桐花スオウと栗浜アケミ。相対する、キヴォトスでも指折りの実力者たち。
「……」
スオウは動かない。未だ戦い方と実力の底が見えないからだ。強がってこそいるものの、自身に不利な状況であることは充分に理解していると言えよう。
本来ならば後手に回るような行為はしない、むしろ積極的に攻め立て、その最中で攻略していく彼女だが、相手はアケミ。力は圧倒的、しかしそれだけだ。後手に回っても受け切れるだけの自信があった。
「……」
それを理解しているのか、アケミも同じくして大きく動くことがなかった。
隙が見えない。自らとは違った形で完成された、生徒の身で辿りつくことのできるある種の極地。ヘルメット団にここまでの強者がいたという偽りの事実に、それを知らなかった自分に、僅かばかり自嘲的な笑みを溢す。
「ふむ……」
しかしなればこそ、下手な考察は愚策。それは同時に相手にも考える時間を与えることになるからだ。
アケミは『喧嘩』には慣れている。だが相手が習熟しているのは『戦闘』だ。両者には大きな違いがある。同じ思考の時間、状況、されど自身の導き出す最適解を上回ってくることは自明。
「こちらから仕掛けさせていただきます!!」
で、あるから。暴力。
「っ……!!」
海の家に設置されていた冷蔵庫を片手でぶん投げて、その影に隠れ切れないので、盾にしながら堂々と距離を詰める。積極性のある、極めてゴキゲンな初撃。
スオウとて、予想外の出来事に一瞬の硬直を見せる。
「なっ……!?」
それがアケミの推測だった。結論から言って、それは誤りだ。
「中々ですね」
自身に凶撃が着地する寸前、スオウは前に向かって跳躍。そのまま冷蔵庫を踏み台にアケミの目と鼻の先、まさしく寸前まで接近した。
「なぜ、っ!?」
逆に隙を作られてしまったのは自分だ。それを理解した時にはすでに遅く、スオウはラッシュガードをアケミの首にかけ、そのまま通り過ぎて行く。
「か、ふっ……!このっ……!!」
強く締め付けられる首。意識が落とされるよりも先に、その脚力を以て回転。しかしスオウとて、その程度では離れない。
「……」
そのコンマ数秒で冷静になったアケミは、スオウの拘束を振り解くことなく……そのまま前傾姿勢になることにより、スオウを宙へと持ち上げた。
「やば」
「せいッ!!」
体の軸をブレさせ、後方に倒れ込む。と同時に、肘打ち。体重の乗ったそれは、苦し紛れとはいえスオウの体に深々と突き刺さり、地面にクレーターを残す。
「ふ、ぅっ……!!このっ……!!あざになったらどーするんですか!!」
「私も首に絞められたあとがついたのですから、お互い様ですわ!!」
交えた攻防。示し合わせたように文句を付け合いながら、再び向き合った。
アケミは考察する。スオウの先程の動き。あれは初見の動きではない、何か……自分と同じような力を持った『誰か』と戦った経験があり、そしてそれを活かしていると考えるのが妥当だろう。
経験、その一点において自らの不利を理解していたつもりでいたが、どうやらまだ認識不足だったらしい。
「それならそれで、やりようはありますのよっ!!」
エリザベスで中程度の距離を保ちつつ、アケミは探す。最適な場所を。だが、それを指を咥えて見守るだけのスオウでは当然なく、自らの射程距離、近接格闘に持ち込むべくダメージを無視して迫ってくる。
それを迎え撃つべくアケミはエリザベスを宙に放棄。スオウは動揺も、警戒もしない。それが自らの隙を誘うための行為であるとわかっているからだ。
「へっ?」
経験と訓練により鍛え上げられた、戦いの中でも冷静さを保つ力。しかし今回ばかりは裏目に出たと言える。もしもそれがなければ、つまりはエリザベスを警戒すれば。
「ぐ、なっ……!?」
突き刺さるような勢いで迫るエリザベスに直撃せずに済んだのだから。
「今、ですわね!」
アケミがやったことは至極単純。距離を詰めてくるスオウに、落下してきたエリザベスを蹴っただけだ。込める神秘は、輝くギリギリ。過剰量の一歩手前。落下の時間スオウがこちらに辿り着いてしまうリスクは無視した。それで敗北するなら、それまでだったということ。
しかし成功したのだから、まだ勝負は決まってはいない。
「ぐっ……!!」
