ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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【後日談】白い煙に隠れる本音

 ひとまずミカからタオルを受け取って、軽く泡立たせて。

 

「ミカ、どうしてここに……?」

「来ちゃまずかった?」

「いえ、そういうわけではなく……」

 

 てっきりミカはミカで、別のホテルを予約しているものかと。

 

「あ、ひょっとしてホテルのこと?そんなのパテルマジックでちょちょいのちょいだよ」

「ぱ、パテルマジック……?」

 

 何言ってるんだろうこの子。というか、一体どこから情報が……。

 

「……なーんて、冗談。本当はアズサちゃんから情報をもらってただけ、だから……もしかしたらアズサちゃんには、バレてたかもね?」

「む……」

 

 そういえば参加メンバーについて聞いた時、アズサが何か言い淀んでた……ような?気付けなかった。お姉ちゃんなのに。

 

「まあ、それは良いとして……どうして大浴場に来たんですか」

「えー、そんなの……」

 

 そこでふと。身体中を這いずり回るような、不躾な視線を感じる。それも、横に座って体を洗い始めたお姫様から。

 耐えながら黙って返事を待っていると、ミカがようやく口を開いて。

 

「うん……私が教えたこと、ちゃんとやってたみたいだね」

「……」

 

 ……ひょっとしなくても、ミカ。

 

「その確認のために来たんですか……?」

「もちろん」

「えぇ……」

 

 これ、ちゃんとやってなかったら予告通り体を洗われてたな……人間、やっぱり普段から何事も真面目にやっておくものだ。何が身を滅ぼすか、あるいは救うのかわからないんだから。

 

「まあ、せっかく教えてもらいましたし……洗われるの、嫌だったので……」

「……もー、つれないんだー」

 

 いや、つれないとかじゃなくてね……こっちは一応、元々は健全なオトコノコなわけで。ちょっとまずいような気がするんだ。ミカは妹じゃないし。

 

「……でも、せっかくだから背中くらいは流したいな……ダメ?」

「んー……そのくらいなら、まあ」

 

 そう伝えると、ミカは安堵したようにパァッと顔を明るくしてタオルを受け取り、それから俺の後ろにまわって。泡を立てて、背中を優しく、撫でるように洗い始めた。

 

「わ……体細い……スオウちゃん、ちゃんと食べてる?」

「前よりは食べてますよ」

「前よりはって、具体的にどのくらい?」

「一日三食、曲げわっぱくらいの量は」

 

 しかしこうして背中を流される側というのは、意外と手持ち無沙汰になるな……前世で幼い頃、誰かに……多分、父親にやったことがあるけど。その時も、こんな感じだったのかな。

 

「それ、ちゃんと食べてるって言わないよ……ダイエット中の食事みたいだし……」

「でも体重は前より増えてきてますよ?」

「当たり前じゃん……前が酷すぎたんだから……」

 

 前が酷すぎたって、否定はしないけど。ミカは別に、俺の食生活を知らなかった気がするんだけど。

 

「聞いてるよ?捕虜として生活してた時も、ご飯はほとんど残してたって」

「そりゃ、あそこのが量多かっただけですもん……」

「そんなわけないでしょ。捕虜に対して割く無駄なお金なんてあるわけないんだから」

 

 そこでミカは、「はい、おしまい」と言いながら背中の泡を流した。

 ……ふむ。だったら。

 

「私もミカの背中、流して良いですか?」

「え?あー……一応、翼は色々面倒だからさ。そこ以外なら、お願いしよっかな?」

「よしきた」

 

 一応、してもらいっぱなしってのも嫌だしな。公務で疲れているだろうし、普段の頑張りを労ってやるとしよう。

 

「じゃあ、失礼して……」

 

 タオル越しでも吸い付いてくるような、滑らかな肌。なるほど、これと比べれば俺は細すぎるくらいなのかもしれない。若干感触が硬いし。

 

「む……」

 

