を、ぐぅっ!?」

「っと」

 

 前衛を務めようとしたのだろう、ショットガンをもって距離を詰めてくる相手に対して、砂を思いっきり撒き散らす。

 

「にぎゃーっ!?」

「ほい、っと……」

 

 目を一瞬閉じた隙に距離を詰め掌底を用いて顎を打撃、体のバランスが崩れたところで隠し持った結束バンドに神秘を込めて拘束。そのまま地面に転がした。

 

「……あと二十二人」

「っ……!?」

「お、恐れるな!!一人やられただけだ、数の利はこっちにある!!」

「囲め、囲めぇッ!!」

 

 なるほど、シールドを持ったスケバンが俺の周囲を取り囲んで狙いを分散。多少のフレンドリーファイアは承知の上で、それでもなお俺に狙いを集中させない。仮に一人に狙いを定めたとして。

 

「ひっ!?」

「このッ!!」

「……」

 

 ガラ空きになった背後を、後方支援を担う仲間がすかさず攻撃。改めて距離を取り、再び陣形を組み直す。

 うん、悪くない作戦だ。さっき言った通り、数の利をうまく活かしている。確かにこれは厄介だろう、だがそれは。

 

「相手が私じゃなければ……ですけどね!」

「ハッ!!強がりを……!」

 

 周囲から飛来する無数の銃弾。一発一発の弾丸が、重い。流石、ヘルメット団を相手に喧嘩を売ろうとするだけはある。

 だがしかし、だ。

 

「ふんっ!!」

「っ!?」

「な、なんだあいつ、いきなり地面に頭を突っ込んで……!?いや、なんでそんなことができるんだ……!?」

 

 これを、こんなふうに、こうして。

 

「せいっ……!!やあぁあああああっ!!!」

「な、にぃいいいいいっ!?」

 

 地面そのものをひっくり返しちまえば、陣形なんて簡単に崩れるだろう。多少のダメージは承知の上、それでもこれをやるだけの意味がある。

 ミカの真似に過ぎないけど、思ったよりはうまくいったかな。

 

「そこだっ!!」

「くっ……!」

 

 数名、宙に浮き上がったスケバンを追撃。三人ほど減らしたところで、後方支援のスナイパーによる狙撃。予想通りだ。

 

「そこか」

 

 撃たれる感触でおおよその位置を特定、意識を奪ったスケバンのシールドに爆弾を取り付け、神秘を込めて全力で投げつけた。

 

「がっ……!!」

「ナイスヒットー」

 

 さて、他には……確かロケットランチャーを持ってるやつがいるはずなんだけどなぁ。まあいいや、そいつは追々なんとかするとして。

 

「そこ、あとそこ」

 

 把握している限りの中距離、遠距離を担うスケバン、そして放置していた宙に浮き上がっているスケバン。占めて七名の意識を完全に奪い取り、地面に着地した。

 

「……あと半分か」

「っ……!!」

 

 ヒヨリ達は、そろそろB.o.Bを連れていけただろうか。最悪の場合でもアシリがいるし、先生もいる。大丈夫だとは思うけど……と、今はこっちの戦闘に集中だな。

 

「く、そ……!なんなんだ、こいつは……!」

「アネアネヘルメット団です!」

「それはもう聞いた!」

「お、応援だッ!!こいつは異常すぎる!!ここで逃したら、確実に私たちの障害になるぞ!!」

 

 ……少し意外だな。これだけ派手に暴れたんだし、正直言って逃げ出すものだとばかり思ってた。それだったら何度でも回り込んで、心を折っておしまいだったけど。

 何か……彼女達を突き動かすものがあるのか。もしくは、彼女達を束ねるリーダーが優秀なのか。なんにせよ、やりにくいことこの上ない。

 

「っ、繋がった……!き、聞こえるか!!襲撃だ!!たった一人で!!そっちの仲間を寄越してくれ!!」

 

 だからまあ、つまり。

 

『そ、それどころじゃない……やばい、ぞ……こいつら、ただの、不良じゃ……』

「……まさ、か」

「……たった一人での襲撃、でしたっけ」

 

 人数が増えれば増えるほど、完全な根絶には時間がかかるわけで。

 

「誰が自分からそんなこと言いましたか?」

「っ……!!こんなのが……!!あと、何人も……!?」

 

 各所で襲撃をさせておいて正解だったかな。

 B.o.Bの救出、今回の作戦の要とも言えるここに来たのが俺一人である理由は単純明快。ここへの増援、もしくはヒヨリ達への追っ手を防ぐため。

 そのために、アシリの機械で確認された他の建物へサオリ達を向かわせた。みんな優秀だ、今頃制圧くらいしてるかもしれないな。

 

「“スオウ!!”」

「今戻った、こちらも手伝おう!」

 

 と、噂をすればサオリ達と……先生も?