砲身がわずかに腕に突き刺さったスオウ。予想外の行為、加えて近づくことに専念していたが故、神秘での防御が遅れた。充分な神秘で打ち出された銃そのものと、神秘が一点に集中していない肉体。分は前者にある。
エリザベスを腕から抜き、アケミの攻撃を捌きながらも、スオウは隙を探る。
「あら、意外と丈夫なんですね」
右腕、左足、胴、右腕頭足裏首左腕左足右掌肩。神秘を集中させる箇所を流れるように変化させ、そして自らの技術も乗せてアケミの攻撃を捌き続ける。そして、見えた。誘うような隙が。
「……」
右腕でパンチを放ったことにより右肩から足にかけてガラ空きになったライン。体勢を崩せば、左足で脇腹への攻撃が可能。罠であることは明らかだ。
「はあっ!!!」
だが、乗る。あえて乗る。その誘いを受ける。考えられる可能性、その一手で追い込まれることはあっても、敗北することはないからだ。
現状のままではジリ貧。あえて罠にかかって、それから策に溺れさせてやろう。それができるだけの自信がスオウにはあった。
「っ……!!」
それが正しいか、間違っていたか。それはまだわからない。だが、一つだけ言えることは。
「動かせないでしょう?」
アケミの策は、スオウが想定したどれとも違っていたものだということ。
防御など、生やさしいものではない。アケミがやったことは単純だ。筋肉を一瞬弛緩させ、スオウの足が充分に食い込んだところで緊張。絡め取り、拘束した。
「何も、力を振り撒くだけが鍛え方ではありませんのよ」
「く、あっ!?」
足が動かない、どころか、離れることさえできない。アケミの拳を、スオウは顔面に正面から食らってしまう。後方へ吹き飛ばさぬよう、アケミは改めてスオウの足を握り。
「は、あああああああっ!!!」
「おぉおおぉおおおおお!!?」
そのままぶん回して、何度も地面、壁、岩、エリザベス、挙げればきりがないほどに多くのものに叩きつけ続けた。
これ以上ないほどにシンプルな、体格差を活かした一方的な暴力。遠心力と純粋な衝撃により、内部、外部、その両方からジワジワとダメージを与えられ続ける。
「……」
だが、予想に反して長く人の形を保っている。それどころか、四肢の一つでさえ破壊できていない。思ったよりも頑丈なものだと、アケミは少し感心さえもした。
しかしここで終わりだと、そのまま過剰な赤黒い神秘を腕に迸らせ。
「……」
プッ。音が聞こえた。
「……は?」
眼前に迫る何か。アケミの思考は加速する。
あれはなんだ?さっきの
「くっ……!!」
思考が完結するよりも先に、眼球に
岩だ。それも噛みちぎられたかのように、歯形を残している。こんなことをするのはたった一人しかいない。
目の前にいるヘルメット団。彼女が叩きつけられている最中、岩を噛みちぎりそれを口から射出した。「プッ」という気の抜けた音は、その時のものだろう。
スオウのダメージは、せいぜいが頭部からの流血。先程足を取られたわずか一瞬で、ここまでの展開をすでに見越していたのだ。
「はあっ!!」
「ぐ、ぅううっ……!!」
そんな分析は、腹部への殴打により現実へと引き戻される。明らかに先程までとは違った衝撃。技術を伴った、内部破壊……では、なく。
「なに、が……!」
これでもかとシンプルな、外部損傷。要するに、ただ殴っただけである。
一体、なぜ?答えはすぐに出た。自分を後ろへ吹き飛ばすためだ。だが、先程までの彼女ならここまでの威力は出なかったはず。
「が、はっ……!!」
森を超えて崖まで吹き飛ばされ、大きくクレーターを作り上げるアケミ。先程自分がスオウへの肘打ちで作り上げたものより、わずかに大きい。単純に比較はできないが、先程の攻撃の威力は自身の肘打ちを上回っているということ。
「っ!?」
爆発音と共に再び現れたスオウ。アケミには知る由もないところだが、人の視線がなくなったことにより爆弾での加速を利用してここまで飛んできた。
「はああああっ!!」
「ぐ、ふっ……!?」
さらに、一撃。今度は内部への損傷を与えるような打ち方。先程の力でそれを打ったのだ。
アケミとて、防御は行った。腹部に強く神秘を込めて、さらにその筋肉を最大限に緊張させて。しかしそれらを追い越すほどの、圧倒的な力。