 そういえば、俺たちの体って普通に人肌の柔らかさだよな……戦う時は、銃も通さないのに。感覚的に体が構造を変化するような振る舞いや、神秘によってダメージを軽減してるのはわかるけど。

 ……アリウスの教育じゃ習わなかったけど、これにも何か科学的説明がつくのだろうか。

 

「スオウちゃん?」

「あ、すみません。少し考え事を」

「もー、ずっとそうされてるとくすぐったいよ?」

 

 ミカの背中を洗い始めていると、ふとミカが思い至ったように。

 

「そういえばスオウちゃん、捕まってる時にさ」

「……捕まってる時にって、あんまり日常会話で出てくる言葉じゃないですね」

「あはは……」

 

 今は周りに誰もいない貸切状態だし、別に良いだろうけど。軽いノリで言われると、ちょっと違和感があった。

 

「とにかく。あの時、食事にクッキーが出てきたことない?」

「え?……あー……んー……?」

「覚えてないか……」

 

 ちょっとあの時期のことは、色々思い出したくないことが多かったし……でも、かろうじて思い出してきた。確か先生が二度目の来訪をする直前の食事に、やけにうまいクッキーが入ってた。

 

「いえ、ありました。やけにおいしい、ちょっとお茶っぽい風味がするクッキーですね」

「やけにおいしい……えへへ、そっか……やけにおいしいかぁ……」

「……?」

 

 やけにニヤニヤとするミカを他所に、桶に湯を溜めるべく浴槽の方へと向かう。

 

「あれね?作ったの私なんだ」

「……え?」

 

 あれを?ミカが?料理ができるとは聞いてたけど、そこまで?

 

「……そうだったんですか」

「そうだったんだよ。スオウちゃんが一人で突っ走るくらい落ち着きないから、少しは冷静さを取り戻せるようにカモミールも入れたし」

「……あれ?今私バカにされましたか?」

「ワタシナンノコトワカラナイナー……なーんて」

 

 意趣返しと言わんばかりにそんなことを言ってのけるミカの背中に狙いを定めて。

 

「だからね?前も言ってたけど、お菓子作りがしたかったら私にぃっ!?」

「はい、おしまいです!」

 

 桶いっぱいのお湯を、思いっきりかけてやった。

 

「もぉー……!」

「私、終わったから先に入ってますね」

「はいはい。私も翼が終わったらいくよ」

 

 タオルで前を隠しつつ、温泉の方へ。全体から立つ湯気であまりよく見えない上、呼吸をするたびに熱い蒸気が肺の中へ入ってくる。体が暖かくなってきて、少し汗もかいてきて。

 

「……アリウスにも、こういうのがあればなぁ」

 

 まだマシだった、なんて。たらればの話をしても仕方がないけど、ついそう思っちゃうんだ。

 ……ああでも、その場合ベアトリーチェあたりも……やめよう、気分が悪くなってきた。顔を思い出すだけで……手元に銃がなくて良かったと思う。

 

「む、むむむ……」

 

 指先をチョン、とお湯につけると、その振動が全体へ広がって、波紋が生まれる。いつもなら何回か反射して、もっと大きな波を作る。けど、ここでは。

 

「あ……消えた……」

 

 あまりの広さに、戻ってくる波さえ立たない。その上、溢れるほどのお湯が常に供給されていて。

 冷たいシャワーで体を洗って、石鹸で汚れを落として。最低限、体に不調が起こらないように、少しでも人間として生きていることを忘れないように、って。冬でも、風邪……は、引いてたか分からないけど。怪我をした日も、トラウマを思い出してしまった日でも。

 

「よい、しょっと」

 

 そんな思い出も、湯気と共に立ち昇って消えてくれる。肩まで浸かって、そんなふうに思えた。

 

「しかし……」

 

 なんというか、またしても体が沈むというべきか……しっかり座ると顔までついちゃうな、これ。けどなんというか、立ってしまえばお湯から出てしまうのは請け合いなわけで……と。

 

「これだ!」

 

 温泉の入り口部分、階段上になっているところに座って、背を預ける。そうすると、ちょうどよく肩まで浸かることができて……うん、これがベストだな。

 

