「す、スオウさん!大丈夫でした、か……」
「痛い!ミカ!肋!私の肋、今折れてて!」
「久しぶり、本当に久しぶりだぁ……ふふっ……!スオウちゃん……よかったぁ……!本当に良かった……!」
なんかミカ全然離してくれないんだけど、というか前よりも力強くなったはずなのに全然振り解けないんだけど……!?
「あづっくるしい……!」
「お、お邪魔虫だったみたいですね……私は消えます……へへ……どうせ私は、そこのフナムシと同じで砂に埋もれてひっくり返ってるのがお似合いなんです……」
「……あ、ご、ごめんねスオウちゃん!ちょっと感極まっちゃって……」
「いてて……も、もういいですよ……離してくれましたし……あとヒヨリ、仮にあなたが虫だとするならそれは国宝級の天然記念物です」
文字通り骨が折れる戦いは久しぶりだったし、結構キツい……まあ、あと十分もすれば治るかな……?
骨が折れた場所が青黒くなってるし、せっかくの水着なのにこれじゃあ……だからな。
「スオウ、無事か!?」
「あ、サオリぃ……はい。お姉ちゃんは無傷ですよ?」
「……あの感じだと、肋は折れてるね。それに腕もイッてるみたい、あんまり腫れてはいないけど……」
「“……無傷?”」
怪訝にこちらを、というよりも傷を見つめる先生。
「……ちょっと、そこのラッシュガードを」
「こ、これですか……?」
「ありがとうございます、ヒヨリ」
なんとなく視線がちょっと、こう。肋がね。折れたから、胸元に行ってて。だからなんだってわけじゃないけど、さ。よくないと思う。
「“スオウ、痛いのを我慢しちゃダメだよ。きちんと適切な処置を……”」
「もー先生?知らないんですか?私はキヴォトスの人間なのでこの程度で十分もすれば治りますし、お姉ちゃんだから妹がいれば傷もへっちゃらです」
「先生、騙されないで。どっちもスオウだけだ」
そうなの?といった感じでアズサに視線を向けた隙に、ちょっとだけ先生の視線から外れるように努めた。まあうまくいかなかったけど。
「……ねぇ。ところで、そこの人って……」
「あ、やっと気づいてもらえた。よかったぁ、存在を忘れられちゃったのかと」
と、ミカがそこまで話したところで。遠くから、山彦のような悲鳴が。
「わきゃぁああああああああああ!!?たすけてぇえぇぇええええ!!!」
幻聴かと思ったらその声は近づいてきて、しかもやけに聞き覚えがあった。
「あっ……終わった……」
崖の上から凄まじい勢いで飛び出してきた、黄色い影。
「何やってるの、アシリちゃん……」
ミカはそれをキャッチして、呆れたように呟いた。そりゃそうだろう、今からネタバラシをしようって時によくわからない状況になったんだから。
というか相変わらずアシリは、不運体質というかドジというか……危ない目に遭いやすいらしい。
「あ、ありがとうございます、見知らぬ人……」
「みっ!?……み、見知らぬ人かぁ……まあ、変装のためにやってるんだし、それでいいんだけどね……」
「アシリー!!あんた大丈夫なのー!?」
「スオウさんが怪我をしていると連絡が来た瞬間、血相を変えて出ていきましたが……それでご自身が怪我をしてしまっては、本末転倒ですよ?いえ、実際転倒はしていましたが」
上から聞こえるのは、コハルとハナコの声。ということは、ヒフミもいるのだろう。
「うっ、うん!大丈夫!知らない人が受け止めてくれたから!」
「そ、それは本当に大丈夫なんですか!?知らない人なら不審者の可能性もありますよ!?」
「ふ、不審者……!?い、言われてみれば変なヘルメット着けてるし……ふっ……不審者だぁ……!」
「……ひどい言われよう。これで不審者仲間だね?」
不審者仲間?はて、誰に向けてと後ろを振り向いても、そこにはヒヨリしかいない。しばらくじっと見ていると、どこから取り出したのか手鏡をこちらに向けてきた。
「ちょっとミカ?それ私に言ってますか?」
「他に誰がいるのかな?」
「わ、私はただお姉ちゃんなだけですし……全身黄色の変態とかじゃないですか?」
「それ私のこと!?」
アシリを巻き込むことに成功して勝ち誇っていると、アズサがすぅっと息を吸って。