 

「“B.o.Bは無事に送り届けてきたよ”」

 

 なるほど、報告のためか。こっそりと耳打ちされるのに奇妙な感触を覚えつつ、それを理解した。

 

「な、なあ、あれって……」

「ヘルメット……ってことは、敵の増援に……右にいるのは、シャーレの先生……?」

 

 みるみるうちに顔を青ざめさせていくスケバン達。それもそうだろう、先ほどまで自分たちで勝ち目がなかった相手がさらに四人増えて、その上優秀な指揮者まで来てしまったんだから。

 

「あの怯え方……スオウ、一体なにを……」

「普通に戦っただけですよ」

「そっか……かわいそうだね、スケバンの人たち……」

「ちょっと!?」

 

 俺と普通に戦うのが可哀想ってどういうことだ……?

 ……まあ、何はともあれ、だ。

 

「まだやります?」

「う、うぅ……!!くそっ!!くそっ、くそくそくそぉッ!!こんなところで止まれるか!!」

「すべては、姐様のために……!!」

 

 半狂乱になりながらこちらへ向かってくるスケバン達。サオリ達と目線を交わして、仕方なく拳を構えて。

 

「みなさん!ただいま戻りましたわよ!」

「……え?」

 

 突如として耳に響く、場にそぐわない言葉。壊れた海の家の扉を開けて、袋の音をガサガサと鳴らしていた。

 

「アイスは早くクーラーボックスに入れましょう、このままでは溶けてしまいます、し……」

 

 声の主の方へ。目線を向ける。俺だけじゃない、その場にいた全員が、そうした。

 

「……あら。あらあら、皆さん……どうされたんですか?」

 

 俺たちを無視して横を通り過ぎて行く、筋骨隆々な少女。上半身に纏っているのはサラシだけで、惜しげもなくその肌を披露している。張り詰めた皮膚から、隠れた筋肉の凶暴性が漏れ出していた。

 ウェーブがかった髪を、さらりと。指貫グローブをつけた手櫛で解いて、スケバン達の元へ。

 

「う……!うぅっ……!!ね、姐様ぁ……!」

「泣かないでくださいまし。私はちゃんとここにいますわ」

「ねぇざばぁぁあああ……!わだっ、私たち、もぉだめかと……!!」

「……大変、だったのですね。申し訳ございません、私がいない間に」

 

 大きな指でスケバンの涙を拭いながら、一瞬。柔らかげな表情を見せたあと。

 

「……やったのは。」

「っ……!!」

 

 殺気。

 

「アンタ達ですわね」

 

 先ほどまでの和やかな雰囲気は、何かの幻覚だったのか。その場にいる、その意思を向けられている。それだけで、玉のような汗が額から噴き出てくる。

 殺意と怒りのこもった赤黒い神秘を全身から吹き出させながら、こちらを睨みつけていた。

 

「……サオリ、警戒を。アツコ、アズサ、先生を守って。ミサキ、いつでも撃てる準備を」

 

 こちらの臨戦態勢に応じて、ゆらりと。隙だらけの動き、構えになってすらいない構え、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「“あの子は、一体……”」

「……私たちは、ベアトリーチェの命令で。キヴォトスで起きた大きな事件を、おおよそ把握しています。その中に、悪夢のような事件がありました……今でも、記憶に残っています」

 

 一本一本、指を折り曲げて。その音は、こう言っている。「今からお前達の五体を破壊する」と。

 

「十二台の警備車両、二台の戦車が()()。百名以上の怪我人を出し、ようやくヴァルキューレによる現行犯逮捕という形で、その事件は収束した」

 

 力を込めると、その筋肉からはミチミチ、と。何かを必死に封じ込めているような。天までも上り詰めてしまうその力を、必死に抑えているような。苦悶の声が上がっている。

 

「……その後何者かの手引きで、脱獄したとは聞いていました。彼女の名前は、栗浜アケミ」

 

 すぅ、と、息を吸って。それから、吐いて。その全身が爆ぜたかと見違うほどに、筋肉を膨張させ。

 

「伝説のスケバンにして……悪名高き『七囚人』。その一角、です……」

 

 暴虐を集めたような瞳で、淑やかにこちらを見据えた。

 

「……わかっています」

 