「はぁ……もう少し、身長だけでも……」

 

 戦闘に支障はないから気にしてなかったけど、結構不便だ。服に気を使わないと子供と勘違いされることもあるし、高いところにあるものを取るときはいちいちジャンプしないといけない。せめてミカくらい身長があればなぁ。

 

「お待たせ、スオウちゃん」

「む、噂をすれば」

「噂?」

 

 何も知らずにジャブジャブと音を立てながら入ってくるミカ。俺とは違って、普通に座っても問題ないみたいだ。

 

「ミカ、そのネットみたいなのは?」

「ん?ああ、これ?これはね、羽が抜けてもお湯に広がっちゃわないようにするためのやつで……アズサちゃんが使ってるの、見たことない?」

「いえ、特には」

 

 その辺は個人のこだわりもあるのだろうか。少なくともプールで遊んだ時の写真では、つけていなかったし……思えば、そういう苦労はアズサと共有できてない、よな。

 妹の中でも翼を持つ生徒は希少だ。ほとんどいないと言い換えても良い。だから、そういうところは気付けなかっただけで、結構大変かも。

 

「どれどれー?」

「……ミカ。なんか近くないですか?」

「近づいてるんだもん」

「なんか肩触れてないですか?」

「触れさせてるんだもん」

 

 ま、いっか。妹にもこういうことしてた時あるし、別に立場が逆になったってだけで。

 

「……」

 

 ……でも、なんというか……横に来られると、その……俺の体が、際立って。

 ミカは色々持ってるのに、世の中は不平等だ。まあ別に、食事とか生活習慣が改善され始めたわけだし?俺だって、もう少しこの生活を続ければ……でもよく考えたら、ほとんど同じ生活をしてたサオリやヒヨリも……。

 

「す、スオウちゃん?なんか顔が……しわくちゃに……」

「いえ……ただその、この世界の虚しさを見つめてただけで……」

「わぁ……セイアちゃんみたい」

 

 セイアちゃんみたいて。

 

「えっと、あ、そうだ!ここ、露天風呂もあるみたいだし……そっちに行ってみない?」

「ロテンブロ?」

 

 ロテンブロ……露、天、風呂……あ、外にあるあれ。

 

「いいですよ。この中暑くて、のぼせやすそうですし」

「あはは……ちょっとわかるかも」

 

 軽く雑談を交わしつつ、外にある方の温泉へ。扉を開けるだけでもう外気は冷たくて、少し潮っぽい匂いもする。シオっぽい匂いがしたらミカを逃さなきゃいけない。

 冗談はさておいて、外はもう夜。まだちょっと明るいけど、チェックインして部屋に荷物を置いて、ここに来るまでで思いの外時間が経っていたらしい。

 

「そういえばミカ、髪は纏めてるんですね」

「うん。お団子ヘアー。どう、可愛い?」

「はい、可愛いです!私も髪が長ければ、そういうふうにできるんですけどね……」

「あははっ。スオウちゃんも伸ばしてみる?」

「んー……」

 

 サオリやアズサ、それにヒヨリとかヤコの話を聞いた感じだと……うん。

 

「管理がめんどくさいのでパスで」

「えー……似合いそうなのに」

 

 似合うって、確かに昔は伸ばしてたけど……あの頃も、髪が傷みすぎてしまわないように気を遣ったものだ。それだけで面倒だった記憶があるから、忌避感があるのはそのせいかもしれない。

 でも、今の俺に果たして似合うか……それに、短い髪も気に入ってるし……。

 

「それに、長い方が色んな髪型試せるよ?そっちの方が、好みも見つけやすいし……」

「えー……」

 

 そもそも先生の好みがわからないから、その辺はあんまり動く理由にはならないと言うか。

 

「……ん?」

「そ、それに!アズサちゃんとお揃いだよ!」

「詳しく!!」

 

 アズサとお揃い?言われてみればその通りだ、多少色が違えど同じ白髪、ほぼ対照色である緑と紫。これはもう実質モモイとミドリと言っても過言じゃないんじゃないか?アリウスの双子姉妹、すっごく素敵。そうと決まれば、しばらくの間は髪を切らずに……!