「ヒフミ!!アシリは無事だ、それにみんなも!もう大丈夫だから、ゆっくり降りてきてくれ!」
「わ、わかりました!」
「……ねぇ。というか今チラッと聞こえた声って、まさかさ……」
「コハルちゃん。確かに私もそう思いましたが、ひとまずそれは下に行ってから。敵の残党がここにくるかもしれませんよ?」
上の方からわいわいと会話が聞こえたのを後に、しばらくの暇な時間。ただ待つだけの時間、かと思いきや。
「す、スオウちゃん……!?すっごいとんでもない怪我してない……!?」
「え……?あ、これですか?まあ少し我慢すれば治りますよ、このくらい」
「やっぱり我慢してたんだ……」
まずい、口を滑らせた。どれだけ痛みに耐え抜いても、痛みになれる訓練をしても、痛いもんは痛い。というよりも、その感覚がないのは危険だ。危機に気づけないから。
ただそれが、行動を阻害しない程度に抑えてるってだけで。
「もう、またそうやって……ほら、こっちにきて?お姉ちゃんが治してあげる」
「あ、妹じゃないので遠慮しておきますね」
「……じゃ、じゃあお姉ちゃんじゃなくていいから!私が治すから!」
アシリ……まだまだだな。そこは妹を縛ってでも無理やりお姉ちゃんとして手当てをするべき状況だ。とはいえ、隙を探る努力はしてる。ちょっとお姉ちゃん力が増したらしい。
「……ねぇ。あの二人、いつのまにあんな愉快な関係になったの?」
「ああ……ある時突然、アシリがスオウの姉を名乗り始めてな……正直、私達は頭痛の種が増えた……」
「だろうね……同情するよ、サオリちゃん……」
向こうで何やらヒソヒソ話している二人は、全部内容聞こえてるから後で存分に妹にしてやろう。ミカは妹じゃなくて友達だけど、一旦妹だ。
「よかった、まだ変にくっついてない……というかこれ、自分で元の位置に戻した……?」
「あ、はい。腕はヒビのままだと戻しにくいので、一旦自分で折りました」
「ひっ……!?だ、だめだよそんなの!体は大事にしなきゃ……!」
とはいっても、体を労るならこれが一番効率的なんだけどなぁ……神秘も強めに流してるし、多分そろそろ治るだろ。
「と、とにかく!固定用に添木と、あと包帯!サポーターは向こうに戻ればあるから!」
「それなら、ここで安静にした方が良さそうです……」
「う、うぅ……!?本当なんだよねぇ……!?」
アシリは生徒の中でもあんまり強い方じゃないみたいだし、少し心配性らしい。綺麗に折ったし、本当に大丈夫なんだけどな。
「や、やっと降りてこれましたぁ……!」
「ふ、ふんっ……!わ、私は……鍛えてるから、この程度じゃ……!」
「息を荒げすぎですよコハルちゃん。いくら体が火照っているからって」
「うるっさい……!」
と、そうこうしているうちに、ヒフミ達も下に降りてきた。少し急いできたのか、かなり息を切らしながら。
「あ、やっと来たね。待ってたよ」
そうして、疲れた様子で、水着にヘルメットを被るというかなりおかしな姿をした彼女を見つめて。
「……聖園、ミカさん……ここで一体、何をしているんですか……?」
「あ、やっぱりハナコちゃんはわかっちゃうんだね」
誤魔化すように頭を掻きながら、淑やかに小さく笑った。
◇
ひとまずは場を離れるべきだろうというハナコの提案に従って、アウトロービーチの一角。あらかじめパラソルを設置してあった荷物置き場に戻ってくると、そこには件のヘルメット団……海の家を営む彼女がいた。
「本当に、本っ当にありがとう……!私たちだけでは、B.o.Bを取り返すことはおろか、見つけることすらできなかった……!」
「いいんですよ。約束は守ってくれてるみたいですし、それに……」
「……?」
別にヘルメット団の子達を助けることだけが目的じゃなかったしね。
「と、とにかく!このことは上に包み隠さず報告する!あとで何かお礼をさせてくれ!それじゃあ!」
「いえ、別に……あ、行っちゃった……」
随分忙しそうな様子だったけど、このためだけに待っててくれたのかな。随分、律儀というか……裏世界で生きてるからこそ、みたいなところはあるのかもしれない。