 ポツリと。小さな声が、静かな砂浜にやけに響いていた。

 

「スケバンとは、不良とは、そういう世界。やるか、やられるか。どちらか一方のみです。……それに……今回、手を出したのはこちら側」

 

 言葉の意図はわからないが、とにかくわかることはたった一つ。彼女はキレている。

 

「……私はもうすでに、その世界から身を引いた立場……ですが」

 

 この状況に。仲間達の傷に。そして何より。

 

「可愛い妹分を傷つけた、その代償は……身をもって、払っていただきます」

 

 この状況を作り出した、俺たちに。

 

「往きましょう、エリザベス」

 

 エリザベス、と機関銃に呼びかけ。彼女は瞬時に、無数の銃弾を撃ち放った。

 

「っ、サオリ!!」

「わかっている!!」

 

 ラッシュガードを脱ぎ、神秘を込めて。先端にショットガンをつけ振り回すことにより、迫り来る弾丸をかろうじて防御、できずに逸らすだけにとどまる。だが、いい。それでいい。

 

「先生、こっちへ!」

「“っ、うん!”」

 

 その隙に先生さえ逃してくれれば、それで。

 

「ミサキっ!」

「了解」

 

 ミサキがロケットランチャーを撃てる。

 

「ふー……」

 

 銃弾の威力は……思ったほど、だな。確かに先ほどまでのスケバンとは格が違う威力、まともに喰らえばダメージも負うだろう。

 だが、だがしかし、だ。先ほど見せた、鬼神の如き気配。あれと比較すれば、それらの威力の違いはほんの陳腐な差異でしかない。

 

「……ねぇ、あれ」

 

 警戒するべきは、やはり。

 

「あら、手痛い歓迎ですわね」

「無傷……だと……!?」

 

 爆風をも切り裂く、あの筋肉か……!

 

「アンタ達の密告で矯正局へ送られ……そして脱獄から、数ヶ月。充分、鍛え直す時間はありましたわ」

 

 掌にロケットランチャーの弾痕、そして噴き出す煙をグッと握りしめて。

 

「待ち焦がれましたわよ……」

 

 一息に、踏み込み。地面が大きく揺るがされ。

 

「アンタ達ヘルメット団に復讐できる、この時をねぇッ!!」

 

 来る。

 

「はぁっ!!」

 

 たったの一歩で詰められた距離、しかしまだあくまで予想の範疇。両手をクロスして防御、しようとして。

 

「甘いですわね」

「なっ、がっ……!?」

 

 そのまま大きく上げた足を一気に振り下ろし、踵で地面に埋められた。脳天からつま先まで、痺れるような強い痛み。生暖かい、血が流れる感触。

 

「まずは一人……次はあなた方です」

「っ……!」

 

 アケミが俺の背後、ミサキ達の方へ向かったタイミングで瞬時に右腕だけを出し、手話だけでアツコに指示。同時に、脳天に向けて神秘を送り回復を図る。

 

「……」

 

 予想より傷が深い……ヘルメットにヒビが入っている。ただの一撃、力の乗り切っていない土壇場での踵落としでこの威力。神秘を込めるのが間に合わなければ、さらにダメージを負っていたかもしれない。

 圧倒的な筋力と、その恵体から繰り出される広いリーチの攻撃。ミカとの戦い方が参考になるかと思ったけど、そう簡単にはいかなそうだ。

 だが、拳を受けたはずの両腕は存外にしてダメージが低い。これは……と、そろそろか。

 

「あなた方もすぐに彼女のように」

 

 アケミが足を踏み込む音。先程と同じ動き。強い衝撃が流れた、瞬間。

 

「誰がやられたって?」

「っ!?」

 

 アケミを後ろから羽交い締めにし、足を絡めて完全に拘束。宙に浮いた無防備な状態で隙を晒すことになる。

 それに気づいたアケミは当然抵抗するだろう。力はおそらくアケミが上、力比べは得策でない。であれば。

 

「あんぐっ!!」

「いつっ……!や、野蛮ですわね……!」

 

 首元に噛みつく。予想外の行動で集中を乱したアケミに対し。

 

「な、お仲間ごと……!?」

 

 アツコとアズサから容赦なく浴びせられる無数の弾丸。

 無論俺にも当たるが、妹によって与えられた痛みだと考えればスイーツに入れられたスパイスのようなもの。むしろ回復しちゃうね。ちょっと威力が弱いけど。

 

「くっ……中々に、楽しませてくださいますわね!!」

 

 今日何度目になるかもわからない、宙に浮く感覚。アケミが跳躍したものだと、考えるまでもなくわかった。

 