 

「あ、でもそしたら髪飾りとか、それに羽飾りも揃えて」

「やっぱり遠慮しておきます」

 

 なんて、話してるうちに、露天風呂までたどり着いたようで。外が寒いせいか、煙の色は先程よりもさらに白かった。

 

「ひぃ……さ、寒いから早く入っちゃお?」

「そそそ、それもそうですね」

 

 体が冷え切ってしまうよりも先に、急いで湯船にダイブ。小さな水柱を立てながら、しっかりと肩までお湯に浸かって、いっそ頭までつけてやった。

 

「ぶくぶくぶく……」

「んふ、はははっ!何やってるのもー……」

「寒いんですもん……」

「ほら、おいで」

 

 招かれるままにミカの隣に座って、ほっと一息。ミカと息を吐くタイミングが重なって、それが少し可笑しく思えて。互いに笑い合った。

 外気に焼かれるみたいに、冷やされる感触。濡れた肌は、冷たい空気が吹いて乾かされていく。頭がボーッとする感覚も抑えられて、正直中よりも居心地がいい。

 

「私、外の方が好きかも」

「奇遇ですね、私もです」

「あ、本当?やっぱり、考えることは一緒だね」

 

 少しだけ眠気を覚えて、天を仰ぐ。そうすると、昇っていく煙と、それから。

 

「わぁ……綺麗……」

 

 満天の星空。アリウス居住区から見えるそれよりも、さらにはっきりと見えた。体だけじゃない、心が癒やされていく。このまま体を投げ出して、それでいい、と思えてしまえるほどの充足感。

 やっぱり、ここにして正解だったかな。

 

「本当に、綺麗ですね……」

「でも、明日はもっとすごいよ。なんせ、花火を見るんだから」

「あ……そういえば、そうでしたね……」

 

 B.o.Bの一件に気を取られて、すっかり忘れていた。そうだ、そのあとは……花火を、みんなで見て。そしたら、またしばらくはお別れ。

 もうすでに、半分も終わってしまったんだ。

 

「……」

 

 花火、か。もうどんなものだったか、言葉でしか覚えてない。仕組みや、由来はわかる。確か、アズサがとても大切にしていた思い出の一つだ、ってことも……覚えてる。

 でも、前世の記憶としては覚えてない。『覚えていた頃の俺』が書いたものを読んで、『情報として知った俺』がいる。それだけだ。

 

「これより、綺麗なのかな……」

 

 手を伸ばして、星空を掴む。空を切って、そのまま湯へと逆戻り。星はあんなにもたくさんあるのに、そのどれにも手が届かない。

 ……花火もきっと、その一つだった。みんなで見る、花火も。でも、今は。ううん、今度こそ。

 

「みんなと……」

 

 と、そこで。ふと区切りの向こうから、聞き覚えのある声が。

 

「“ふー……”」

「……先生?」

 

 この声を聞き間違えるはずがない。先生だ。先生が、隣の露天風呂に入ろうとしている。

 

「スオウちゃん、どうかしたの?」

「この向こうに先生がいます」

「……?」

「逆です、逆。あっち」

 

 ミカの見る向きを指差しで訂正しながら、もう一度よく耳を澄まして。

 

「“さ、寒い……”」

「あ、本当だ……よく聞こえたね」

「はははっ……耳はいい方なので」

 

 聞こえた。間違いない。先生だ。先生が、向こうにいる。竹から作られた、たった一枚だけの心許ない区切りを隔てて。

 ……お互いに、裸で。

 

「あ、スオウちゃんお行儀悪い」

「しー……バレちゃいますよ」

「……?何かバレてマズいの?」

「そりゃ……まずくない。ですね……?」

 

 タオルを体に巻いて、息を殺す。心臓に変な緊張が走って、揺蕩うような嫌な感覚。浮遊感。

 一度深呼吸でもして───

 