と、まあそんなヘルメット団に関する考察はさておき、だ。
「ミカ……一体、なぜここに……?」
問題なのは、お忍びでここに来てるお姫様の方で。
「……ひょっとして、来ちゃまずかった?」
「そんなことないですよ。私もミカが来てくれてすごく嬉しいです」
「えへへ……」
いや、「えへへ……」じゃなくてね。もちろんミカが来てくれたのはすごく嬉しかったんだけど、それなら最初から話しておいて欲しかったのだけど。
「えっとね……ほ、ほら!この前の電話でさ!サプライズがあるって言ったよね?」
「えっと……」
───それと、ちょっとしたサプライズもあると思うから。
確かに、そんなことを言ってたっけ。直後通話を切られてしまったから、問い詰めることはできなかったけど。ひょっとしなくても、サプライズって。
「スオウちゃんを……みんなを、びっくりさせたかったの……」
「……ちゃんと、びっくりしましたよ」
少し自信なさげに。しおらしい態度でそんなことを言うので、怒るに怒れなかった。
「というよりもミカさん、ここに来てしまって大丈夫なんですか?ティーパーティの重鎮が、このような場所に……」
「あははっ、平気平気!ほら、こうしてちゃんと変装もしてるし!」
変装……うん、一応変装ではあるか。相変わらず装飾は煌びやかだけど、ヘルメットを被ってるからここではヘルメット団の一員としか見られないだろうし……意外と理に適ってる。
「そうだったのか……だが、桐藤ナギサや百合園セイアが許可したのか?」
サオリの疑問。言われてみれば、その通りだ。ミカの独断ならまだしも、あの二人がそれを許可するとは思えない。かと言って、無断で姿を消せばどれだけ騒ぎになるか。それがわからないミカでもないだろう。
ヒフミ達の様子を見るに、特にそういったこともないみたいだし。一体、どうやって?
「あ、うん……それなんだけどね……もちろん、ナギちゃんは最初反対だったよ?でも、セイアちゃんがね……?」
ミカ曰く、「行ったほうがいい。君の力がきっと役に立つ」と。セイアから直々に、そう言われたらしい。
ひょっとせずとも、予知の代わりに手に入れた、予感の力というやつだろうか。予知と違って覆せる予感を見せる分、まだ使い勝手がいいし気も楽だと、そんなことを言っていたっけ。
「それでね、それでね?やっぱりそれを聞いてもナギちゃんは反対だったんだけど……ヒフミちゃん達の護衛、ってことで押し通したんだ。頑張ってお仕事を終わらせてきたから、ちょっと到着は遅れちゃったけど」
「ああ、なるほど……」
確かに、俺が本気でヒフミ達を害そう、なんて考えたら、それを止められるのはツルギかミカくらいなものだろう。二人に一人、ミカとてナギサの親友だ。どうせなら、可能な限り願いを叶えてやりたいという幼馴染としての気持ちもあったのかもしれない。
「だから、こっそりヒフミちゃん達を護衛しようと思ったら、アウトロービーチにいなくって……セイアちゃんの予感については半信半疑で来たんだけど、実際来て正解だったみたいだね。じゃないと、気づいて助けに行くこともできなかったから」
肋が折れた部分をさすりながら、ミカは安心したようにホッとため息をついた。
「なるほど、そんな事情が……」
「ほ、本物だ……本物のミカ様だ……初めて話した……」
「初めてじゃないよ、コハルちゃん。ほら、あの時……調印式の時にちょっとだけ」
「あ、あれは……あの時は、それどころじゃなかったので……」
さしものコハルもティーパーティ、その一角にはタジタジらしい。そういえば、ミカもコハルも髪がピンク色。ハナコも入れて、ピンク髪の割合が増えたかな。別に、だからなんだってわけじゃないけど。
「そうだ、それよりみんな!私からの指令は楽しんでくれたかな?先生に預けてあったんだけど」
話すべき事柄は話し終えたと判断したのか、突然立ち上がってそんなことを言い始めるミカ。その目はキラキラと輝いていて、本気で楽しんでくれたことを期待している目。
「あぅ……」
全員が気まずげな顔で顔を逸らした。途中から来たって言ってたし、多分ミカは知らないんだろうけど……。