「こ、のっ!!」
アケミの拳を両手で捌き、背負い投げ、地面に叩きつけ。スオウは実感していた。
「くっ……!!」
自らの肉体。先程の戦闘まで、今まで通りに使っていたその力。
「なっ……!!」
そしてアケミの拳を逸らし、確信する。
毒で。不眠で。栄養不足で。過度な訓練で。絶望で。壊れに壊れ切った、自らの肉体。十年以上も積み重ね続けた、肉体への負債。それでもなお、『殺すため』に最適化され続けた力。
それらがこの数ヶ月間。早寝早起き、一日三食。妹たちに囲まれて、毎日適度な運動を。今まで失ったものを、ひとつひとつ取り戻すように連ねた健全な毎日。殺すためではなく、『戦うため』の力。自分さえも勘定に入れて、『守るため』の力。
妹たちのおかげで、手に入れられた力。
「次は……こっちの番です」
自身の肉体が、本来のポテンシャルを満遍なく発揮できるということを。
「こ、のパワーはッ……!!」
躍動。産声を上げるように、全力で拳を振るった。
「く、うぅうううっ……!!」
だがしかし、それでもなお筋力、パワーはアケミが圧倒的に格上。何よりこれは、自分が一つ新たな武器を得ただけに過ぎない。
慢心すれば、敗北を喫するのは間違いなくスオウ。だからこそ、アケミに追撃をしようとして。
「なるほど……どうやら、リスクを背負わず勝利できる相手ではないようですね」
圧。瞑想を始めたアケミに、しかしながら「絶対に手を出してはいけない」と思えるだけの力が込められているのがわかる。感情を理性で殺すことのできるスオウは、隙だらけのアケミに止めを刺そうとして。
「ふぅううぅぅぅううう……!ふんっ!!!」
瞑想をやめたアケミの
「なっ……!?」
膨れ上がった筋肉は、こけおどしではない。筋力そのものも、何より神秘の出力も、先程の数倍まで引き上げられている。
「な、なんですかそれ!?どーなってるんですか!?」
「私の呼吸法には、スケバンの極意が込められていますので」
「す、スケバンの極意ィ!?」
訳のわからないことを言うな!声を大にしてそう伝えたいスオウだったが、ともあれ残ったリソースは冷静に考察を重ねる。
浮き出た血管、荒い息、額に浮かぶ汗。あの技術は、恐らくスオウの『リミッターの解除』によく似ている。よく似ているが、まるで違う。呼吸による身体能力の底上げを前提としているからだ。
無論スオウのように、自身の肉体が完全に崩壊するほどのリミッター解除ではない。体への負担を薄めた、継戦能力に特化したリミッターの解除。そんなところだろう。
だからこそ、わかる。
「でもそれ……長くは続かないでしょ?」
「ええ……よくぞおわかりに。何か似たような技術に心当たりが?」
「はい、とっても!」
それでもなお、アケミの体にかかっている負担は見た目以上。せいぜいが数秒間しかもたない技術であるはず。スオウとて、リミッターの解除は一瞬、攻撃のインパクト時に止めるのが基本なのだから。
それを今の会話の間にも発動している。これはどういうことか。
「そうですか……では、会話も不要でしょう。行きます」
「っ……!?」
ほんの一瞬。それだけで、姿が消えた。
「後ろです」
「ぐ、ああぁあああ……!?」
骨が軋む感触。過剰な神秘が込められていたなら、確実に折れていた。まだアケミのエンジンがかかり切っていない、件の技術を使用し始めてすぐだからこそ、今の一撃へのダメージが骨のヒビ程度で済んだのだ。
「……」
状態から察するに、あと2分。それだけもてばいい方だ。それでも異常なのだが。
しかしそのたった二分が、どこまでも遠い。だからこそ。
「……いいですよ。終わらせてあげます」
スオウも、応える。リミッターを解除して。
「っ……!」
アケミは息を呑んだ。スオウの発言が嘘や意地になってのものでないと見抜いていたから。彼女は確かに、今この状態の自分に勝てるだけの算段があるのだ。
「それはこちらのセリフです!!」
感情で動こうとする体に鞭打って、足を大きく一歩踏み出し。
「……あ、あれ?」
間抜けな声を出したスオウに、全力の一撃を打ち放った。
◇
痛い、吹き飛ばされた。最悪だ、よりによってリミッターを解除したアケミの一撃をまともに食らっちまった……!!