「さあ、ともに逝きますわよ!!」

 

 体勢を変え、俺が先に落下するように整えるアケミ。体はがっしりと固定されて、動く気配はない。

 

「逃すつもりはありませんわ」

「……はははっ……何か勘違いしてませんか?」

「……何?」

 

 こちらも負けじと、アケミの体に強く抱きつき。その四肢を固定。空中で身動きも取れない状況。隙だらけだ。

 

「っ、まさか!」

 

 すでにロケットランチャーという手の内を見せているミサキがいるにも関わらず、この行動は下の下。愚策だ。

 それでもアケミはこう判断したはず。「まさか仲間ごと撃つはずはない」と。そう思わせるために、アツコとアズサには銃弾の威力を弱めるよう指示した。

 

「ミサキ!!お姉ちゃんごと!!」

「っ……!!恨んでいいけど!!あとで恨むからね!!」

 

 だが、ミサキは知っている。俺はこの程度でやられないと。そして何より、俺が最初からそのつもりで動いていたのだと。充分に、覚悟するだけの時間もあったはず。

 

「さて、今度はこっちのセリフです……一緒に、逝きましょっか!」

「っ……!!」

 

 直後、ミサキのロケットランチャーの発射音。過剰に神秘を込められた弾は周囲に爆ぜ、焼き焦がし、無数の光を描いた。

 

「姐様ッ!?」

 

 ミカを追い詰めた一撃だけあって、相当な威力。全身を神秘で覆っているとはいえ、少し手痛い火傷をする程度の威力はある。だがそれでも、これでアケミを倒せるのなら安いもの。

 

「わぶっ!?」

 

 直後、再び強い衝撃。地面に落ちたか。爆風で見えなかった。

 

「ゲホッ……!ミサキ、ナイス爆撃!」

「……一応、威力抑えたから。こっち来て、治療する」

 

 「よくもこんなことをさせてくれたな」という目で見てくるミサキにお説教の予感を感じながらも、それでの指示には従わない。否、従えない。

 

「スオウ?どこ見て……っ、まさか!!」

 

 地面へと落下したアケミから昇る黒煙。数名のスケバンが彼女を心配してか、駆け寄る……ことはなく。こちらの動きを警戒するだけ。

 

「……スオウ、聞いていい?」

「……はい」

 

 黒い影は、ゆっくりと立ち上がり。

 

「アレとスオウ……どっちの方が強い?」

「……判断材料に欠けますね」

 

 何事もなかったかのように、ぱんぱんと黒い煤を払った。

 

「ね、姐様ッ!!よかったぁ、ご無事で……!!」

「ふふ、ご心配ありがとうございます。ずっと堪えていてくれてたんですね」

「は、はいっ……!!でもやっぱり、もう我慢の限界です!!私たちも戦います!!」

 

 いいなぁ、あんなに堂々と姐様とか呼ばれてて……俺だって、俺だってもっと日頃からこう、さあ?

 

「アズサ、対抗して私のことお姉ちゃんって」

「集中して」

「はい……」

 

 妹が冷たい……けど、ふざけてる場合じゃないな。あいつの強さは、はっきり言っておかしい。たかだか一スケバンが有していい力じゃないぞ、あれ……爆弾と髪の毛ロープがあればもっと楽だった、けど……あいにく、今はどっちもない。

 あの子の筋力がミカと同レベルだったと仮定して、今の装備じゃちょっとやりにくいかもしれない。

 

「姐様、アレの使用許可を!」

「……そこまで……ふふ。では、ともに戦っていただけますか?」

「もちろんですよ!そうと決まれば……行くぞ!!」

 

 直後、森から鳴り響く駆動音。……駆動音?

 

「っ……!!」

 

 木々の間を縫って姿を現したのは、二台の戦車。どこから盗み出したのやら、マユミあたりに見せたら喜びそうだけど……今はそんなこと言ってる余裕もないかな。

 

「さて、それでは」

 

 こちらの戦力は俺、サオリ、ミサキ、アツコ、アズサ。それから、指揮官として先生。サオリと先生は少し遠くでタイミングを伺ってたけど、出し惜しみなんてしてる場合じゃない。

 

「先生!!サオリ達と一緒に、戦車の方をよろしくお願いします!!」

「“っ……!スオウは!?”」

「私は……」

 

 普段よりも少ない手札、装備。それでも、アケミはここで倒さなければならない。

 彼女がその気になれば、たった一人でステージそのものを崩壊させることも可能だろう。そんなことは、絶対させるわけにはいかない。だから。

 