「……えっ?なになに、その反応……ひょ、ひょっとして、あんまり楽しくなかった……?」
「いや、その……先程我々が戦っていたのは、理由があってだな」
「……え?」
ミカの事情はわかったし、今度はこっちの事情を。完治した体を奮い立たせて、改めてミカに現状を説明した。
◇
「え、えぇ……じゃあ、まだミッションは一つしかクリアできてないってこと……?」
「……ああ。そういうことになる」
明らかに肩を落として落ち込むミカ。それもそうだろう。
まだ一つ目のミッションしか見てないけど、俺たちが力の差を気にせずに戦えるように、ミカなりにたくさんの気遣いが見られた。俺たちが信じてもらえるように、たくさん考えた形跡があった。きっと、一朝一夕で考えつくものじゃないんだろう。
それなのに、まだたった一つしか……。
「……ううん。でも、ちょっとラッキーだったかも」
「……ラッキー?」
膝と手のひらについた砂をパンパンと払いながら、少し照れたように笑って。
「その……私も、みんなと一緒に……できる、から……」
「……うん。そうですね。その通りです」
そう考えると結果オーライ、かもな。人が危ない目に遭ってたわけだし、そうなって良かった、だなんて、きっと思っちゃいけないけど。
「そ、それじゃあさ!次のミッションは、私が決めても良い……?」
「あ、ごめんなさいその前に……私、一度シオと遊ぶ約束が……」
コハルを連れて行く前に、やるべきことが終わったらシオと真っ先に遊ぶ、って約束しちゃったもんなぁ。お姉ちゃんとして、妹との約束を反故にするわけにはいかない。
「……うーん……それじゃあさ、シオちゃんって……私たちと一緒に、遊べたり……?」
シオが、みんなと……うーん。
「……みんな、どう思います?」
後ろを振り向いてサオリ達に意見を求めてみると、サオリは少し呆れたような目をして。
「お前……ミカが初めて来た時を忘れたわけじゃないだろうな……」
「忘れたくても忘れられませんよ……」
そもそも当日の朝サオリに絡んでたし、ミカのことも睨んでたし……正直、ああいう行動は不安や恐怖の裏返し、なんだろうけど。少なくとも、まだこんなに大人数では難しい、かな。
「私、あいつに絡まれたから嫌い」
「こ、コハルちゃん……」
……まあ、あのくらいはっきり言ってくれた方がいいか。過去に何があっても、それを知らない第三者からすれば行動が全てだ。だから、止めるべきだった……ちょっと反省。
ただそれはそれとして、それは妹の約束を無視する理由にはならない。
「実は、それだけではなく……件のスケバンのみなさんの行動にも、いくつか気になる点があります。それについて、ヘルメット団の方とともに対策を……」
俺が口籠っていると、ここぞとばかりにハナコが考えを口にする。
さっきの説明の中でアケミが話していたことについては教えたけど……十中八九、アケミの脱獄を手引きした『誰か』とやらの話だろう。情報の共有をしたい、ってとこだ。
「うーん……そっか、みんな後処理が……よし、それじゃあ一旦別行動!二時間後くらいにここにまた集合……っていうのは、どう……かな……?そ、それ以上は日が沈んじゃいそうだし……」
「わ、私はそれで大丈夫です!」
「ああ、こちらも問題ない。みんなもそれで良いな?」
「うん。まだ気になるところはたくさんあるし、そこを見て回ってればすぐだよ」
焼きそばもまだ食べてないから、と付け加えながら、アツコが代表して肯定した。なんだか俺の事情で遅らせてもらっちゃったようで、申し訳ないけど。
「その……ごめんなさい。ありがとうございます」
「構いませんよ。お姉ちゃんも大変でしょうから」
「……!私、ハナコさんのこと大好きです!!」
「あら……なんだか純粋な好意として受け取るには、少々邪な感情が……」
今俺のことをお姉ちゃんって……ハナコはひょっとして、俺の妹だったり……いや、違う。それをやり始めたらもうただの見境なしだ、本当に良くない。
でも……どうなんだろう。こんな短い時間の付き合いだけど、少しは俺のことを……アリウスのことを、信用してくれたのかな。