「げほっ……!!くっ……!!」
というかなんでだ。なんで、なんで……!!
「見つけましたよ!!」
リミッターが、解除できない……!?
「く、やば……!」
もう正体がどうこうとか言ってる余裕はない。アケミがあの状態を保てるのは、残り一分と五十秒!だったらそれまでの間、逃げ切ってやる。
「先程までの威勢はどうしたのですか!?」
「いやちょっと、こっちにもいろいろあるんですよ!!色々、本当に!!」
よかった、幸いスピードはまだ俺の方がう、え……?
「ぎゃああああっ!?」
アケミがすごい勢いで木々を薙ぎ払って、ついでに投げてくる。そういえばここが森の近くなの忘れてたな……!?
「く、っそが……!いつまでも!!逃げてるわけに、いくかってんです!!」
このまま逃げ続けても、木々で選択肢を減らされジリ貧。まだ逃げ始めてから十秒しか経ってない、相当に不利な状況、だけど!
「来てくださいッ!!」
「その意気やよし、ですわ!!」
力を、先程自覚した、以前よりも向上した筋力で、技術を振るう。アケミの拳をギリギリまで避けずに手のひらで受け止めて、そのまま肘関節に逆方向へ掌底。関節の破壊を狙った技、だけど……!
「無駄ァ!!」
「ぐ、おぇっ……!!」
筋肉で阻まれる。そのまま拳が肋まで突き抜けて、ベキベキベキ。嫌な音が繰り返された。
「げぶっ……!」
口から血。内臓がやられた。関係ない。
こんだけ危険な状況なんだ。今度こそ、リミッターの解除を……!
「って、またできなっ……!?」
「いきなり、動きが精細さを欠いてきましたね。何かあったのですか?」
「ごほっ……!!そっちこそ……!苦しそうじゃ、ないですか……!!なにか、そこまでする理由が……!?」
だが、時間は稼げている。このまま終われば、アケミに勝ち目はない。だからこそ、少しでも会話で時間稼ぎを狙う、けど。
「狙いが見え見えですわよ」
「かっ……!?」
乗ってくれるわけがない。
「ですがまあ、戦いながらでも良ければ……話して差し上げます。あなたの実力と、妹たちとの絆に免じて」
「っ……!?」
森林を破壊し尽くしながらも、アケミは語り始める。
「私がこの力を手に入れたのは……あの子達を。私を思ってくれる皆様を、守るためです」
「ははっ……!そんな力がッ!!必要になる相手に、心当たりでも!?」
「はい」
いや、絶対いないと思う。あれは明らかに過剰すぎるくらいだ。
「あなたも知っているでしょう。数ヶ月前、調印式を襲った未曾有の悪夢……『アリウスの白い悪魔』。桐花スオウを」
「……ん?」
なんかすごく聞き覚えがあるというか、十七年間聴き馴染んだ名前が……?
「あの頃私は、ある方の手引きにより脱獄してからあまり日も経っておらず。スケバンはそのまま引退し、恩返しを重ねるつもりでしたわ」
「ご、ぅううっ……!?」
痛い。アケミの攻撃が苛烈すぎて、話が頭に入ってこない。
「しかし、そこで起こったのがあの事件。全てのキヴォトスに、もはや安全な場所などない。裏世界の秩序も崩壊し、その影響を大きく受けるのはスケバンや不良などです。そんな中で、気掛かりなのは……あの子達のことでした」
「っ……!?」
「だからこそ、私は決めたのです。あの子達の安全を守るべく……もはや誰もあの子達に手出しできないほどに、私の名を知らしめ!!その瞬間にこそ、私はスケバンを引退すると!!」
「あー……」
ああ、そっか。
「此度のヘルメット団の襲撃も、そのためですわ!!」
つまりそれって。大元を辿ると。
「だからこそ、体を苛烈に鍛えた!!この技術を身につけた!!元々数秒しか使えなかったこれを、大幅に引き伸ばした!!」
わかった気がする。さっきまで、なんでリミッターを解除できなかったのか。
─── 自分が傷つくのを前提にするなんて……生きようとするためのものを、押さえ込むなんて……そんなに、哀しい技術……私は……訓練しても、思いつかないから……。
ミカの言う通りだった。
「はははっ……」
今なら、使えるかな。この気持ち。久しぶりだけど……これをキッカケにすれば、使えるかな?