「アケミさんを倒します。今、ここで」

「スオウ……」

「だいじょーぶですよ!そっちは任せます!」

 

 不安げな表情をする……正確にはヘルメットで見えないけど、お姉ちゃんアイで見透かした。とにかく、不安そうな表情をするアツコの頭に手を置いて、にっこりと笑いかけて。

 

「アツコ。アズサとミサキ、あとサオリにも伝言を。絶対に怪我だけはしないで、このあと海で遊びましょうね!」

「……わかった。信じる」

 

 ミサキ達に手を振って、送り出す。振り向けば、アケミはそこにただ立っているだけ。こちらを攻撃する意思は見られなかった。

 

「……みなさん、あちらへ。私はこの方と」

「で、でも姐様」

「こちらのことはお任せください、それに……」

 

 こちらのことをじっくりと観察するような、見極めるような目線を向けたあとはっきり。

 

「彼女を相手取れるのは、私くらいですから」

「っ……!は、はい!姐様、どうかご無事で!!」

 

 俺を対等な戦いになり得る敵だと、そう断じた。

 

「……」

 

 交わす視線。夏の生暖かい空気だけが運ばれて、紫外線はジリジリと肌を焼き。互いに隙を伺う。

 ふと、アケミが。

 

「……お優しいのですね」

 

 そんなことを言った。先程、スケバン達と話している時に攻撃しなかったことだろうか。

 

「こっちのセリフですよ。私があの子達と話している時に、待ってくれた」

「だからこそ、です。あの方々の様子……あなたへの強い慕情が見えました。信頼し、信頼されている証拠……そして何より……あの子達を、私との戦闘から逃した」

 

 こちらを分析するような口ぶりで、アケミはペラペラと話していく。銃には手をかけず、まだ戦闘を始める意思はないことを示しているようだった。

 

「私も……少しだけ、お気持ちは理解できます。私たちの戦闘に着いて来れない彼女達は、ともすれば戦闘の中での障害にすらなり得る。それが彼女達の心に癒えない傷を負わせる行為だと、あなたは知っているのでしょう」

 

 目を閉じて、懐から取り出した布で煤を拭き取って。語りながらも、彼女は戦闘の準備を整えていく。

 

「だからこそ、たとえ負けることがわかっていても彼女達を送り出した。違いますか?」

「……」

 

 負けることがわかっていても、か。

 

「あなたの戦い方は、他にある。そちらであれば、私に勝ち目はなかったかもしれませんわね。地力も……あなたの方が、きっと鍛え抜いているのでしょう。しかし、強者同士の戦いにおいて戦術の変化は致命的な敗因となり得る」

「は、はははっ……」

 

 さっきまでは、すごいな、って思ってた。俺が妹達に慕われてるって、それはまあ……一応、自覚はしてることだから。ほんの少しで、それを見抜くだなんて。

 でも、その先は。

 

「てんで的外れですね」

「……?」

「道具がなけりゃ戦えないとでも?」

 

 一つの戦術でしか戦えない兵士なんて、二流以下だ。満足とまでは言わないけど、いつもの装備がなくたって俺はアケミと戦える。

 そして何より。

 

「アケミさん、あなたは勘違いをしてます」

「……勘違い?」

「私はあの子達を逃したんじゃない」

 

 もうそんなこと、するはずがない。できるはずがない。それをすればあの子達が後悔するって、そのくらいに想ってくれてるって、充分にわかってるから。

 

()()()んですよ」

 

 逃したんじゃない。あの子達の力を信じて、背中を預けて、任せたんだ。

 

「……ふふっ、それは……素敵な関係性ですわね」

「そうでしょうそうでしょう!何せ私たちは姉妹ですからね!」

 

 だから俺を信じてアケミを任せてくれたサオリ達に、俺は応えなければならない。

 確かに装備はいつもより少ないけど……可能性は感じてるんだ。さっきまでの戦いで。

 

「……不思議な方です……違う出会い方をしていれば……ヘルメット団でなければ、あるいは……お友達に、なれていたかもしれませんわね」

「はははっ……同意です」

 

 少しの間言葉を交わしただけで、不良だけど性根が悪い子じゃないんだろう、ってことはわかった。

 でもそれはそれ、これはこれだ。この子が『素敵な関係だ』と言ってくれた妹。その妹が楽しみにしているイベントを潰そうとしているのだから。

 

「……それでは、行きますわよっ!!」

「来てくださいっ!!」

 

 互いに笑みを浮かべながら、銃砲を突きつけあった。

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