名前もいつの間にか、下の名前で呼んでくれるようになってたし。
「私達は海の家に行くけど、一緒に来たい人はいる?」
「ごめんなさい、私はヘルメット団へお話に……」
「それは私がついて行こう」
「私とアズサちゃん、アシリさんは、近くにモモフレンズの聖地があるのでそこへ……」
「えっ……じゃ、じゃあ私、海の家についてく!」
各々が行く場所を決めて、なんとなく向かうグループも決まり始めて。滑り込むようにコハルは海の家について行くことにしたみたいだけど、
……ミサキは面倒見がいいし、アツコは優しいし、ヒヨリは気遣いができるし……大丈夫、だよな?大丈夫なはず。ここは妹を信じよう。
「それじゃあスオウちゃん、シオちゃんのところに行こっか!」
「……え?」
なんて考えてると、何を言い出すのこのお姫様は。
「……あ、あれ?だめだった?」
「いや……だめ、というか……」
シオは、その……仕方ないとはいえ、ミカが俺をボロ雑巾みたいにしたことに怒り心頭というか……そもそも、そこまでミカに対して心を開いてないというか……ダメではないけど、正直ついてくると思ってなかったというか。
「私もシオちゃんとは知らない仲じゃないし。それに、私だけじゃないよ?」
「ん?」
「“私も着いて行っていいかな?”」
「……せ、先生も!?」
せ、先生、は……どうだ……!?シオ的に先生はどうなんだ……!?少なくとも敵視はしてない、と信じたいけど……!
というか、というより。
「その、他の子に着いて行かなくても……?」
「“後から様子を見に行くつもりではあるけど……スオウの傷も気になるし”」
「あ……あー、それですか。もう完治ですよ!お姉ちゃんを舐めないでください!」
ラッシュガードの前を開けて見せてやろうとして、ちょっと変態っぽかったのでやめた。しばらく先生の前ではジッパーはあげっぱなしにしておこう。多分俺の精神が耐えきれない。
「“それならいいんだけど……それと、スオウの妹についても知っておきたいから”」
「……ほほう?」
流石先生、いやはや流石は先生だ。俺の妹に目をつけるとは、この世のどんな鑑定士よりお目が高い。なんせみんな一等級の宝石だって霞むくらいに可愛い子達だ、文字通り目に入れても痛くない。目潰しとかしょっちゅうされてたし。
「悪くない判断です先生!そうですね、それじゃあまずは分隊長のみんなから!まずはこれから会いに行くシオについてお話ししますね!本名は阪抱シオ!元アリウス分校、第七分隊長です!紫色の癖っ毛がとってもキュートな、私の大切な妹の一人です!目の色も同じ紫なんですが、こちらは少し暗めです。アメジストのような、まさしく珠の如き美しい瞳をしていて、少し糸目気味なんです!彼女の得意分野は通信の傍受!!いろんな情報を知っているんです、私もあの子には敵いません!それだけではなく、アリウスの環境下でもプログラムについて学び、多少の機械弄りもできてしまう多彩さ!実にクールですよね、賢い妹を持つとお姉ちゃんらしくあるのが大変です!まあそれ全部うれしい悲鳴なんですけど!あんまり人と話すのは得意じゃなくって、その裏返しで少しキツい態度をとってしまうこともあるんですが、そこは大目に見ていただけると……あの子も精一杯、頑張っているので。それに最近ではアリウスの同じ分隊長とは仲良くできる子もいるみたいなので、もしかすると知らない人と話せるようになるのも遠くないかもしれないですね!そんな彼女なんですが、最近はゲームのMOD、いわゆる改造を嗜んでいるみたいで、それはなんと私が楽しんでくれないかとつくってくれたものなんです!なんていじらしい!それで自分の趣味はと聞いたら、お姉ちゃんの笑顔を見ること……嬉しい、とっても嬉しいんですが、私としては自分だけの喜びというものも見つけて欲しかったり……それでですね」
「あ……スオウちゃんのいもうトークが始まっちゃった……長いよ、これは……」
「“は、はは……全部聞かせてもらうよ……”」
なぜか冷や汗を垂らすミカと先生。なんでだろう?