「……気になる?」

「───ごふっ、ゲホッ!?ん、んんっ!!」

「わ……」

 

 ミカがそんなことを言うので、結局息は乱れまくり。お湯が軽く吹っ飛ぶほどにむせてしまった。

 

「だ、誰が!?何を!?ダレのナニがキになるんですか!?」

「す、スオウちゃん落ち着いて!!顔すごいことになってるよ!?」

 

 暑い……一旦お湯から上がろう。それでだいぶマシになる。はず。

 

「ふぅ……そ、それで?何が気になるんですか?」

「いや、私じゃないけどさ……先生が入ってきたから気になってるのかなー、って」

「……そんな、ことは」

 

 それじゃあまるで変態みたいじゃんか。そりゃ妹が入ってきたら気になるというか、多分乱入しにいくけど、先生はダメだろう。

 

「……本当に?」

「本当です!」

「じゃあ例えば、先生が右足から湯船に入るのか、左足から湯船に入るのか、とか」

「私の話聞いてます?」

 

 それでもなおミカは止まらず、まるで何もかも見透かした、あの時のような目で。

 

「どこから体を洗い始めるのか、とか」

「いやだから」

「……それか、先生がコンタクトなら、メガネをつけてるかも?」

「……」

 

 ……そういえば先生の視力って、どんなものなんだろう。何気に知らなかったような気がするんだけど……あ、あれ?ちょっと気になるかも?

 

「……本当に、本当に気にならない?ちなみに私は気になる」

 

 ミカが悪戯っぽく、自信満々にそう言うものだから。ひょっとすると、これもおかしなことじゃないんだろうかなんて、そんな気がしてくる。

 ……いや、気になるか気にならないかってそりゃあ……そんなの。

 

「……き、気になりますぅ……!」

「ほらぁ、やっぱり」

「うぅ……!」

 

 ミカには色々と言い当てられてばっかりだ。計画のこともそうだけど。

 ……もう少しだけでも、また嘘が上手くなりたいなぁ……最近、妹にも見破られてばっかりだし。もう少しお姉ちゃん力をあげれば……まあ、それは後ででいっか。

 

「それで、どうする?」

「……?どうするって?」

「あの仕切りさ。薄いし、高さもまあ……そこそこだよね?」

 

 仕切りの方を見る。どこにでもあるような、一般的なそれと遜色ない。声も視線も、ある程度は妨害できる、というだけのもの。

 

「そうですね」

「私たちなら壊せるし、飛び越えれるよね?」

「……まあ、そうですね」

 

 ……なあ、ミカ。まさかとは思うけどさ。

 

「覗いちゃう?」

「良いわけないでしょうが」

 

 ミカ、ひょっとしなくてものぼせてるんじゃないだろうな。熱は……まあ、俺の体温より少し高いくらい。もともと体温は低い方だし、同じくらいか。

 

「あははっ、冗談冗談!でも、先生だけひとりぼっちって言うのも可哀想だよね……」

「それは……確かに、そうかもしれないです」

 

 部屋もお風呂も着替えも、先生は一人。俺は妹たちと一緒だけど。少しだけ、寂しそうに思える。

 

「ところで向こうに混浴っていうのがあったんだけど」

「ダメです。絶対にダメです」

「……うん、自分で言っておいてなんだけど……流石に私も恥ずかしいかな……」

 

 別に文化を否定するつもりはないけど、いくらなんでも異性とお風呂に入るのは……ちょっと俺には、耐え難い。見るのも見られるのも嫌だ。絶対に。

 

「じゃあ、今だけは私がスオウちゃんを一人占めだね」

「だからって、あんまりベタベタ触らなくても……」

「……うん。もう治ってる、かな」

 

 ……ああ、昼間のあれか。確かに、結構な深手を負わされていた。あのまま追い討ちをかけられれば、気絶していた程度には。

 

「ごめんね。すぐに駆けつけたかったんだけど……ヒフミちゃんたちを見守ってたから」

「大丈夫ですよ。あの場ではあれが最適解です」

 