─── その時は殴ってでもお前を止めて……何を敵に回して、味方につけてでも、お前を守ってやるさ。
「……できないなぁ」
ああ、クソッ。情けない。信じてもらったのに、任されたのに。任せたのに。この程度で、負けか。
「素晴らしい戦いでした!!」
「あ、ちょっと邪魔☆」
「っ……!?」
なんの音だ、今の……って、え?
「ぐっ……!!あ、あなたは……!?」
「うーん、そうだなぁ……まあ簡単に言うと、友達参上☆って、ところかな?」
この、声は……!?
「アネアネヘルメット団の一番槍。アネアネピンク、行くよ」
「随分と奇怪なネーミングセンスですわね……しかし、先ほどまでの、ッ!?」
「私ね。ちょっと怒ってるんだ」
聞き間違えるはずもない。なんども、なんども、この世界で積み重ねるように聞き続けた声。
「友達のこと、こんなに殴られてさ」
ある時は絶望を、またある時は希望を。どんな時でも、俺のそばにいようとしてくれた声。
「だから、ちょっと手加減できないかもしれないけど……許してね?」
「っ……!?」
少し目を離した隙に、アケミは吹き飛ばされる。なんら不思議なことではない。パワーは互角、それをミカは瞬発力にて上回った。アケミの防御が間に合わなかっただけだ。
「みっ、んっ……!?」
「しー……ここでその名前はダメ。一応お忍びできてるから、ね?」
「……!」
人差し指で口を塞がれたため頷いて肯定を返すと、彼女は満足げに笑って。
「ほら、ヘルメットほとんど壊れかけてるよ。さっきのがトドメだったみたい……これでよし、と!」
何がこれでよしなんだろうか。アウターで顔をぐるぐる巻きにされたせいでミイラみたいになっちゃってるけど。まあ、顔さえ隠せれば充分なのはそうだけどさ。
「なるほど……あなたもまた、油断できる相手ではないようですわねっ!!」
「わーお、今の食らってまだ立てるんだ……ちょっとびっくりかも」
「押し通ります!!」
「……うーん。その状態ってさ……あと何秒保つの?」
彼女の発言で、ふとやめにしていたカウントを思い出す。アケミのリミッター解除は、あと十秒と少し。それを過ぎれば、今まで無視していた負担全てが彼女を蝕む。
「ですが、テメェ達に勝利するためには充分すぎる時間です!!」
「あははっ、無理無理☆」
こちらへと猛進するアケミ、その動きを止めたのは。
「ヒヨリ!?」
「さっすが。私の戦闘にちゃちゃ入れれるだけあるね」
そっか、B.o.Bをアウトロービーチまで無事に送り届けたから……!!流石ヒヨリ、お姉ちゃん誇らしい!!
「で、万全の私とまだ全然戦えるこの子。それとサポートが一人いるけど……まだやる?」
「くっ……!!」
アケミは歯の奥を強く、強く。血が出るほどに悔しさを堪えて。
「皆様ッ!!!撤退ですッ!!!一度戻り、態勢を立て直しますわ!!!」
そう言い残して、姿を消した。
「……」
考えたいことは、たくさんある。聞きたいことも、言わなきゃいけないことも。それでも、まず真っ先に聞きたいのは。
「……ぷはっ。すっごい蒸れるね、ヘルメット……肌が荒れちゃう……」
「ミカ……何やってるんですか……?」
なんでここにミカがいるかってことなんだけど、果たして。
「……ヘルメット。つけてても、わかってくれたね」
「え?は、はい、そりゃまあ、声とか髪とか……あと羽とか、筋肉とかで……」
ミカはゆっくり。一歩一歩、ゆっくりとこちらに近づいてくる。暴れ出す感情を抑えるように、ゆっくりと。
「っ、話は後です!!ミカ、まずはみんなの加勢に行きましょう!!」
「大丈夫。みんな戻ってくるよ。スケバンの上下関係は単純だから、あれは実際鶴の一声だったんじゃないかな」
「あ、そ、そうですか……」
そして、ほんの十数センチ。正しく目の前まで迫ってきてから、ミカはにっこりと。抑え込んでいたものを全て溢れさせるように笑って。
「スオウちゃん!!!会いたかった!!!」
「いでででだいたい痛い痛いです!!ミカ!!私これでも怪我人!!!」
無邪気な