……内容はちゃんと聞いてくれてるみたいだし、別にいいか。
◇
「それでその時シオが、ちょっと火傷をしちゃいそうになったんです」
「“うんうん。それで?”」
「そしたら近くにいたヨセが……っと、あそこに見えるのは……噂をすればってやつですね」
「ずっと話してたけどね……」
なぜだか不満げなミカはさておき、シオだ。いつの間に一人になったのやら、海でポツネンと、砂を使って絵を描いていた。
「……し、シオ?」
「……お姉ちゃん?」
夏空の下でも鈍色の瞳で、ゆっくりとこちらを向くシオ。たっぷり十数秒はかけて、それからようやくこちらを認識したように。
「……お仕事は、おしまい?」
堪えたような笑顔で、じっくりと微笑んだ。
「は、はい。一区切りです。ごめんなさい、待たせちゃって」
「うぅん、いいの。お姉ちゃんなら来てくれるって、信じてたから……見て。これ、お姉ちゃん。たくさん描いたの。綺麗でしょ……?」
「はい、とっても上手です!」
「えへへ……」
シオ、絵が上手だなぁ……ちょっと少女漫画チックな画風なのが気になるけど。というか、なんかちょくちょく表情が……なんて言うべきか。いかにも少女漫画って感じの顔だ。
というか、だ。
「シオ、トウ達は?」
「……ちょっと、難しくて。一旦、一人にさせてもらったわ」
「……そう、ですか」
トウなら。わかって、くれるかな。きっとわかってくれるだろう。あとで少し、話を聞いてみないと。
シオもトウがわかってくれると信じたからこそ、こうしてここに一人でいるのだろう。しかしそうなると、場合によってはミカと先生には帰ってもらう必要が……シオの様子を見てかな。
「そっ、それより!!お姉ちゃん、何して遊ぶ!?私、お姉ちゃんと遊ぶのなんて久しぶりで……!!たっ、たくさん!たくさんやりたいことがあるの!」
「は、はははっ……」
つい一昨日くらいに一緒にゲームをした気がするんだけど……それよりもシオ、さては。
「その、シオ……私の後ろ、見れますか?」
「後ろ?お姉ちゃんの後ろにもお姉ちゃんがいるの?お姉ちゃんパラダイスな、の……?」
「……え、えっと……ひ、久しぶりだね。覚えてるかな?シオちゃん……」
「“私は……ほとんど、初めましてだね。シャーレの先生だよ。これからよろしくね”」
ギギギギッ。擬音にしてみればそんな表現が似合いそうな音で、ゆっくりとこちらに目線を戻すシオ。それから視線を交わし合って、何かを思い出したように表情を豹変させて。
「忘れるわけないでしょ、聖園ミカァ……!!あんた、あんたはよくもっ……!!よくも、お姉ちゃんをッ……!!」
「うぅ……!?ご、ごめんね……?」
「ごめんで済めばこの世に審判者はいらないのよ……!!あなたの羽を全部むしり取ってやるっ……!!」
「ぐすっ……す、スオウちゃーん……」
完全に嫌われてると思ってしまったのか、ミカが半泣きでこちらに抱きついてくる。
シオの表情から察するに、あれは多分怒ってるわけじゃなくて、いや実際怒ってはいるんだけど。
「……でも、その……お姉ちゃんが生きてるのは……あんたの、おかげよ……ありがと……」
「っ……!!し、シオちゃん……!!」
感謝を口にする前に、負の感情を吐き出し切っておきたかった。一種の照れ隠しだ。ちょっとやり方に問題がある気はするけど。
「それに、シャーレの先生だったわね。お姉ちゃんから話は聞いてるわ……ええ、そう……話は、聞いてるわ……!!」
「“そっか。これから、よろしくね”」
「……?」
なんだろう、ミカの時より先生に対しての方が負の感情が大きい気がする。
何か先生について悪い話をした覚えはないんだけどなぁ……思い出したくないけど、色仕掛けのくだりもシオには話してないはず。というか、話したら本当に大変なことになりそうだ。
「その、シオ……この二人も一緒にいて、大丈夫ですか?」
「……?構わないわよ。お姉ちゃんも一緒だもの!」
……正直、そんな予感はしてた。それだけ信頼してもらえてるってことなのかな。少なくとも俺がいる時は、知らない誰かがいても大丈夫らしい。