 最優先するべきはB.o.Bの安全。俺のじゃない。だから、ヒフミたちを守ってくれたならそれがベストだったわけで。

 

「だからミカ、もう大丈夫なので……そんなにくっつかなくても……」

「ダメだよ……痕になってたら大変だもん……」

「あの程度じゃ」

「そっちじゃなくて」

 

 俺の言葉を遮って。ミカの顔色は、隠されてみることができなかったけど……想像くらいはできた。

 

「……トリニティと……バシリカの、ときの……」

「……」

 

 やけに左腕を見てくるな、って思った。だって、今日負傷したのはそこだけじゃないから。でもそっか、ミカは……あの時のこと、まだ。

 

「もう大丈夫ですよ。痛くなかったですから」

「そんなわけないんじゃん!穴が空いて、ちっ、千切れかけてたんだよ!?」

「……」

 

 ……いや、流石に痛くなかったは無理があるか……死ぬほど痛かったし。ううん、でも……なんと言うべきか。

 

「それで、今も痕になっちゃってたらどうしようって……私、ずっと」

「ミカ、私はね?」

 

 そっか、そうだ。痛くなかったんじゃなくて、俺は。

 

「嬉しかったですよ。あの時ミカが、止めに来てくれて」

「……本当?」

「はい、もちろん。嘘なんてつきませんよ」

 

 それ以上に、嬉しかった。誤魔化し続けて、気づかないふりをしてたけど……本当は、ずっとみんなと生きる未来を夢見ていたから。その未来を紡いでくれたのは、同じ未来を見続けてくれたのは、他でもないミカだったから。

 嘘だらけだった俺の奥を、一番最初に見つめてくれたのはミカだったから。

 

「……私、本当は……酷いことしちゃったし……酷いこと、たくさん言ったし……それで嫌われちゃってたらどうしようって、本当は許してもらえてないんじゃないかって、今でもすごく、すごく不安で」

「誰が嫌いになりますか!だって、私とミカは……友達なんですから!」

「……」

 

 ……ああ。きっと電話越しじゃ、言い出せなかったんだろう。声だけじゃ、保証できなかったんだろう。

 こうして顔を見て、目を合わせて。同じ目線に立って、漸く。

 

「うんっ……!ごめんね、痛いことしちゃって……!」

「ううん。私も、たくさん酷いことも言いましたし……痛いことも、しました。私の方こそ、ごめんなさい」

 

 こうして、切り出せたんだ。

 

「いいよ、大丈夫……何回も謝ってもらってるし。ゴリラ呼ばわりはまだ怒ってるけどね」

「……は、はははっ」

 

 シアンを煽ってた時の癖でつい……でも、そっか。ひょっとして、俺が……俺だけが謝ってたのも、ミカにとって心の負担になってたのかな。

 

「でもよかったぁ……本当はね、ここに来たのはそれも理由の一つで……」

 

 そんなことを考えつつ、ミカの目の下を指でスッと拭って、気づく。とても距離が近いことに。具体的にはその、立派なものが当たるくらいには。

 

「もー……そんなんで嫌いになるわけないじゃないですか」

 

 それとなく方向を変えて、ホッと一息。今度はミカの腕の中で、ゆっくりと目を閉じて。

 

「……ん?」

 

 そういえば、ミカとは風呂に入っても大丈夫だ。先生とはダメなのに。

 前世は男。今世は女。男性と女性、どちらが異性かといえば……それは多分、どちらでもあってどちらでもない。それでも、ミカとは大丈夫で、先生とはダメかって、それはつまり。

 

「ふんっ!!」

「わ、わぁっ!?どうしたの!?なんでいきなり顔をお湯に叩きつけたの!?」

「お湯!!おいしいです!!」

「……え、えっと……飲んじゃダメだよ?」

 

 先程までの雰囲気はどこへやら。いつもの調子に戻ったミカに、割と真っ当なツッコミを入れられてしまった。

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