それに、文字通り命懸けでアリウスのために奔走してくれたミカ。生徒の味方な先生。この二人なら、あるいはシオとも……練習がてら、ここで慣れてくれるといいかな。
「あ、でも……」
「……?」
「……いえ。なんでもないわ」
何やら言いかけたシオが取りやめて、そこから先は続けるつもりがないように見えた。こういう時、シオに対して深掘りするのは逆効果。自分から話せる雰囲気を作るのが先決だろう。
「それで、シオ?何をして遊びますか?」
「そうね……砂……砂の、像。砂で何か作りたいの。子供っぽいって、思われちゃうかもしれないけど……」
「思いませんよそんなこと!二人も、付き合ってもらえますか?」
「うん、もちろん!」
後ろを向いてミカと先生の了承を得ると、シオは何か思案するように顎に手を当てて。
「……せっかく四人いるし、二人一組でグループにわかれて、その完成度を競うのはどう……?」
「……お……おお……!」
シオが、あのシオが、大人数で楽しめるように工夫を……!シオ……本当に、本当に成長しちゃって……お姉ちゃんは嬉しいよ。
「いいアイディアだね。それで、分け方はどうするの?」
「私とお姉ちゃん。あんたと先生」
「お、おお……?」
違った。ただ単に俺とミカたちを切り離したいだけだった。
「……お姉ちゃん……お願い」
「……私は構いませんよ。でもそれなら、二人にもお願いしないとダメですよね?」
「……ごめんなさい。我儘だけれど、お姉ちゃんと組ませてちょうだい」
「“うん。大丈夫だよ”」
……うん。ゆっくり。ゆっくりでいいんだ。こうしてミカや先生と、対戦形式で遊べてるだけでも、きっとそれはすごい成長だから。妹には妹のペースがある。
「時間は……まあ、三十分もあれば充分だと思うわ。そのあたりで通りかかった子を捕まえてジャッジしてもらいましょう」
「つ、捕まえてって……」
「それじゃあ、初めましょうか!」
しかし、砂の像か……さっきフィリとレイが作ってたけど、あの二人のは参考にならなそうだし。何を題材にしようかな。
「シオは何が作りたいですか?」
「お姉ちゃん」
「それは今度にしましょうね……」
ふむ……そうさな。ちょっとズルいかもしれないけど、先生とミカのやつを参考に……盗み聞きを、と。
「よい、しょっと……そういえば、先生と会うのも久しぶりだね。元気だった?」
「“うん。ミカはどう?”」
「私も相変わらず……でもないか。ナギちゃんたちと、前よりも仲良くやってるよ」
「“そっか。よかった”」
世間話から入ってる……まだあんまり、アテにはならなそうかな。
「シオ、私以外で作りたいものはありますか?」
「お姉ちゃん以外……お姉ちゃん、以外……?」
こっちもまだまだ時間がかかりそうだ。もう少し向こうの会話を聞いてみるか。
「そうだ先生、この水着どう?結構、気合い入れて決めてきたんだけど」
「“うん。よく似合ってるよ”」
「えへへ……でしょ?」
「……」
……いやまあ、確かに。ミカの水着は、よく似合ってる。ちょっと大胆に見えるデザインだけど、ミカのスタイルのおかげでそれがむしろ麗美な感じになってて。
「……ごめんなさい、私にはお姉ちゃん以外……お姉ちゃん?」
「……」
でもあんまり直球に褒めすぎるのも……先生ならそうするかもしれないけど、そんなことしてたら勘違いする子だって出てきちゃうかもしれないし。ミカはそんなことなさそうだから別にいいんだけどね。
「……またお姉ちゃんが女の子の顔してる……だからヤだったのに……」
「……ん、シオ。ごめんなさい、少しボーッとしてたみたいで」
「ううん、大丈夫。それより、早くテーマを決めましょう?」
過ぎた思考は全部後回し。ひとまずは、シオとの砂遊びを楽しむとするか。
体調を崩してしまい更新が大きく遅れました、申し訳ございません……
寒波の影響で気温が下がり始めているので、皆さんも体調には気をつけてください……私はだめでした……